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2011.02.27

[書評]眠りにつく太陽 地球は寒冷化する(桜井邦朋)

 「眠りにつく太陽 地球は寒冷化する(桜井邦朋)」(参照)は昨年の秋に出た本で、そのころに読んだが、いろいろ思うところがあってこの間、なんども考え続けてきた。書籍として面白い本かといえば、文句なく面白いと言ってよい。
 桜井氏は太陽物理学の世界的な権威でもあり、一般向けの書籍も多く文章も達文で読みやすい。世界史・日本史など歴史に関心のある人にとっても興味深い指摘が多く、読みながらなんどもはっとさせらる。科学少年だった私が中学・高校生時代に好んで読んだブルーバックスに似た印象もあり、楽しい。

cover
眠りにつく太陽
地球は寒冷化する
桜井邦朋
 良書ではあるのだが、この間、逡巡していたことが2点ある。まず、地球温暖化説との関係である。
 本書は副題からもわかるように、地球温暖化については現在マスコミで報道される地球温暖化説とまったく逆の立場にあり、寒冷化を主張している。当然、温暖化説への反論ともなり、その文脈で読まれることになる。
 しかし、本書を読むとわかるが、寒冷化説の科学的な論拠の提示は弱く、さらに温暖化説への否定も弱い。いち読者の結論のような言い方になるが、この文脈では、著者の専門とする太陽物理学ではなく、「[書評]“不機嫌な”太陽 気候変動のもうひとつのシナリオ(H・スベンスマルク、N・コールダー): 極東ブログ」(参照)で扱ったスベンスマルク説の援用を示唆しているに留まり、しかもスベンスマルク説の解説はごく軽く触れられているにすぎない。
 論の流れとしては、著者が専門とする太陽物理学からは、太陽活動が地球気象に影響していると見られるが、その因果説としてはスベンスマルク説が有力ではないかといった示唆に留まっている。論理的には、本書の主張はスヴェンスマルク説と独立としてもよい。別の言い方をすれば、本書は地球温暖化説への反論という枠組みを意識せず読まれたほうがよいだろう。
 もう一点は、標題に「眠りにつく太陽」とあるように、太陽活動の不活発化への仮説をどう理解してよいか、困惑していたことである。実際はどうなのだろうか。
 太陽の活動には平均で約11年の周期があり、各周期には天文学的に番号が振られている。現在は24番目を意味する「サイクル24」という時期になる。しかし、このサイクル24に異常と疑われる事態あるという指摘が本書のテーマである。
 前提となる前回のサイクル23だが、1996年に始まり、最も活発となる極大値は2000年だった。平均であれば、2007年ころには終わり、2008年ころからはサイクル24に入るはずなのだが、本書出版時の2010年秋ですらもその気配がなかった。
 サイクル23が14年にわたりだらっと続いた状態が続いた。そのこと自体でもすでに太陽活動は不活発になっているとも言える。また2003年ころから見られる太陽の自転速度からも太陽活動の不活発が想定されていた。
 自明とも言えるが、サイクル24が到来しないとは考えられない。本書の主張では、サイクル24は弱いものになるだろうという推測になっている。では、それはどの程度に弱いのか。実際にサイクル24が力強く立ち上がる兆しは見られるのか。
 サイクル24は弱いとする本書の予想自体は、著者独自のものではない。NASAでも概ねそのように推測している。

 NASAの予想図では、周期太陽活動に強い、普通、弱いの3つのシナリオを想定している。強い場合でも、サイクル23よりは弱くなると見られる。
 現時点ではどうかというと、この間、大きなニュースがあった。16日のBBC「Sun unleashes huge solar flare towards Earth」(参照)でも報じられたように、日本時間の15日の午前11時過ぎに、サイクル24で初となるXクラスの大きな太陽フレアが観測されたのである。
 世界中の天文学関連学者とアマチュア無線家とオーロラ愛好家が、いよいよサイクル24が本格的に始まると狂喜乱舞した。学者にしてみると太陽への関心が高まる。アマチュア無線家は遠方まで電波が飛ぶ祭という事態になる。オーロラも出現する。つまり、太陽フレアは地球に影響を与える。
 このことで著者桜井氏の予想が外れたということではない。今後、サイクル24の立ち上がりが急速になり、ピークも高くなれば、氏の予想は外れたと見てよいだろう。その最終的な評価は2015年になるだろうが、衰退の予想は、今年から来年にかけて深まるだろう。
 本書が過去の地球気象歴史と太陽活動の経緯から推測していることが正しければ、その因果的な説明はさておき、小氷期の到来が予想されることになり、2015年あたりで地球の農産物生産にも影響を与え出すだろう。
 そうなるだろうか。
 現時点ではわからないとしか言えないが、本書を読みながら、私も小学生でアマチュア無線技師資格をとった人なので思うのだが、サイクル24が微弱であることは、IT産業にはよい影響を与えるのではないか思う。
 先のBBCの報道にもあるが、過去の太陽サイクルのピークにおける太陽嵐によって電話網がダウンしたことがある。送電網に誘導電流が加わり過剰電流でダウンしたこともある。高度な通信網を使う現代では、太陽嵐はアマチュア無線家が喜ぶだけでは済まない影響力がある。
 NASAが元ネタ(参照)とも言えるが、英国大衆紙SUNは、今年の2月、サイクル24の不活発をネグって、2013年には太陽フレアで地球は大災害を受け、空が真っ赤になるかもとネタを飛ばしていた。おそらくそうはなりそうにないが、それは小氷期の到来の可能性を意味するかもしれない。


英国大衆紙SUNは太陽フレアで
空が真っ赤になるかもとネタを飛ばした。


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コメント

ブルーバックスじゃなく、カッパブックス?

投稿: とおりすがりの | 2011.02.27 17:29

ご指摘ありがとうございます。誤記でした。自分でも、え?と思った。訂正しました。

投稿: finalvent | 2011.02.27 17:35

とても面白そうな本ですね。図書館で予約しました。

ところで本の良し悪しとはまったくぜんぜん関係ないけど、「太陽物理学の世界的な権威」というのはちょっと本屋さんが持ち上げ過ぎの気もしました。

一番引用された論文がネイチャーの引用数51の論文(我々の業界ではネイチャーはあんまし主戦場ではない)
http://goo.gl/kQG0E
ざっとみた限り業界内ではほぼ引用数ゼロ。という以前に論文と言えるような論文は書いていない。
http://goo.gl/RN61g
http://goo.gl/uTf5R

ちなみに本物の「太陽物理学の世界的な権威」はこんなかんじでまったく比べものにならない。
http://goo.gl/8CNAQ
http://goo.gl/PZOyE

投稿: 欣 | 2011.02.28 10:58

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