« 2010年10月31日 - 2010年11月6日 | トップページ | 2010年11月14日 - 2010年11月20日 »

2010.11.12

sengoku38の一手で「仙谷」政権、詰んだな

 「仙谷」政権、詰んだなという感じがした。石にかじりついても頑張った影の薄い菅総理だったが、これでチェックメート。終了か。いや、これでこの政権がすぐに解体するというわけでもないし、総選挙となるわけでもないと期待したい。しかし、もうダメだろう。
 私としてはできるだけ穏当な線で推測してきたつもりでいる。だから、尖閣ビデオを巡って中国政府と「仙谷」政権に密約があったという話は避けてきた。それは密約というほどでもなく、外交上通常の信義というレベルではないかと思っていたからだ。
 しかし、尖閣ビデオ流出について第五管区海上保安本部海上保安官が名乗り出てから、おそらく彼のシナリオどおりに海保内の状況が暴露されるにつれ、この機密指定はそもそも無理だったなという思いがまさり、であれば、そんな無理を押す理由はなんだったか考えると、やはり密約があったのだろうと推論したほうがどうも妥当だ。
 なんの密約か。すでに噂されているのでたいした話ではない。中国政府から尖閣ビデオを公開しないでくれという要望に「仙谷」政権が受諾したというものだ。
 それだけ見れば、「で?」みたいな話だし「なーんだ」ということだろう。だが、これがフジタ社員の解放条件だったとなれば、「ほんとかね」と疑問もつのるし、本当だったらと思うとぞっとする。
 9月末に話を戻そう。尖閣沖衝突事件で中国人船長を釈放した件について触れた9月24日のエントリー「尖閣沖衝突事件の中国人船長を釈放」(参照)で、私は期限前倒しに中国人船長を釈放すれば中国人は"律儀"だからそれなりのお返しはあると書いたところ、該当コメント欄をご覧になってもわかるが、いろいろと批判が寄せられた。
 その後の経緯はというと、これをきっかけに拘束されていたフジタ社員の解放へ向けた動きがあり、中国政府と日本政府との対話チャネルの再開となった。それでよかったどうかはいろいろ意見もあるだろうが、読み筋としては合っていたことになる。
 かくして中国政府と日本政府のチャネルが再開されたものの、しかし即座にフジタ社員の解放には至らず一週間ほどは揉めた。この再開だが、どのようなものだったか?
 もともと目立ちたがり屋なのか脇が甘いのか山本モナさんとの一件でやばい姿が暴露されるのがクセになっているのか、この間、民主党細野豪志前幹事長代理の隠密訪中が発覚した。なんのための訪中だったか。10月30日付け共同「「一切答えられない」 細野前幹事長代理」(参照)より。


 極秘に訪中した民主党の細野豪志前幹事長代理は29日夜、北京市内で記者団に対し、中国側の会談相手や滞在日程などについては「一切答えられない」と語った。
 また「(菅直人首相の)特使ではない。これまでの人間関係の中で来た」と述べた。

 細野氏の隠密訪中はフジタ社員が解放されていない時期なのでそれに関連していることは確かだろう。内実については、外交チャネル再開の結果としてフジタ社員解放に結びつき、加えて、その後の日本政府から中国政府への信義の証拠として、暗黙裏に尖閣ビデオの非公開が決まったのではないかと私は思っていた。つまり、密約まではないだろう、と。また菅首相の言う「人間関係の中」は、小沢人脈ではないかという噂もあり、そうかなと思っていた。細野氏は小沢氏の「長城計画」の事務責任者を務めてきた経歴もあるからだ。
 しかし密約だったのかもしれない。8日付け毎日新聞「アジアサバイバル:転換期の安保2010 「尖閣」で露呈、外交の「弱さ」」(参照)はこの点にかなり踏み込んだ話を伝えていた。

 仙谷氏は「外務省に頼らない中国とのルートが必要だ」と周辺に漏らし、日本企業の対中進出に携わる民間コンサルタントで、長く親交のある篠原令(つかさ)氏に中国への橋渡しを依頼。調整の末、民主党の細野豪志前幹事長代理の訪中が実現した。
 「衝突事件のビデオ映像を公開しない」「仲井真弘多(沖縄県)知事の尖閣諸島視察を中止してもらいたい」--。細野氏、篠原氏、須川清司内閣官房専門調査員と約7時間会談した戴氏らはこの二つを求めた。報告を聞いた仙谷氏は要求に応じると中国側に伝えた。外務省を外した露骨な「二元外交」は政府内の足並みの乱れを中国にさらけ出すことになった。


 外交・安保分野における与党の機能不全も露呈した。昨年12月に小沢一郎民主党幹事長(当時)は党所属国会議員143人を率いて訪中したが、党の「対中パイプ」は結果的に関係悪化を防ぐ役割を何も果たしていない。

 仲介したのは「友をえらばば中国人!?」(参照)や「妻をめとらば韓国人!?」(参照)などの著作のある篠原令氏であり、会談では、①衝突事件のビデオ映像の非公開、②仲井真弘多沖縄県知事の尖閣諸島視察を中止の約束があったというのだ。記事からは密約だったと見てよいだろう。
 同記事にはないが、時期的に見て、30日に4人拘束されたうち3人のフジタ社員が解放されたことを考えると、それはこの密約の手付けと中国人らしい"律儀さ"だったのだろうと推測することは不自然ではない。
 もちろん本当にそのような密約があったかについては、密約ゆえに簡単にわかるものではないが、密約を仮定した場合、その後の推移からどの程度妥当性があるか考えることはできる。それにはフジタ社員の最後の1人の解放の文脈を時系列に見る必要がある。
 尖閣ビデオが民主党日本国政府として非公開となったのは、10月7日である。8日付け読売新聞「尖閣ビデオは非公開、「日中」再悪化を懸念」(参照)より。

 政府・与党は7日、沖縄・尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件の様子を海上保安庁が撮影したビデオについて、公開に応じない方針を固めた。
 公開すれば日中両国で相互批判が再燃し、4日の日中首脳会談を機に改善の兆しが出てきた日中関係が再び悪化しかねないとの判断からだ。
 国会がビデオ提出を求める議決をした場合などは、予算委員会など関連委員会の「秘密会」への提出とし、限定的な開示にとどめたい考えだ。
 衆院予算委員会は7日開いた理事懇談会に法務省の小川敏夫法務副大臣らを呼び、ビデオの扱いについて協議した。法務省側は「中国人船長を起訴するか否かの結論が出ていない段階で、捜査資料を出したケースは今までない」と説明し、現時点での国会提出に難色を示した。与党側も慎重な姿勢を示した。

 残り一人のフジタ社員が解放が通知されたのは9日である。9日付け読売新聞「「フジタ」高橋定さん解放…新華社伝える」(参照)より。

 【北京=佐伯聡士】「軍事目標」を違法に撮影したとして、中国河北省の国家安全局に拘束されていた中堅ゼネコン「フジタ」の現地法人「藤田中国建設工程有限公司」(上海)社員、高橋定さん(57)が9日午後、解放された。
 新華社通信が同日伝えた。
 高橋さんを除く他の3人は、9月30日に解放されており、これで全員が解放された。

 密約の確証ではないせによ、時系列的にはあまりに"律儀"に展開されており、フジタ社員解放と尖閣ビデオ非公開が密約であったと仮定して妥当に思われる。
 そしてこの密約は、フジタ社員が解放されたらおしまいということにはならない。仮にフジタ社員解放を直接扱ったものではないとしても、密約があったこと自体がその後も影響を持つ。
 尖閣ビデオ自体には日本国民が見ても中国国民が見ても、それほど衝撃的な映像とは思えないが(もちろん衝撃的に見た人もいるだろうが)、問題はこのビデオの非公開継続が密約の証となり、しかもその証は日本から中国に対する信義の証に変質したことだ。
 つまり、中国と民主党政権が外交を続けたいなら信義として尖閣ビデオを非公開にしなくてはならないという状況に追い込まれたことで意味合いが変わってしまった。
 私の推測だが、中国側としても想定外だったのではないだろうか。中国としてもビデオ内容自体はそれほど重視していない。日本側のリークも外交筋ではないので取り合っていない。例えば、5日付け人民網「中日友好委「両国関係、風は吹けども動ぜず」」(参照)ではさらりとこう述べている。

 確かに、勘繰り合うばかりでなく相互信頼を深めることは大切だ。だが、目で見たものも、必ず当てになるとは限らない。例えば、日本の国会内でいわゆる“漁船衝突事件”のビデオが公開されたが、それによって事件の真相や、日本側の行為の違法性を覆せるわけではない。釣魚島が古くから中国固有の領土であるという以前に、日本保安庁の巡視船が釣魚島沖で中国漁船の進行を妨害し追い払おうとし、さらに拿捕(だほ)したこと自体が違法である。「石と卵がけんかしたら、常に石が勝つ」という言い方があるが、今回の事件がまさにそれである。勝ち目のない卵が石にぶつかっていくはずはない。同様に考えてもらいたい。はたして、小さな漁船が重厚な巡視船にぶつかっていくはずがあるだろうか。

 村上春樹のエルサレム講演のようなテイストに執筆者の知性が漂うところだが、リーク内容については中国政府としては表向き終了している。中国政府として問題となるのは、日本の民主党政府がお墨付きで公開するかどうかだけだ。そのくらいは「仙谷」内閣でも守ることはできるだろうと見ていた。
 だが、れいの海上保安官が名乗り出てから、話がずれてきた。
 保安官のシナリオ(参照)どおり、実際には日本国政府は尖閣ビデオの秘密の管理をしていなかったことが暴露されてしまった。尖閣ビデオの暴露よりも、日本政府の危機管理能力・外交上の信義維持能力の欠落が暴露されたのほうが重大である。
 馬淵澄夫国土交通相が映像の管理徹底を海保側に求めたのは10月18日であり、非公開を決めてから10日近くはだだ漏れ状態であった。馬淵国交相は現在、海上保安官名乗り出の官邸報告が2時間も遅れたとして話題(参照)になっているが、中国側としてみれば、問題なのは、このだだ漏れ放置の10日間である。中国は日本の民主党政権に裏切られたことになる。
 「仙谷」内閣はここに来て追い詰められた。なんとか流出の犯人を挙げ、「これだけ日本も厳罰化をしています。中国風弾圧政治を我々だって理解しています」と中国政府に向けてご忠誠の首を掲げたいところだろう。だがもう失敗してしまった。ついでに言うと、自民党としては馬淵澄夫国土交通相の首を掲げてご忠誠を示したいところでもあるだろう。
 中国側に「仙谷」政権のご忠誠が受け入れられるかどうかは、APECに合わせた菅首相と胡錦濤主席対談の成否でわかる。受け入れられなければ、中国側は「仙谷」政権を信頼できない政府として見捨てたシグナルとなる。
 どうなるか。たぶん、ダメだろう。
 中国と外交対応ができない政権で日本がやっていけるとは思えない。そしてこの東アジアにあって中国とまともな外交ができない国家に他国からの信頼が得られるわけもない。
 「仙谷」政権、詰んだな。まさか、こんなふうに詰むとまでは思わなかった。
 なお、APECへの胡錦濤主席出席だが、「アジア四か国訪問に向けた米国オバマ大統領の声明: 極東ブログ」(参照)で東アジアの貿易で中国外しが明確にされた以上、黙って中国がこれを受け入れるはずはなく、この圏内での貿易のプレザンスを示すためにも不参加はありえなかった。

追記
 さらに呆れた事態が発覚。馬淵澄夫国土交通相が映像の管理徹底を求めた10月18日だが、実態は徹底でもなんでもなかった。通達ですらなかった。つまり実質情報管理はなされていなかった。13日共同「情報管理の徹底は少数部署だけ 国交相の指示、伝わらず」(参照)より。


 尖閣諸島付近の中国漁船衝突の映像流出事件で、馬淵澄夫国土交通相が10月18日に海上保安庁に指示した「情報管理の徹底」は、第11管区海上保安本部(那覇)などごく少数の部署の幹部らだけに伝えられたことが13日、海保関係者への取材で分かった。
 流出元とみられる海上保安大学校(広島県呉市)や関与を認めた海上保安官(43)が所属する神戸海上保安部などに指示は伝わっておらず、流出発覚後の内部調査でも対象外だったことも判明。情報管理に加え、調査のずさんさがあらためて問われそうだ。
 海上保安庁の鈴木久泰長官は11月5日の記者会見で「大臣の指示を受け、責任者を決めて厳重に管理してきた」と強調。8日には「内部調査には限界がある」として捜査当局に告発していた。
 海保関係者によると、海保の指示は「管理者を決め専用保管庫にかぎを掛けて保管するように」との内容で、11管本部のほか、本庁の関連部署、映像を撮影した石垣海上保安部(沖縄県石垣市)だけに発出された。
 国家行政組織法に基づく正式な「通達」ではなく、情報管理者名で庁内の伝達システムを使用し、管理職やシステム関係者に伝えられた。

追記
 エントリーではダメだろうと予想していた菅首相と胡錦濤主席の会談だが、実現した。日本側は「正式な会談」」と見たいところだが、22分という短時間で踏み込んだ話はなかっただろう。会談の位置づけはよくわからないが、これで対中国外交はなんとか繋ぐことができたと言っていい。裏方の尽力もだが政権としても評価できるものだ。であれば、「詰み」とまではいかないか、なんとか維持できるかもしれない。NHK「菅首相 胡主席と日中首脳会談」(参照)より。


11月13日 17時50分
横浜で開かれているAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議に合わせて調整されていた菅総理大臣と中国の胡錦涛国家主席による日中首脳会談が、13日夕方、急きょ行われ、日中関係の立て直しに向けて、両国の利益を拡大する「戦略的互恵関係」を進めていくことを確認しているものとみられます。

 海上保安官の処分は来週に持ち込まれる。逮捕であったら苦笑せざるをえない。


| | コメント (18) | トラックバック (3)

2010.11.11

尖閣ビデオの流出者の証言にはだまし絵のような印象がある

 昨日尖閣ビデオの流出者として名乗り出た第五管区海上保安本部(神戸)の海上保安官(43、男性)だが、その後の経緯が奇っ怪だ。まるでだまし絵でも見ているような印象がある。
 当初神戸海域の船上で名乗り出たという報道があった際は、多くの国民がこれで問題の解明に向かうのではないかと思っただろう。限定された令状によってグーグルから押収したIPアドレスも同じく神戸のマンガ喫茶を指定しているようでもあり、神戸を基点として職にあたる同保安官がユーチューブ投稿者ではないかと見られた。
 しかし現状、同保安官が語る情報には現実の流出を裏付ける情報はなく、マンガ喫茶の監視ビデオからでは本人特定は難しそうだ。かくして逮捕も可能にはなっていない。そもそも逮捕できるのかすら危ぶまれる状況に変化しつつある。
 そうしたなか、彼の住む官舎が家宅捜索された。日本は法治国家なので、家宅捜索に当たっては捜索差押許可状(ガザ状)が出されているはずだし、それなりの理路もあるのだろう。いや、「仙谷」政権のあまりに異常な政治が日々続くことで平時の日本社会の感覚が麻痺しているのではないか。ふとわれに返れば、一体どんな根拠でガサ状なんか出てくるのか理解に苦しむ。
 証拠隠蔽の恐れがあるというなら犯罪容疑が固まってからのことになる。今回はそうではない。証拠収集のためなのだろう。だが犯罪の疑念はそこまで成熟していたのだろうか。
 同保安官は「映像は自分のUSBメモリーに保存し、漫画喫茶に持ち込んだ」(参照)と供述していることから、USBメモリーというブツを探そうということかもしれない。彼の自宅のパソコンに該当映像のデータが保存されているか保存された形跡がないかを調べるべくパソコンの押収をする(参照)ということもあるだろう。
 そこまでできるものなのだろうか。疑問が膨らむ。小沢疑惑では「推定無罪」という言葉が奇妙な意味づけで流布されたが(本来は検察の司法上の手法)、広義に言えないこともない。だが今回の例では、逮捕すら至っていないのだから広義にも「推定無罪」以前の状態だ。罪を告白したら罪になるという前近代ではないのだから、ただの無罪である。
 しかもこれが麻薬取引や殺人事件に関係しているなど解明が急がれる場合なら理解できないでもない。差し迫るテロに関係しているというのでも、いわば非常事態として国民の理解は得られるだろう。今回の事例でそう考える人はいるだろうか。いないだろう。
 素人推測なのだが、家宅捜索には実質的にこの名乗り出た保安官の同意のようなものがあっただろうし、そもそも名乗り出たわりにビデオ映像の入手経路について堅く口を閉ざしていることからも、そうやすやすと家宅捜索で足が付くとも思えない。そのことがわからない検察でもないだろう。なのになぜ家宅捜査に至ったのだろうか。
 そもそもこの海上保安官は"犯人"なんだろうか。
 義憤をもって「仙谷」政権が国家機密としたビデオを流出させたというなら、その仕事を国民にわかりやすく完遂させそうなものだが、実際には巧妙に逮捕を避けているとしか見えない。その意図はなんだろうか。
 逆にそれこそが意図なのではないか。というのは、この名乗り出によって、該当ビデオが複数の管区でも閲覧可能であった可能性が強まった経緯がある。もちろん、それ以外にも該当ビデオが機密扱いではなかった疑念はあった。11日付け毎日新聞「尖閣映像流出:ビデオは複数の管区でも閲覧可能と判明」(参照)より。


 捜査関係者によると、映像は衝突事件が発生した9月、11管から海上保安庁本庁を経て、5管を含む複数の管区に渡っていたという。保安官は読売テレビの取材に「ほぼすべての海上保安官が見られる状況にあった」と話したとされるが、全管区には行き渡っていなかった模様だ。

 ただしこの報道はまだ「仙谷」政権によって認可されてはいないようだ。
 また流出ビデオはそもそも機密でもなく研修用に編集されたものでもあるらしい。7日付けNHK「映像は“研修用” 複数コピー」(参照)より。

調査に対し、石垣海上保安部の職員は「問題の映像は、もともと内部の研修用などに編集したものを検察庁に提出した」と話していることが新たにわかりました。海上保安庁は、映像に入っていた「企画・制作PL63巡視船よなくに」という字幕は、捜査資料としては不自然で、書き加えられた疑いもあるとみて調べていましたが、職員が研修用として映像の節目にこの字幕を入れていたということです。さらにこの編集された映像は、検察庁に提出された以外にも、同じものが複数本コピーされていたことがわかりました。

 この情報については、馬淵澄夫国土交通相は8日の衆院予算委員会で否定している。だが、尖閣ビデオの編集者はすでに明らかになっていることと整合しているのだろうか。6日付けNHK「海保職員“映像 自分が編集”」(参照)より。

関係者によりますと、これまでの調査に対して、石垣海上保安部の職員が「自分が編集して検察庁に渡した映像だと思う」と話していることが、新たにわかりました。この映像は、石垣海上保安部で事件発生当初にパソコンを使って編集されて、検察庁に提出した十数本の映像のうちの1本で、今回流出したものと同じおよそ44分間の長さだったということです。こうしたことから、海上保安庁と検察当局は、この映像が流出したと断定しました。

 この編集者は研修用として作成したかについて知っているはずで、その確認次第によっては、馬淵澄夫国土交通相はその場しのぎの出鱈目を言っていた可能性がある。私の印象では、そちらに傾く。そうであれば、すでに馬淵氏は閣僚として失格だろう。
 いずれにしても、今回同保安官の名乗り出によって、海上保安庁で同ビデオが機密扱いではなく、公然と閲覧されていた可能性は高まる。それどころか、今回の家宅捜索は彼の住む官舎だけではなく、その職場にも及ぶ(参照)。
 ここで少し想像してみる。
 同保安官の名乗り出の目的は、"犯人"であることの証明ではなく、海上保安庁の実態の暴露ではないだろうかと考えてみる。彼は現場の状況を知っていた。これならこの場の誰でも流出可能だと思っていたところ実際に流出した。であれば、そこで自分が"犯人"だと名乗りでたら、この実態が暴露されるだろう。実際に自分がやっていないのだから足が付くはずもない……。
 しかも今回の捜査は職場にも及ぶ。職場の捜索からもし尖閣ビデオが出てくれるか、職場で閲覧可能な状態であることが暴露されれば彼の"勝利"だろうし、それを誘導するための大芝居だったシナリオの可能性は高まる。
 とはいえこの想像はあまり支持されないだろう。実際に流出させた"犯人"は存在するはずだし、彼がもっとも疑わしいからだ。
 だがやはりすんなりとはいかない。告白と同時に奇妙な事実も出てきた。読売テレビの山川友基記者が同保安官の名乗り出以前になんども接触しており、その接触の契機は、sengoku38と名乗る者に会いたいかという読売テレビへの誘いかけだったらしい。この部分についてはネットソースがなく、昨晩の日本テレビで見た記憶によるのだが、その話ではこの誘いかけは別の人物であったように思えた。
 この事件に関わっている別の人物がいるのかもしれない。ユーチューブという新しいメディアが関わることで匿名性についていかにも技術的な文脈で語られもした。しかし、IPが割れても古典的なチームワークによる煙幕があれば真相はわかりづらくなる。
 山川記者との総計数時間にわたる対話でも流出経路については語られなかったそうだ。昨日は一日かけて事情聴取してもそこだけは口を割らなかった。
 産経新聞社説「海上保安官聴取 流出事件の本質見誤るな」(参照)は今回の名乗り出を覚悟の行動と見たいようだ。

 事前に接触した読売テレビは取材記者の証言として、海上保安官が「映像はもともと国民が知るべきものであり、国民全体の倫理に反するのであれば、甘んじて罰を受ける」などと語ったと報じた。事実なら、海上保安官は守秘義務違反を覚悟していたことになる。一方で皮肉にも、流出により国民の「知る権利」に応えたという重要な側面も見落とせない。

 だがその覚悟は読売テレビ記者の伝聞であり、覚悟であるならその一切が当人の口から語れてもよさそうなものだがそうでもない。本人から語られているのは、「悪いこととは思っておらず、犯罪には当たらない。本来、隠すべき映像ではない」というくらいらしい(参照)。
 この状態がもうしばらく続くか、あるいは職場から尖閣ビデオかその存在の痕跡が出てくるなら、話の様相は随分と変わる。この騒動が見せる絵は、向こうを向いた淑女ではなく大顔の老女の横顔であるかもしれない。


| | コメント (11) | トラックバック (1)

2010.11.09

アジア四か国訪問に向けた米国オバマ大統領の声明

 米国オバマ大統領は11月4日から14日にかけてアジア4カ国を訪問中だが、その目的説明として6日付けのニューヨークタイムズに「Exporting Our Way to Stability」(参照)の寄稿をしていた。ありきたりの話と言えないこともないが、中国を見事に無視した内容や日本について腫れ物に触るような扱い、さらには、米国大統領って私企業の社長さんですかといった印象が興味深い。本来ならニューヨークタイムズ紙への寄稿なので全文は好ましいものではないが、米国大統領はいわば世界の公人でもあり、日本への言及が少ないとはいえ日本の将来にも関わる内容でもあるので拙いながらに訳出してみた。

   ◇ ◇ ◇ ◇

Exporting Our Way to Stability
By BARACK OBAMA

安定に向けた米国方式の輸出
バラク・オバマ

AS the United States recovers from this recession, the biggest mistake we could make would be to rebuild our economy on the same pile of debt or the paper profits of financial speculation. We need to rebuild on a new, stronger foundation for economic growth. And part of that foundation involves doing what Americans have always done best: discovering, creating and building products that are sold all over the world.

米国が景気後退から脱するにつれ、米国民が犯しうる最大の錯誤が見える。それは従来通りに累積する赤字に頼むことや、投機で得られた数字上の利益で経済を再生しようとすることだ。米国民は経済成長のために新しく力強い経済成長の基盤を再構築する必要がある。その基盤には、米国民がつねに最善を尽くすことが含まれる。つまり、世界中に売れる製品を発明し、創造し、構築することだ。

We want to be known not just for what we consume, but for what we produce. And the more we export abroad, the more jobs we create in America. In fact, every $1 billion we export supports more than 5,000 jobs at home.

米国民が望むのは消費物によって名を広めるのではなく、生産物によってだ。米国民が海外輸出をすれば、米国の雇用は創出される。実際、10億ドル分の輸出によって5千人以上の国内雇用が生まれる。

It is for this reason that I set a goal of doubling America’s exports in the next five years. To do that, we need to find new customers in new markets for American-made goods. And some of the fastest-growing markets in the world are in Asia, where I’m traveling this week.

だから私は次の5年間のゴールに米国の輸出倍増を掲げた。そのため、米国製品の新市場で新顧客を見つける必要がある。そして世界でもっとも成長が速い市場はアジアにある。そこへ私は今週旅立つ。

It is hard to overstate the importance of Asia to our economic future. Asia is home to three of the world’s five largest economies, as well as a rapidly expanding middle class with rising incomes. My trip will therefore take me to four Asian democracies — India, Indonesia, South Korea and Japan — each of which is an important partner for the United States. I will also participate in two summit meetings — the Group of 20 industrialized nations and Asia-Pacific Economic Cooperation — that will focus on economic growth.

米国民の経済の未来にとってアジアが重要だと言っても過言にはならない。アジアは五大経済圏のうちの三つの基盤である。加えて、そこでは収入を増やす中間層の消費が拡大している。だから私の訪問先はアジアの四つの民主主義国である。つまり、インド、インドネシア、韓国、そして日本だ。この四か国はどれも米国の重要なパートナーである。加えて、二つの先進国会議に出席する。20か国地域首脳会合(G20)とアジア太平洋経済協力会議(APEC)である。この会議では経済成長に焦点を当てることになっている。

During my first visit to India, I will be joined by hundreds of American business leaders and their Indian counterparts to announce concrete progress toward our export goal — billions of dollars in contracts that will support tens of thousands of American jobs. We will also explore ways to reduce barriers to United States exports and increase access to the Indian market.

最初の訪問国インドでは、当地にいる数百名もの米国ビジネスマンとインド側の協調者と連名で具体的な米国の輸出目標を公開する。何億ドルもの商談によって何万もの米国雇用が支援される。また米国からの貿易の障壁を削減し、より多くインド市場を獲得できる手法を探求する。

Indonesia is a member of the G-20. Next year, it will assume the chairmanship of the Association of Southeast Asian Nations — a group whose members make up a market of more than 600 million people that is increasingly integrating into a free trade area, and to which the United States exports $80 billion in goods and services each year. My administration has deepened our engagement with Asean, and for the first eight months of 2010, exports of American goods to Indonesia increased by 47 percent from the same period in 2009. This is momentum that we will build on as we pursue a new comprehensive partnership between the United States and Indonesia.

インドネシアはG20のメンバーである。来年、同国は東南アジア諸国連合(ASEAN)の議長国となる。ASEANは6億人を擁する市場を構成し、刻々と自由市場に統合されている。ここに向けて、米国は毎年800億ドルの商品とサービスを輸出している。私の政権はアジアに深く関わってきた。2010年当初から8か月間、米国からインドネシアへの輸出は2009年に比べて47パーセント増加した。この傾向は、私たちの政権が米国とインドネシア間で包括的な協調関係を求めつつ今後形成する勢いによるものだ。

In South Korea, President Lee Myung-bak and I will work to complete a trade pact that could be worth tens of billions of dollars in increased exports and thousands of jobs for American workers. Other nations like Canada and members of the European Union are pursuing trade pacts with South Korea, and American businesses are losing opportunities to sell their products in this growing market. We used to be the top exporter to South Korea; now we are in fourth place and have seen our share of Korea’s imports drop in half over the last decade.

韓国では李明博大統領と私は貿易協定を締結する。協定により、何十億ドルもの輸出増加が生じ米国に数千の雇用が生じる。カナダや欧州連合(EU)の諸国も韓国と貿易協定を結ぼうとしているので、米国のビジネスマンはこの成長市場に商品を売りそびれている。米国はかつては韓国の輸入第一位だった。今や第四位である。しかも韓国における米国からの輸入シェアはこの10年で半減している。

But any agreement must come with the right terms. That’s why we’ll be looking to resolve outstanding issues on behalf of American exporters — including American automakers and workers. If we can, we’ll be able to complete an agreement that supports jobs and prosperity in America.

しかしどのような協定であれ公正な条項で構成されるべきだ。だから米国の輸出業者のために重要な問題を解こう。これには米国自動車企業とその従業者が含まれる。これが解決できて初めて貿易協定が締結され、米国に雇用と利益をもたらす。

South Korea is also the host of the G-20 economic forum, the organization that we have made the focal point for international economic cooperation. Last year, the nations of the G-20 worked together to halt the spread of the worst economic crisis since the 1930s. This year, our top priority is achieving strong, sustainable and balanced growth. This will require cooperation and responsibility from all nations — those with emerging economies and those with advanced economies; those running a deficit and those running a surplus.

韓国はまたG20の主催国でもある。G20では米国は国際的な経済協調の要ともなってきた。昨年、G20諸国は協力して1930年代以来最悪の経済危機拡散を阻止した。今年、私たちが優先するのは、強く継続的でバランスのとれた経済成長である。それには諸国の協調と責任分担が必要になるだろう。途上国も先進国も、また赤字国も黒字国も一緒にだ。

Finally, at the Asia-Pacific Economic Cooperation meeting in Japan, I will continue seeking new markets in Asia for American exports. We want to expand our trade relationships in the region, including through the Trans-Pacific Partnership, to make sure that we’re not ceding markets, exports and the jobs they support to other nations. We will also lay the groundwork for hosting the 2011 APEC meeting in Hawaii, the first such gathering on American soil since 1993.

旅の最後になる日本のAPECでも、米国の輸出のために新市場を求める。米国は通商関係をこの地域にまで広げたい。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の実施を含め、他国を支援することになる市場や輸出、雇用を米国が譲歩するわけではないことは明言しておきたい。また、1993年以来米国領で実施されるこの種類の国際会議として、2011年にハワイで開催予定のAPECの下準備もしておきたい。

The great challenge of our time is to make sure that America is ready to compete for the jobs and industries of the future. It can be tempting, in times of economic difficulty, to turn inward, away from trade and commerce with other nations. But in our interconnected world, that is not a path to growth, and that is not a path to jobs. We cannot be shut out of these markets. Our government, together with American businesses and workers, must take steps to promote and sell our goods and services abroad — particularly in Asia. That’s how we’ll create jobs, prosperity and an economy that’s built on a stronger foundation.

私たちの時代の大きな挑戦は、米国民が未来の雇用と産業に向けて競争する用意があると明確にすることだ。経済困難の時代には、他国との貿易や通商を避け、国内事情にかまけるようになるものだ。しかし、相互に結びついた私たちの世界では、国内事情にかまけることは成長の道ではない。私たちは外国市場から閉め出されてはならない。米国政府は、米国ビジネスマンや労働者とともに、商品やサービスの販売で海外に特にアジアに打って出なくてはならない。これが私たちの雇用と富と経済の創出手法である。これらは強固な基礎の上に築かれるものだ。


| | コメント (0) | トラックバック (1)

2010.11.08

どういう法的根拠でグーグルは尖閣ビデオ流出記録を開示するのだろうか

 政府が非公開とした尖閣ビデオがユーチューブに流出した問題で、検察が同サイトを運営するグーグルに対して投稿者の通信記録の開示を要請した。これに対してグーグルは「法律に基づく要請があれば、捜査に協力していく」と回答。さて、いったいどういう法的根拠だとグーグルは尖閣ビデオ流出投稿者記録を開示するだろうか。愚問かもしれないがわからない。存外に深い問題を秘めているかもしれないのでブログで愚考してみたい。
 尖閣ビデオ流出から三日以上も経ち、NHKの7時のニュースでも毎日報道され、それなりに流出の真相解明が進んでいるのかと思いきや、実際に流出映像が投稿されたユーチューブ側での解明は進んでいない。
 この件について今日のNHK「グーグル“捜査には協力”」(参照)はこう報道している。


この問題で検察当局は、衝突事件の映像が流された動画投稿サイトの「ユーチューブ」を運営するアメリカの大手ネット企業のグーグルに対し、投稿した人物に関する通信記録の提供を要請しました。グーグルの日本法人では、当局から要請があったかどうかについては、「個別の映像に関することはコメントできない」としたうえで「当局から法律に基づく要請があれば、捜査に協力していく」としています。

 現状の報道によれば検察からの投稿者情報の開示要請はあったらしい。だがユーチューブを運営するグーグルはその要請の有無すら回答していない。グーグルとしては運営上の一般論としては「当局から法律に基づく要請があれば、捜査に協力していく」とのことで、この報道からうかがい知る事実はこれだけのようだ。表題「グーグル“捜査には協力”」はクオーテーションマークが難しい意味を持っている。
 単純に疑問なのは、どのような法的根拠で検察はグーグルに開示を求めたのだろうかということだ。NHK情報だけからすると、もしかすると検察側の要請に対して法的根拠があるか判断が付きかねているという可能性もある。
 また同報道では海上保安庁側の削除要請も伝えている。

8日午前中の段階では、サイトに投稿された衝突事件の映像は、数百件から1000件以上に上るとみられ、この中には200万回以上閲覧された映像もあります。海上保安庁では、グーグルに対して、すべての映像の削除を要請しており、グーグルでは「サイトの規定に従って、映像に法令の違反などが確認されれば速やかに削除する」としています。

 ここでも法令違反があるかどうかが問われているものの判断が付きかねているのだろう。
 報道には含まれていないがコピー映像の拡散以外にも現在、これらを元にした二次情報も流布しており、その対応も気になるところだ。例えば、次のようなお笑い映像もあるがどのような対応になるのだろうか。

 これらも削除対象となるのであれば、この数日NHKの7時のニュースでユーチューブがソースであろうと思われる流出映像の報道についてNHK映像も削除対象になる。他にも、この映像を流用した報道メディアはなんらかの対応を取ることになる。例えば、毎日新聞では動画をスチルに分解にして二次的に公開していた(参照)。これがユーチューブと違うのはスチルの連写だからというのでは詭弁だろう。

 さらに疑問なのは、これらの流出映像が国家機密なりといったものであれば、二次的に公開してよいものなのだろうか。NHKなどマスメディアはこの流出映像の内容をどのような理由で公益性の高い電波を使って流布させたのだろうか。映像に収められた人びとの権利はどのように守られていたのだろうか。
 そのあたりの議論がなぜかマスメディアから出てこないように思われる。なんとも奇っ怪な風景だ。私の記憶によるのだが、IT関連の著述者でもある梅田望夫氏がもう5年以上も前だったと思うが自身のブログでユーチューブのリンクを貼ったおり、そのリンクにためらいも述べていた。当時はマスメディアがユーチューブ映像を参照することはいわば御法度といった空気があった。
 話を流出映像投稿者の情報開示がどのような法的根拠によるのかという疑問に戻そう。
 報道を見ていくとこの要請の遅れにはそれなりの段階が存在したようだ。今日付けの毎日新聞「尖閣映像流出:海保が告発 サイト記録差し押さえへ」(参照)より。


 一方、検察当局はコンピューターシステムに詳しい東京地検の事務官数人を那覇地検に派遣。映像データを保存していたサーバーのアクセス記録や公用パソコンの使用状況を解析したが、内部からの流出の形跡は確認できなかった。
 このため、捜査に切り替えて、ユーチューブを運営するグーグルの日本法人への照会などを行う必要があると判断した。那覇地検からの流出が完全には否定できないため、上級庁である福岡高検が捜査を指揮する見通し。
 検察関係者によると、福岡高検は既にサイトを運営するグーグル側に投稿者に関する記録を照会した。グーグル側が記録の任意提出は困難との立場を示したため、裁判所の令状を取って記録を差し押さえるとみられる。

 どうやら当初グーグルへの捜査は想定されておらず、その行き詰まりから、一旦は検察からグーグルへの開示要請したが、拒絶されていたようだ。
 そうしてみると先のNHK報道の文脈もより明確に見えてくる。つまり、この時点での検察による開示要請はなんら法的根拠のないものだったのだろう。事が日本のウェブ運営者であれば、検察が法的根拠なしでも開示要請すれば、ほいほいと従うという暗黙の慣例もあったのではないか。
 多少奇妙なのは、毎日新聞報道ではNHK報道とは異なり、すでに開示要請は終わり、裁判所令状による差し押さえ段階に入ったようなのだが、この毎日新聞報道の報道時刻は「2010年11月8日 11時41分(最終更新 11月8日 12時26分)」であるのに対して、NHKはその後の「11月8日 13時7分」である。後続のNHKの報道になぜ「差し押さえ」が含まれていないのだろうか。
 気になって関連NHK報道を見ると、11月8日4時10分に「動画投稿サイトに記録提供を要請」(参照)があり、この時点では開示要請を報道している。

検察当局は、内部調査では、調査の範囲が限定されることから、流出した経緯を解明するため、検察が8日から刑事事件として捜査に乗り出す方針です。那覇地検を管轄する福岡高等検察庁が捜査を指揮することになります。これに先立ち検察当局は、映像が流された動画投稿サイトの「ユーチューブ」を運営するアメリカの大手ネット企業の「グーグル」に対し、投稿した人物に関する記録の提供を要請しました。

 まとめると、検察は当初グーグルに任意開示を求めていたが、8日時点で尖閣ビデオ流出は刑事事件となり、このエントリーを書いている現在、毎日新聞報道では差し押さえに向かっているところだが、NHKとしては「差し押さえ」の報道はしていない。
 ここで素朴な疑問が浮かぶ。差し押さえ対象のユーチューブのサーバーはどこにあるのだろうか。簡単に思いつくのは米国ではないかという推定だが、まず日本にはないだろう。仮に米国だったとしてそのサーバー情報を日本の検察がどのように「差し押さえ」するのだろうか。なにか構図がシュールな印象を受ける。
 それ以前にどのような刑事事件なのだろうか。11月8日13時7分のNHK「“映像流出”検察が捜査開始」ではこう説明していた。

 この問題で最高検察庁の勝丸充啓公安部長は8日、記者会見し、「映像のデータが流出したという事案の性質上、できるだけ早く捜査に着手することが望ましい。最高検はきょう、福岡高等検察庁に対して直ちに捜査を着手するよう指示した」と述べ、国家公務員法の守秘義務違反の疑いなどで捜査を開始したことを明らかにしました

 「など」ってなんだと思うが朝日新聞記事「尖閣映像流出 海保が刑事告発 内部研修用に編集の跡」(参照)を見ると不正アクセス禁止法違反も挙げられているが、ここでも「不正アクセス禁止法違反など」となっている。「など」に終わりがない。印象としては、とにかく投稿者をとっ捕まえて後から罪状をくっつけてしまえ、どうせ投稿者はイカタコウイルスの作者みたいなもんだろ、罪状なんかどうでもいいよ、というような感じだ。
 さらに素朴な疑問が浮かぶ。投稿者は国家公務員なのか。それがわかっていない時点で、可能性からこんな捜査をしてよいのだろうか。いや海保と検察庁からの流出が疑われるのだから仮に捜査をそこから開始するのはよいとしよう。では、その捜査のために、ユーチューブのサーバーを差し押さえることは可能なのだろうか。
 論理的に考えれば、この刑事事件の枠組みでは流出映像の投稿者が公務員でなければならないのだが、そんな前提で刑事事件を組み立ててよいのだろうか。だらしない国家公務員のだらしなさにつけ込んだイカタコウイルスの作者みたいなもんだったら、この枠組みが成立するのだろうか。
 というところで、うっすら見えてくるのだが、もしこの流出先がユーチューブではなく、朝日新聞で公開されたらどうだっただろうか。米国の有名なリーク事件などは、ワシントン・ポストやニューヨークタイムズで公開されてきた。そしてその場合、報道の自由の問題が関わり、情報源の秘匿は前提とされた。
 現状のNHK報道などからうかがい知る印象では、ユーチューブつまりその親会社グーグルは報道機関ではないからというのが前提になっているし、暗黙のうちに投稿者はジャーナリストではないことになっている。
 しかし、そんな前提を暗黙に立てちゃっていいものだろうか。なるほどユーチューブでは報道に対する編集はしていない(広告は付けているけど)。だが、独自の判断で掲載の認可を行っている。つまり、ある情報が世界に報道されることについての責任の一端をグーグルは明確に担っているのはたしかだ。これは広義に報道であり、投稿者は広義にジャーナリストだろう。特定の個人の名誉毀損を狙った情報拡散ではなく、国家機密とされる情報の是非を国民に問うことにもなったのだから。
 あまり話を大げさにしたいわけでわけではないが、これは日本のジャーナリズムの危機なのではないか。であれば、民主主義の危機ではないのか。
 今回の流出に関連して、国家の情報管理の厳格化が求められているのだが、例えばこのニュースはどうなのだろうか。NHK11月8日12時13分「秘密保全法制のあり方検討へ」(参照)で、「仙谷」政権はこういう方向性を出している。

仙谷官房長官は衆議院予算委員会で、尖閣諸島沖での衝突事件の映像が流出した問題に関連して、「現在の秘密保全に関する法令の罰則では抑止力が必ずしも十分ではない」と述べたうえで、今後、守秘義務違反の罰則強化も含め、秘密保全に関する法制のあり方について検討を進める考えを示しました。

 もちろん、その必要はあるだろ。しかし今回の事例で言うなら、もしかするとこの情報は国民が知るべきものだったのかもしれない。ディープスロートからイランコントラ事件まで米国の現代史を見ていると、民主主義とリーク情報にはそうした微妙な関係がある。
 なのにこの「仙谷」政権は、脊髄反射的に、あるいはご主人様のご機嫌を損ねまいとする小姓のように、目先の取り繕いで厳罰化に走ろうとしている。この強権志向の姿勢はどうなんだろうか。これが自民党政権に変わって登場した民主党政権の姿なのか、あと何歩でスターリニズムに到達するだろうか、そんな懸念まで浮かぶ。
 私の考えでは、現段階では、グーグルは投稿者の情報開示に応じるべきではないと思う。この国は報道の自由を弾圧する中華人民共和国ではない。自由な情報を持ちうる日本国である。中国の情報弾圧に屈しなかったグーグルなのだから、中華風味の日本政府による情報弾圧があればはねのけてほしい。


| | コメント (20) | トラックバック (1)

2010.11.07

米国中間選挙の感想

 米国中間選挙で予想通り民主党が大敗したといってよいだろう。しかし、これで予想通りオバマ大統領がレイムダック化するかといえばそうとも言い難い。基本的に中間選挙は現職大統領に厳しい結果が出るものだし、ねじれ議会はむしろ普通ことだ。むしろ、これからようやくオバマ大統領の真価が問われる時代になった。ということで米国中間選挙はどちらかというと退屈なお話でもあるが、少し感想を書いておこう。
 米国の報道でもそして日本の報道でも選挙期間中ティーパーティーが話題になった。ペイリン氏が騒ぎ立てたこともあり、日米ともに基本的にリベラル寄りのメディアとしては当初また反動保守的な共和党か、アホのブッシュの再来かくらいに報じていたが、ティーパーティーが単に共和党の別動部隊ではなく反共和党的な性格も持ち合わせていることに気がついたとき、すでに何かが終わっていた。民主党のオバマ大統領もそれまで無視し続けていながら土壇場になってとってつけたようなティーパーティー批判をしたときはすでに遅すぎて滑稽な事態になっていた。ティーパーティーには確かに煽動された部分もあっただろうが、それが市民運動として定着してしまう米国民の国民気風というものがあった。
 そのあたり、ティーパーティーという文脈ではなく米国民の気風という観点だが、ワシントン・ポストのコラムニスト、クラウトハマー(Charles Krauthammer)が上手に表現していた。いわく、正常に戻っただけというのだ。「A return to the norm」(参照)より。


For all the turmoil, the spectacle, the churning - for all the old bulls slain and fuzzy-cheeked freshmen born - the great Republican wave of 2010 is simply a return to the norm. The tide had gone out; the tide came back. A center-right country restores the normal congressional map: a sea of interior red, bordered by blue coasts and dotted by blue islands of ethnic/urban density.

混乱、瞠目すべき光景、動顛、この手のお馴染みは屠られ、寝ぼけ顔の新人が現れた。共和党2010年の大潮流は簡素なまでに正常に戻った。波は去りそして戻る。中道右派のこの国は正常な議会勢力地図に戻った。赤(共和党)の内海を青(民主党)が縁取り、民族や都市によって青斑が見られる地図だ。

Or to put it numerically, the Republican wave of 2010 did little more than undo the two-stage Democratic wave of 2006-2008 in which the Democrats gained 54 House seats combined (precisely the size of the anti-Democratic wave of 1994). In 2010 the Democrats gave it all back, plus about an extra 10 seats or so for good - chastening - measure.

数字を挙げるなら、共和党2010年の波がしたことは、2006年から2008年にかけて二段階に来た民主党の波を打ち消したというくらいなものだ。かつて民主党は併せて54議席を得た(正確には反民主党1994年の波の大きさ)。2010年にはこれをすべて戻し、罰として10席上乗せした。


 文化戦争が続く米国ではこうした波があるものだとは言えるだろう。
 別の言い方をすると、中間選挙の結果は、そうした米国という国の内在的な歴史運動の正常の範囲内だったとも言える。他の数字からもそれは察せられる。6日付け時事「厚い「ワシントン政治」の壁=現職に逆風のはずが…再選率9割―米中間選挙」(参照)が上手に描いていた。

 現職議員への逆風が伝えられた2日投票の米中間選挙は、終わってみれば再選率が約9割に上り、通常とほぼ変わらない高水準を維持した。好転しない経済への国民の不満はオバマ政権だけでなく、政治の変革を求める「アンチ現職」の風となり、党派を超えて「ワシントン政治」を直撃したものの、現職の壁は予想以上に厚かった。
 5日現在、結果未定の州や選挙区を除き、上院選に出馬した現職22人のうち20人が当選し、再選率は91%。下院は385人中、87%に当たる334人が引き続き議席を得た。

 この傾向は今回に限らない。

 既存の政治体制に風穴を開けようとオバマ大統領が「チェンジ」を掲げた2年前も、再選率は上院83%、下院94%と現職がしぶとく生き残った。それ以前の10回の上下両院選の平均再選率はそれぞれ88、95%に達している。

 その意味では、誤差の範囲とまではいえなくても、数パーセントを動かせば全体の動向には大きな波の効果が出るとも言えるし、各候補にしてれみれば地味に有権者を引き留める努力だけがあるということなのだろう。
 他、ペイリン氏の動向だけ見れば以上の数値からも当然だがそれほど大きな運動に結集されたわけでもなく、今後の政局への直接的な影響は少ないだろう。むしろ、共和党の勢力が議会に復帰したことで、議論が促進され、内向きな民主党よりも国際政治に発言力が増してくるので日本にとっては好都合だろう。また、自由貿易も促進されるので、日本の環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)への態度も強く問われるようになるだろう。
 この点ではむしろオバマ政権は先行してクリントン外交を積極的に展開しているので、対外的な米国への国際支持は高まるだろうし、それを背景に対外的なレイムダック化は緩和されるだろう。ただ、内政や内政に関連する地球気候変動問題などは後退せざるを得ないだろう。


| | コメント (1) | トラックバック (1)

« 2010年10月31日 - 2010年11月6日 | トップページ | 2010年11月14日 - 2010年11月20日 »