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2011.02.28

[書評]移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋)

 「移り気な太陽 太陽活動と地球環境との関わり(桜井邦朋)」は、昨日のエントリ「[書評]眠りにつく太陽 地球は寒冷化する(桜井邦朋): 極東ブログ」(参照)と同じく、桜井邦朋氏による著作で、テーマもほとんど同じと言ってよい。出版は昨年の11月だが、実際に執筆されたのは昨年の初夏のようでもあり、前著より早い時期のようだ。

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移り気な太陽
太陽活動と地球環境との関わり
桜井邦朋
 本書は専門書でも大著ではなく、広義に一般書になると言ってもよいが新書のような軽さはない。その分、科学的な記述と説明が多く、いわゆる科学書に仕上がっている。科学的な性向のある人には、本書のような議論の展開のほうが読みやすいかもしれない。
 テーマは副題にあるように、「太陽活動と地球環境との関わり」であり、地球の気象変動をどのように考えるかということから、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)」の温暖化説を、地球環境変化の内因説として捉え、これに対して著者の専門である太陽物理学による外因説を対峙させている。結果的には、外因説を取ることで内因説による地中温暖化説を否定していると見てよさそうだ。
 全体は6章構成になっている。

第1章 “地球温暖化"とは何か―内因説と外因説―
第2章 内因説の推移―温暖化物質の循環と蓄積効果―
第3章 外因説―太陽、星間ガス、地球の公転ほか―
第4章 地球環境の形成―二つの太陽放射:電磁波とプラズマ―
第5章 太陽放射の長期変動から見た地球環境
第6章 気候変動の歴史と太陽の変動性
第7章 近未来を予測する― 気候はどう推移するか―

 本書を読んでよかったと思ったのは、すでに明白だが、地球環境変化を内因と外因の2つの面から考える視点を得ることだった。そうすることで、逆にIPCCの温暖化説が相対的に理解が深まる面もあった。
 従来、地球環境変化を、特に地球温暖化について内因と外因に分けて考えにくかった理由もはっきりとわかった。結論を先回りすることになるが、素直に外因説に立つのであれば、地球環境変化をもたらす外的な電磁放射エネルギー流入に変化があることが前提となる。しかし、そこにはほとんど変化は存在していない。

しかしながら、図2に示すように、過去一五〇年ほどの期間を通じて、僅かに〇・二パーセント(%)ほどしか、このフラックスは変化していない。この事実から、太陽からの電磁放射エネルギーの総量における変動が、現在進行しているいわゆる地球温暖化(global warming)の原因になりえないことが、明らかである。”気象変動に関する政府間パネル”(IPCC)の評価報告が、人類の産業活動が生み出した炭酸ガス(CO2)の大気中における蓄積を、その原因としているのは、太陽放射の変動性が非常に小さいことによるのであろう。

 議論はIPCCによるモデルを元にしているが、実際にIPCCの議論がこのような理路で外因説を考慮外としているかについてまでは私にはわからない。
 本書はこの後、「外因説をとるならば、ほかに原因をもとめなければならないのである」として、外因説の構築に向かう。
 外因説の議論は、私の理解では、3つの点から構成されている。第1は、太陽活動が生み出す地球磁場の変動である。この点が本書のもっとも面白いところである。地球温暖化への珍妙な反論ではないかといぶかしく思う人にもこの議論は有益であろう。第2はこの変動によって引き起こされる宇宙線量の変化である。この点についてもおそらく異論は少ないのではないだろうか。
 そしてこの2点の構成から、太陽活動と過去の地球環境の変動の記録が考察され、そこに因果的な的な関係があるという展開になる。この部分は昨日エントリで紹介した新書と同じ論法である。
 特に明確な関連があるかに見えるのは、太陽周期と年平均気温の推移で、これを強調した1991年のFriis-Christensen and Lassenのグラフは本書2章でも引用されている。

 産業革命以降の時代において、太陽活動の周期の長さの変動が平均気温の変動とあまりにもきれいに重なりすぎて、逆にうさんくさい感じがしないでもないし、この程度の話はすでに地球温暖化議論では却下されているのではないかという印象もある。本書としても、これを出して外因説の証拠だとしているわけではなく傍証的な扱いに留まっている。
 むしろ外因説で興味深いのは、太陽活動の長期変動と宇宙線が大気中で生成するベリリウム同位体(10Be)の存在量の変化の関係で、このあたりの議論は知的な興奮を誘うだろう。
 残念ながらというべきか、3点目の問題、宇宙線量と気象の因果関係の説明はやはりスベンスマルク説を参考にするのみという印象がある。実際には、スベンスマルク説については本書ではほとんど触れられていないので、外因説の最終的な詰めの部分は弱いと言わざるをえないだろう。私としても、ここにスベンスマルク説がきっちり嵌るかというと疑念が残る。なんらかの別のメカニズムが存在するようにも思える。
 本書は、太陽活動の不活発の予想と過去の地球気温変動の類推から、地球が寒冷化に向かうとしている。また、1999年以降、地球の温暖化は進んでいないとする言及もある。
 ここでしかし、誰もが昨年の猛暑を思い出し、昨年の平均気温は統計収集を始めた1891年以降のデータ中、2番目に高い値であったことを思いだすだろう。また気象庁によれば、今年の夏は昨年のような炎暑にはならないまでも、平年(1971-2000年)よりは高くなると気象庁は予想している。この夏が暑ければ、本書のような寒冷化予想は滑稽なものに思えるかもしれない。
 私は本書の予想が重要な意味をもつのは、サイクル24がピークとなるはずの2013年ではないかと思う。現在予想されているようにそのピークが低ければ、寒冷化の長期傾向はあるのではないか。
 サイクル24の異常が確認されるにつれ、本書の社会的な価値は変わってくるだろう。まだ先のことではあるが、思えばこのブログも7年もやっているので、そのくらいのスパンで留意しておきたい。

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2011.02.27

[書評]眠りにつく太陽 地球は寒冷化する(桜井邦朋)

 「眠りにつく太陽 地球は寒冷化する(桜井邦朋)」(参照)は昨年の秋に出た本で、そのころに読んだが、いろいろ思うところがあってこの間、なんども考え続けてきた。書籍として面白い本かといえば、文句なく面白いと言ってよい。
 桜井氏は太陽物理学の世界的な権威でもあり、一般向けの書籍も多く文章も達文で読みやすい。世界史・日本史など歴史に関心のある人にとっても興味深い指摘が多く、読みながらなんどもはっとさせらる。科学少年だった私が中学・高校生時代に好んで読んだブルーバックスに似た印象もあり、楽しい。

cover
眠りにつく太陽
地球は寒冷化する
桜井邦朋
 良書ではあるのだが、この間、逡巡していたことが2点ある。まず、地球温暖化説との関係である。
 本書は副題からもわかるように、地球温暖化については現在マスコミで報道される地球温暖化説とまったく逆の立場にあり、寒冷化を主張している。当然、温暖化説への反論ともなり、その文脈で読まれることになる。
 しかし、本書を読むとわかるが、寒冷化説の科学的な論拠の提示は弱く、さらに温暖化説への否定も弱い。いち読者の結論のような言い方になるが、この文脈では、著者の専門とする太陽物理学ではなく、「[書評]“不機嫌な”太陽 気候変動のもうひとつのシナリオ(H・スベンスマルク、N・コールダー): 極東ブログ」(参照)で扱ったスベンスマルク説の援用を示唆しているに留まり、しかもスベンスマルク説の解説はごく軽く触れられているにすぎない。
 論の流れとしては、著者が専門とする太陽物理学からは、太陽活動が地球気象に影響していると見られるが、その因果説としてはスベンスマルク説が有力ではないかといった示唆に留まっている。論理的には、本書の主張はスヴェンスマルク説と独立としてもよい。別の言い方をすれば、本書は地球温暖化説への反論という枠組みを意識せず読まれたほうがよいだろう。
 もう一点は、標題に「眠りにつく太陽」とあるように、太陽活動の不活発化への仮説をどう理解してよいか、困惑していたことである。実際はどうなのだろうか。
 太陽の活動には平均で約11年の周期があり、各周期には天文学的に番号が振られている。現在は24番目を意味する「サイクル24」という時期になる。しかし、このサイクル24に異常と疑われる事態あるという指摘が本書のテーマである。
 前提となる前回のサイクル23だが、1996年に始まり、最も活発となる極大値は2000年だった。平均であれば、2007年ころには終わり、2008年ころからはサイクル24に入るはずなのだが、本書出版時の2010年秋ですらもその気配がなかった。
 サイクル23が14年にわたりだらっと続いた状態が続いた。そのこと自体でもすでに太陽活動は不活発になっているとも言える。また2003年ころから見られる太陽の自転速度からも太陽活動の不活発が想定されていた。
 自明とも言えるが、サイクル24が到来しないとは考えられない。本書の主張では、サイクル24は弱いものになるだろうという推測になっている。では、それはどの程度に弱いのか。実際にサイクル24が力強く立ち上がる兆しは見られるのか。
 サイクル24は弱いとする本書の予想自体は、著者独自のものではない。NASAでも概ねそのように推測している。

 NASAの予想図では、周期太陽活動に強い、普通、弱いの3つのシナリオを想定している。強い場合でも、サイクル23よりは弱くなると見られる。
 現時点ではどうかというと、この間、大きなニュースがあった。16日のBBC「Sun unleashes huge solar flare towards Earth」(参照)でも報じられたように、日本時間の15日の午前11時過ぎに、サイクル24で初となるXクラスの大きな太陽フレアが観測されたのである。
 世界中の天文学関連学者とアマチュア無線家とオーロラ愛好家が、いよいよサイクル24が本格的に始まると狂喜乱舞した。学者にしてみると太陽への関心が高まる。アマチュア無線家は遠方まで電波が飛ぶ祭という事態になる。オーロラも出現する。つまり、太陽フレアは地球に影響を与える。
 このことで著者桜井氏の予想が外れたということではない。今後、サイクル24の立ち上がりが急速になり、ピークも高くなれば、氏の予想は外れたと見てよいだろう。その最終的な評価は2015年になるだろうが、衰退の予想は、今年から来年にかけて深まるだろう。
 本書が過去の地球気象歴史と太陽活動の経緯から推測していることが正しければ、その因果的な説明はさておき、小氷期の到来が予想されることになり、2015年あたりで地球の農産物生産にも影響を与え出すだろう。
 そうなるだろうか。
 現時点ではわからないとしか言えないが、本書を読みながら、私も小学生でアマチュア無線技師資格をとった人なので思うのだが、サイクル24が微弱であることは、IT産業にはよい影響を与えるのではないか思う。
 先のBBCの報道にもあるが、過去の太陽サイクルのピークにおける太陽嵐によって電話網がダウンしたことがある。送電網に誘導電流が加わり過剰電流でダウンしたこともある。高度な通信網を使う現代では、太陽嵐はアマチュア無線家が喜ぶだけでは済まない影響力がある。
 NASAが元ネタ(参照)とも言えるが、英国大衆紙SUNは、今年の2月、サイクル24の不活発をネグって、2013年には太陽フレアで地球は大災害を受け、空が真っ赤になるかもとネタを飛ばしていた。おそらくそうはなりそうにないが、それは小氷期の到来の可能性を意味するかもしれない。


英国大衆紙SUNは太陽フレアで
空が真っ赤になるかもとネタを飛ばした。


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2011.02.25

深刻化するパキスタン問題

 パキスタンのザルダリ大統領が21日から3日間、日本を訪問した。離日する23日には天皇陛下との会談もあった。が、他の報道に押されたせいか、あまり報道された印象はなかった。大手紙社説では今日になって日経新聞がややピンぼけした社説「パキスタン支援を強めよう」(参照)を掲載した。朝日新聞が社説「パキスタン―南アジアの安定に協力を」(参照)を掲載したのは昨日である。こちらは良社説といってよいのだが微妙な含みもあった。日本では現下、あまりパキスタンが注目されていないが、いろいろとやっかいなことになりつつある。
 日経新聞社説「パキスタン支援を強めよう」は表題のとおり、日本はパキスタンを支援せよというのだが、どう支援するのかは曖昧である。


 日本はテロや過激派を生む土壌となっている貧困の削減とともに、経済改革や貿易面での支援も進め、現政権を支えていくべきだ。テロ対策でもアフガニスタンだけでなく、パキスタンにもどのような貢献が可能か、人的支援を含めて包括的に検討していく必要がある。

 論旨がぼけてしまうのも、しかたない面もある。本来ならパキスタンが求めるところに応じるというのが支援なのだが、そうもいかない。

 ザルダリ大統領は日本に原子力協定の締結を打診した。日本がインドと交渉を始めたことへの警戒感もあるのだろう。核拡散の懸念が強い国だけに慎重を期すべきだ。
 日本としては当面、プルトニウムなど核兵器の原材料となる物質の生産を多国間で制限する兵器用核分裂物質生産禁止(カットオフ)条約への参加などを求めていくのが先決である。条約に抵抗するパキスタンを説得できれば、ジュネーブ軍縮会議での交渉開始にもつながる。

 日本には核不拡散条約(NPT)を御旗にして、インドと原子力協定締結交渉をすることに反対的な風潮がある。昭和の名残ともいえる被爆国日本の戦後史の慣性もある。だがこの間、米国やフランスなどはさっさとインドとの原子力協定に踏み切っている。
 加えて、パキスタンをNPT非加盟国だからと原子力協定から外しても、ほいほいと中国が入ってきている現状もあり、どうバランスを取るかは、考えれば難しい。
 このあたりで朝日新聞社説「パキスタン―南アジアの安定に協力を」は、少し興味深い切り出し方をしていた。

 パキスタンの核戦力の問題もある。
 米ニューヨーク・タイムズ紙は最近、パキスタンがこの2年間で配備核兵器を60~90発から95~110発にまで増やし、さらに40~100発分の兵器用核物質を生産したとの、米情報機関などの分析を報じた。
 近く英国を抜き米、ロシア、中国、仏に次ぐ核大国になるとの見立てさえある。パキスタン側は報道を否定するが、実態は秘密に閉ざされている。

 このニューヨークタイムズのネタだが、国内で他に報道されただろうか。
 21日付けのニューヨークタイムズ社説「Pakistan’s Nuclear Folly」(参照)でも、これを包括的に扱っている。朝日新聞社説の執筆者も、このネタをなぞったのだろう。

With the Middle East roiling, the alarming news about Pakistan’s nuclear weapons buildup has gotten far too little attention. The Times recently reported that American intelligence agencies believe Pakistan has between 95 and more than 110 deployed nuclear weapons, up from the mid-to-high 70s just two years ago.

中東の争乱で、パキスタンの核兵器強化について警告的なニュースはほとんど関心を持たれていない。が、ニューヨークタイムズは最近、パキスタンが、2年前には1970年代の水準だったのに、95から110個を超える配備された核兵器を持っていると米国諜報機関が確信していると報じた。

Pakistan can’t feed its people, educate its children, or defeat insurgents without billions of dollars in foreign aid. Yet, with China’s help, it is now building a fourth nuclear reactor to produce more weapons fuel.

パキスタンは数十億ドルもの対外援助なしでは、国民に食糧供給も子供の教育も、さらには反乱者らの鎮圧もできない。なのに、中国の援助で、パキスタンは現在、核兵器燃料を多く生産する4番目の原子炉を築いている。

Even without that reactor, experts say, it has already manufactured enough fuel for 40 to 100 additional weapons. That means Pakistan — which claims to want a minimal credible deterrent — could soon possess the world’s fifth-largest arsenal, behind the United States, Russia, France and China but ahead of Britain and India. Washington and Moscow, with thousands of nuclear weapons each, still have the most weapons by far, but at least they are making serious reductions.

専門家によれば、原子炉なしでも、パキスタンはすでに40から100もの核兵器燃料を製造しおえている。つまり、最小限の抑止力と言いつつ、パキスタンは、米国、ロシア、フランス、中国に次ぐ第5位の核兵器所有となり、英国とインドを抜く。米国政府とロシア政府はそれぞれ数千の核兵器や最大数の武器を有するが、それでも真剣に削減に取り組んでいる。


 米国諜報機関にどれだけの信憑性があるかは疑問だが、朝日新聞ですら懸念する事態ではあるのだろう。とはいえ、朝日新聞は朝日新聞らしい自らの幻想に沈んでしまうのだが、こんなふうに。

 南アジアでの核軍拡を防ぎ、中国も含めたアジア全体の核軍縮・不拡散外交を進めることが不可欠だ。インドとの交渉では、核実験の停止を協定に盛り込むべきだ。それを足場にアジアで新たな核軍備管理の道を模索したい。

 どう模索するのかは皆目わからないが、そこは朝日新聞にツッコミ入れてもナンセンスなので、ニューヨークタイムズ社説に戻る。
 問題は朝日新聞のような明後日の方向に爆走することではなく、現前の課題である。端的にいって、現下、パキスタンの核化を抑制することが米国には不可能な事態になっていることだ。

Washington could threaten to suspend billions of dollars of American aid if Islamabad does not restrain its nuclear appetites. But that would hugely complicate efforts in Afghanistan and could destabilize Pakistan.

米国政府は、パキスタン政府による核の欲望を抑制しないなら、数十億ドルに及ぶ米国援助を中断すると脅すことも不可能ではない。が、それはアフガニスタン問題を複雑にし、パキスタンを不安定化させてしまうことになる。


 言うまでもなく、潜在的な危機は朝日新聞が昭和の香りに引きづられてNPT歌舞伎を演じることではない。単純にアフガニスタンの勢力にパキスタンの核兵器が奪取されることである。
 全体的な危機の状況に加え、オバマ大統領の戦争失態はしかもここに来てさらに極まっている。
 1月27日のことだが、米国人レイモンド・デービス(Raymond Davis)氏がパキスタン、ラホールでパキスタン人男性2人を射殺するという事件があった(参照)。逮捕されたデービス容疑者は、パキスタンの警察の調べに、2人は強盗だったとして正当防衛を主張している。が、彼は米中央情報局(CIA)の契約職員であることが発覚し、パキスタンではこの事件は米国政府による秘密工作ではないかとして反発運動が起きている。
 米国側の対応もまずいものだった。ラホールの米総領事館は事件時、デービス容疑者を救出しようと派遣した自動車でパキスタン人男性をもう1人はねて事故死させている。その上、米国はデービス容疑者には外交上の免責特権があるとし即時釈放を求めた。パキスタン人が怒るのも無理はない。
 苦慮した米国政府は現状米無人機攻撃停止したらしい。17日付け朝日新聞「パキスタンで米無人機攻撃停止 拘束米国人へ影響懸念か」(参照)より。

パキスタン北西部で米国が激化させてきた無人機攻撃が先月23日以降止まっている。理由は不明だが、パキスタンではその4日後にパキスタン人を射殺した容疑で米国人が逮捕されており、攻撃継続が釈放問題に与える影響を米国が懸念しているのではないか、との見方がある。

 朝日新聞記事の元ネタは「Killings Spark CIA Fears in Pakistan」(参照)のようだ。
 もともと、この無人機攻撃がパキスタン人の怒りの源泉でもあった。国内報道では毎日新聞記事「記者の目:オバマ米大統領の無人機戦争=大治朋子」(参照)が詳しい。

 オバマ米大統領が無人航空機を飛ばして武装勢力を掃討する「無人機(プレデター)戦争」を推し進めている。米国本土から衛星通信で無人機を遠隔操作し、1万キロ以上離れた戦場で敵を殺すのだ。兵士は米国内の基地に出勤し、モニター画面の中で「戦争」をして家族の待つ家へと帰る。「プッシュボタン・コンバット(ボタン押しの戦闘)」とも呼ばれる無人機戦略は世界の注目を集め、40カ国以上が開発競争を繰り広げている。だからこそいま、その「負の側面」に目を向けたい。

 これがひどい代物である。誤爆で民間人を殺害している。

 一つは民間人被害だ。米シンクタンクによると、例えばパキスタンでは04年から昨年末までに米中央情報局(CIA)によるとみられる空爆で1734人が死亡し、約2割が民間人だった。無人機の射撃の正確性は95%と高いが「市民をテロリストと誤解して殺している可能性がある」(元陸軍士官学校教授)のだ。

 誤爆もひどいが、そもそも空爆も人間の尊厳に反する攻撃である。
 率直にいって、こんなひどい戦争を展開しているオバマ政権なのに、アフガニスタンの発端を開いたブッシュ前大統領が悪いで終わってしまう日本の世論はどうなんだろうかと思わないでもない。

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2011.02.24

新幹線など高速鉄道はどこの国でも重荷になるだけらしい

 新幹線が幼児のころから大好きで、日本全国に新幹線網ができるといいな、他の国もうらやましいと思うだろう、と思い続けていた自分であったが、先日のワシントンポストを読んでいたら、そうとも言えないのかと落胆した。米国では新幹線など高速鉄道は国の重荷になるだけという議論も沸いている。米国だと、そういうこともあるだろうと思っていたのだが、それで割り切れるものでもなく、どの国でもそうなるものらしい。
 話の発端は、2月8日、米国バイデン副大統領が明らかにした、オバマ政権の米国高速鉄道建設投資である。向こう6年間に530億ドル(4.4兆円)を投資するという計画(参照)である。
 オバマ大統領はすでに、就任後の米国景気対策の財政支出として、高速鉄道網整備に105億ドルを拠出し、その後も高速鉄道網計画を打ち出していたが、ここに来てさらに増額しようとしている。
 15日にはオバマ大統領自身、議会に出した予算教書でこの計画を強調した。が、2日後、その建設計画に上がっていたフロリダ州で、当地の、共和党のリック・スコット知事が計画を拒否した(参照)。共和党は高速鉄道建設は無駄遣いであると考えている。
 日本の報道ではこの問題について、しかたがない面はあるが、新幹線の売り込みという視点から話題になっていた。18日付け毎日新聞記事「米国:フロリダ知事、高速鉄道拒否 新幹線輸出遠のく 日本、戦略練り直し」(参照)より。


 米フロリダ州のスコット知事が16日、同州の高速鉄道整備計画向けの補助金受け取りを拒否する方針を示し、計画自体が中止される公算が大きくなったことで、新幹線輸出に力を入れる政府や、受注を狙うJR東海が戦略転換を迫られるのは必至だ。他の路線への売り込みも検討するが、いずれも計画の具体化が遅れており、米国向けの輸出が実現するかは予断を許さない状況だ。
 インフラ輸出を成長戦略に掲げる政府は09年、官民一体で新幹線を売り込もうと、国土交通省に鉄道国際戦略室を設置。米オバマ政権のグリーン・ニューディール政策で高速鉄道建設が掲げられたことを受け、全米6カ所程度の路線で受注を狙っている。
 中でもフロリダ州(タンパ-オーランド-マイアミ・約500キロ)は専用線を建設するため、在来線を利用する他路線に比べて新幹線が参入しやすい。政府はフロリダ受注を足がかりに世界に攻勢をかける構えで、前原誠司・前国交相は1月、フロリダ州でスコット知事と面会し、「すべてのノウハウを伝えたい」と売り込む力の入れよう。一部区間では、他路線に先駆けて用地買収や環境影響調査が進み、早ければ24年度にも着工開始の見込みだっただけに、国交省幹部は「一番打率の高いトップバッターがこけてしまった」と衝撃を受け、情報収集を進めている。

 引用が長くなったが、この記事ではなぜ中止になるかという米国の動向は描かれていない。他の例として17日朝日新聞記事「フロリダ州の高速鉄道計画中止 新幹線輸出に打撃」(参照)も見ておくとこんな感じである。

米フロリダ州のスコット知事は16日、州内に高速鉄道を建設する計画を事実上中止する、と発表した。雇用創出を急ぐオバマ政権の目玉事業の一つだが、州は採算があわないと判断した。JR東海を中心に、同州への新幹線技術の輸出を目指していた日本連合にとっては打撃となる。

 記事からはフロリダ州独自の判断という印象を受けるくらいだ。たしかにフロリダ州の独自の判断ではあるが、その背景にある共和党の考えや、なぜ共和党がそう考えるのか、という報道は日本ではあまり見かけず、ただ新幹線売り込み話に終始していた印象を受けた。
 米国における、高速鉄道建設についての批判は今になって吹き出したものではない。私が尊敬するコラムニスト、ロバート・サミュエルソンは2009年の時点で、この問題を扱っている。「無駄な鉄道に突っ走るオバマ政権」(参照)より。

 バラク・オバマ大統領が意気込む高速鉄道整備計画は、過去の失敗から学べない政府の無能さを示す典型的な例だ。1971年以来、アメリカ政府は約350億ドルの補助金をアムトラック(鉄道旅客輸送公社)につぎ込んできたが、ほとんど公共の利益になっていない。


 そう考えれば、どんな間抜けな政治家でも鉄道事業への補助金など増やさないだろうと思うのが普通だ。しかも、今年から2019年までの間に、政府予算では11兆ドルの財源不足が見込まれることを考えると、なおさらだ。

 サミュエルソンは今回も同じ論を14日ワシントンポストのコラム「High-speed rail is a fast track to government waste」(参照)で展開している。議論の骨子は3年前と変わらないのだが、気になる修辞がある。

High-speed rail would definitely be big. Transportation Secretary Ray LaHood has estimated the administration's ultimate goal -- bringing high-speed rail to 80 percent of the population -- could cost $500 billion over 25 years. For this stupendous sum, there would be scant public benefits. Precisely the opposite. Rail subsidies would threaten funding for more pressing public needs: schools, police, defense.

高速鉄道建設は間違いなく大きくなる。レイ・ラフード運輸長官は、高速鉄道を人口の80%にもたらすという政府最終目標を25年間で5000億ドルと見積もった。この巨費にはそれ相応に見合う公益があるだろう。正確に言えばその逆のもの。鉄道建設補助は差し迫る公的必要性を脅かすだろう。つまり、教育、警察、防衛。



Governing ought to be about making wise choices. What's disheartening about the Obama administration's embrace of high-speed rail is that it ignores history, evidence and logic. The case against it is overwhelming. The case in favor rests on fashionable platitudes. High-speed rail is not an "investment in the future"; it's mostly a waste of money. Good government can't solve all our problems, but it can at least not make them worse.

行政はもう少し賢明な選択すべきである。オバマ政権の高速鉄道建設案が残念なのは、歴史と実証と論理の無知である。反例が圧倒的である。賛同はは時流の美辞に乗っている。高速鉄道は「未来への投資」ではない。大半は無駄遣いである。良き政府ですら全ての問題は解決できないが、少なくとも悪化させることはない。


 サミュエルソンの言うとおりなのだろう。
 しかし私としては、それは国土が広く、人が分散して住む米国の話であって、日本のように大都市・中都市に集約的に人が居住する場合はそうでもあるまい、それに日本の新幹線は世界最高だから、他国も欲しがるに違いない、となんとなく思っていた。
 え?と思ったのは、おそらくサミュエルソンのこのコラムを受けただろう、16日のワシントンポスト社説「A lost cause: The high-speed rail race」(参照)を読んだときである。論調はサミュエルソンのコラムとさして変わらないが、日本についての言及があったのだ。高速鉄道建設は必ずや国家の負担になるという文脈の補強に出てくる。

That's certainly what happened in Japan, where only a single bullet-train line, between Japan and Osaka, breaks even; it's what happened in France, where only the Paris-Lyon line is in the black. Taiwan tried a privately financed system, but it ended up losing so much money that the government had to bail it out in 2009.

この事態は日本で確実に起きたことである。日本の高速鉄道でかろうじて赤字を出さないのは東京・大阪間のみである。フランスでもそうだ。黒字なのはパリ・リヨン間だけである。台湾は民営を試みたが、結局多大な損失を出して、2009年に政府が埋め合わせした。


 日本で高速鉄道建設として成功しているのは、東京・大阪間だけだと言うのだ。さらに同社説は高速鉄道の成功事例に、人口密度が高いことと、ガソリン税が高いことを条件にあげている。
 それを知らないで驚いたということではない。そんなもんだろうとは思っていた。驚いたのは、日本の新幹線網で、東京・大阪間以外の区間は今後ずっと赤字を垂れ流す運命だったのかということに、うかつにも気がついていなかったからだ。
 よほどの大都市間を結ぶのでなければ高速鉄道の収支は合わないというのは、サミュエルソンの言うように歴史も証拠も論理帰結も明らかにするところである、ということだ。
 ワシントンポスト社説は、もう1点私を驚かした。というか落胆させた。

China would seem to be an especially dubious role model, given the problems its high-speed rail system has been going through of late. Beijing just fired its railway minister amid corruption allegations; this is the sort of thing that can happen when a government suddenly starts throwing $100 billion at a gargantuan public works project, as China did with rail in 2008. Sleek as they may be, China's new fast trains are too expensive for ordinary workers to ride, so they are not achieving their ostensible goal of moving passengers from the roads to the rails. Last year, the Chinese Academy of Sciences asked the government to reconsider its high-speed rail plans because of the system's huge debts.

高速鉄道が問題となった最近の事例として、中国は、特段に不審が募るお手本になりそうだ。中国政府は、汚職疑惑で鉄道大臣を解任した。中国政府が、2008年に高速鉄道建設として、突如1000億ドルを巨大な公共事業に投じてのことだが、この手のことはよく起こることである。快適な走行であっても、中国の高速鉄道は一般労働者が乗るには高額過ぎる。だから、交通手段を道路から鉄道に切り替えるという見せかけの目標は達成されることはない。昨年、中国科学院は中国政府に対して、高速鉄道建設案の再考を促したが、その理由は、巨額の債務を産むからであった。



Of course, if the Chinese do finish their system, it is likely to require operating subsidies for many years - possibly forever. A recent World Bank report on high-speed rail systems around the world noted that ridership forecasts rarely materialize and warned that "governments contemplating the benefits of a new high-speed railway, whether procured by public or private or combined public-private project structures, should also contemplate the near-certainty of copious and continuing budget support for the debt."

当然ながら、中国が高速鉄道システムを完遂させれば、多年に渡り、おそらく永劫、運営補助金が必要になるだろう。高速鉄道網についての最近の世界銀行リポートによれば、乗客予測が当たることはあまりなく、こう警告を出している。「新高速鉄道によって利益を得ようとする政府は、国営、民営、官民合同の計画であれ、ほぼ確実とも言える、その負債のために巨額で継続的な予算支援を考慮すべきである」


 引用が長くなったが、要するに、中国に新幹線は売れない。中国も買う気なんかないということだ。
 オバマさんがなにをとち狂って高速鉄道建設案を持ち出したのかはわからないが、中国様は、まさか、そんなオバカさんなことはしないでしょうということだ。
 新幹線大好きの私としては、夢がぽろぽろと崩れ落ちる感じもしないではない。が、それが現実というものだろうし、さて、日本が背負い込んだ新幹線を今後どうするものかなと少し考え込んだ。


追記
 誤解が多いように思えるので、少し追記しておくかな。
 まず、個人的に関心があるのはオバマ政権がなぜ高速鉄道建設に巨費を投じるのか、米国民主党の論理は知りたいと思っている。そこでなるほどという議論があれば、ワシントンポスト紙への一番の反論になるので、そういうコメントがいただけるとよいなと思っている。
 次に、高速鉄道と通常の鉄道は議論が別なので、そのあたりごちゃごちゃにされるのはご勘弁。
 ワシントンポストの主張が間違いであるというのは、事実の提示で決することなので、事実は違いますよ、そうですかということであれば、単純に言って、議論の問題はない。なるほどそうですかということ以上に沸騰されるのもご勘弁願いたい。
 ただ、この件については、「JRの財務情報を読めば明白」という次元なのかは議論の余地があると思う。個人的には国鉄債務とかを含め会計上の詐術があるのではないかと思う。なので、黒字があるのはごくわずかというワシントンポストの指摘は批判を喚起する点で有用だと思っている。
 新幹線擁護論と新幹線を国外に売るという国策は冷静に区別されるべきだと思う、という意味でもワシントンポスト指摘は有用だと思っている。中国に新幹線は売れそうにないのではないか。というか、売ろうとする勢力にこそ相当な利権がありそう。
 新幹線の是非について、個人的な意見を言うと、私は赤字であっても新幹線は整備すべきと考えている。つまるところ、これは国防にもなるという考えから。同様に、現行の方向ならTPPにも反対。農村が国土を担っているという点で国防の問題があると考える。いずれにせよ、それは国民の決めごとの問題。ただ、実質、国民の負担になるなら理解したほうがよい、と。

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2011.02.23

台湾陸軍少将が中国のスパイだった話の雑感

 日本で報道されなかったわけではないが、台湾陸軍少将が中国のスパイだったというニュースは、それほど日本では話題にならなかったように思う。
 話は2月8日のこと。まず報道の確認から。朝日新聞記事「中国に台湾軍少将が機密漏らす 指揮用の情報システムか」(参照)がよくまとまっている。


台湾軍の現役陸軍少将が機密情報を中国に漏らしていたとして、軍検察が勾留、取り調べていることが明らかになった。少将は通信関連を担当する要職に就いており、安全保障の根幹を揺るがすとの懸念が広がっている。将官級による機密漏洩(ろうえい)の発覚は、国民党政権が台湾に移った直後の1950年ごろ以来という。


 台湾各紙によると羅少将は、米クリントン政権時に売却が決まった、陸海空を統合した作戦指揮のための高度情報通信システム「博勝」にかかわっていた。有事には米軍側と接続可能とされるこのシステムの情報が漏れた可能性があり、台湾各紙は米国との信頼関係にかかわると指摘している。

 台湾軍部の将官級に中国のスパイがいたということ自体、大事件でもある。
 読売新聞記事「台湾軍少将、スパイ容疑で逮捕…報酬数千万円」(参照)が、「機密情報取得を目的とした中国の不正工作のすさまじさを示している」と感想を漏らすのもしかたがない。
 産経新聞記事「美人局の誘惑に負けた台湾軍高官 中国に機密漏洩」(参照)に「長年、中国のためのスパイ活動を続けてきた背景には、中国側が差し向けたとみられる30代の美女との交際があったことがわかった」とあるのを読むと、私も人生に一度くらいは美人計にかかってみたいと思わないでもない。冗談。
 野暮を承知で真面目な話に戻すと、台湾有事に関わる、陸海空を統合した作戦指揮のための高度情報通信システム「博勝」が漏洩した可能性は、日本にとってもう少し問題になってもよいはずだが、あまり話題にならないようだ。パンダ外交(参照)を延々とニュースにしていた。
 この件、その後、国内報道で余り見かけないでいたが、昨日産経新聞、山本勲台北支局長によるコラム「台北支局長・山本勲 台湾将軍が中国女スパイと密会 流出の機密情報は超弩級」(参照)を読み、私のような感想を持っていた人もいたんだなと共感した。

 台湾国防部が8日発表した羅賢哲・陸軍少将による中国スパイ事件は前代未聞だった。軍中枢の現役少将という位の高さ、漏洩(ろうえい)したとみられる軍事機密の重大性、米台関係への影響など、そのダメージは計り知れない。ところが事件発覚から1週間で地元メディアの報道合戦もほぼ収まり、相次ぐ中国スパイ事件に馬英九政権がどう対処しようとしているかもはっきりしない。中国の統一攻勢にさらされている台湾のこの現状に不安を覚えるのは、筆者だけだろうか。


 台湾軍のハイテク戦の中枢が丸裸にされかねないうえ、「博勝案」は米台合同作戦も想定したシステムなだけに、米軍への影響も大きい。同案は「まだ一部配備の段階で、米軍のシステムとも接続しておらず、被害は限定的」(立法委員=国会議員の帥化民・元中将)という。

 「博勝案」が米軍システムと接続する前だったので、それはよかったと言えるかもしれないが、発覚の経緯を知るとそれほど安堵できるものでもない。

しかも同部は「昨年6月、米連邦捜査局(FBI)の通報で事実を知った」(台湾誌「壱週刊」)とされるから、内部管理の甘さを批判されても仕方がない。

 米国側から台湾に対して、おまえさんの軍部に中国スパイがいるよと教えてもらったというわけだ。米国としてもそのままの状態にしておけないぎりぎりのところでもあったのだろう。
 コラムはこう閉じている。

 今回の事件は「氷山の一角」との指摘も多い。馬英九政権がこうした現状の打開にどういう抜本策を講じるか、注視したい。

 そこがとても難しい。
 この話題、なぜか20日のフィナンシャルタイムズ社説「Taiwan strengthens its mainland ties」(参照)が取り上げていた。その論調がなんともいえない味わいだった。

This month, Taiwan uncovered the worst case of alleged Chinese military espionage in 50 years. Major General Lo Hsien-che was arrested on suspicion of having passed military secrets to Beijing for the past six years. The revelation is an embarrassment to Ma Ying-jeou, the Taiwanese president, who has worked hard since his election in 2008 to restore closer ties with mainland China.

今月、台湾はこの50年間で最悪の、中国の軍事的スパイ活動容疑を暴露した。羅賢哲・陸軍少将は、この6年間台湾の軍事機密を北京に手渡しという疑いで逮捕された。大陸側中国と緊密な関係を復元しようと、2008年の就任以来奮迅してきた馬英九台湾総統はこの暴露で困惑に陥った。



Under Mr Ma, China and Taiwan have signed a free trade agreement that should bind their economies even more closely together. The number of Chinese tourists visiting Taiwan has risen sharply. Direct flights and shipping routes have been instituted. Taiwan’s opposition senses a trap: that Beijing wants to draw Taiwan into an economic bear hug so closer political ties become a fait accompli.

馬政権下で中国と台湾は、よりいっそう密接に経済を結合する自由貿易協定に署名している。台湾を訪問する中国観光客は急激に増えた。直接の空路と航路もすでにある。だが、台湾の野党は罠を感知している。中国政府は台湾を経済圏に抱き込むことで、政治的な結合も既成事実化するという罠。


 台湾野党側の疑念は当然ではないかと思うのだが、ここでフィナンシャルタイムズは、馬政権擁護に論調を変える。

That may, indeed, be Beijing’s plan. But Mr Ma has carefully distinguished economic from political concessions. As well as reiterating Taiwan’s status as a “sovereign state”, he has praised the award of the Nobel Peace Prize to Liu Xiaobo, a dissident who has urged Beijing to adopt the sort of pluralist political system practised in Taiwan. Mr Ma has risked Beijing’s wrath by asking to buy more US weapons to bolster Taiwan’s defence against Chinese attack. These are not the actions of a president bent on securing reunification by the back door.

実際それが、中国政府の計画なのかもしれない。だが、馬氏は、政治的な譲歩と経済を慎重に区別してきた。「主権国家」として台湾の地位を繰り返し主張しつつ、台湾のような複数政党政治の採用を中国政府に提唱した反体制思想家である、劉暁波氏へのノーベル平和賞の賞を賞賛した。馬氏は、中国からの攻撃に備え台湾の防衛を支えるために、米国に武器購入を要請することで、中国政府の憤りを買う危険も冒した。こうした行動を見れば、馬総統は統一確保を裏道で推進する人ではない。


 馬総統への評価は微妙なところだが、奇妙なのはなぜ英国のフィナンシャルタイムズがこうした論調を張るかにある。
 フィナンシャルタイムズは、中国の軍事的な危険性を、パンダに浮かれる日本人のように暢気に見ているわけでもない。

Taiwan remains a potential flashpoint. If China were to slip into economic crisis, some military hotheads might be tempted to invade.

台湾は依然、潜在的な軍事問題の着火点の状態にある。中国が経済危機の中に陥ったなら、中国の軍部には、台湾侵略を望む誘惑にかられる者も出てくるだろう。


 さらりと述べているが、中国経済の破綻が中国軍部の暴走の引き金になると見るは、日本では禁句かもしれないが国際的な常識と言っていいだろう。
 結語が困惑に尽きる。

When the irresistible force of reunification meets the immovable object of independence, concentrating on economics and kicking politics into the long grass remains the most sensible course.

中国統一が避けがたい力なのにこれが独立という不動の対象にぶつかるなら、経済に集中し、政治については藪に入れておくしかないというのが、もっとも理性的な方路である。


 呆れたというのが私の率直の感想である。問題を経済に集約していけば、中台統一が既成事実化すると懸念する台湾野党に対して、あたかもそれが歴史の必然のように高説、のたまわるという風情である。
 台湾が独立精神を持ちづけていても、抗いがたい経済の力で中国は統一するのが大局観だと言われて、はいそうですかと言えるだろうか。台湾だけが問われているのではなく、日本も問われているのに気がついたときに。
 私は、反中気分で中国に単純に抗うのは愚かだし、経済的な親好はできるだけ深めるべきだろうと思う。しかし、フィナンシャルタイムズがお薦めするように政治の問題を藪に蹴り込むのではなく、台湾や日本が独裁国家の中国に対して政治体制の面で毅然と独立を維持することのほうが、独裁制を取る中国が崩壊した際、中国民衆にとって大きな支えとなるのではないかと考えている。「そうか台湾や日本のように民主主義という道もあったのだ」という道標は維持しておきたい。

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2011.02.22

リビア争乱は問題として見れば始まりとともに終わり

 リビア情勢はどうなるのか。展開が急なわりに問題の軸がうまく見いだせず、漫然と事態を見ていたのだが、今朝ワシントンポストとフィナンシャルタイムズの社説を読んだら、すっとわかった。もうすべて終わっている。簡単に言えば、カダフィー「大佐」はすでに国際的な人道上の犯罪者だから、生き延びてもその国の石油は西側社会が抑えるということ。終わり。これって、イラク戦争2.0ではないのか。
 リビア問題を見る上でキーとなる条件がいくつかあった。IT革命、アラブ諸国の民主化、独裁体制の崩壊……とかではない。まず、リビアは小国であることだ。隣国エジプトの人口は8300万人だが、リビアは640万人。エジプトの十分の一も満たない。「不安定化するイスラム諸国」とかのお話に付随するイラスト地図を見ると、エジプト並みサイズの国で暴動が起きているというイメージを持ちやすいが、あの国土にエジプトの十分の一の国民が散らばっているとなれば、治安の仕組みはかなり異なる。
 実質的には、リビアは各地方の部族とカダフィー政府の曖昧な合意によって成り立っていたと見てよく、その連携が切れれば国はバラバラになる。
 2点目はリビアは原油の確認埋蔵量で世界8位の国であり、この国の動向には原油の利権が必ず絡むことだ。ひどい話になるが、原油を誰がどう握るかが、リビア問題の結論になると言ってもよい。これは支配という意味ではなく、市場化・コモディティ化させるという意味でもある。
 3点目には、カダフィー「大佐」による独自な統治形態や傭兵の多い軍といった、いわゆるリビアの政体(レジーム)の問題がある。が、すでにレーガン政権時代のような問題とはいえず、実はその要因は小さい。
 このパズルをどう解くのだろうと困惑していた。が、なかなか読めなかった理由もわかった。私は、カダフィー「大佐」のような可視で滑稽な悪玉は世界にとって必要と見なされていると理解していた。話を簡単にするが、隣国の金さんに対して脅しばかりではなく、「大丈夫、ほら、カダフィー大佐もいるではないか」とすれば、説得力がある。それは間違いだったのだろう。
 リビアにはエジプトのように、国家に浸潤した形での軍部はなく、緩慢なクーデターを演出するといった芸当はできない。反乱が起きれば、軍を使ったマジな弾圧が始まるのは必然なので、その人道的な危機が懸念される……といえばいかにも正しい話だが、それを止めることはほぼできない。
 つまり、リビアに一定以上の争乱が起きれば、人道上の問題が発生するのは必然であり、その必然が発生してしまえば、真珠湾攻撃をやったから許されませんよといったふうに、為政者は国際的な犯罪者となり、よって資産は没収となる。そういうプロセスを辿ることは、決まっていたわけだ。一定量の争乱の発火ができれば、カダフィー「大佐」を屠れることは決まっていた。
 構図が見えてきたのは、ワシントンポスト社説「Moammar Gaddafi must pay for atrocities」(参照)からである。西側はリビア政府に民主的な対応を求めたが、それではまだ弱いとして。


But the regime's actions demand much more forceful action, including an immediate downgrading of relations and the raising of Libya's case before the U.N. Security Council. The United States and the European Union should make clear that if the regime survives through violence, it will be subject to far-reaching sanctions, including on its oil industry.

しかし、リビア政権の行動にはさらに強固な行動が必要であり、それには即時の関係格下げと国連安全保障理事会前にリビア問題を議題化することを含む。もしリビア政体が暴力によって存続したとしても、この政体は広範囲な制裁されるべきであり、それには原油産業をも含むことを、米国と欧州連合(EU)は、明確にすべきである。


 人道的な犯罪者の資産であるリビア原油を西側社会が差し押さえますよということだ。
 西側の思い通りになるだろうか。イランのように反西側の産油国化にはならないのだろうか。その懸念は、イランのような、まがりなりにも統一的な政体維持が前提となる。
 この点はフィナンシャルタイムズ「The Arab revolt comes to Tripoli」(参照)が示唆深い。

In both Tunisia and Egypt, the army proved critical in not turning its force on civilians, and maintaining peace once the autocrats were deposed: military leaders were able to separate their own fate from that of their leader. In Libya, the security forces are more of an unknown quantity and the army is not a coherent institution. The tribal nature of Libyan society adds a further layer of uncertainty.

チュニジアとエジプト両国とも、軍部は市民に力を向けなかった。独裁者が追放されれば平和が維持された。軍部指導者は、その支配者の命運を分別できた。リビアでは、治安部隊はより未知数であり、軍部は一貫した組織体ではない。リビア社会は部族社会を基本とするため不確実性が高まっている。

It has always been a generalisation to refer to a monolithic Arab world. Libya’s population is 6m people; Egypt’s is 83m. Libya has almost no civil society; it is closed and dysfunctional. If Mr Gaddafi falls, it is more uncertain even than elsewhere what will fill his place.

アラブ世界は一枚岩だと雑駁に言われ続けたものだった。リビアの人口は600万人だが、エジプトは8200万人である。リビアには市民社会はほとんど存在しない。リビアは閉鎖的で国政は正常に機能していない。仮にカダフィー氏が失墜しても、代わりとなるのはよりいっそうの不安定性である。


 カダフィー「大佐」が消えたとしても、この地域に国家を維持する為政者はいない。ますます、原油は西側で管理するということにならざるを得ない。
 近い未来の予測というなら不明だが、中長期的にリビアを考えるなら、イラクと同じような混乱を通しても議会制に移行させ、原油はコモディティ化の方向に向かわせるのが西側の総意と見てよいだろう。


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2011.02.19

バーレーン情勢について西側の見方から

 バーレーンの争乱について現状をメモしておきたい。基本的に西側がこれをどう見ているかという観点を取る。結論を先に言えば、米国を含め西側諸国はバーレーンのさらなる民主化を望んでいると見てよい。
 バーレーンの争乱は形の上ではエジプトの争乱に触発された形で始まった。14日に首都マナマをはじめ、シーア派住民の地域でデモが計画された。偶発的ではないことから治安当局も前日にこれらの地域に警察を配置し厳戒態勢を敷いていた。
 デモでは、マナマ周辺でシーア派住民約100人が当局と衝突。他の地域でも同様に衝突し、警察は催涙弾・ゴム弾・衝撃手榴弾で鎮圧に乗り出した。
 バーレーンの警察はバルチ族やシリア人といった外国人が多く雇用されており、鎮圧に国民的な温情は期待されない。ある程度予想されていた事態でもあるが犠牲者が出て、その感情的なエネルギーでデモはさらに活性化した。18日時点の報道(参照)では死者は4人、負傷者は66人とのこと。15日夜にはデモは数千人に及び、マナマの真珠広場に集結し占拠したが後、強制排除された。
 17日、治安維持に軍が出動したが、中国天安門事件のような軍による大惨事という拡大はない。バーレーンは米海軍第5艦隊が司令部を置く米軍の中東防衛の拠点でもあるが、それに影響を及ぼすという事態にもなっていない。米国側には、この争乱自体は、それほどの危機という認識はない。ただ、深い危機の前触れの懸念はある。
 チュニジアから始まった一連の争乱は、日本ではIT技術や民主化というくくりで語られがちだが、チュニジア争乱は実際はフランスとの関係を背景にした政権交代に近いものであったり、エジプト争乱の実質は軍部のクーデターであったり、イエメンは元から破綻国家に近かったりなど、それぞれの国の事情の要因が強い。民主化として注目できるのはイランの争乱くらいかもしれない。
 バーレーンについては、当初のデモの要求に、当局に拘束されているシーア派住民の釈放があるように、基本的にシーア派住民の不満が背景にある。その後、1971年以来継続しているハリファ首相の退陣要求もあり、さらに現スンニ派の王体制の転覆も叫ばれてはいる。シーア派中心の反政府活動は、隣国で反イスラエル・反米政策を採るシーア派国家イランとの関連も疑われるが、仮にその要因があったとしても顕在的な問題とはなっていない。
 バーレーンは人口80万人弱で世田谷区より少ない。国内総生産(GDP)は鳥取県ほど。先に言及したようにペルシャ湾の入口という地理的な条件から米軍基地があり、金融センターとしても発展している。
 2002年からは日本のように立憲君主制となり、二院制議会も持つ。内閣は王によって任命された首相が担う。司法も独立し、普通選挙も実施されている。それなりに民主化しているではないかと見えないこともない。
 実態はかなり異なる。今回の争乱がシーア派住民から起きたように、国民の四分の三はシーア派であるが、構造的にシーア派は差別されている。王家を中心としたスンニ派との間に構造的な社会対立があり、後で触れるワシントンポスト社説は、シーア派住民には公民権がないとまで述べている。
 醜悪と評してもよいと思うが、警察にバルチ族やシリア人を雇用し公民権を与えているのは相対的にシーア派の人口を抑制する目的もありそうだ。立憲君主制といっても日本のような象徴性ではなく、王は議会に対して拒否権を持っていて、緩和な専制になっている。
 昨年夏には、バーレーン当局は、24名ほどのシーア派指導者をテロ対策法の名目で逮捕拘留した(参照)。今回のデモの背景は、一連の中東争乱というより、昨年のこの事件の余波と見てよいだろう。
 バーレーンの政体で興味深いのは、とりあえず制度的にはシーア派が政治プロセスからまったく排除されているわけでもないことだ。内閣23閣僚のうち11人も王家親族がいるが、4人はシーア派であり、議会でも40議席の内、18議席をシーア派のウィファーク会派の議員が占めていてる。彼らは今回のデモに協調して議会ボイコットに出ている(参照)。
 事態が憂慮されるのもそれなりに議会が機能しうる可能性があるからあり、映像報道にしやすい争乱の風景は、フランスなど西側諸国の出来事にも似ている。バーレーンの場合、民主的なプロセスで正常化に至る可能性がないわけではない。が、それを阻む大きな問題は別のところにある。
 米国が今回の事態をどう見ているかだが、比較的米国の国益に近い観点を示すワシントンポスト社説「Bahrain's crackdown threatens U.S. interests」(参照)は、バーレーン政府の強圧的な態度を非難し、米国の国益に合致しないと見ている。


Not only is the crackdown likely to weaken rather than strengthen an allied government, but the United States cannot afford to side with a regime that violently represses the surging Arab demand for greater political freedom.

バーレーン政府による弾圧はこの同盟国政府を強化するよりも弱体化させがちであるばかりでなく、政治的自由の拡大を求めるアラブの台頭を暴力で弾圧する政治体制に対して米国が支持しづらくなる。


 ワシントンポストとしては、エジプト争乱と同様、米国政府はバーレーンに争乱が起きる前に民主化に関与すべきであったし、オバマ政権はまたしても失政であったという立場は取っている。
 ニューヨークタイムズ社説「Now Bahrain」(参照)も、バーレーンにいっそうの民主化を求めるという点でワシントンポストの論調と似ている。
 興味深い指摘も含まれている。日本などではつい、米国は反イラン体制を取るため、バーレーン争乱でも、イランを中心とするシーア派弾圧に米国政府が荷担するかのような見方もあるかもしれない。ニューヨークタイムズ社説は、対シーア派弾圧についてこう言及している。

Now the government is looking for a scapegoat - blaming Iran for the unrest. Tehran certainly never misses a chance to foment trouble. But the Shiites’ demands are legitimate, and the appeal of Iran and other extremists will only grow if the government continues on this path.

現状バーレーン政府はスケープゴートを探している。争乱についてイランを非難しているのである。確かにイラン政府に争乱を助長させる可能性がないわけではない。しかし、バーレーンのシーア派住民の要求は合法的であり、バーレーン政府がこうした態度を続けるのなら、イランの主張やその他の過激派を増長させるだけになる。


 イランを非難しているのはバーレーン政府ではないかという指摘である。さらに、イランへの非難は逆にイランの問題を悪化させるだけだとニューヨークタイムズは見ている。この指摘は正しいだろう。
 米紙でないがフィナンシャルタイムズ社説「Bahrain gets tough」(参照)も米2紙に近い見解を出し、バーレーン政府の圧政を非難し、民主化改革を求めている。

A fairer share of the national pie and government for the Shia, and a beefed-up parliament able to dismiss prime minister and cabinet, would secure the rule of the al-Khalifas, until now not under real challenge.

シーア派住民に国家資源と政府をより公平に分配し、首相と内閣を解任でき力を持つ議会は、アール・ハリーファ王の支配を確たるものにするだろう。だが、現状本当に求められている状態ではない。


 フィナンシャルタイムズ社説で興味深いのは、米紙ではないこともあるだろうが、この問題の背景にあるサウジアラビアについてかなり踏み込んだ言及をしている点だ。民主化改革の前提としてこう述べている。

To do that, the ruling family and its patrons in Saudi Arabia will need to overcome their contempt for the Shia, which long predates their paranoia about Iran.

そのためには、バーレーン王家とサウジアラビアにいるその守護者は、シーア派住民への侮蔑を克服する必要がある。これはイランへの妄想以前からあるものだ。


 あらためて読み直して、フィナンシャルタイムズはものすごいことを言うものだと思う。これこそ宗主国意識というものかもしれないが、スンニ派とシーア派の確執のど真ん中直球である。ここで両派の歴史とバーレーンの歴史を解説してみたい気にもなるが避けておくのが無難だろう。
 いずれにしても、バーレーン問題の背景にはサウジアラビアがあり、実際のところ、これまでの中東の争乱はそこに至るかが注目される導火線でもある。

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2011.02.18

エジプト争乱と軍部への疑念

 もう大分世間の関心も薄れて来つつあるエジプト争乱だが、とても重要な時期に来ているように思われる。昨日のエントリでも触れたが、今日18日、エジプトでは「勝利の行進」というデモが予定されている。このデモの動向がどうなるか。概ね危機的な状況を引き起こすことはないと見てよいだろうが、政治的には重要な転機になるかもしれない。
 日本国内ではどう報道されているか、朝日新聞記事「ムバラク政権の閣僚ら4人拘束 汚職容疑でエジプト検察」(参照)を読むと、表題の汚職容疑に触れたあと、こう伝えている。


 また、軍幹部はロイター通信に、次期大統領選で軍部からは候補を擁立しない考えを示した。ムバラク政権の崩壊を受けて全権を握る軍最高評議会が、腐敗の是正や民選政府の樹立など、市民や野党勢力の要求に応じたかたちだ。
 一方、ムバラク氏を退陣に追い込んだデモを続けてきた若者グループ「4月6日運動」やムスリム同胞団などは18日、「勝利の行進」と名付けたデモを行う予定。デモでは「革命の勝利」を祝うとともに、軍最高評議会に対し、政治犯の釈放や迅速な民主化などを求める予定だ。

 朝日新聞記事からだと、エジプト軍部は市民や野党の要求をよく受け入れており、また、「勝利の行進」もその一環のようにも見える。そうだろうか。
 ロイター「カイロで政変祝う「勝利の行進」計画、前大統領派もデモへ」(参照)と比べると興味深い。

 政権崩壊から約1週間が経過したものの、エジプト国民の生活は正常化には依然程遠い。通りには戦車が配備され、銀行や学校も閉鎖されたままで、ストライキも続いている。
 簡易ブログ「ツイッター」には「あす(18日)100万人が変革と要求を守るためのデモを行う」と投稿され、活動家らは会員制交流サイト「フェイスブック」でもデモ参加を呼び掛けた。
 一方、前大統領を支持するグループはムバラク氏の功績をたたえ、政権崩壊に至ったことを「謝罪する」デモを計画。デモを呼び掛けたグループによると、前大統領支持派は黒、反体制派は白を基調とした衣装を身にまとうという。
 大規模なデモが計画されるなど混乱が続く中、軍最高評議会が混乱を鎮めようとする動きもみられている。

 ロイターのほうが状況を詳しく伝えている。
 「勝利の行進」だが朝日新聞記事では「若者グループ「4月6日運動」やムスリム同胞団など」の「など」にムバラク支持派が入っていることを読み取るのは難しい。この対立のデモの展開になる可能性もある。しかし、推測だがムバラク支持派がここで大勢を巻き返すというシナリオはないだろう。
 問題はロイター記事が伝えている「通りには戦車が配備され」という現状である。軍が依然、エジプト国民を鎮圧している状況に変化はない。1981年発令の非常事態令は解除されていない。
 軍側は解除の意向があるとの報道はある。朝日新聞記事「「エジプト軍、非常事態令を解除」 大統領選前に」(参照)はこう伝えている。

ムバラク大統領の退陣を受け、全権を掌握したエジプト軍最高評議会が任命した憲法改正委員会の委員が16日、「軍部は6カ月以内に予定している大統領選と議会選の前に、30年前に発令されたままの非常事態令を解除すると確約した」と述べた。
 最大の野党勢力ムスリム同胞団から憲法改正委に参加しているサレハ氏が、ロイター通信に語った。軍最高評議会も11日の声明で「混乱が収束すれば、非常事態令を解除する」との考えを示していた。

 ここをどう読むか。
 冒頭のほうの朝日新聞記事に戻るが、この記事をよく読むと「勝利の行進」について、「政治犯の釈放や迅速な民主化などを求める予定」とあり、実は、政治犯はいまだ釈放されていない状況がわかる。後から争乱の起きたリビアが政治犯を100人以上釈放しているのに、なぜエジプトでは遅れているのだろうか。
 そもそもこれらは遅れなのだろうか?
 同じくエジプト国民に求められている改憲だが、このプロセスも疑問がある。産経新聞記事「改憲案の策定始まる 「ムバラク路線」踏襲に懸念」(参照)より。

ムバラク政権が崩壊したエジプトの改憲委員会メンバーが15日、全権を掌握する軍最高評議会によって任命され、改憲案の策定作業が始まった。最高評議会は「10日以内」という日程を示し、早期の民政移行に向けた改憲手続きを進める姿勢を示しているが、その半面、審議時間が少ないことから改正は小幅にとどまらざるを得ないとの見方が強い。


最高評議会が指示したのは、(1)大統領選の立候補資格の緩和(2)大統領の再選回数の制限(3)司法による選挙監視(4)非常事態令の解除-などに必要な条文の見直しで、これらは、ムバラク前大統領が辞任前日の10日にテレビ演説で約束したものとほぼ同じだ。

 現状では、ムバラク元大統領がエジプト国民の要望を受けるとした状況から変化はない。ムバラク氏が辞任したことによる違いは実はなにもない。
 何かおかしいのではないかとする報道は、なぜか日本国内ではあまり見かけないが、ワシントンポストは15日社説「Keep pushing in Egypt」(参照)で疑問を投げかけている。前向きな変化もあるとしているが。

Those were positive steps. But the military's early actions are also giving grounds for concern that it may not accept key demands of both the Egyptian opposition and the United States - measures that are critical to establishing a genuine democracy.

これらは前進ではあった。が、軍部の初期行動は、エジプト国民と米国双方の重要な要求を受諾しないのではないかと懸念させる根拠も与えている。要求されているのは、民主主義を樹立する上で決定的に重要である手法である。



While two generals met on Sunday with a group of representatives of the youth movements that organized the protests, neither those representatives nor other opposition leaders have been included in the regime's decision-making. Nor have the generals been willing to meet with several key opposition leaders, such as former U.N. official Mohamed ElBaradei. The cabinet appointed by Mr. Mubarak last month has been reconfirmed.

抗議運動を組織した青年運動家グループ代表に、将軍ふたりが日曜日に面会したものの、これらの代表も反対派リーダーも、依然政治体制の意思決定機構に含まれていない。さらに将軍らは、前国連役員モハメド・エルバラダイ氏など、重要な反対派指導者とは面会していない。ムバラク氏が任命した内閣は依然、再確認されたままである。


 米側の指標としては、エルバラダイ氏の政治参加に着目しているのだろう。
 ワシントンポストが疑念を持つようにエジプト軍部の実際の動向は朝日新聞記事などが前向きに報道している状態とはかなり異なっている。
 エジプト民主化の方向は決まっているのだから慌てることはないという考えもあるだろうが、実態は、事態の展開を急いでいるのはエジプト軍部であるとワシントンポストは見ている。

Rather than create joint structures to decide on such matters as how to amend the constitution, when to hold elections and what other reforms to undertake, the military has been rushing ahead with its own plan - which looks a lot like that promoted by Mr. Mubarak and his vice president, Omar Suleiman.

憲法改正の手段、選挙の時期、そしてその他の改革といった事項の決定に、参加的な政治機構を形成するよりも、軍部は自身の計画を急いでいる。状況は、ムバラク氏やその副大統領であったオマール・スレイマンで推進された状況とよく似ているのである。



The military's intentions look even more questionable because of its continuing refusal to lift an emergency law that restricts public gatherings and allows detention without charge, and its failure to release thousands of political prisoners.

公的集会を制限し、令状なしの拘留を規定する非常事態令撤回を拒否と、数千人の政治犯を釈放不履行を継続していることからすると、軍部の意向はいっそう疑問符が付く。


 民主化を求めるのであれば、どこに指標を置くべきか。議会である。
 ワシントンポストの論調もそこに集約される。

Opposition leaders themselves differ on how quickly elections can be held and whether the constitution should be amended or scrapped. That's all the more reason why these questions should be hammered out around a round table, rather than abruptly decided by martial decree.

反対派指導者自身、選挙の迅速な実施や憲法を改正するか廃棄するかについて意見を異にしている。こうした状況だからこそ、これらの疑問は、軍部の指令で突然決定するのではなく、円卓会議において議論されなければならない。


 議会の前段となるものが可視なるとき、エジプトの民主化も現れ始める。

追記・翌日
 デモのようすをBBCはこう伝えた。「Egyptians celebrate but military starts talking tough」(参照)。


Egypt's ruling military council says it will not tolerate any more strikes which disrupt the country's economy.

エジプトの支配する軍事評議会は、国の経済を混乱させるこれ以上のストは許容しないと声明を出す。


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2011.02.17

エジプト争乱、ワエル・ゴニム氏の役どころ

 エジプト争乱で一躍英雄となったワエル・ゴニム(Wael Ghonim)氏だが、少し気になることもあるので、いずれ米国が関与する類似の事件を考えるときの参考にもなるだろうから、これもついでまとめておこう。
 そう思ったのは、昨日、ちょっと奇妙なニュースを毎日新聞記事「エジプト:18日に大規模デモ 「若者連合」幹部」(参照)で見かけたからである。


 【カイロ和田浩明】エジプトのムバラク大統領(当時)に対し、即時辞任を求めて今月初めに反政府デモグループの全国的な連合組織として結成された「革命の若者連合」幹部、ハリド・サイード氏(27)が15日、毎日新聞と会見した。実権を掌握した軍部と16日に面談し、内閣刷新や新憲法の導入、野党弾圧に使われてきた非常事態令の解除などを求めることを明らかにした。「革命はこれからも続く」とも語り、18日に大規模デモを実施して要求受け入れを迫る考えだ。

 カイロにいる新聞記者が「ハリド・サイード氏(27)」とそのまま書いてしまうのはどういうことなんだろうというのが奇妙な点である。もしかすると、本当にそういう名前の人がいるのかもしれないし、記事には顔写真もついているので、いかにもこの人という印象は受けやすい。しかし、この争乱をそれなりに見てきた人なら、その名前を聞けば、それは仮名でしょと思うはずだ。そのあたりは後で触れたいと思う。
 もう一つ、この記事で気になったのは以下。

 同連合は、1月25日からの反政府デモを主導した若者団体「4月6日運動」や「自由と正義」など5団体で構成する。国際原子力機関(IAEA)前事務局長のエルバラダイ氏の支援者や、穏健派イスラム原理主義組織で最大野党勢力の「ムスリム同胞団」の関係者らも含まれる。

 この若者連合は、米国とつながりのある「4月6日運動」(参照)を含んでいるのだがその関係はよくわからない。また、ネットを通じた活動の英雄といえばワエル・ゴニム氏だが、その関係もよくわからない。ただ、結論だけいうと、エルバラダイ氏を巻き込み、ムスリム同胞を相対化させるという米国の思惑とは同調している。
 さて、英雄ワエル・ゴニム氏だが、13日付けのニューズウィーク「The Facebook Freedom Fighter」(参照)に詳しい話がある。同記事は昨日の日本版にも抄訳がある。執筆者はマイク・ジリオ(Mike Giglio)とのみあるので同社の記者であろうか。過去記事から見ると、エジプト争乱に対する米国の関与を否定していくスタンスが強い記者なのでそのあたりのバイアスを前提にして記事を読む必要はあるだろう。
 同記事は、ニューズウィークが入手したワエル・ゴニム氏とナディヌ・ワハブ氏の交信記録とゴニム氏へのインタビューを元に構成されている。当然ながら、そんな記録どこからどういう思惑でニューズウィークに流れたのかというのも気になるところだ。
 記事のポイントはこの二人にある。二人のつながりにあると言ってもいいかもしれない。二人の関係の成立だが、昨年の春に遡る。

Ghonim and Wahab met electronically last spring, after Ghonim volunteered to run the Facebook fan page of Mohamed ElBaradei, the Egyptian Nobel Prize winner who had emerged as a key opposition leader; Wahab offered to help with PR. Ghonim had a strong tech background, having already founded several successful Web ventures. But it was his marketing skills that would fuel his transformation into Egypt’s most important cyberactivist.

ゴニム氏とワハブ氏が遭遇したのはオンラインで時期は昨年の春のことであった。ゴニム氏は、エジプト人ノーベル賞受賞者モハメド・エルバラダイのFacebookファンページをボランティアで運営してからのことである。エルバラダイ氏はすでに政府反対派のキーマンとなっている。ワハブ氏はその広報に助力したいと申し出た。ゴニム氏はすでに成功したWebベンチャーをいくつか設立していて、強い技術背景も持っていた。


 ワハブ氏とはどのような人物か? ゴニム氏が連行された3日後の話に彼女の紹介がある。

Three days later in Washington, D.C., Nadine Wahab, an Egyptian émigré and media-relations professional, sat staring at her computer, hoping rumors of the caller’s disappearance weren’t true.

三日後、米国ワシントンD.C.で、エジプト人亡命広報専門者のナディヌ・ワハブ氏は、パソコンを見つめ、呼び出し人失踪が噂であることを期待した。


 ゴニム氏のサポーターであるナディヌ・ワハブ氏は、エジプト人亡命機関の広報専門者である。ごく簡単にいえば、エジプト民主化の米国政治団体と見てよいだろう。そして、であれば、ウィキリークスが暴露(参照)した、エジプト民主化への米国の関与組織とも関係があると見てよいだろう、ごく普通に。
 そして記事にもあるしかつ報じられてもいるが、ゴニム氏のほうは、米国インターネット検索大手Googleの幹部である。グーグルとしてもそれはゴニム氏のプライベートの活動ですから知りません、というはずもないだろう。陰謀論のように推論する気はさらさらないが、ウィキリークス公電暴露から見てもわかるように、ワハブ氏のような政治団体やウォルフ米議会議員らの活動はネットを使った中東民主化サミットで繋がっていたと見てよいだろう。
 もちろん、それがすべて最初から一体であったわけではないだろうし、ゴニム氏とワハブ氏の遭遇はオンラインであったとすることに疑義を持つものではない。が、注目したいのは、ゴニム氏が昨年春時点で、エルバラダイ氏を担いでいること、ワハブ氏もエルバラダイ氏に注目していたことだ。つまり、ネットメディアを使ったエジプトの民主化というより、エルバラダイ氏をいかに担ぎ出してエジプトに送り込むかというのが、この時点のテーマであった。
 エジプト在Googleのゴニム氏と米国政治団体ワハブ氏によるエルバラダイ氏担ぎ出し運動用のFacebookは昨年の6月には、広報成果もあるだろうし、ウィキリークス公電暴露からも推測されるように各種の支援からも、すでに人気となっていたのだが、この6月に事件が起きた。

That month, a young Alexandria businessman named Khaled Said, who had posted a video on the Web showing cops pilfering pot from a drug bust, was assaulted at an Internet café by local police. They dragged him outside and beat him to death in broad daylight. Photos of his battered corpse went viral.

その月、麻薬捜査物件から麻薬を盗み出す警官の映像を投稿したハリド・サイード(Khaled Said)という名の、アレクサンドリア在の若いビジネスマンはインターネットカフェで地元の警察から急襲された。彼は真っ昼間に引きずりだされ、撲殺された。彼の撲殺写真はネットのウィルスのように拡散した。


 チュニジアと同様、エジプトでも昨年夏、当局暴力による象徴的な若者の犠牲死があり、ハリド・サイードという名前はその象徴ともなった。冒頭、毎日新聞記事に私が不審をもったもの、ハリド・サイードという名前のそうした連想からである。
 ゴニム氏とワハブ氏の活動にもこれは影響を与えた。それ以上かもしれない。

Ghonim was moved by the photos to start a new Facebook page called “We Are All Khaled Said,” to which he began devoting the bulk of his efforts. The page quickly became a forceful campaign against police brutality in Egypt, with a constant stream of photos, videos, and news.

写真に心動かされたゴニム氏は、「私たち全員がハリド・サイードである」というFacebookページを新規に立ち上げ、ネット活動の力をそちらに注ぎだした。このFacebookページは、一連の写真やビデオ、ニュースを持っていることから、急速に警察暴力に反抗する力強い政治運動になった


 ゴニム氏はこう語る。

“My purpose,” he said in a conversation with Wahab, “is to increase the bond between the people and the group through my unknown personality. Thisway we create an army of volunteers.”

「私の目的は、私を個人的に知らない人々やグループ間結束を増やすことだ。こうして私たちは志願兵による軍隊組織を形成するのだ」と彼はワハブ氏との対話で述べている。


 ここをどう読むかが難しい。素直に読めば、元来はエルバラダイ氏担ぎ出し運動であったものが、警察当局の暴力への対抗で感情的な批判運動へと、ゴニム氏の感情から転換したとも言える。ただし、ワハブ氏もこの変化に寄り添っていたことを考えに入れると、反対派勢力を盛り上げる広報戦略として、エルバラダイ氏からハリド・サイードに鞍替えしたと見るほうが妥当だろう。しかし、この鞍替えが政治的な文脈としてよかったかは疑念の残るところだ。ある意味、これはゴニム氏とワハブ氏が想定していなかった方向に暴走し始めたと見ることもできる。そして、これらを軍部はどう見ていたか。
 エジプト争乱のきっかけはチュニジアの暴動であったが、同記事を読むと、ゴニム氏とワハブ氏は焚きつけるだけ焚きつけておきながら、その行き先に確信はなかったようにも読める。1月25日のデモ行動に参加を募った後でもゴニム氏はこう考えていた。

In the space of three days, more than 50,000 people answered “yes.” Posing as El Shaheed in a Gmail chat, Ghonim was optimistic but cautioned that online support might not translate into a revolt in the streets.

3日間で5万人を越える「YES(参加する)」という回答を得た。ゴニム氏は、エル・シャヒードの偽名によるGmailチャットで、楽観視はしているが、ネットの支持は市街の抵抗運動に変わるわけでもないとも警告していた。


 ゴニム氏はありがちな扇動者というところだ。記事には言及がないが、私の推測ではこの脇の甘さが、実際には、別運動団体の事実上の便乗と軍部の察知から謀略を招いた。
 そう推測するのは、当局の動きからだ。翌々日、すでに尾行を探知していたゴニム氏だが連絡が途絶え、翌朝失踪したのである。当局による拉致であるが、極秘に行われた。当局側が25日の運動でゴニム氏を危険視したというのが穏当な考え方だが、私は、当局はウィキリークス公電暴露からもわかるように、当局は彼らの活動を知っていて、それ以前から注目し、泳がすだけ泳がした。都合の良い時期にこの暴動を乗っ取るシナリオが動き出したと見てよいように思う。
 ゴニム氏が消えてからは、米側のワハブ氏の奮迅となる。そのプロセスは同記事に劇画風に描かれていて面白いのだが、面白すぎて、ワハブ氏の背景を覆い隠している。
 ウィキリークス公電にも事例が暴露されていたが、米国政府は著名な反対派活動を調査しつつ解放をエジプト政府に迫っている。この暴露事例から見ても、ゴニム氏の解放へ米側が強力に動いたことは間違いないだろう。これを陰謀論というなら、もういちどウィキリークス公電の暴露事例を読んでいただきたい(参照)。
 二週間後解放されたゴニム氏自身は、反対運動の盛り上がりに浦島太郎状態であったように同記事は書いている。それはそうかもしれないが、すでにゴニム氏は別の駒として使うように釈放されていたと見てよい。匿名で煽動するはずのゴニム氏は、この間、すっかり英雄として演出する舞台が設置されていたのである。
 すでに明らかになっているように、ムバラク氏の引きずり下ろしは軍部と米国間で規定事項であった。15日付け毎日新聞記事「エジプト:「辞任か追放」 軍、ムバラク氏に迫る--10日演説後」(参照)より。

エジプトのムバラク前大統領が今月10日に「即時辞任拒否」の演説をした後、一転してカイロを追われ辞任する事態になったのは、エジプト国軍が「辞任か追放」という二者択一の最後通告を突きつけた結果だったことが、米紙ワシントン・ポストの報道で分かった。
 同紙によると、反政府デモの高まりの中、エジプト国軍とムバラク政権指導部の間では先週半ばまでに、ムバラク氏が何らかの形で権限移譲をすることで合意していた。オバマ米政権も10日までに、国軍から「辞任か権限移譲」の二つのシナリオを聞いていたという。

 あとは、だめ押しでガス抜きし、流れをムスリム同胞団相対化に結びつければよいのである。ゴニム氏に渡された脚本は、解放された時にはもう決まっていたということだろう。まあ、そう表現すると修辞のわからない人から脊髄反射的に陰謀論とか批判さそうだけど、仔細を冷静に見れば、そういう流れの事態であった。

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2011.02.16

エジプト軍部クーデターの背景

 エジプト軍部がなぜ巧妙に偽装したクーデターを画策したのか。その背景を知るのに、ニューズウィーク記者クリストファー・ディクニー(Christopher Dickey)氏の、13日付けニューズウィーク記事「The Tragedy of Mubarak」(参照)が興味深いものだった。いくつか気になったところをメモしてみたくなった。ちなみに、今日付けの日本版にも抄訳が載っているが、かなり記事に手を入れている。まあ、それはそんなものかな。
 NHKのニュースなどでも、ムバラク元大統領に関連する欧州銀行口座が凍結されたみたいな話があり、それを聞いていると、ムバラク氏もかなりの不正蓄財がありそうにも思えるが、そうでもないらしい。


Mubarak’s fall is not a story like the one that unfolded in Tunisia, of a dictator and his kin trying to take their country for all it was worth. Although there have been widely reported but poorly substantiated allegations of a $40 billion to $70 billion fortune amassed by the Mubarak family, few diplomats in Egypt find those tales even remotely credible. “Compared to other kleptocracies, I don’t think the Mubaraks rank all that high,” says one Western envoy in Cairo, asking not to be named on a subject that remains highly sensitive. “There has been corruption, [but] as far as I know it’s never been personally attached to the president and Mrs. Mubarak. They don’t live an elaborate lifestyle.”

ムバラク失墜は、チュニジアの独裁者と親族について流布されている物語には似ていない。ムバラク家は400億ドルから700億ドルの財産を持つと報道されるが、さしたる根拠はない。ある在エジプト外交官はその話をおよそ信用していない。「他国の私物化体制に比べて、ムバラク氏が最高水準にあるとは思えない」と重要な地位にある匿名の在カイロ西側特使は語る。「腐敗はあったが、私が知る限りでは、それは一度もムバラク大統領夫妻に拠るものではなかった。ご夫妻は奢侈な生活をしていない。」


 そうなのではないかと思われるのは、ムバラク氏の妻、スザンヌ夫人の人徳による。

His partner in the family tragedy was Suzanne Mubarak, the daughter of a Welsh nurse and an Egyptian doctor, who married Hosni when he was a young Air Force flight instructor and she was only 17. By the time she was in her late 30s, when her boys were teenagers and her husband was vice president, she set about reinventing herself as a social activist in Egypt and on the international stage. “Suzanne is 10 times smarter than her husband,” says Barbara Ibrahim of the Civic Engagement Center at the American University of Cairo.

ムバラク家の悲劇はスザンヌ夫人にあった。彼女は、ウェールズ人看護婦とエジプト医師の娘でわずか17歳のとき、空軍兵士のムバラク氏と結婚した。子供がまだ10代で夫が副大統領であった30代の後半、彼女は自身で国際的な社会改革家として活動した。「スザンヌ夫人は夫より10倍も賢い」とアメリカ・カイロ大学市民活動センターのバーバラ・イブラヒム氏は言う。


 ムバラク氏もまた野心をもって独裁者になったわけではなかった。偶然に近いものだった。

As commander of the Egyptian Air Force, he had been a hero of the 1973 war against Israel, so when President Anwar Sadat summoned him to the palace in 1975, he thought maybe he was going to be rewarded with a diplomatic post, but no more than that. (Friends say Suzanne told him to try to get a nice one in Europe.) Instead, Sadat named him vice president. And on Oct. 6, 1981, as Sadat and Mubarak sat side by side watching a military parade, radical Islamists opened fire, killing Sadat and making Mubarak the most powerful man in the land.

ムバラク氏は、エジプト空軍司令官として、1973年の対イスラエル戦争の英雄でもあったが、当時のアンワル・サダト大統領が、1975年、彼を宮殿に呼び出したとき、彼は、報償として外交官にでも任命されるのではないかと思っていた。スザンヌ夫人もそれなら西洋がいいわと薦めていた、と友人らは語る。現実は、サダト大統領は彼を副大統領に任命した。そして1981年10月6日、サダト氏とムバラク氏が並んで座り軍事パレードを見ていたとき、イスラム過激派は銃撃でサダト氏を殺し、かくしてムバラク氏はこの地で最高権力者となった。


 なにが夫妻の人生を狂わせたか。ただの時の流れであったか。記者は、夫人の後年の一家のための権力欲とムバラク氏の虚栄心だと見ている。そうかもしれないし、そうでないのかもしれない。
 ムバラク氏は82歳にもなって権力の座にしがみついていると言われたし、実際にそうでもあったのだが、自身の晩年には、人間らしい悲劇はあった。溺愛していた12歳の孫が2009年脳内出血で死亡し、以降後継者への希望も生きる希望も見失っていたらしい。病気も抱えていた。
 長男のアラー(Alaa)氏はサッカー好きのビジネスマンで政治家になる気はなかった。一家を継ぐ母の期待は次男ガマル(Alaa)氏にのしかかっていたのだろう。

The president’s younger son had spent nearly a decade studying the art of politics in his father’s ruling National Democratic Party ever since returning from London, where he had worked for Bank of America and then run his own company, Medinvest. He imported organizational ideas and administrative techniques from abroad, especially from Britain’s Labour Party. (“Tony Blair has taken more vacations in Egypt than God,” a friend of the family notes in passing.)

大統領の次男は、バンカメで職を得、自身の会社メディンヴェストも運営していたロンドン生活から戻ってからは、父が支配する国民民主党の政治手法の習得に10年を費やした。彼は秩序だった経営理念と管理技法を海外、特に英国の労働党から導入した。(ちなみに「トニー・ブレアはエジプトで神より多くの休暇を取った」と一族の指摘している。)


 ガマル氏は日本で言うところの「新自由主義」と途上国的な独裁政治手法を習得していた。ガマル氏はその面ではそれなりに有能でもあり、理想もあったのだろう。政治家としては能力に欠けてはいたのだが。

Even so, many of Egypt’s best and brightest businessmen gathered around Gamal’s standard. Some profited mightily from the association, while others set out to modernize an economy still weighed down by policies dating back to the “Arab socialism” of Gamal Abdel Nasser. Some did both, and several were brought into the government. Liberalization, privatization, and modern telecommunications began to transform the business landscape.

いずれにせよ、エジプトで最も有能なビジネスマンの多くはガマル的な価値観に集結した。このグループから多大の利益を得た者もいたが、他方、古くさいガマル・アブダル・ナセルの「アラブ社会主義」の政治で疲弊した経済の近代化を推進しようとした者もいた。各種の思いの人々が政府に入っていった。自由化、民営化、現代の通信技術はエジプトのビジネスシーンを変革しはじめた。


 日本で言うところの「新自由主義」政策が実施され、エジプトの国家経済は向上したが、日本と同様の反動も生まれた。全体の経済がボトムアップすると相対的に所得格差は広がる。また旧来の社会主義政策的な権力基盤にある人々から、反発が沸き起こっていた。

Foreign direct investment increased dramatically at first, and until last year the economy was growing by 6 to 7 percent. But the new money also created a new class of super-rich Egyptians. It stoked resentment among tens of millions of people living on the edge of survival, among the young and educated who still could find no jobs - and among the military and secret-police establishment that was, for all the government’s new business-friendly technocratic veneer, the real foundation of Mubarak’s regime.

外国からの直接投資は最初は劇的に増大し、昨年まで、エジプト経済は6~7%も成長していた。しかし、新しいマネーはエジプトに超富裕新興階級をももたらした。このことが、生き残りの縁にいる数千万人の怒りをもたらした。それには、職のない若者世代や高学歴者もいる。そしてさらに軍部と秘密警察の幹部も含まれていた。彼らこそ、政府内のビジネス志向の新興階級にとって、ムバラク体制の本来の基盤であった。


 かくして、打倒「新自由主義」である。打倒「親米政府」である。
 どっかの国で起きたような反動に国民の熱気が巻き込まれていく。これこそが、エジプト軍部クーデターの背景であった。

As a weakened Mubarak leaned more on his Army to save him, the generals’ first targets were the “businessmen” in the cabinet. Gamal’s allies were forced out. Several were threatened with prosecution. The old guard had won its first victory. Then the president himself stood down. The old guard was in charge again. The fact will register on ordinary Egyptians soon enough. Another soap opera - or another tragedy - may begin. But this one won’t be called The Mubaraks.

弱体化したムバラク氏が救済を彼の軍部に求めたとき、軍部の将軍達の最初の標的は、「ビジネスマン」たちであった。ガマル氏の同盟者は力尽くで押し出された。起訴で脅迫された者もいた。守旧派は最初の勝利を勝ち取った。次に大統領自身が引きづり下ろされた。守旧派の掌握が再建された。この事実はすぐにエジプト国民に刻み込まれるだろう。別の昼メロドラマが始まるだろう。それは別の悲劇というべきかもしれない。いずれにせよ、それはもはや、ムバラク家の物語とは呼ばれまい。


 大河ドラマ、ムバラク家の物語は終わり、エジプト守旧派の昼メロがこれから始まるのである。それは記事がためらいがちに予想するように、エジプトの悲劇であるかもしれない。
 「新自由主義」打倒!、親米政権打倒!の勇み声で倒された政権を持つ国家が、その後、どんなにしょぼいことになるのかということについては、まあ、語るまでもないだろう。

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2011.02.14

BBCが報道した日本の自殺賃貸

 先日BBCで現代日本社会について多少気になる記事を見かけた。一言で言えば、賃借者が自殺した賃貸物件についての話である。世間でよく聞く話でもあるし、誰も賃貸のお世話になるときは気になる項目でもある。が、自分の印象ではあまり日本の報道で見かけたことはない。
 住宅域で増えている空き家の少なからずも住んでいた人の自殺が関係しているのではないかなと思いつつ、先日、NHK追跡!AtoZで「消えた家主を追え ~都会で急増 “迷惑”空き家~」(参照参照)も見たが、その関連の話はなかった。ちなみに同番組は足で稼いで努力をしたのは理解できるが、特例一例に着目するだけのひどい代物で、しかも落とし所に最近NHKのネタである無縁社会を持ってきてしまった。普通に考えたら空き家でも所有者がいるなら固定資産税がかかっているわけで、普通ならまずそのあたりについて調べるだろうに。というか、NHKも調べたはずに違いないのだが、なんかよくわからない別の話にすり替わっていた。
 BBCの記事だが、2月10日付け「The stigma of Japan's 'suicide apartments'」(参照)である。タイトルは「日本における自殺アパートの汚名」とでもなるだろうか。拙い訳でよければ全訳したほうが話が早いような気もしたがBBCの著作権の扱いがわからないので、言及するに留めよう。

 話は、近年、22歳の娘さんを無くした仙台の父親の描写から始まる。仏壇に入れることがでない娘の写真に悲しむというものだ。娘さんは東京のアパートに暮らしていて、薬剤を多量に摂取して亡くなった。記事には特定されていないが睡眠薬であろうか。その死を知らされたのは父と娘の母である前妻とあるので、親は離婚しているのだろう。父親としては自殺だったと理解しているわけではない。警察がどう扱ったかについても記事には言及はない。そのあたりが、後段の話と関わりがありそうにも思うので、多少気にはなるのだが。
 BBCの話の主題は、世界に名だたる日本の自殺率の高さではなく(それはさらりと前振りにある程度)、賃貸者が自殺した場合の賃貸物件についてである。娘を亡くしたその父には、悲しみに追い打ちをかけるように家主から請求書が届いたというのだ。額は£18,650とある。250万円くらいになる。娘さんが借りていた賃貸が月額どのレベルであったかわからないが、月10万円としても二年分くらいにはなる。そんなにも請求されるものだろうか。またそのような請求に根拠があるのだろうか。
 BBCの記事にはその疑問はなく、日本人は賃借者に死者が出ると、汚れたものとしてその浄化儀式に費用がかかるといった文脈でさくさくと進んでいく。"Many families are also required to pay for expensive purification rituals."(多くの家族もまた高額な浄化儀式の支払いが求められる)というわけである。いや、自殺者が出ると不動産物件の価値が毀損されたという話もあるが。いずれにせよBBCとしては、自殺者を宗教的に不浄と見る日本社会を描き出しているつもりなのだろう。当たってないわけではない。いや、大当たりかな。
 文脈は、仏教徒の不動産屋が篤信でこうした物件を半額で扱うといった話があるが、私がちょっと読みを誤っているかもしれないけど、仏教の関わりで記者が何を言いたいのかはよくわからない。英国では仏教徒ならそういう日本の因習はないと見ているということなのだろうか。
 BBCの話はそれだけで、文化的な誤解とも言い切れないがなんとも後味の悪い記事で、この数日心に引っかかっていた。
 気になるのは、自殺者の賃貸物件補償なのだが、これは連帯保証人ということですよね(いや、そうでもないらしい)。それと、こうしたことは世間にそう珍しいことでもないから、相場が存在しているはずでと、ちょっとググってみると、OK Waveにあった。「娘が賃貸アパートで自殺しました。保証人である父親が賃貸アパートのオーナーに賠償請求されています(参照)」とのこと。


賃貸物件:1Rが14戸ある築3年の賃貸アパート。
賃貸料:5万
自殺者:賃貸契約者(保証人の娘)
自殺状況:部屋で薬により自殺。死後40時間後発見。
発見当時は夜中で近辺の人が騒ぎに気が付いたもよう。
部屋の状態:自殺による部屋の汚れは全く無し。
 
現在の交渉で、賃貸アパートのオーナーは次のような賠償を請求する意向のようです。
 
1:空室になった全部屋の入居までの家賃全額
2:自殺があった部屋の5年間の家賃割引総額(月1万5千円程度*5年分)
3:御祓い費用
4:部屋の洗浄費用

 請求額は、1万5千円の60か月ということで、90万円ほどになる。
 寄せられた回答は、リンク先を見よということで、辿ると(参照)。

●賠償金を相続人保証人に請求可能
 立証された場合、相続人である家族に賠償金を支払ってもらうことができる。法人契約していた場合も、法人は入居者が履行補助者となるので、債務不履行として請求することができる。また、保証人は、賃借人の用法義務違反の損害賠償責任をも保証するため、損害賠償金を請求することができる。
 ただし、ここで問題になるのは、どのくらいの金額を請求することができるかである。
 例えば、一つの目安として、事件後10年間は、住み心地の良さを欠くとして瑕疵担保責任を追求することが可能だが、10年間入居者が決まらないという可能性を立証することは難しい。そのため、10年間分の家賃を請求することは困難である。
 そのため、あらかじめ契約書の特約事項に「万が一、自殺行為があった場合は、違約金として○円を徴収する」という事項を明記するのもひとつの手である。ここで気をつけたいのは、この違約金の額を一方的に賃借人に不利な数字を掲載すると、消費者契約法にひっかかってしまうことである。そのため、3ヶ月から半年分の家賃が妥当だと考えられる。
 ちなみに次の入居者には、「自殺があった物件」であることは必ず告知しなければいけない。目安として、事件後5年間位は新規入居者には告知する必要があるという。

 どの程度業界的に妥当なのかよくわからないが、「事件後5年間位は新規入居者には告知する」が先の5年請求の元になっていそうな雰囲気はある。
 親族に死なれるのもつらいが、不動産屋としても現実の損失があるので、妥当な調停は必要なのだろう。とはいえ、こういう物件に対して、「無神論者の私は気にしませんから」という市場を設定してもよさそうな気もする。でも、実際にやったら、無視論者を言明している人が実際には避けたりして。
 余談だが、先日、以前住んでいた町を通り過ぎ、そういえば、この二階の事故で死者が出たなあとあるビルを感慨深く見上げた。そこは塾になっていた。町の風景は変わり、この町であの事件を知っているのは私くらいかもしれないなと不思議な気がした。


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2011.02.13

ウィキリークスがエジプト「4月6日運動」について暴露した2008年12月30日の公電

 昨日のエントリ(参照)について、補足がてらに該当ウィキリークスの他の部分も含めて、ざっと翻訳しておくことした。もしかすると、すでにどこかで翻訳されているかもしれないし、訳は粗くて申し訳ないのだけど、ご参考までに。

  * * * * * * *

S E C R E T SECTION 01 OF 02 CAIRO 002572
秘密分野 カイロ002572 02の01
SIPDIS
FOR NEA/ELA, R, S/P AND H
NSC FOR PASCUAL AND KUTCHA-HELBLING
E.O. 12958: DECL: 12/30/2028
TAGS: PGOV PHUM KDEM EG
SUBJECT: APRIL 6 ACTIVIST ON HIS U.S. VISIT AND REGIME CHANGE IN EGYPT
件名:「4月6日運動」活動家の米国訪問とエジプト政体の変革について
REF: A. CAIRO 2462
¶B. CAIRO 2454
¶C. CAIRO 2431
Classified By: ECPO A/Mincouns Catherine Hill-Herndon for reason 1.4 (d).

¶1. (C) Summary and comment: On December 23, April 6 activist XXXXXXXXXXXX expressed satisfaction with his participation in the December 3-5 "Alliance of Youth Movements Summit," and with his subsequent meetings with USG officials, on Capitol Hill, and with think tanks. He described how State Security (SSIS) detained him at the Cairo airport upon his return and confiscated his notes for his summit presentation calling for democratic change in Egypt, and his schedule for his Congressional meetings. XXXXXXXXXXXX contended that the GOE will never undertake significant reform, and therefore, Egyptians need to replace the current regime with a parliamentary democracy. He alleged that several opposition parties and movements have accepted an unwritten plan for democratic transition by 2011; we are doubtful of this claim. XXXXXXXXXXXX said that although SSIS recently released two April 6 activists, it also arrested three additional group members. We have pressed the MFA for the release of these April 6 activists. April 6's stated goal of replacing the current regime with a parliamentary democracy prior to the 2011 presidential elections is highly unrealistic, and is not supported by the mainstream opposition. End summary and comment.

¶1. (C) 要約とコメント:「4月6日運動」の活動家であるXXXXXXXXXXXX氏は、12月3日-5日の「青年運動サミット同盟」に参加し、加えてシンクタンクを伴う米国連邦議会開催の米国政府役員と会合に満足したことを12月23日に表現した。彼は、国家治安調査局が帰国時に、彼をカイロ空港で拘束したようす、またサミットで実施した、エジプトにおける民主化変革の要望についてのプレゼンテーション・メモと議会会合のスケジュールを没収したようすについて記述した。XXXXXXXXXXXX氏は、エジプト政府はけして重要な変革を受け入れないし、よってエジプト国民は現体制を議会制民主主義に置き換える必要があると主張した。彼は、いくつかの野党と運動団体が2011年までに民主主義への移行についての書かれざる計画を受け入れたと主張した。私たちはこの主張を疑っている。XXXXXXXXXXXX氏によれば、国家治安調査局は最近2人の「4月6日運動」の活動家を解放したが、さらに3人のグループ活動家を追加で逮捕したとのことだ。私たちは、「4月6日運動」の活動家の解放をエジプト外務省に催促した。2011年の大統領選挙に先がけて現政権を議会制民主主義と入れ替えるという、「4月6日運動」の活動家らが語る目標は非常に非現実的なため、主流の反対党派には支持されていない。
要約とコメントを終える。

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Satisfaction with the Summit
サミット会議で満足
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¶2. (C) XXXXXXXXXXXX expressed satisfaction with the December 3-5 "Alliance of Youth Movements Summit" in New York, noting that he was able to meet activists from other countries and outline his movement's goals for democratic change in Egypt. He told us that the other activists at the summit were very supportive, and that some even offered to hold public demonstrations in support of Egyptian democracy in their countries, with XXXXXXXXXXXX as an invited guest. XXXXXXXXXXXX said he discussed with the other activists how April 6 members could more effectively evade harassment and surveillance from SSIS with technical upgrades, such as consistently alternating computer "simcards." However, XXXXXXXXXXXX lamented to us that because most April 6 members do not own computers, this tactic would be impossible to implement. XXXXXXXXXXXX was appreciative of the successful efforts by the Department and the summit organizers to protect his identity at the summit, and told us that his name was never mentioned publicly.

¶2. (C) XXXXXXXXXXXX氏は、他国の活動家と会合し、エジプト民主化に向けた自らら運動目的を説明できたと指摘して、12月3日-5日、ニューヨーク開催「青年運動サミットの同盟」に満足を表した。彼は、サミット参加の他活動家が非常に協力的であり、サミットに招待された彼に対し、エジプト民主化支持に向けた公的なデモ活動支援を自国で提供しようとする者さえいたと語った。XXXXXXXXXXXX氏は、「4月6日運動」の活動家は、国家治安調査局による嫌がらせと監視を効果的に回避する手法を他の活動家と議論したと言った。これには、通信用コンピューターの「シムカード」を絶え間なく入れ替える手法が含まれる。しかし、XXXXXXXXXXXX氏は、「4月6日運動」の活動家の大半がコンピュータを所有していないため、この戦術の実施が不可能であろうと私たちに嘆いた。XXXXXXXXXXXX氏は、米国国務省による成功した努力と、サミット会議主催の機関がサミット会議で彼の身分を保護してくれたことに感謝した。彼は自身の名前を公的に秘匿するようにと語った。

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A Cold Welcome Home
自国での冷ややかな受け入れ
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¶3. (S) XXXXXXXXXXXX told us that SSIS detained and searched him at the Cairo Airport on December 18 upon his return from the U.S. According to XXXXXXXXXXXX, SSIS found and confiscated two documents in his luggage: notes for his presentation at the summit that described April 6's demands for democratic transition in Egypt, and a schedule of his Capitol Hill meetings. XXXXXXXXXXXX described how the SSIS officer told him that State Security is compiling a file on him, and that the officer's superiors instructed him to file a report on XXXXXXXXXXXX's most recent activities.

¶3. (S) XXXXXXXXXXXX氏は、国家治安調査局が米国から帰国した12月18日に彼をカイロ空港で拘留し、探索したと私たちに語った。XXXXXXXXXXXX氏によると、国家治安調査局は彼の荷物の中から2つの文書を発見し、没収した。(1)エジプトを民主化移行させるための「4月6日運動」の要求を説明したサミットでの彼のプレゼンテーションのためのメモ、(2)彼の米国連邦議会会合のスケジュール、の2点である。国家治安調査局当局員が国家保全機関による彼の情報収集状況を語ったことと、および当局員上部がXXXXXXXXXXXX氏に対して最近の活動報告をまとめるように促されたと、XXXXXXXXXXXX氏は述べた。

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Washington Meetings and April 6 Ideas for Regime Change
米国政府会議と「4月6日運動」による政体変革の考え方
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¶4. (C) XXXXXXXXXXXX described his Washington appointments as positive, saying that on the Hill he met with Rep. Edward Royce, a variety of House staff members, including from the offices of Rep. Ros-Lehtinen (R-FL) and Rep. Wolf (R-VA), and with two Senate staffers. XXXXXXXXXXXX also noted that he met with several think tank members. XXXXXXXXXXXX said that Rep. Wolf's office invited him to speak at a late January Congressional hearing on House Resolution 1303 regarding religious and political freedom in Egypt. XXXXXXXXXXXX told us he is interested in attending, but conceded he is unsure whether he will have the funds to make the trip. He indicated to us that he has not been focusing on his work as a "fixer" for journalists, due to his preoccupation with his U.S. trip.

¶4. (C) XXXXXXXXXXXX氏は、米国政府による約束を好意的に受け取っていると語った。具体的には、米国連邦議会で彼はエドワード・ロイス議員と政権スタッフと会合したことだ。会合には、ロス・レヒティネン(R-FL)議員、ウォルフ議員(R-VA)および二人の乗員議員スタッフも含まれている。XXXXXXXXXXXX氏はまた、彼が何人かのシンクタンクメンバーと会ったと述べた。ウォルフ議員の事務局は、エジプトにおける宗教および政治の自由についての下院決議案1303号に関連して、1月下旬の公聴会での後援者として招待されていると語った。XXXXXXXXXXXX氏は、出席に関心はあるが、その旅行のための基金が確保できないと認めた。彼は、米国旅行に手一杯だと、ジャーナリストの黒幕としての仕事に専念できていないと私たちに語った。


¶5. (C) XXXXXXXXXXXX described how he tried to convince his Washington interlocutors that the USG should pressure the GOE to implement significant reforms by threatening to reveal information about GOE officials' alleged "illegal" off-shore bank accounts. He hoped that the U.S. and the international community would freeze these bank accounts, like the accounts of Zimbabwean President Mugabe's confidantes. XXXXXXXXXXXX said he wants to convince the USG that Mubarak is worse than Mugabe and that the GOE will never accept democratic reform. XXXXXXXXXXXX asserted that Mubarak derives his legitimacy from U.S. support, and therefore charged the U.S. with "being responsible" for Mubarak's "crimes." He accused NGOs working on political and economic reform of living in a "fantasy world," and not recognizing that Mubarak -- "the head of the snake" -- must step aside to enable democracy to take root.

¶5. (C) XXXXXXXXXXXX氏は、米政府側の対話者に説得しようとしていることとして、米政府がエジプト政府に重要な改革を実施するよう圧力をかけるべきだと語った。その手段としては、エジプト外務省員が結託してタックスヘブンに不正を口座を持っていることを暴露することがある。彼は、米国と国際社会がジンバブエ大統領ムガベ盟友の口座のように、銀行預金口座を凍結することを望んだ。XXXXXXXXXXXX氏は、ムバラクがムガベよりたちが悪く、エジプト政府はけして民主改革を受け入れないことを米国政府に納得させたいと言った。XXXXXXXXXXXX氏は、ムバラクの正統性は米国の支援に拠っていると断言し、それゆえ米国はムバラクの犯罪に責任があると糾弾した。彼は政治経済改革を進める各種非営利団体はファンタジーの世界に住んでいて、民主主義を根付かせるためには蛇の頭であるムバラクを排除しなければならないことを理解していないと責めた。

¶6. (C) XXXXXXXXXXXX claimed that several opposition forces -- including the Wafd, Nasserite, Karama and Tagammu parties, and the Muslim Brotherhood, Kifaya, and Revolutionary Socialist movements -- have agreed to support an unwritten plan for a transition to a parliamentary democracy, involving a weakened presidency and an empowered prime minister and parliament, before the scheduled 2011 presidential elections (ref C). According to XXXXXXXXXXXX, the opposition is interested in receiving support from the army and the police for a transitional government prior to the 2011 elections. XXXXXXXXXXXX asserted that this plan is so sensitive it cannot be written down. (Comment: We have no information to corroborate that these parties and movements have agreed to the unrealistic plan XXXXXXXXXXXX has outlined. Per ref C, XXXXXXXXXXXX previously told us that this plan was publicly available on the internet. End comment.)

¶6. (C) ワフド党、ナセル主義者、カラマとタグム党、ムスリム同胞団、キファヤ、および革命社会運動など各種の政府反対派は、議会民主主義への移行、さらに2011年の大統領選挙を前にして弱体化している大統領派と強化している議会首相および議会について、書かれざる計画に合意を得ているとXXXXXXXXXXXX氏は主張した。XXXXXXXXXXXX氏によると、反対派は、2011年の選挙前の暫定政府のために軍隊と警察から支援を受けることに関心を持っているとのことだ。XXXXXXXXXXXX氏は、この計画は扱いが難しいので文書化はできないと主張した。(意見:私たちはこれらの反対派と運動家が、XXXXXXXXXXXX氏の主張する非現実的な計画に協調しているという情報は得ていない。XXXXXXXXXXXX氏によれば、以前はこの計画がインターネットから公然と入手可能であったと私たちに言った。意見終わり。)

¶7. (C) XXXXXXXXXXXX said that the GOE has recently been cracking down on the April 6 movement by arresting its members. XXXXXXXXXXXX noted that although SSIS had released XXXXXXXXXXXX and XXXXXXXXXXXX "in the past few days," it had arrested three other members. (Note: On December 14, we pressed the MFA for the release of XXXXXXXXXXXX and XXXXXXXXXXXX, and on December 28 we asked the MFA for the GOE to release the additional three activists. End note.) XXXXXXXXXXXX conceded that April 6 has no feasible plans for future activities. The group would like to call for another strike on April 6, 2009, but realizes this would be "impossible" due to SSIS interference, XXXXXXXXXXXX said. He lamented that the GOE has driven the group's leadership underground, and that one of its leaders, Ahmed Maher, has been in hiding for the past week.

¶7. (C) XXXXXXXXXXXX氏は、エジプト政府が、最近、「4月6日運動」活動家を逮捕することで、取り締まりをしていると言った。XXXXXXXXXXXX氏は、国家治安調査局は、過去の数日間、XXXXXXXXXXXX氏とXXXXXXXXXXXX氏を解放したが、他の3人の活動家を逮捕したと語った。(注釈:私たちは、12月14日にXXXXXXXXXXXX氏とXXXXXXXXXXXX氏の解放をエジプト外務省に催促し、12月28日に、追加の3人の活動家を解放するようにエジプト政府に要請した。注釈終わり。)「4月6日運動」には、未来の活動のために実行可能な計画はないとXXXXXXXXXXXX氏は認めた。この活動家らは、2009年4月6日に別のスト実施を求めているが、国家治安調査局の妨害で不可能だろうとも理解していると、XXXXXXXXXXXX氏は語った。彼は、エジプト政府がこのグループの指導者を地下組織に追いやってきたし、リーダーの1人、アーメド・マーヘルは、過去1週間姿を隠していたことを嘆いた。

¶8. (C) Comment: XXXXXXXXXXXX offered no roadmap of concrete steps toward April 6's highly unrealistic goal of replacing the current regime with a parliamentary democracy prior to the 2011 presidential elections. Most opposition parties and independent NGOs work toward achieving tangible, incremental reform within the current political context, even if they may be pessimistic about their chances of success. XXXXXXXXXXXX's wholesale rejection of such an approach places him outside this mainstream of opposition politicians and activists. SCOBEY

¶8. (C) 注釈:2011年の大統領選挙に先立ち、現政体を議会制民主主義に差し替えるという、「4月6日運動」の非現実的な目標に向けた具体的手順のロードマップをXXXXXXXXXXXX氏はまったく提供しなかった。大半の反対派と独立非営利団体は、成功の見込みという点で悲観的ではあるものの、現状の政治的状況において、確実で漸進的な改革を進めている。XXXXXXXXXXXX氏が、反対派政治家や活動家の主流から外されているのは、このような大ざっぱな拒絶によるものだ。

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2011.02.12

エジプト争乱、後半戦について

 物事は入り口と出口だけ見るとすっきりわかることがある。エジプト争乱について、統治形態(regime)という点から入り口を見ると、曲がりなりにも、統治には行政府が存在していた。では、出口は、というと行政府は消えて、軍の最高評議会が現れた。
 エジプト争乱の過程では、行政府が消え、軍が国家を掌握した。この入り口と出口から事態を定義するなら、普通は、軍によるクーデターとなる。
 革命なら、入り口に独裁政権があり、出口に議会(人民会議)がある。この事態は、してみると、革命とは言い難い。
 あるいは、軍政はごく一時的なものであり、市民から選出された代議員による議会が主導し、国民の意思で大統領選出させて行政府が立ち上がるなら、それは民主化革命と呼ぶにふさわしい。どうなるのか。
 12日5時のNHKニュース「大統領権限 軍の最高評議会に」(参照)はこう伝えている。


エジプトでは11日夜(日本時間の12日未明)、スレイマン副大統領が国営テレビで声明を発表し、「国内の厳しい状況を受け、ムバラク大統領は退くことを決断した」と述べ、ムバラク大統領が辞任し、大統領の権限が軍の最高評議会に移譲されたことを明らかにしました。これを受けて、軍の報道官が声明を発表し、権限の移譲は、あくまで一時的なもので、新しい体制づくりに向けた対応は決まりしだい発表するとしています。

 大統領権限が軍の最高評議会に移譲された。行政について見るなら、クーデターと呼ぶ以外にこの移譲にどういう正統性があるのかわからない。
 軍最高評議会議長は、75歳のムハンマド・フセイン・タンタウィ(Muhammad Hussein Tantawi)国防・軍需生産相で、またもムバラク氏の盟友である(参照)。
 NHKニュースでは、この権限の移譲は一時的なものであるとのこと。ならば、これから民主化の希望がないわけではないことになる。その希望があるだろうか。
 私は残念ながらないと思う。
 今回の争乱も最初に想定したとおり、見事に軍の主導でチキンゲームが続いただけだったからだ(参照参照)。
 軍のもくろみは3つあった。(1)ムバラク元大統領の息子ガマル氏に行政権力を継承させないこと、(2)82歳にもなったムバラクを引退させること、(3)軍がムバラク政権と心中せず国民からの正統性を受けて存続すること。
 見事、3点、クリアした。
 そこには、軍の意志が存在し、軍が国家の暴力装置に収まる、つまり行政権力の配下に従属し、自身では暴力が発動できなくなる、という近代国家の仕組みも意図も、まったく存在してはいない。ここからどうして民主化が出てくるのか、私にはそこがわからない。
 もちろん、ムバラク政権時代よりも民主化は進む。先年末にワシントンポストが懸念したような弾圧は減るのではないだろうか(参照)。むしろ、あの弾圧の主体が、そのままムバラク氏に集約される権力だったのだろうか。
 エジプトには45万人ほどの軍、つまり正規軍とは別に、内務省管轄の中央保安軍(Central Security Forces)(参照)が35万人存在している。日本の機動隊に相当すると言ってもいいだろう。警察機構を支援する点で警察機構に近い。その他の暴力組織も軍とは別に存在している。
 結果論からするとはっきりするが、ムバラク政権下の暴力発動の主体は正規の軍指揮系によるのではなく、軍以外の暴力組織が担っていた。つまり、軍とは分離されていたのではないか。
 この点を過去に遡及し、以前から存在する非軍部の暴力を再考すると、それがムバラク氏の直接的な権力に由来していたかも疑われる。もちろん、そこまでは私はわからない。私の推測だが、それほど一致はしていなかったのではないだろうか。
 争乱の比較的初期の時点でムバラク氏は辞任を表明しており、軍との調整も進んでいた。おそらく軍と深い関係をもつ米側とも協調し、なだらかな引退の路線はすでに敷かれていたのだろう。
 むしろ軍が緩和なクーデターを画策しなければならなかったのは、この非軍的な暴力組織の存在であり、構図からすれば、ガマル氏の勢力に由来していたのではないだろうか。ここは十分には読み切れないところだが、ムバラク氏とガマル氏は親子ではあるが、王朝の継承というより、ガマル系列の独自の権力構造が軍から問題視されていのではないかと私は推測する。
 争乱の経緯も軍のシナリオどおりに進んだ。実質、先週の4日金曜日を越えた時点で民主化運動は終わっていたとも言える。2日付けフォーリンポリシー寄稿「Game over: The chance for democracy in Egypt is lost」(参照)もいち早く、その構図を打ち出していた。とはいえ、同寄稿ほどに私はムバラク氏側にそれほどの知略があったはとも思えないが。
 いずれにせよ、軍とオバマ米政権による枠組みはこの時点であらかた収束しており、実際には米側ではムバラク辞任でガス抜きをしなければどうしようもないだろうというシナリオまでいちおう用意されていたのだろう。
 この部分、つまり後半戦の推移をどう読むかは、微妙なところだ。
 4日金曜日後、運動は沈静化に向かい、カイロ市民生活も復帰したところで、8日ひょっこりと、それまで10日間も行方不明だった米検索大手グーグルの幹部ワエル・ゴニム(Wael Ghonim)氏が拘束を解かれ、民主化の英雄として名乗り出て、運動を盛り上げ、今回の12日の金曜日への熱気を主導した。
 できすぎていると言えば陰謀論臭くなるが、なぜこの時期に拘束が解かれたのかその背景の思惑は存在していると見てよく、おそらく軍側の是認があり、であれば軍と組んだ米側の要請もあるだろう。そう推測することはごく普通の推論の範囲であるように思われる。
 ゴニム氏に関連する米側の関わりだが、陰謀論は採りたくない。だが今回の争乱を主導した「4月6日運動」に米国と深い関わりがあることは、ウィキリークスが暴露している。暴露公電は2008年12月30日、「Viewing cable 08CAIRO2572, APRIL 6 ACTIVIST ON HIS U.S. VISIT AND REGIME」(参照)である。

¶1. (C) Summary and comment: On December 23, April 6 activist XXXXXXXXXXXX expressed satisfaction with his participation in the December 3-5 "Alliance of Youth Movements Summit," and with his subsequent meetings with USG officials, on Capitol Hill, and with think tanks. He described how State Security (SSIS) detained him at the Cairo airport upon his return and confiscated his notes for his summit presentation calling for democratic change in Egypt, and his schedule for his Congressional meetings. XXXXXXXXXXXX contended that the GOE will never undertake significant reform, and therefore, Egyptians need to replace the current regime with a parliamentary democracy. He alleged that several opposition parties and movements have accepted an unwritten plan for democratic transition by 2011; we are doubtful of this claim. XXXXXXXXXXXX said that although SSIS recently released two April 6 activists, it also arrested three additional group members. We have pressed the MFA for the release of these April 6 activists. April 6's stated goal of replacing the current regime with a parliamentary democracy prior to the 2011 presidential elections is highly unrealistic, and is not supported by the mainstream opposition. End summary and comment.

要約とコメント:「4月6日運動」の活動家であるXXXXXXXXXXXX氏は、12月3日-5日の「青年運動サミット同盟」に参加し、加えてシンクタンクを伴う米国連邦議会開催の米国政府役員と会合に満足したことを12月23日に表現した。彼は、国家治安調査局が帰国時に、彼をカイロ空港で拘束したようす、またサミットで実施した、エジプトにおける民主化変革の要望についてのプレゼンテーション・メモと議会会合のスケジュールを没収したようすについて記述した。XXXXXXXXXXXX氏は、エジプト政府はけして重要な変革を受け入れないし、よってエジプト国民は現体制を議会制民主主義に置き換える必要があると主張した。彼は、いくつかの野党と運動団体が2011年までに民主主義への移行についての書かれざる計画を受け入れたと主張した。私たちはこの主張を疑っている。XXXXXXXXXXXX氏によれば、国家治安調査局は最近2人の「4月6日運動」の活動家を解放したが、さらに3人のグループ活動家を追加で逮捕したとのことだ。私たちは、「4月6日運動」の活動家の解放をエジプト外務省に催促した。2011年の大統領選挙に先がけて現政権を議会制民主主義と入れ替えるという、「4月6日運動」の活動家らが語る目標は非常に非現実的なため、主流の反対党派には支持されていない。
要約とコメントを終える。


 今回の争乱は「4月6日運動」が起爆したもので、ウィキリークスが暴露するように、「4月6日運動」は米国政府と関連を持っている。そこまでは明らかだが、今回の争乱が米国主導であったとまでは言い難い。
 ウィキリークスが明らかにしているように、「4月6日運動」については、エジプトの他の反体制運動からは、その急進性とおそらく民主主義志向において孤立しているようすが窺える。しかし逆に、今回の争乱の成功は、ムスリム同胞団など旧来の反政府活動家を出し抜く形で実施された点は注目される。
 ゴニム氏が盛り上げた後半戦に米国がどのように関わっていたかは現状ではわからないが、ウィキリークスが明らかにするように過去の経緯から、米国との連携は取っていたと見てもよいだろうし、ウィキリークス暴露にはエジプト外務省に活動家解放を促す記述もあり、ここからゴニム氏の解放と米政府の関連もそれほど無理な推論なく暗示させる。
 では私の推測を言おう。
 今回のエジプト争乱の、4日金曜日以降の後半戦の隠された主題は、「4月6日運動」のような親米的な活動家が運動のグリップを握ることで、ムスリム同胞団など旧来の反政府活動を相対化させる点にあったのではないだろうか。つまり、後半戦は民主化の運動というより、今後のエジプトのレジームへの水路付けだったのではないか。それを念頭に今回の件のオバマ大統領の声明(参照参照)を読むと興味深いだろう。
 加えて、事態が再度緊迫すれば、集会者に惨事を惹起させることで革命のエネルギーとすることは革命家なら誰でも思いつく常套手段であり、それが実施される寸前でガス抜きされなければなかった。つまり、見事なガス抜きでもあった。
 エジプト軍部の内部は米国との関連があるのは旧知のことであり、「4月6日運動」運動もウィキリークスが暴露したように親米的な民主化運動であるなら、当面のエジプトの動向は、いずれにせよ、イラン革命といった道とは違う方向に向かうだろう。

追記
 この12日のエントリだが、その後の報道によれば、どうやらほぼこの時点で私が推測した通りの事態が展開されていた。15日付け毎日新聞記事「エジプト:「辞任か追放」 軍、ムバラク氏に迫る--10日演説後」(参照)より。


 【ワシントン草野和彦】エジプトのムバラク前大統領が今月10日に「即時辞任拒否」の演説をした後、一転してカイロを追われ辞任する事態になったのは、エジプト国軍が「辞任か追放」という二者択一の最後通告を突きつけた結果だったことが、米紙ワシントン・ポストの報道で分かった。
 同紙によると、反政府デモの高まりの中、エジプト国軍とムバラク政権指導部の間では先週半ばまでに、ムバラク氏が何らかの形で権限移譲をすることで合意していた。オバマ米政権も10日までに、国軍から「辞任か権限移譲」の二つのシナリオを聞いていたという。
 ところが、ムバラク氏は現地時間10日夜の国民向けテレビ演説で、スレイマン副大統領への「権限の一部移譲」を発表しただけで、即時辞任を拒否し、側近さえも驚いた。演説の数時間後、軍部は「辞任か追放」を迫り、ムバラク氏はカイロ脱出という不名誉な結末を迎えた。この演説は、ムバラク氏の去就を巡って揺れ続けたオバマ政権にとっても決定的で、政権高官によると「米国を間違いなくエジプト国民の側に付かせた」という。
 一方、AP通信によると、演説は当初、ムバラク氏の即時辞任を表明する内容だったが、一時は後継者とみられていた次男のガマル氏が、直前に原稿を書き換えたという。家族や一部側近は、まだ辞任しなくても大丈夫と判断していたらしい。

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2011.02.11

陳さんの雪菜肉絲麺

 田舎と場末には法則がある。田舎を統べる法則は簡単なようで難しい。探ろうとした男は消えた。女は突然老いた。なぜか、それはわからない。比べて場末の法則は難しくない。擦り切れた中年男の巣箱であるか、三流大学に至る脇道か、子供を叱りつけるしかない女の日常くらいなもの。その中華料理屋もきちんとした場末にあった。
 遅れた昼休み。ドン・キホーテで髭剃りを買い、そのまま場末の臭いに誘われてふらふらとその店に入る。客はいないが残る煙草の臭いを少しでも避けようと窓際に座り、向いの質屋のショーウインドーをぼんやりと見ていると、黒装束で細身の、こけしのような女がグラスの水を運び、何にしますかと言う。ふと我に返る。女に見とれていたのだった。
 慌ててメニューを見ると筆書きの中華料理の名前が並んでいる。目に付いたのは、雪菜肉絲麺。セッツァイ・ルースーミェンと読むのだろうか。青椒肉絲がチンジャオロースなら「ゆきなロースめん」でもよかろうかと、ちらと女の顔を見るが洒落を受け入れそうな雰囲気はない。これにしますと指さすと、彼女は「田舎そばですね」と言う。田舎? 誰の田舎。よくわからないが、それでいい。
 女が厨房に消えると元気のいい中国語の声が響く。テノールとバリトン。男は二人。菜包丁と中華鍋と炎の音が独特のリズムを立てる。マジだ。場末の神様。
 女が運んできた麺は見事なものだった。麺の上にみじん切りの高菜が覆う。それにのっているのは、挽肉かと見えるが、ていねいに叩き炒めた豚肉。ちりばめられた赤いクコの実と象牙色の松の実。
 スープを吸う。普通。だが高菜の酸味は控えめに生きている。麺を食う。普通。だが薄いとろみがよく絡まる。具を麺に絡ませながら食うと、しゃりっとくる。山芋である。小ぶりに短冊切りにした生の山芋。さらに、かしょっとくる食感は蓮の実。奥歯で噛みしめると、どこか懐かしい香り。蓮の実はなんども食ったが旨いと思ったことはないのに。そして、ヴィヴァルディの小品のような食感と香りが続く。その田舎とはシエナ郊外か。
 食い終わり、女のいるレジの前に立ち、あれはどんな人が作るんだろう厨房を覗くと、角刈りで背の低いプロレスラーのような男がいる。太い腕。バリトンの陳さん、見事だな。なんとなくそういう名前の気がしただけだが。
 数日して昼過ぎ私はまたその場末の町に向かう。ドン・キホーテを素通りして店内に入る。煙草を吸っている中年男がいる。かまわない。女は私を覚えているふうはない。雪菜肉絲麺は、完璧。
 三度、幸福は訪れない。厨房の音が不吉で、出てきたものは一目見て違っていた。無残。麺の上にぼんやり濁った、挽肉と高菜のとろみのようなものがかかっている。
 手を付ける前に「あの」と痩身の女に声をかける。「これなんですか」と言ってから自分が何を言いたいのかわからず、困惑し沈黙する。女も不審げな顔色をする。間抜けなことに私は「クコがありませんね」と言う。女はなんのことかわからず、クコですかと問い返す。赤い実のと私は答えるが、本当はそんなことが言いたかったのではない。この麺は全然違うだろ。しかしそうは言えなかった。
 女は小皿にクコの実を入れてもってくる。ご自分でトッピングというのだ。ありがとう。愛した女に失望を伝えないように反射的に言う言葉。
 数口食べて諦める。呆然と外を見ると、質屋の前を水商売風の女がショーウインドーを覗いている。君も諦めな。レジに行ってカネを払うとき、厨房を覗くと陳さんはない。痩せたテノール君が一人。私を不審に思ったか、女も少し困惑した表情をしている。いつも料理の人はと聞くと、彼は夜の番になりましたと答える。陳さんのことだとすぐにわかっている。
 そういうことかと聞きながら、私はふとその女と陳さんの関係を妄想する。あの太い腕にこの細身は合わないだろうが、いやこういう女はまたそれなりに情もあるものだ。いやはや。
 陳さんの一品を求めて夕食を食いに行ったことはない。いや、一度夜、店の前まで来た。中は煙草と酔漢が、たぶん陳さんの美食を堪能している。その天国は私のものではないと引き返し、日高屋のラーメンを食った。


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2011.02.09

夢のチャーハン

 「夢のチャーハン」と言うと、夢のようにすばらしいチャーハンを思う人がいても不思議ではないから、最初にお断りしておかないといけない。その逆なんだ。こんなに貧しいチャーハンはないとくらいのもの。じゃあ、貧しくてチャーハンを夢に見るのかというと、そうでもないのだけど、だいたいあってるとも言える。夢に見たのだ、そのチャーハン。
 夢のなかの出来事だと後でわかるんだけど、夢を見つつも、なんか変だなとは思っている。そんな夢にありがちな雰囲気。さて食事か、と僕は思っている。冷蔵庫を開く。冷や飯以外にさしたる食材はない。これはもう最終炒飯(参照)だなと思うけど、ネギもない。だめだ。かくなる上は冷や飯に水でもかけて食うかと嘆息すると、年老いて痩せて、ちょっと汚れた調理服を着た中国人の料理人がニコニコとやってくる。誰、この爺さん。
 「チャーハン、できるよ」という。
 「ネギないんですよ」と僕は答える。
 「ネギ、いらないね」
 「まあ、そうかもしれないですね」
 「卵あるよ」と爺さん、冷蔵庫から二つ取り出す。あったんだ。不思議と僕は思っている。
 「卵でチャーハン。わかりますよ」と言うと、爺さん、ニコニコしながら、首をゆっくり横に振る。わかってなということらしい。
 「チャーハン、あなたに教えよう」
 「それはいいけど、チャーハン、僕でも作れますよ」というと、軽く目をつぶって頷くものの、「見なさい」と言う。
 爺さん、フライパンを出してコンロの前に立つ。
 「油を入れる」と言う。フライパンが熱くなったころを見計らって、大さじ二杯くらい油を入れる。それはね。
 「卵を入れる」と言って、その上に卵を割って入れる。それじゃ目玉焼きじゃんと思うと、爺さんは見透かしたようにちらっと横目で見とがめる。あちゃ。
 そのうち白身の端が揚げ卵ふうになるけど、黄身には火がまだ通らない。
 「塩を入れる。少し」とぱらっと塩を卵の上にまく。
 「ご飯を入れる」と言って半熟の黄身の上に冷や飯を載せる。
 ここで緊張が走る。あとで思うとそこでなぜ夢から覚めなかったのかと思うほど。
 爺さん、軽く奇声をあげて、お玉で冷や飯を半熟の黄身の中へぐいと潰し、がっがっつとかき回し始める。揚げ卵風の白身が炸裂する。
 まるで夢を見ているような気分で僕は見ている。実際、夢を見ていたんだけど。
 「できたよ」と爺さんが言って、コンと皿に盛りつける。白身が具になって、飯は黄金チャーハンになっている。
 爺さんニコニコしながら「わかったか」と言う。僕は猛烈に感動している。一口食う、旨い。
 そこで目が覚める。中国人爺さんはいない。耳に「わかったか」の声が響く。パジャマのまま台所にダッシュ。
 火は中火。白身の半分くらい揚げ卵になったら、塩を入れ、ご飯を投下。

 半熟の黄身をご飯に絡めるように潰して混ぜる。

 揚げ卵風の白身が具になるように散らす。気合いだ。

 上がり。

 旨い。なんでこれで旨いんだ。老師、ありがとう。老師にはまだまだ及ばないけど、がんばる。また、夢に来てくれ。

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2011.02.08

コロッケそばの味わい

 世の中には、ふと立ち止まって考えると、何だ、それと思えるような食べ物がある。例えば、白子の天ぷら。もちっとして味わい深い。ポン酢がよろしいかと。しかし、ただね、なんというのか、小学生には説明しづらい。あれはなあ。
 視野を広げると、バロット。孵化直前のアヒルの卵を加熱した……肉? ゆで卵? 一生のうち一度は食べてみたいものの対極にあるもので、死ぬまでに食べずにすまされれば幸せという感じだが、私は一度夢で食った。私は夢に味覚がある人なんでじっくりと味わい、その食感も堪能した。首骨がやわらかくてこりっと。うぁああ、すげー悪夢。
 そういう変なものではなく、ごくありきたりな食材だが、何だ、それと人生に問いかけてくる食べ物と言えば、コロッケそばであろう。コロッケ。わかりますよね。そばもわかる。一杯のかけそばのうえにコロッケが載っているあれ。普通のそば屋には置いてない一品。駅そばならではの特製キュジーヌ、言うなれば。
 疑問に思う人はいる。村上春樹のエッセイだが、なんでコロッケそばなんてものがあるのかと疑問を呈していた。言わんとすることはわからないでもない。確かにあれは、そういう存在だ。天ぷらなら許せる。お揚げを甘く煮たものはグッドだ。なのになぜコロッケ。溶けるじゃないか、ぐずぐずに。二晩味を馴染ませたご家庭カレーじゃないんだぞ。
 弁護はしづらい。しかし、市場はその存在を明確にしている。あなたが駅そばに立ち寄る。ここは本当にジャパンの駅の駅そば屋なのかと、この惑星に到着して久しいものの、ふと疑問に思う。バイトのお姉さんは巨大なミドリムシが変身しているというわけはない。方法的懐疑が明証に至るのは食券販売機にコロッケそばの名前を発見したときだ。370円。よし。かけそば、320円。よし。コロッケ分が50円。ここに日本経済の良心というものがある。
 かくしてコロッケそば。いや、今日の昼飯、スタバでサンドイッチ食いそびれてなんとなくコロッケそばを久しぶりに食ったというだけのことなんだが、思うに実に久しぶりだった。そばは日頃食っている。最低でも毎週一回は行きつけのそば屋に行く日常なのだが、そば屋に通っているとなかなか、これが食べられないんだよな。青春時代、よく食ったというのに。
 待つこと2分。プラスチックの椀のかけそばの上にどんとそれがいる。下半身はすでにそばの汁に沈んでいる。上半身はまだ濡れていない。そこをまずかりっと食いちぎる。ほんわりと口のなかでくずれる。なにより、それが冷えてないことに全身に歓喜がみなぎる。冷たいコロッケでなくてほっとする。良かった。民主党政権でも庶民の日常にはあたたかなコロッケ。
 そしてちゅっと汁を吸う。汁についてはとやかく言うまい。次はそばだ。正しい作法でずるっと吸い込み、くちゃっと噛む。おお、そば粉使っていると感激に天井を見上げる。20%は含まれていると見た。今日はいいことあるぞ。
 あとは、コロッケの中身をそば汁のなかに分散させずに、つまりだ、汁に沈まないように、そばのボリュームで支えつつ、かつ自然的な崩壊に気をくばりながら食えばいいのだ。これだ。我が青春で体得した神技。
 ところがなにかがおかしい。なにがおかしいというのだ。味か。いや味はこれでいい。そばか。これも駅そばならではの自己主張に問題はない。コロッケも悪くない。ポテトは完全につぶれて堅いペースト状であり挽肉はかけらも発見されない。異常なし。では、なにがおかしいのか。と食い続けていて、なんというのか微妙な徒労感があるのだ。さっきから同じところをぐるぐる回っているような感じがするのである。
 食っても食ってもこのコロッケそば減らないんじゃないか。いや、すでにコロッケは20%を残すばかり。着実に減っているのだがと、そばのほうを見るとそれほど減っていない。入れ物がある両手で受ける、ではないが両手で持ち上げて椀の形状を見るに、円柱に近いぞこれ。
 どうやら想像以上にそばが入っている。これ、俺、食えるんだろうかと、じっと手を見る。そこらで止めとけと何かが語る。もったいないだろ。今までのオマエの人生で、コロッケそばを食い残したことはあったか。Baby show me love!
 食うんだ、ジョー。というわけで、気合いを入れて食う。すえた油をたっぷり天ぷらそばじゃなくてよかったと、ほんの僅かの人生の選択の差の幸運を思う。戦いは続くが、かくして食い終わる。もう食えない。
 みなさん、よくこんなに食えるなあと横のお兄さんを見たら、私と同じコロッケそばに加えてカレーライスも食ってた。青春は遠いな。

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2011.02.07

電話で脅された思い出

 一年前だったか二年前だったか三年前ということもないように思うが、投資マンション販売関連だと思うが電話勧誘で脅されたことがある。先日たまたまNHKを見てたら番組でそういう人が増えているという話をやっていて、「ああ、そういうことあったなあ」と思い出した。ただ、私の場合、ちょっと話が違っていたんだけど。
 最近はとんとそういうことがない。ない理由はたぶんアレなんじゃないかなと思う。非通知の電話はかからないようにしたから。ちなみに、これやっておくと、勧誘とかの電話は激減しますよ。やり方は電話機対応だったか。それ以前からナンバーディスプレイにしてはいたので、ああ非通知かというのは電話に出るときにはわかっていはいたのだけど。そういえば、NHKの番組でこの対処方法については説明がなかった。なぜなんだろう。
 思い出すと、それ以前にはよく勧誘関係の電話はかかってきたものだった。で、その半分くらい、「お母様はいらっしゃいますか?」である。相手はもろにオバさん声。保険の勧誘員さんのイメージ。BMIはたぶん30。問いかける声にも重みがあって、思わず、「すみませんすみません兄が」とか言いそうになる。
 「お母様はいらっしゃいますか?」「はい」いるけど。
 70歳過ぎた実家の母親となにかお話をしたいのでしょうかね。というか、どうやら私は10代か20代のお兄さんだと思われている。声が若いからなんでしょうか。あるいはしゃべりにおっさんが出ないからなのか。いや俺は若いぜとかいう気はさらさらなくて、一声聞いただけ、「お、こいつガキ」と思われているわけです。たまに「奥様はいらっしゃいますか?」もあるけど。むふっ。
 あの脅しの勧誘電話のときはそうではなかった。「はい」とか言って出ると、例によって要領を得ない。これは勧誘の基本みたいなんでしかないとは思うけど、ついご用件は?と聞き返して、それでも要領を得ないので、「そういう話は関心ありませんから」と答えて切った。よくあるパターンで、普通はそれで終わり。でも、その時はそうではなかった。再度電話がかかってきた。なんか言っているけどやはり要領を得ない。なんか売りたいらしい。「関心ないです」と答えて切る。するとさらにかかってくる。ちなみに、相手全部非通知。
 今度は相手は怒っている。いわく、人としてそういう口の利き方はないだろ、というのだ。はい。人が話をするのだからちゃんと聞け、というのである。はい。
 どうやら、私を年下の若造のように思っているみたいだった。若い奴にコケにされてたまるもんかと、おじさん怒っている。
 困ったなと、後になってみると、そこで話を聞いてしまったのがいけなかったのかもしれない。おじさんとうとうとしゃべくって、遂になにか自己達成した。なので、その達成感のフィードバックをどうやら私に求めている。さて、はいわかりました、と言うべきなのか。
 丁寧に説明したのだから、オマエは人としてきちんとそれに応対する義務があるだろうと息巻いている。はい、しかし、それと勧誘の話は別なのではないか。話はわかりましたが、私はその話には関心ありませんから、と切る。火に油。
 次にかかってきたときはもう脅迫。今からオマエの家に行くからな覚悟しろみたいな話。この辺りから、おっさん、私のプロファイリングを始める。私がどんなに社会的に脱落している人間なのか、どうしなければ人生は生きられないか、なんたらかんたら。さすがプロなのか当たっているところもあるけど、外れているところある。思い込みは激しい。
 というわけで、さらに丁重にお断りという感じで電話を切ると、さらにかかってくる。もういいよ、おじさん、と思って留守電ボタンを押すと、いるのはわかってんだぞ、こそこそ隠れるんじゃないよ、みたいな展開に。大丈夫か、おっさん。
 というわけで、出る。乗りかかった船、もうしかたないかと。さらに謙虚に話を聞く。もうカウンセリングモード。頷いて、相手の言っていることを整理して、優しく問い返す。カウンセリングの基礎技術。そうこうしているうちに、相手がふとこう言った。「おまえ、インテリだな」
 え? 何それ。で、まあ、こういう人生を生きていると、私はそう誤解されて嫌われる経験も積んでいるので、いえいえそんなことはありませんよと答える。しだいに話は収束。疲れた。おじさん、コルチゾール高いよ。
 そういう社会になったのかのかなと、その後しばしぼうっとして、非通知の電話ってこれからこういうふうになっていくんだろうなと思った。そういえば、ネットの世界でもちょっと似ているな。また同じ事やるのもなんだしな、と以来非通知電話はかからない設定にした。
 知らない相手との電話というのは変なものだ。全部悪いものでもない。若い頃、英会話の勧誘で相手は若い女性の声だった。私はといえば「英会話関心ないです」と答えると、「なぜですか、外国行ったとき英語しゃべるといいですよ」と問いかける。「そうですよね」「だったらどうですか」「観光旅行くらいの会話ならそれほど困らないから」「英語できるんですか」「出来るというわけではないけど」と妙にもつれ込んだ。東京に戻ってからだが、なんかの勧誘で相手の女性の声に、やまとうちなーぐちが混じっているの気がついて、「沖縄の人?」と聞くとそうだという。で、それからちょっと盛り上がったことがある。
 最近はそういうのもない。携帯電話の時代でもあるしな。


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2011.02.06

永田洋子死刑囚、死刑執行されず

 1971年12月から翌72年2月にかけて起きた連合赤軍事件で、殺人・死体遺棄罪などに問われ、1993年に最高裁で死刑が確定した元連合赤軍最高幹部・永田洋子(ながたひろこ)死刑囚が死亡した。多臓器不全とみられるらしい。65歳だった。誕生日は2月8日なので、あと数日の命があれば、66歳。
 そのくらいの年齢で死ぬ人は珍しくはない。天寿を全うした部類と言えるのだろうかとふと思い、沈んでいた言葉にならない思いを見つめた。私が中学生のころの事件である。彼女は1945年生まれ、事件当時、27歳。アラサーと呼ぶには怒りそうな女子ですなというお年頃。
 永田死刑囚は1984年7月に脳腫瘍と診断され手術を受け、その後も頭痛に悩み、2006年5月に東京八王子医療刑務所に移され、翌05年東京拘置所に戻されたが脳萎縮の状態だったらしい。そのころはいわゆる寝たきりの状態で意識もない状態だったのではないだろうか。
 生まれたのは1945年。菅首相より一つ年上。同世代である。キューピッドの一矢が彼らを射貫かなかったのはヴィーナスの英知であったか偶然だったか、イケメンながらモテそうにもない中産階級臭い菅さんの人徳だったか。一矢は別のところに当たった。
 彼女は妊娠中絶経験などもあるらしいが、あの時代の人であるからな、ふんふんと聞き流す。学生時代にはバセドウ病であったらしいというか、そういうおどろおどろしい印象の写真をよくメディアで私なども見せられたものだった。実際にそうした病気を持っていたかは知らない。
 事件は凄惨極まりないもので、いやがおうにも中学生の耳にもスプラッタな話が流れ込む。だが、事実がなんであったかについては意外と仔細に知らない。ただ、冤罪ということはないだろう。最高裁確定判決では、1971年8月組織離脱の2人を殺害、翌同事件渦中で「総括」として仲間12人を死亡させたとのこと。そして事件では警官も3人殉職した。哀悼。
 「総括」は「総評」みたいに70年代特有の響きがある。後に吉本隆明が書いたエッセイだったが、市井の人でも彼女みたいにああいう状態に陥ればああなるものだ、というようなコメントがあり、そうだろうなとは思った。ブログなんか書いていると、手ひどい罵倒を投げつけられるが、これが密室であったら私なんぞ総括されてしまうだろう。人間とはそんなものなのだ。
 事件は1972年と見てもよい。地裁判決が出たのはだから10年後。1982年6月。二審高裁は1986年9月。いずれも死刑。事件については「革命運動自体に由来するごとく考えるのは、事柄の本質を見誤る」と全面的に退られ、永田被告の個人的資質の欠陥などに起因するとした。20年後。1993年3月、最高裁が上告を棄却、死刑が確定した。「多数の殺人等の犯罪を敢行した事案」との判断である。
 当時の読売新聞社説を引っ張り出して読むとこうある。「確かに当時、学園や街頭にベトナム反戦運動が盛り上がったが、大半の学生はしだいに、一部の過激な行動に背を向けていった。大衆的基盤を失った彼らは、ひとりよがりの武闘路線に走り、捜査に追い詰められるように山に逃げ込んだ。自滅するべくして自滅したといえる。」それはそうか、マスコミや政権に逃げ込んで今頃自滅している残党もいそうな感じはするが。
 私が気になっているのは1993年という年である。このころ、オウム事件の惨事は着実に日本社会に胚胎し、連合赤軍事件の本質のようによみがえった。考えてみれば、連合赤軍事件だって六全協前の山村工作隊の余波のようでもあるし、なんのことはない戦前からのファシズムの太くて長い1本の歴史実体のようでもある。
 と書いてみて、ああ、それかと思う。永田洋子死刑囚、死刑執行されずというのはそういうことなのか。死刑を執行していたら、それはまたよみがえるということか。いや、もちろんこれはたちの悪い冗談の部類ではある。
 いずれにせよ死刑は執行されなかった。坂東國男(参照)を含め関係者が多く事件の全容が解明されていないからといった話も聞くが、そうであろうか。確かに、あの事件の全容はわからないと言ってもいいだろうが、死刑の判決に影響するものとは想定されないのではないか。
 1993年というと国連死刑廃止国際条約発効した年で、日本は批准しなかった。あの時代、実に死刑が少なかった。1987年に2人、88年に2人、89年つまり平成元年に1人。そして、その間しばらく死刑は執行されず、永田洋子に死刑が決まった1993年の翌月3月に3人。今顧みると、死刑の少なさは時代でもあったのだが、昭和天皇の死がじんわり恩赦のように覆っていたようにも思えるし、93年の死刑は永田洋子の死刑の決意のようにも見えないことはない。
 死刑は執行されなかった。それらは自民党政権時代の法務大臣の良心に任されていた。その良心をおまえさんはどう思うのだねと問われるなら、それでよかったのではないかと思う。理由はうまく言葉にならない。
 私は大阪教育大学附属池田小学校事件以降、死刑には反対論に傾いている。一人の人間が死を決意してそれを引き替えに他者の死を巻き込むことは許せないと私は思うからである。許されざる者は一生獄のなかで生きるがよいと思うし、その生と社会は対話しなければならないと思う。そして、永田さんは長く、日本国民と対話してきた。


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2011.02.05

[書評]睡眠はコントロールできる(遠藤拓郎・江川 達也)

 「睡眠はコントロールできる (メディアファクトリー新書)」を読んだ。二度読んだ。さらに読むかもしれない。タイトルからすると、睡眠をどうコントロールするかという点に関心を持つかもしれないが、内容はやや違っていて、著者の一人、遠藤琢郎氏による睡眠クリニックの話がメインである。つまり睡眠障害にある人の事例を挙げて解説するというもの。で、それはそうなんだが……。

cover
睡眠はコントロールできる
遠藤拓郎、江川達也
 この本の面白さ、あるいは有用性はそこではないのではないかと思う。じゃあ、どこか。簡単に言うと、各種の精神的な問題、あるいは勉強や仕事などに関連する社会的問題が、本人は自覚していないけど実は睡眠に起因しているという側面をよく描いている点にある。いろいろ現代思想するんじゃなくて、それ、睡眠障害だよ、みたいな。
 読みながら思ったのだが、ツイッターにいろいろネガネガをまき散らしている某氏・某女史は、精神的な問題あるいは社会問題、ひいては日本社会の問題に悩んでいるみたいに見えるが、あれ、睡眠障害じゃねーの、とか。あー、自分は抜きにしてという話ではあるが。
 その方面でもうちょっとつっこむと、各種社会問題を引き起こす精神病理な人たちも、案外睡眠クリニックできちんと立ち直れるのではないかと、そんな気になる一冊でもあった。人によってはマジ、人生が変わるかもしれん。
 なので、まあ、そのあたりに琴線が触れる人は読むといいと思う。ただし、鬱オタの人は、こんなことは全部知っているぞと言い出すかもしれない程度の内容ではあるが、この本の真価、実は、そこじゃないのな。じゃあ、どこ?
 この本、というか、著者の一人の遠藤氏がすごいなと思ったのは、結果的に、これ、認知療法かつ行動療法なんですよ。ご本人の自覚があるかどうかはよくわからないし、SSRIの処方やドーパミンコントロール、コルチゾールの目安といったことは、それなりに医学的な背景があり、それなりにというか、かなり専門的な対処ともいえるのだけど、読んでいくと、ほんとか? それEBMどうなんだ?みたいな疑問がぽつぽつとは浮かぶ。しかし、全体としてみると、これ認知療法かつ行動療法になっている。すごいんじゃないか。そして……
 これって、実は新興宗教ではないのかという疑問がちらと湧く。もちろん、新興宗教ではない。変な教義はない。かなり医学的な議論でもある。が、どことなくそういう雰囲気があり、そこを漫画家の江川達也が微妙に嗅ぎ取っているあたりが、江川氏の本領発揮でもあり、編集のお仕事としても面白い仕上がりになっている。
 いや、腐しているわけではない。面白いんだよ、本として。

 構成としては、遠藤氏が見てきた睡眠障害の事例を9例にパターン化し、その事例をまず江川氏が漫画にする。水野遥も出てくる。そして遠藤氏の解説がある。特徴的なのは、どの事例にも、行動計のグラフが出ていて、各症例の行動パターン化が可視になっている。行動計というのは腕に付けた万歩計のようなもので、実際その人が24時間どう活動しているか、どう寝ているか、寝ているときに動いているかなどが記録される。
 9つの事例のなかで、私がほぉと思ったのは、3つ。まず、睡眠障害が原因というよりPMS(月経前症候群)が関与している事例。これは女性にけっこうありそうだと思うし、これで人生の困難に直面している人は多いだろうと思う。自覚のある人も多いだろうけど、本書の話で、え?そうなの? と思うことで救われちゃう人も少なくないんじゃないか。
 コルチゾールが高いおっさん管理職の話も面白かった。これは、小説のネタになるんじゃないかという深みすらある。それはそれとして、たしかにコルチゾールの検査というのはもっと広く実施して労働管理とかすればいいのではないかなとも思う。この件については、自分も振り返って、痛いものがあるな。
 もう1点は冬季鬱病の話。これは結果から見ると間違いなく冬季鬱病なのだが、事例の女性の精神性というか対人傾向にちょっと面白い典型的なパターンがある。睡眠障害と関連しているんだろうかという疑問もわずかに。
 ところで本書の形態だが、iPhoneアプリで読んだ。ちょっとした偶然で見かけたものだった。電子書籍というのだろうか。お値段はたしか115円。え?なバーゲン。理由はよくわからない。期間限定かもしれない。知らないです。

cover
新書がベスト
小飼弾
 電子書籍の操作性としては悪くない。ちょっと使いづらい感じもしないではないが。こんなふうに新書なんかも、電子書籍で300円くらいで販売されれば、小飼弾氏くらい新書がガンガンと読めそうな気はするな。彼みたいにガンガン速読するかどうかはわからないが。

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2011.02.04

2月4日、エジプト争乱について

 エジプト情勢についてもうちょっと書いておくかな。BBCとか見ているとエジプト情勢の緊迫化という感じだし、ナバネセム・ピレイ国連人権高等弁務官によれば「確定的ではないが、300人程度が死亡、3000人以上が負傷したとの情報がある」(参照)とのこと。大変な事態だが、都市部市民生活の基盤崩壊による余波も大きいのではないか。予想されたように都市部の食糧の争奪は発生している。時事「食糧難、パン争奪で死者=備蓄に走る市民-エジプト」(参照)より。


 大統領独裁体制の打倒を目指すデモが続くエジプトでは食糧の入手が困難になってきた。経済活動がまひし、商業活動や物流に影響が出ている。主食のパン価格が首都カイロでは4倍に高騰するなど品薄気味。1日付の独立系紙アルマスリ・アルヨウムによると、パン購入をめぐるトラブルで客が銃で撃たれるなど4人が死亡する事件も発生した。
 報道によれば、パン屋の店主が値上げに反発したとみられる何者かに撃たれて死亡した事件も起きている。食卓には欠かせないアラブパンを1人で10枚買おうとした客が別の客とトラブルになり、射殺された事件も伝えられる。

 「何者かに撃たれて」という銃は誰が、そしてどこから入手したかと考えてみるに、すでにカイロの市民生活は私兵によって守られているという状態が見えてくる。当然、この「守られている」がどういう意味を持つかは状況によって変わる。恐らく、すでに市街地の中産階級はその予想に怯えていることだろうし、では彼らがなにを求めているかというと治安だろう。
 さて、こんな大騒動になるなんて、と私の読みは外したのだろうか。強弁するわけではないがまったくそう思っていない。軍のチキンゲームという想定どおりに話が退屈に進んでいるばかりに見える。
 しいて言えば、軍とは別に恐らく内務省側だろうと思われるがムバラク派の直轄的な動きを派手に開始したのはやや想定外だった。言うまでもなく、エジプトには正規軍以外に、内務省管理の中央保安軍が35万人ほどいる。これらの「暴力」も統制されないと市民にとっては危険なことになるし、4日以降の状況に惨事をもたらす可能性はある。
 が、軍は依然市民弾圧には乗り出していないし、そうであれば、天安門事件再来といった、国家意志が国民を惨殺するという事態にまではならないだろう。そして、この軍の抑制こそがまさに米国の思惑そのもので、結局米国の意向がエジプト市民を守るかというのが当面の注目点になる。
 この間、日本では依然、エジプト市民が親米ムバラク政権の打倒を反米思想から行っている話も聞く。が、そもそも今回の争乱は、反米傾向が脱色されていた点に特徴がある。イラク政治史専門の酒井啓子氏もこの点をきちんと指摘しいた。「エジプト:軍とイスラム勢力にまつわる「誤解」」(参照)より。

 政権交替にまつわる妥協と調整が、旧態依然としたエリート間調整の域を出ないように見えるのに対して、今回の動乱で新しいのは、反政府デモのあり方だ。イスラエルや米政治家の一部は、「ムバーラクが倒れたらムスリム同胞団が出てきて、反米・反イスラエルに転ずる」と危機感を煽っているが、今、デモで掲げられるスローガンに反米、反イスラエルは一切出てこない。イスラーム色よりも世俗的、左派的色彩が前面に打ち出されている。

 争乱の全体構図の読みも私がすでに書いたものに近い。

 第一は、軍に対する認識である。ムバーラク政権は、52年以来続いてきた紛うことなき軍事政権である。52年の共和制革命を担った主役として、以来軍は支配層の中核にあった。ムバーラク批判が強まるにつれて、軍が真っ先に考えたことは、ムバーラクとともに心中はするものか、ということだっただろう。特に、近年ムバーラクが息子ガマールを後継者として重用してきたことから、支配層の間で、ビジネス界を中心とするガマールの支持基盤と、過去半世紀以上支配エリートの座に君臨してきた軍との間で、相克が生まれていた。
 ムバーラクとガマールが去ったとしても、支配エリートとしての軍の特権を失わないように、どう振舞うべきか。それが、民衆の反感を買わないデモ対応につながった。そう考えると、結局のところ、今のエジプトで起きていることは、支配層が「しっぽ」ならぬ「頭」だけ切って、生き延びていこうとしているように見える。軍や警察が姿を消すと略奪が起きるよ、というのも、存在意義をアピールする材料だ。

 かくして現状は、「軍や警察が姿を消すと略奪が起きるよ」というチキンゲームが淡々と展開されている。
 チキンゲームを脇で盛り上げているのがBBCや元BBCスタッフが中心となってできたアルジャジーラである。これらの報道という窓を通してみるとなるほど壮絶な事態が見える。が、かたや他の地域はというと別の風景がある。レクソールの生活を描いたブログ「Luxor News - Jane Akshar」の2日のエントリ「Why spoil a good story with the truth!」(参照)より、国際報道に対して現地の視点として。

According to their own reports before yesterday the maximum number of people in demonstrating was 10,000 in Cairo. This is a city of 25 million, so do the sums .0004 % of Egyptians, Now you might be forgiven for thinking it was at least half the city judging by the news reports. Could they even have been creating the story, it was a tiny minority and the cameras focused on them continually. They did not report the MILLIONS who were not protesting at all. Here in Luxor we believe the protestors were 2-300 out of a population of 500,000, the sums .0006 %. Yet the news reports that it is unsafe to visit Luxor, what a load of poppy cock.

昨日前の彼らの報道によると、デモの最大の数はカイロで10,000人。2500万人の都市でのことです。エジプト人全体からすると0.0004%。ニュース報道から判断すると、少なくとも市民の半数のように考えてもいいと思うでしょ。彼らは物語を作っているのかもしれません。彼らが始終カメラを向けているのは少数派でした。彼らは抗議活動をしない何百万人もの報道はしていません。ここルクソールだと50万人のうちの2、300人が抗議をしているようだけど、全体で見れば、0.0006%です。なのに、報道ではルクソールは危険だと言っています。なんて大騒ぎなんでしょう。



I was interviewed by the BBC, I told them it is safe, business as normal. Did you hear any of that, of course not. It is much more fun the scare every tourist away, destroy the economy and the lives of ordinary Egyptians. Al Jezera was reporting at one point that there were tanks in Sharm, BBC World was saying there wasn’t!

私はBBCからインタビューされたので、言いましたよ。安全ですと。仕事もいつもどおり。お聞きになりましたか? もちろん、ありませんね。旅行客を遠ざける恐ろしい話のほうが面白いのです。そして、経済と普通のエジプト人の生活を破壊します。アルジャジーラは、シャーム戦車がいたということだけ報道していました。BBCはいなかったと言っていました。


 このあたりの話は観光業社としての苦情ということもあるだろうが、ルクソールあたりまで、ムバラク抗議運動が広がって騒然としているのではない光景が見える。というか、カイロ市街ですらそうではないのだが。

If there had of been it would have broken the terms of the peace treaty with Israel, pretty irresponsible reporting, well I got to the point I didn’t believe any of them. Al jezera said there were over 2 million demonstrating yesterday, BBC less than a million. All I can tell you is there were no problems AT ALL on the West Bank, Luxor where I live. If it hadn’t been for the TV I wouldn’t have known there was a thing wrong.

イスラエルとの和平条約が破棄されたとしたらと思うと、ひどく無責任な報道です。そんなこと思いもかけませんでした。アルジャジーラでは昨日200万人のデモがあったと言います。BBCだと100万人弱。でも私が言えることは、ここ、私が住んでいるウエストバンク、ルクソールにはなんの問題もありません。テレビがなければこんな間違ったことを知ることはなかったでしょう。


 興味深いのが、無責任な報道でエジプトとイスラエルの和平条約を壊すのはやめてほしいという感覚だ。このあたりの心情、つまりは反戦心情がどの程度、エジプト国民が共有しているのかはより知りたいところでもある。

I am not going to go into the politics, what happens next etc, that is up to the Egyptian people but I totally resent the way the media has manipulated the story for their own ends and harmed many thousands who are dependent on the tourist trade. My message to the world, support Egypt, support Egyptians and come and visit West Bank, Luxor in total safety.

今後はどうなるかなど政治に首をつっこむつもりは私にはありません。それはエジプト国民の問題です。だけど、メディアが自分たちの都合で操作して物語りを作っていることにはまったく怒を覚えます。旅行産業に関わる何千人に損害を与えています。私が世界に向けるメッセージは、エジプトとエジプト国民を支援してください。ウエストバンク、ルクソールを訪問してください。全く安全です。


 読みながら、私は少女レイプ事件の渦中の現地沖縄のことを思い出した。あれは観光業被害をもたらしたわけではなかったが報道と現地の生活感覚の落差を思った。そういえば私もBBCにインタビューされたことがあったな。
 ルクソールの状況については同ブログにその後の話もある。騒ぎ立てる人はいるようだ。興味深いのは、エルバラダイは米国の手先といった煽動もあるらしい。いずれにせよ、日本国としてはすでにエジプト渡航についてはすでに延期を薦める注意が出ている(参照)。
 今後のエジプトの動向だが、西側諸国としては、そして軍のシナリオとしてもムバラク退陣というところだろうが、そこが落としどころになれば、数年してみるとあれはなんだっけかなという、グルジアやウクライナの色の革命みたいな記憶に落ち着くかもしれない。
 今回の争乱を独裁者を追い出した「革命」として見るなら、つまりキルギスのバキエフ政権崩壊(参照)のように独裁政権が打倒される光景として見るなら、前回の選挙で与党八百長大勝利だったとはいえ、主導が議会側に代わらないと意味がない。そして議会が主体となって大統領選挙を正統に行う必要がある。率直に言って、そこまで行ったら私の読みも外したなと思う。
 エジプト軍を現状各方面から抑え込んでいる米国としては、しかし、その意向はなさそうだ。失政の上にさらに右往左往してきたオバマ政権だが、3日付けニューヨークタイムズ「White House, Egypt Discuss Plan for Mubarak’s Exit」(参照)が報道する「出口戦略」としては、ムバラク大統領を即時辞任させても、依然、軍のスレイマン氏を副大統領として立てるつもりらしい。日本ではツイッターなどを見ると、「米国はエジプトのムスリム同胞団を排除したい」とする思惑も行き交っているが、ニューヨークタイムズ記事によれば、米政府にそのような思惑はなく政治参加を開いている。
 2日付けフィナンシャルタイムズ社説「The hour strikes for Hosni Mubarak」(参照)も米政権シナリオ先行して語っている。ムバラク退任が遅れれば遅れるほど惨事の危険性が高まるとしてこう語る。

But it is essential that Mr Mubarak’s associates exclude him from the transition process. Such a task is best handled by responsible figures in the old regime - such as Omar Suleiman, the vice-president, or commanders of the armed forces - who must in turn co-operate sincerely with opposition representatives.

本質は、ムバラク氏の取り巻は政権移行過程でムバラク氏を外すことである。このお仕事をもっとも上手にこなせるのは旧体制である。たとえば、オマール・スレイマン副大統領か、軍司令官らだろう。彼らは反対勢力代議員と真摯に協調する必要がある。


 このあたりが西側の総意に近いのではないかと思う。ちなみに、日本が問われるなら右にならえとなるだろう。


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2011.02.02

15歳のロシア少年の寿命は15歳のソマリアの少年の寿命より短いらしい

 ロシア・モスクワ郊外ドモジェドボ国際空港で1月24日、自爆テロ事件があり、35人が死亡、約180人が負傷した。その後、ロシア捜査当局は、犯人を南部北カフカス地方出身の20歳男性と断定し、背後関係を調べている、とのことだ。ふーんと思う。
 そう思って、不謹慎だなとは思うが、あまり関心がわかない。関心がないのは私だけでもないらしく、ツイッターのタイムラインを見ていてもこの話は見かけない。もう3年くらい前のことのような印象すらある。事件があったときですら、またかとつい思ったし。
 なぜそのようなテロ事件がロシアで起きるのか。背景はなにか。そういう点については、エジプト争乱ほどには異論はない。いやこちらもイラク政治史の専門家酒井啓子氏のコメント(参照)などを除けば、日本などでは異論は少ないのかもしれない。まして、ロシア、おそろしあ。
 いやダジャレで済む話ではないな。ご関心のある向きには、ニューズウィークの「Losing to Terrorism」(参照)がていねいに解説している。今日付けの日本版にも訳稿が載っている。まあ、そんなところ。ネットですらっと知りたいなんて言えば、空気を読んで人気ブロガーさんが人気の付きそうなネタを書いてくれるかもしれない。知らんが。
 今回のロシアのテロ事件について後から情報を見直すと、自分の、けるだいような関心のなさの核に微妙に呼応してくる事実があることに気がつく。該当空港ではテロが1週間前から通知されていた。しかも到着ロビーという場所まで特定されていた。
 それ、みなさんご存じでしたか。私は知らなかったのだが、いやこれは陰謀論でもがせネタでもない。スレート「Do Russians Have a Death Wish?」(参照)というマーシャ・ガッセン氏の寄稿の頭に書いてある。これも今号のニューズウィークにタイトルはないけど訳稿が載っている。そういえば、マーシャ・ガッセン氏はポアンカレ予想のペレルマンの話題を書いた彼女ですよ(参照)。
 寄稿の話はこう続く。


There is a peculiarly horrible sense of recognition that you get watching footage of the aftermath of terrorist attacks that occurred in a place that is intimately, physically familiar. You almost get the feeling that you have touched the carnage.

愛着があり、よくなじんだ場所で発生したテロ事件惨状の映像を自分は見始めているのだという認識からくる、特有の恐怖の感覚がある。あたかも自分で虐殺に向き合っているように感じる。


 彼女も自身の生活圏内で起きたテロ事件を思い浮かべる。この心の動かし方は、微妙に日本で起き、そしてなんとなく忘れられたような、無意識に抑圧されたようなテロの光景の想起にも似ている。
 だがガッセン氏はここから寄稿のトーンを転調し、ロシアがいかに危険なのかと問う。そこで面白いというのも不謹慎なのだが、ほぉと思うような事実を私は知る。

Russia is the world's only developed country where the average life expectancy has steadily fallen over the last half-century. Russia is the only country that is experiencing catastrophic depopulation while not being formally at war.

ロシアは世界の先進国のなかで、この半世紀の間平均寿命が低下している唯一の国だ。ロシアという国は、公式な戦争もないのに、壊滅的な人口減少を経験している。


 ロシアでは人口減少が進み、また平均寿命がそれほどでもないということは私も知っているが、それがずっと低迷しつづけているとまでは知らなかった。しかも、その先の話が驚きで、ロシア人口は1992年以降、女性で200万人、男性で500万人減少し、公衆衛生でいう「超過死亡(excess mortality)」だというのだ。感染症でもない状態でそういう言い方をしてよいのか私には疑問が残るが、ある異常な事態ではあるのだろう。こうも言われている。

Eberstadt is fond of pointing out that the life expectancy for a 15-year-old Russian boy today is less than that for a Somalian 15-year-old.

人口統計学者のエバースタットは、現在の15歳のロシア少年の寿命は、ソマリアの15歳の少年よりも短いと指摘したがる。


 ソマリアの少年の寿命よりもロシアの少年のほうが短い。それはとんでもない状態だなと思う。ガッセン氏はこれをロシア的な文化の無謀さとして見ていく。エイズを恐れていてもコンドームの使用率は世界最低のロシア!
 しかし、こうした筆の滑り方は日本のコラムニストやブロガーでもついやりそうだ。若者の不満からくる無気力が、密かなるテロを育てているのだ、みたいなつまらんレトリック、とかな。
 ロシアは「超過死亡」という事態なんだろうかとため息をつき、別件で医学データベースを当たっていたとき、あれ? あの話は元来は医学の領域ではないのかと思い立つ。ついでにちょいと検索してみると、"Excess mortality during heat waves and cold spells in Moscow, Russia."(参照)とかが目に付く。モスクワの寒暑が与える一定年間の「超過死亡」の研究である。暑さ寒さがきついとなかなか寿命は伸びないものだろうなという常識にも合致している普通の話でもある。そういうことなんじゃないか、つまり。
 とはいえ、それが1992年からの継続的現象というなら別段気象に帰せるわけもない。はたして、やはりこれはガッセン氏のいうように、結果的に自暴自棄に走り、またそれを結果的に受け入れてしまうロシアの気質というものなのかもしれないと、ため息をつき、ブログにたらりと書いておしまい。


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