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2011.02.28

[書評]移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋)

 「移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋)」は、昨日のエントリ「[書評]眠りにつく太陽 地球は寒冷化する(桜井邦朋): 極東ブログ」(参照)と同じく、桜井邦朋氏による著作で、テーマもほとんど同じと言ってよい。出版は昨年の11月だが、実際に執筆されたのは昨年の初夏のようでもあり、前著より早い時期のようだ。

cover
移り気な太陽
太陽活動と地球環境との関わり
桜井邦朋
 本書は専門書でも大著ではなく、広義に一般書になると言ってもよいが新書のような軽さはない。その分、科学的な記述と説明が多く、いわゆる科学書に仕上がっている。科学的な性向のある人には、本書のような議論の展開のほうが読みやすいかもしれない。
 テーマは副題にあるように、「太陽活動と地球環境との関わり」であり、地球の気象変動をどのように考えるかということから、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」の温暖化説を、地球環境変化の内因説として捉え、これに対して著者の専門である太陽物理学による外因説を対峙させている。結果的には、外因説を取ることで内因説による地中温暖化説を否定していると見てよさそうだ。
 全体は6章構成になっている。

第1章 “地球温暖化"とは何か―内因説と外因説―
第2章 内因説の推移―温暖化物質の循環と蓄積効果―
第3章 外因説―太陽、星間ガス、地球の公転ほか―
第4章 地球環境の形成―二つの太陽放射:電磁波とプラズマ―
第5章 太陽放射の長期変動から見た地球環境
第6章 気候変動の歴史と太陽の変動性
第7章 近未来を予測する― 気候はどう推移するか―

 本書を読んでよかったと思ったのは、すでに明白だが、地球環境変化を内因と外因の2つの面から考える視点を得ることだった。そうすることで、逆にIPCCの温暖化説が相対的に理解が深まる面もあった。
 従来、地球環境変化を、特に地球温暖化について内因と外因に分けて考えにくかった理由もはっきりとわかった。結論を先回りすることになるが、素直に外因説に立つのであれば、地球環境変化をもたらす外的な電磁放射エネルギー流入に変化があることが前提となる。しかし、そこにはほとんど変化は存在していない。

しかしながら、図2に示すように、過去一五〇年ほどの期間を通じて、僅かに〇・二パーセント(%)ほどしか、このフラックスは変化していない。この事実から、太陽からの電磁放射エネルギーの総量における変動が、現在進行しているいわゆる地球温暖化(global warming)の原因になりえないことが、明らかである。”気象変動に関する政府間パネル”(IPCC)の評価報告が、人類の産業活動が生み出した炭酸ガス(CO2)の大気中における蓄積を、その原因としているのは、太陽放射の変動性が非常に小さいことによるのであろう。

 議論はIPCCによるモデルを元にしているが、実際にIPCCの議論がこのような理路で外因説を考慮外としているかについてまでは私にはわからない。
 本書はこの後、「外因説をとるならば、ほかに原因をもとめなければならないのである」として、外因説の構築に向かう。
 外因説の議論は、私の理解では、3つの点から構成されている。第1は、太陽活動が生み出す地球磁場の変動である。この点が本書のもっとも面白いところである。地球温暖化への珍妙な反論ではないかといぶかしく思う人にもこの議論は有益であろう。第2はこの変動によって引き起こされる宇宙線量の変化である。この点についてもおそらく異論は少ないのではないだろうか。
 そしてこの2点の構成から、太陽活動と過去の地球環境の変動の記録が考察され、そこに因果的な的な関係があるという展開になる。この部分は昨日エントリで紹介した新書と同じ論法である。
 特に明確な関連があるかに見えるのは、太陽周期と年平均気温の推移で、これを強調した1991年のFriis-Christensen and Lassenのグラフは本書2章でも引用されている。

 産業革命以降の時代において、太陽活動の周期の長さの変動が平均気温の変動とあまりにもきれいに重なりすぎて、逆にうさんくさい感じがしないでもないし、この程度の話はすでに地球温暖化議論では却下されているのではないかという印象もある。本書としても、これを出して外因説の証拠だとしているわけではなく傍証的な扱いに留まっている。
 むしろ外因説で興味深いのは、太陽活動の長期変動と宇宙線が大気中で生成するベリリウム同位体(10Be)の存在量の変化の関係で、このあたりの議論は知的な興奮を誘うだろう。
 残念ながらというべきか、3点目の問題、宇宙線量と気象の因果関係の説明はやはりスベンスマルク説を参考にするのみという印象がある。実際には、スベンスマルク説については本書ではほとんど触れられていないので、外因説の最終的な詰めの部分は弱いと言わざるをえないだろう。私としても、ここにスベンスマルク説がきっちり嵌るかというと疑念が残る。なんらかの別のメカニズムが存在するようにも思える。
 本書は、太陽活動の不活発の予想と過去の地球気温変動の類推から、地球が寒冷化に向かうとしている。また、1999年以降、地球の温暖化は進んでいないとする言及もある。
 ここでしかし、誰もが昨年の猛暑を思い出し、昨年の平均気温は統計収集を始めた1891年以降のデータ中、2番目に高い値であったことを思いだすだろう。また気象庁によれば、今年の夏は昨年のような炎暑にはならないまでも、平年(1971-2000年)よりは高くなると気象庁は予想している。この夏が暑ければ、本書のような寒冷化予想は滑稽なものに思えるかもしれない。
 私は本書の予想が重要な意味をもつのは、サイクル24がピークとなるはずの2013年ではないかと思う。現在予想されているようにそのピークが低ければ、寒冷化の長期傾向はあるのではないか。
 サイクル24の異常が確認されるにつれ、本書の社会的な価値は変わってくるだろう。まだ先のことではあるが、思えばこのブログも7年もやっているので、そのくらいのスパンで留意しておきたい。

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コメント

global warning は global warming でしょう

投稿: Antonin | 2011.03.03 01:42

Antoninさん、ご指摘ありがとう。訂正しました。

投稿: finalvent | 2011.03.03 08:43

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