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2011.01.07

中国が模範とすべき日本の断念、ってか

 英国流初笑いというのかもしれない(そんなものがあるのかは知らないが)。5日付けフィナンシャルタイムズに掲載されたデイビッド・ピリング氏の寄稿「日本は、経済成長より大切なものが人生にはあると気づいた(Japan finds there is more to life than growth)」(参照)は笑えた。心地よくと言ってもいいのかもしれない。
 前口上は、あれである、BLOGOSとかに出てくるブロガーさんの口調みたいなものである。


Is Japan the most successful society in the world? Even the question is likely (all right, designed) to provoke ridicule and have you spluttering over your breakfast. The very notion flies in the face of everything we have heard about Japan’s economic stagnation, indebtedness and corporate decline.

日本は世界で最も成功した社会ではないのか? とかいう疑問を呈しただけで、バカ言ってんじゃないよと言われそうだし(ごもっとも、覚悟の上だ)、ご朝食の皆さん、味噌汁吹いてしまうかもしれない。日本経済の停滞や国家債務、企業の衰退について聞かされていることを思えば、とんでもない疑問である。

Ask a Korean, Hong Kong or US businessman what they think of Japan, and nine out of 10 will shake their head in sorrow, offering the sort of mournful look normally reserved for Bangladeshi flood victims. “It’s so sad what has happened to that country,” one prominent Singaporean diplomat told me recently. “They have just lost their way.”

韓国人のビジネスマンに聞いてみるがよい。香港人でも米国人でもよい。日本をどう思うかね、と。十中八九、バングラデシュ洪水の被災者に通常向けられるべき悲しげな顔で、もうダメだ、と首を横に振るだろう。「あの国に起きたことは、非常に残念なことだ」 私も著名なシンガポール外交員から、「彼ら日本人は迷子になっている」と聞いた。


 まあ、そんなところ。いやまあ、そう。じゃあ、ドローフォー。
 おっと待った。チャレンジ!(参照

If one starts from a different proposition, that the business of a state is to serve its own people, the picture looks rather different, even in the narrowest economic sense. Japan’s real performance has been masked by deflation and a stagnant population. But look at real per capita income - what people in the country actually care about - and things are far less bleak.

しかし国家の仕事とは国民に仕えることであるという観点に立てば、狭義の経済以外にも日本という絵の見方も変わってくる。日本の真価は、デフレと人口低迷で目眩ましされている。日本人が実際に気にしていることでもあるが、一人当たり国民所得を見れば、荒涼といったものではまるでない。


cover
企業メガ再編
新・日本型資本主義の幕開け
ポール シェアード
 そう、物は見方である。実体なんかどうでもいい。それだけでエントリ書いているブロガーだっているのだし。

By that measure, according to figures compiled by Paul Sheard, chief economist at Nomura, Japan has grown at an annual 0.3 per cent in the past five years. That may not sound like much. But the US is worse, with real per capita income rising 0.0 per cent over the same period. In the past decade, Japanese and US real per capita growth are evenly pegged, at 0.7 per cent a year. One has to go back 20 years for the US to do better – 1.4 per cent against 0.8 per cent. In Japan’s two decades of misery, American wealth creation has outpaced that of Japan, but not by much.

視点を変えて、米国野村証券グローバルチーフエコノミスト、ポール・シェアードがまとめた数値を見ると、過去5年間で言えば、日本人は一人当たり国民所得で過去5年間に年率0.3パーセント成長している。たいしたことないように思えるかもしれないが、米国はさらに劣り、同期間で見れば0パーセントである。過去10年で見ると、日米は総じて年間0.7パーセント成長している。日本の0.8パーセント成長に対して米国の1.4パーセントを誇っていたのは20年も前の話だ。20年に及ぶ日本の悲惨な時代、米国人の資産は日本人よりも増えたとはいえ、それほどのことはない。


 ほぉと感心しないでもないけど、デフレを補正してのことだろう。デフレによって富の高齢者への偏在があるから日本の若者は貧乏になったということではないかな。まあ、米国の富の偏在はまた違うだろうけど。
 かくしてピリング氏のお話は、日本の社会はどれだけすばらしいか、平均寿命は高い、犯罪率は低い、清潔だ、食文化が豊かだ、失業率は低いと毎度お馴染みの修辞が続くので割愛、なのだが、ちと笑える部分はというと。

In a thought-provoking article in The New York Times last year, Norihiro Kato, a professor of literature, suggested that Japan had entered a “post-growth era” in which the illusion of limitless expansion had given way to something more profound.

昨年ニューヨーク・タイムズに掲載された示唆深い記事で、加藤典洋早稲田大学文学部教授は、日本は「ポスト成長時代」に入ったのだと述べた。この時代では、無制限な拡張の幻想がより深みのあるものに置き換わるのである。


 加藤典洋先生らしいすね。

Patrick Smith, an expert on Asia, agrees that Japan is more of a model than a laggard. “They have overcome the impulse – and this is something where the Chinese need to catch up – to westernise radically as a necessity of modernisation.” Japan, more than any other non-western advanced nation, has preserved its culture and rhythms of life, he says.

アジア問題の専門家パトリック・スミス氏は、日本はダメな子というより模範であると認めている。「日本人は、近代化の必要性に付随して、西洋化したいという衝動を克服してきた。その境地こそ、中国人が追いつかなければならないものなのである」 日本は他のどの非西洋先進国よりも、自国文化での人生の過ごし方を守ってきた。


 いやはや、中国人に、日本人が「俺たちは西洋人にはなれないとの断念」を見習いなさい、と。すてきなお節、ごちそうさまでした。
 ほいでは締めの言葉を。

If the business of a state is to project economic vigour, then Japan is failing badly. But if it is to keep its citizens employed, safe, economically comfortable and living longer lives, it is not making such a terrible hash of things.

国家の仕事が経済活力の増進になるなら、日本はどん底まで落ちた状態である。しかし、日本がなんとか市民の雇用を維持し、社会を安全に保ち、経済的にも快適であり、長寿に暮らせるなら、それほどひどいことなったと、いうもんでもないんじゃないの。


 民主党の政権の希望の未来みたいだな。
 しかし、たわけた夢から覚めれば、日本国の立国とは経済である。軍オタがオタでしかないのは、日本では経済力こそが安全保障に代わるから。
 そのことを忘れるほど日本人が愚かなものなのか。そうでもないんじゃないかという夢のほうに私はたまに期待をかけているという点で、なかなか英国流のユーモアは身につかない。


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コメント

"agrees that Japan is more of a model than a laggard."
の訳
「日本はダメな子以外のものではないと同意するものの、」
は、
「日本は落伍者というよりむしろ模範であると認めた。」
みたいな意味ではないでしょうか。

投稿: ume-y | 2011.01.07 15:34

ume-yさん、ご指摘ありがとうございます。構文はご指摘のとおりです。誤訳部分、訂正しました。

投稿: finalvent | 2011.01.07 15:42

>そう、物は見方である。実体なんかどうでもいい。それだけでエントリ書いているブロガーだっているのだし。


↑私なんてまるっきりそういうタイプのブロガーです。

でも、インターネット社会では、想像力も資源だと思っています。あるいは、想像力こそ最大の資源かもしれません。ポストインターネット社会もそういう社会ではないかと思っています。

投稿: enneagram | 2011.01.07 16:17

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