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2011.02.19

バーレーン情勢について西側の見方から

 バーレーンの争乱について現状をメモしておきたい。基本的に西側がこれをどう見ているかという観点を取る。結論を先に言えば、米国を含め西側諸国はバーレーンのさらなる民主化を望んでいると見てよい。
 バーレーンの争乱は形の上ではエジプトの争乱に触発された形で始まった。14日に首都マナマをはじめ、シーア派住民の地域でデモが計画された。偶発的ではないことから治安当局も前日にこれらの地域に警察を配置し厳戒態勢を敷いていた。
 デモでは、マナマ周辺でシーア派住民約100人が当局と衝突。他の地域でも同様に衝突し、警察は催涙弾・ゴム弾・衝撃手榴弾で鎮圧に乗り出した。
 バーレーンの警察はバルチ族やシリア人といった外国人が多く雇用されており、鎮圧に国民的な温情は期待されない。ある程度予想されていた事態でもあるが犠牲者が出て、その感情的なエネルギーでデモはさらに活性化した。18日時点の報道(参照)では死者は4人、負傷者は66人とのこと。15日夜にはデモは数千人に及び、マナマの真珠広場に集結し占拠したが後、強制排除された。
 17日、治安維持に軍が出動したが、中国天安門事件のような軍による大惨事という拡大はない。バーレーンは米海軍第5艦隊が司令部を置く米軍の中東防衛の拠点でもあるが、それに影響を及ぼすという事態にもなっていない。米国側には、この争乱自体は、それほどの危機という認識はない。ただ、深い危機の前触れの懸念はある。
 チュニジアから始まった一連の争乱は、日本ではIT技術や民主化というくくりで語られがちだが、チュニジア争乱は実際はフランスとの関係を背景にした政権交代に近いものであったり、エジプト争乱の実質は軍部のクーデターであったり、イエメンは元から破綻国家に近かったりなど、それぞれの国の事情の要因が強い。民主化として注目できるのはイランの争乱くらいかもしれない。
 バーレーンについては、当初のデモの要求に、当局に拘束されているシーア派住民の釈放があるように、基本的にシーア派住民の不満が背景にある。その後、1971年以来継続しているハリファ首相の退陣要求もあり、さらに現スンニ派の王体制の転覆も叫ばれてはいる。シーア派中心の反政府活動は、隣国で反イスラエル・反米政策を採るシーア派国家イランとの関連も疑われるが、仮にその要因があったとしても顕在的な問題とはなっていない。
 バーレーンは人口80万人弱で世田谷区より少ない。国内総生産(GDP)は鳥取県ほど。先に言及したようにペルシャ湾の入口という地理的な条件から米軍基地があり、金融センターとしても発展している。
 2002年からは日本のように立憲君主制となり、二院制議会も持つ。内閣は王によって任命された首相が担う。司法も独立し、普通選挙も実施されている。それなりに民主化しているではないかと見えないこともない。
 実態はかなり異なる。今回の争乱がシーア派住民から起きたように、国民の四分の三はシーア派であるが、構造的にシーア派は差別されている。王家を中心としたスンニ派との間に構造的な社会対立があり、後で触れるワシントンポスト社説は、シーア派住民には公民権がないとまで述べている。
 醜悪と評してもよいと思うが、警察にバルチ族やシリア人を雇用し公民権を与えているのは相対的にシーア派の人口を抑制する目的もありそうだ。立憲君主制といっても日本のような象徴性ではなく、王は議会に対して拒否権を持っていて、緩和な専制になっている。
 昨年夏には、バーレーン当局は、24名ほどのシーア派指導者をテロ対策法の名目で逮捕拘留した(参照)。今回のデモの背景は、一連の中東争乱というより、昨年のこの事件の余波と見てよいだろう。
 バーレーンの政体で興味深いのは、とりあえず制度的にはシーア派が政治プロセスからまったく排除されているわけでもないことだ。内閣23閣僚のうち11人も王家親族がいるが、4人はシーア派であり、議会でも40議席の内、18議席をシーア派のウィファーク会派の議員が占めていてる。彼らは今回のデモに協調して議会ボイコットに出ている(参照)。
 事態が憂慮されるのもそれなりに議会が機能しうる可能性があるからあり、映像報道にしやすい争乱の風景は、フランスなど西側諸国の出来事にも似ている。バーレーンの場合、民主的なプロセスで正常化に至る可能性がないわけではない。が、それを阻む大きな問題は別のところにある。
 米国が今回の事態をどう見ているかだが、比較的米国の国益に近い観点を示すワシントンポスト社説「Bahrain's crackdown threatens U.S. interests」(参照)は、バーレーン政府の強圧的な態度を非難し、米国の国益に合致しないと見ている。


Not only is the crackdown likely to weaken rather than strengthen an allied government, but the United States cannot afford to side with a regime that violently represses the surging Arab demand for greater political freedom.

バーレーン政府による弾圧はこの同盟国政府を強化するよりも弱体化させがちであるばかりでなく、政治的自由の拡大を求めるアラブの台頭を暴力で弾圧する政治体制に対して米国が支持しづらくなる。


 ワシントンポストとしては、エジプト争乱と同様、米国政府はバーレーンに争乱が起きる前に民主化に関与すべきであったし、オバマ政権はまたしても失政であったという立場は取っている。
 ニューヨークタイムズ社説「Now Bahrain」(参照)も、バーレーンにいっそうの民主化を求めるという点でワシントンポストの論調と似ている。
 興味深い指摘も含まれている。日本などではつい、米国は反イラン体制を取るため、バーレーン争乱でも、イランを中心とするシーア派弾圧に米国政府が荷担するかのような見方もあるかもしれない。ニューヨークタイムズ社説は、対シーア派弾圧についてこう言及している。

Now the government is looking for a scapegoat - blaming Iran for the unrest. Tehran certainly never misses a chance to foment trouble. But the Shiites’ demands are legitimate, and the appeal of Iran and other extremists will only grow if the government continues on this path.

現状バーレーン政府はスケープゴートを探している。争乱についてイランを非難しているのである。確かにイラン政府に争乱を助長させる可能性がないわけではない。しかし、バーレーンのシーア派住民の要求は合法的であり、バーレーン政府がこうした態度を続けるのなら、イランの主張やその他の過激派を増長させるだけになる。


 イランを非難しているのはバーレーン政府ではないかという指摘である。さらに、イランへの非難は逆にイランの問題を悪化させるだけだとニューヨークタイムズは見ている。この指摘は正しいだろう。
 米紙でないがフィナンシャルタイムズ社説「Bahrain gets tough」(参照)も米2紙に近い見解を出し、バーレーン政府の圧政を非難し、民主化改革を求めている。

A fairer share of the national pie and government for the Shia, and a beefed-up parliament able to dismiss prime minister and cabinet, would secure the rule of the al-Khalifas, until now not under real challenge.

シーア派住民に国家資源と政府をより公平に分配し、首相と内閣を解任でき力を持つ議会は、アール・ハリーファ王の支配を確たるものにするだろう。だが、現状本当に求められている状態ではない。


 フィナンシャルタイムズ社説で興味深いのは、米紙ではないこともあるだろうが、この問題の背景にあるサウジアラビアについてかなり踏み込んだ言及をしている点だ。民主化改革の前提としてこう述べている。

To do that, the ruling family and its patrons in Saudi Arabia will need to overcome their contempt for the Shia, which long predates their paranoia about Iran.

そのためには、バーレーン王家とサウジアラビアにいるその守護者は、シーア派住民への侮蔑を克服する必要がある。これはイランへの妄想以前からあるものだ。


 あらためて読み直して、フィナンシャルタイムズはものすごいことを言うものだと思う。これこそ宗主国意識というものかもしれないが、スンニ派とシーア派の確執のど真ん中直球である。ここで両派の歴史とバーレーンの歴史を解説してみたい気にもなるが避けておくのが無難だろう。
 いずれにしても、バーレーン問題の背景にはサウジアラビアがあり、実際のところ、これまでの中東の争乱はそこに至るかが注目される導火線でもある。

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コメント

いや、状況はそうじゃない、という観測が日増しに強まっていますがね。
チュニジア・シリア・エジプト・リビア・イエメン・バーレーン全てに共通しているのが、独裁体制、しかもアラブ圏であり、相違点より類似点のほうが、より多いと考えたほうが自然です。それでも相違点があると強弁する理屈が私にはわかりません。
こういう類似した独裁体制が隣り合わせにある場合、ドミノ倒しに政権が崩壊する可能性があるということは、過去に我々は東欧社会主義の崩壊で経験済みのはずです。もう今から20年以上も前の話なので、若い方はご存知ないかもしれませんがね。

投稿: F.Nakajima | 2011.02.20 22:34

米ソの対立は、ある意味、宗教改革により近代化された西ローマ帝国の継承国家のアメリカと実質的に中世社会のままの東ローマ帝国の継承国家のソ連の対決でもありました。

いま、騒動が起きている北アフリカ、中東諸国は、かつて、イスラム帝国のウマイヤ朝やアッバース朝の版図だった地域です。

印刷技術を有効利用して近代化することができなかったイスラム圏は、電子情報通信技術の流れに乗って、近代を経過しないままにポストモダンに突入するのでしょうか。

この、東西ローマ帝国とイスラム帝国という図式を補助線に使って物事を眺めると、20世紀後半以降の社会の情報化により起きていることが、いくらかは読み取れるように思えるのですが。

投稿: enneagram | 2011.02.21 09:45

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 人口79万人ほどの小さな国、バーレーンの動向が気になります。中東で次々に起こる争乱の着目点も、その国の歴史的背景や宗教の違いに起因するので、おのずと視点を先に絞る傾向になってました。昨日のニュースを... [続きを読む]

受信: 2011.02.20 06:03

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