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2010.01.22

「愛は花、君はその種子」と「The Rose」

 映画「おもひでぽろぽろ」(参照)は気になっていたが、DVDで見たのは最近のことだった。最近? いつだろうかと振り返ってみると2005年だったので、もう何年か経つ。

cover
おもひでぽろぽろ
 映画「おもひでぽろぽろ」は、主人公岡島タエ子が私に近い年でもあり、個人的にいろいろと思い出すことがある。ただ、彼女は1982年に27歳というから私より2つ年上なのか、この2年の差は大きくて、私自身の世代感覚と違うところもある。
 1955年から1959年くらいの、ここの年代生まれが、世代的に団塊世代から新人類世代への移行の空白の世代になるが、タエ子はどちらかというと団塊世代近くの側にいて、その分、映像的にも高畑勲の感性がそちらに寄り添っているようには思った。私は新人類側に近い。まあ、その話は別のエントリで書くかもしれない。
 映画「おもひでぽろぽろ」のエンディング映像は、衝撃的というのでもないが、淡々と見てきた最後になって、号泣した。なぜ自分が泣いているのかはそれなりに理解はしたものの、その感情の不意打ちには自分でもたじろいだ。映像もだが、歌「愛は花、君はその種子」(参照YouTube)の影響もある。都はるみの歌唱もすばらしい。

やさしさを押し流す
愛、それは川

魂を切り裂く
愛、それはナイフ

とめどない渇きが
愛だと言うけれど

愛は花、命の花
君はその種子


 「愛は花、君はその種子」には、Amanda McBroom作詞作曲の原曲「The Rose」があって、日本語の歌は高畑勲の訳詞だということになっている。
 「The Rose」(参照YouTube)は、ジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)をモデルにした同題の映画のエンディングの歌(参照)で、同映画で歌っているBette Midlerのものが有名だが、最近では、手嶌葵のカバー(参照)や、ソンミン(SunMin)のカバー(参照)もよく聞くようになった。
 「The Rose」は「愛は花、君はその種子」の原曲だから、歌詞も似ているのだが、このところ、なんどか手嶌やソンミンの歌を聴きながら、高畑の訳詞が誤訳だというのではないが、オリジナルの「The Rose」の歌詞(参照)とは違うものだなという感じがしてきた。自分の訳を添えてみる。

Some say love, it is a river
That drowns the tender reed

愛について、それは柔和な草を
水に沈める川だと言う人がいる

Some say love, it is a razor
That leaves your soul to bleed

愛について、それは魂から血を
滲ませるカミソリの刃だという人もいる

Some say love, it is a hunger
An endless aching need

愛について、それは空腹であり
終わりなく痛む切望だという人もいる

I say love, it is a flower
And you, its only seed

愛について、私は、それは花だと言おう
そして、君は、それを種でしかないと言うけど
そして、君がその唯一の種


 愛とはなにか。それを川やカミソリの刃や飢餓に例える人がいるが、詩人は、それらの意見をまったく否定はしないものの、それは花なのだと言う。
 詩人は誰に向かって、愛は花だというのか。いろいろと愛を例える人たちにではなく、Youと呼ばれる人にだ。このYouは「あなた」なのか、一般的「人」なのか。たぶん、詩人にとっての「あなた」であろうと思うし、結論から言えば、ジャニス・ジョプリンに模した薔薇(the Rose)という女性だろう。
 英詩であれれと思ったのは、"And you, its only seed"のところで、これは、"And you say love, its only seed"の略だろう。「君はその種子」ということではない。追記 コメント欄でご指摘いただきました。ここのところは誤解していました。「君はその種子」で正しい。
 そして英詩の構造上重要なのは、このitが、とりあえず「愛」を意味しているということだ。とりあえずというのは、ハイデガー的な言い方ではないが、「愛」が「種」の比喩という詩の言葉によって新しい存在とへ開示される、ある未定な状態でもあるからだ。
 高畑の訳詞では、この後にこう続く。

挫けるのを 恐れて
躍らない きみのこころ

 訳詞なので意味が含まれているとも言えるのだが、これからこの世界に開示される神秘としての「愛」のテーマとの関わりは読み取りづらい。
 が、オリジナルは、ここで、その展開が、「愛」と「種」を指すitでつながっている。あえて、つなげて訳してみよう。
 その前に、seedのイメージが重要になる。日本人は、種は芽生えるものとして最初からイメージしているが、ロングマンなどを引くとわかるが、"a small hard object produced by plants, from which a new plant of the same kind grows"とあるように、小さくて堅い殻に覆われて、縮こまった存在、という含みがある。

It's the heart, afraid of breaking
That never learns to dance

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、殻を割ってダンスを学ぼうとしない心

It's the dream, afraid of waking
That never takes the chance

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、目覚めて好機を掴もうとしない夢

It's the one who won't be taken
Who cannot seem to give

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、取られたくなくて与えようともしない人

And the soul, afraid of dying
That never learns to live

君は愛は小さく堅い種だと言う
それは、死ぬことを恐れて生きることを学ばない魂


 くどい訳だったけど、「あなた」の堅い殻に縮こまった種を、つぎつぎと比喩している部分だ。
 ついでなので最後まで。

When the night has been too lonely
And the road has been too long

夜がこれまでずっとさみしいとき
そして、道がこれまでずっと長いとき

And you think that love is
only for the lucky and the strong

そしてあなたが愛は
運のいい人や強い人だけものだと思うとき

Just remember in the winter
Far beneath the bitter snow

冬のつらく深い雪の下を
すこしばかり思い出してみて

Lies the seed
That with the sun's love, in the spring
Becomes the rose

あなたが愛だとしたその種はそこに居て
春の太陽の光のなかで
バラの花になる


 英詩の全体構造では、愛を定義していくのでもなく、愛が自明でもない。そうではなく、あなたと呼ばれる人が、愛を小さく堅い殻に閉じ込めていた種だとしていたことに対して、それが太陽のような愛によってバラの花に変わるのだということを伝えている。
 と、同時に詩のプロセスで、flowerはthe Roseになる。the Roseの定冠詞は、特定の何かを指しているのであり、ジャニス・ジョプリンのような「あなた」が太陽の愛に包まれてこの世界に現れたことを意味している。

おまけ。

「バラの花」 終風訳詩

草花を飲み尽くす
愛は川なのか
心に血を流す
愛はヤイバなのか
満たされることない
愛は願いなのか
愛は花だと私は言う
君はかけがえの種

踊ろうとしない心が
堅い殻に閉じこもる
チャンスを掴まないまま
種はまどろみつづける
与えることが怖くて
その実を結ばない
生きようとしない心は
死ぬことに怯える

さみしいままの夜
辿りつかない長い道
不幸や弱さに
くじけてしまうとき
雪の日を思ってみて
埋れていた種は
春の光の愛で
バラの花になる

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2010.01.21

フィナンシャルタイムズ曰く、鳩山が小沢の首を切ればいいじゃん

 愉快なフィナンシャルタイムズの日本政治の時間です。今回は19日付け「Ozawa destruction」(参照)。destruction、ディストラクション、なんでしょね、破壊、破滅、怖いですね。良い子は英語を勉強してインターネットの情報を読んでいけませんよ。では、さよなら、さよなら…
 というのもなんなので、また耳を傾けてみよう。「Ozawa destruction」は「小沢の崩壊」ではなく、「小沢の破壊行為」といった意味合いだ。


Not for nothing is Ichiro Ozawa known as “the destroyer”. The man who engineered the electoral destruction of the Liberal Democratic party, something he had been plotting for nearly 20 years, could easily end up performing the same service for his own Democratic Party of Japan.

小沢一郎はだてに「ザ・デストロイヤー」として知られているわけじゃない。この男は自民党選挙破壊の技術保持者でもあり、彼がこの20年間画策してきた成果は、今度は彼が所有する民主党にもたやすく適用され尽くすことになるだろう。


 日本でよく言われていることを外人さんも聞いてみましたふうのことではある。この出だしのあと、小沢氏の秘書(元秘書を含め)3名の逮捕と金権政治にさらりと触れて、現下の民主党の問題をこうまとめる。

The stench around Mr Ozawa is damaging a party that has presented itself as clean, policy-based government. That is why Mr Ozawa must either prove his innocence or withdraw from the scene.

小沢氏が漂わせる悪臭は、政治主導で清潔だとかのフリをしてきた民主党を腐らせつつある。だから、小沢氏は自身の無罪を証明するか、政治の場から引退するかしなければならない。


 小沢氏の疑惑の資金団体から2008年7月11日に50万円ほどだが受け取った山口二郎北海道大学教授ですら、当然お代分くらいは小沢氏を援護してみるものの、「そのためには、小沢は土地購入に関する資金の流れにやましい点はないことを積極的に立証しなければならない」(参照)と言うしかない状況になっている。ちなみに、翌日は寺島実郎氏にも同額。仲良し、友愛。
 そこでフィナンシャルタイムズはどう託宣するか。鳩山が小沢の首を切ればいいじゃん。なーんだ、コロンブスのゆで卵じゃん。

If Mr Ozawa quit – or, better yet, were fired by Yukio Hatoyama, the indecisive prime minister – the DPJ might gain a new lease of life. It certainly needs it. It has many other problems, not least a second political funding scandal around Mr Hatoyama himself.

小沢氏が辞任するか、それとも、もっとよいことだが、鳩山由紀夫が小沢氏の首を切ることができれば、まあ、この優柔不断な首相ではあるのだが、民主党も再出発の機運を得るかもしれない。いやマジ小沢の首切りが必要なんだってば。他の問題も山積みだし、すくなくともそれに続く、鳩山氏自身を巡る資金疑惑も控えているのだから。


 原文中の "It certainly needs it."は直訳すれば、「それ(小沢氏の解任)が確かに求められている」ということ。かなりきつい主張になっていて、小沢一郎を辞めさせることが民主党再生の道だという文脈上の意味になる。
 日本人の私からすると、政局的にはそうかもしれないけど、これは問題の事業仕分けが必要なところで、小沢疑惑は司法の問題であるし、鳩山氏の問題は司法的には終わって氏の頭のなかでは政治的にも終わったと誤認しているけど、こっちは政治の問題。つまりみんなで考えよう、鳩山さんが首相でいいのかよ問題。いずれにしても、国民にとって現下重要なのは、予算の成立。民主党がどうたらということは、国民にそれほど問題になるものでもない。
 それにしても、なんで、民主党はこんなことになってしまったのか、とフィナンシャルタイムズは見ているか。

The DPJ has got off to a poor start. It has dithered on foreign policy, annoying its allies in Washington who, to be fair, have been even more clumsy in adapting to a new government in Tokyo. But domestically, too, the DPJ has faltered. It has got into a tangle over fiscal policy, hastening the departure of Hirohisa Fujii as finance minister. The DPJ has also become beholden to minor coalition partners, who have hijacked policy areas such as financial regulation.

民主党は出だしからヘマだった。外交に迷走し、オバマ政権を困惑させた。まあ、公平にいうならオバマ政権も鳩山政権に慣れるのにヘマこいたほうが大きい。民主党の内政はというと、これもまた、ぶれまくった。経済政策はグダグダになり、藤井裕久財務相の辞任を早めた。しかも、金融緩和政策などの政策を乗っ取った、連合小政党にキンタマ握られているありさまだ。


 外人さんのせいか、藤井爺さん疲れたわい問題の背景はあまりご存じないようだし、米国にちょっと居丈高に振る舞うのは英国的ユーモアの部類。
 結末は細川政権をぶっ壊したのは小沢氏だったな(遠い目)といった懐古のあとに、それでも民主党にエールを送っている。何故?

Last year’s victory of the DPJ was a good thing for Japan. History must not be allowed to repeat itself.

昨年の民主党の勝利は日本にとってよいことだった。歴史は繰り返すというが、そうさせてはならない。


 政権交代ギャンブルやってみとか言っていた手前、そうバックれ見せているのか、本当に、小沢抜きの民主党政権を望んでいるのか。本音のところは、世界金融に日本が関わるシーンがないと読めませんな。では、さよなら、さよなら、さよなら。

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2010.01.20

ハイチ大震災

 日本時間13日6時53分(現地時間12日4時53分)、ハイチで起きたマグニチュード7.0の地震から1週間が経った。当初曖昧だった惨状もその後、刻々と明らかになってきている。震源は首都ポルトープランスの南西約15キロ、震源の深さは極めて浅く、約10キロである。


ハイチ地震震源

 ハイチはドミニカに接し、キューバにも近い。つまり、米国に近い位置にある。


ハイチの近隣国



中米におけるハイチ

 13日付けの読売新聞記事「ハイチの地震、専門家が事前に警告」(参照)では、この地震が予想されていたことを伝えている。


 【ワシントン=山田哲朗】米地質調査所(USGS)によると、ハイチの北方海域には、北米プレートとカリブプレートの境界があり、カリブプレートが東に年約2センチ・メートル動いている。
 プレートが押し合う場所にある日本列島と同様、プレートの力によって断層が生まれやすく、地震の多発地帯だ。
 ハイチには東西方向に走る大きな断層帯が2本あり、今回の地震は、南方の「エンリキロ断層」と呼ばれる横ずれ断層の東寄りの部分で起きた。
 この断層の付近では、1751年と70年を最後に、大きな地震は起きていなかったという。USGSの地震学者らは2008年、一帯の岩盤にひずみがたまっており、この力が一度に解放されれば最大でマグニチュード7・2の大地震が起きると警告していた

 具体的にどのような研究であったかについては、「Seismology of Haiti Earthquake」(参照)が詳しい。元になった論文「Interseismic Plate coupling and strain partitioning in the Northeastern Caribbean (2008)」(参照PDF)はオンラインで無料に読むことができる。


調査されていたハイチ断層

 地震が予想されていたならなんらかの対応はできなかったか。私の印象に過ぎないが、2つの理由で難しかっただろう。(1)予想されていても2年後であるとまでは予想できなかった、(2)対応ができる社会環境になかった。
 当然ながら問題は(2)になる。15日付けニューズウィークの寄稿記事「Averting Disaster」(参照)でもそこに焦点を当てていた。


The most shocking thing about the disaster in Haiti was not that it was so sudden, violent, and horrific in its human toll. It's that the damage was so predictable. Seismologists warned that the country was at risk as recently as two years ago. Haiti is also the latest in a string of nearly annual megadisasters extending back through the past decade, calamities claiming tens of thousands of lives more because poverty and the forces of nature met with foreseeably tragic consequences.

ハイチ災害において最も驚愕すべきことは、けして、それが突然であること、暴力的であること、犠牲者の惨状ではない。この被害が予測可能であったことだ。地震学者は2年前ほどの近年にこの国に警告を発していた。また過去10年間の大災害を並べてみると、ハイチでは、毎年のように大災害が近年に並ぶ。貧困と自然災害が予測可能な悲劇的結果と相まって数万人もの死者をもたらす惨事もそうだ。


 記事には個別の災害への言及はないが、例えば、2004年のハリケーン「ジーン」では、死者600人、行方不明者1000人に及んだ。2008年のハリケーン「ハンナ」でも500人近くの死者を出した。2008年には地震もないのに授業中に学校の校舎が倒壊し50人が死亡した。なお、日本でも民主党政権の事業仕分けで高校無料化に伴い、小中学校の耐震補強予算が削られている現在、地震時には日本でも同様の惨事が想定される。
 自然災害はあるがハイチという国家の問題もあることは明らかで、その歴史についてもいろいろと込み入っている。日本共産党の機関誌赤旗は16日の記事「ハイチ地震 未曽有の被害なぜ 米国の干渉で最貧国に」(参照)といった記事でざっくりとまとめてしまっているが、未来に目を向けたとき米国をバッシングして済むお話でもない。
 15日付けワシントンポスト社説「Averting chaos in Haiti」(参照)が指摘するように、ハイチは米国の支援なくしては存立できない。

More than 1 million Haitians, about a third of all adults, currently receive cash from relatives living abroad, most of them in the United States; those funds account for between a fifth and a third of Haiti's gross domestic product.

ハイチの成人人口の三分の一に相当する100万人もが、現状海外からの現金仕送りを受けている。その大半は米国からである。この仕送り額は、ハイチの国内総生産の五分の一から三分の一にまで及ぶ。


 災害援助や復興事業も大切だが、具体的に在米ハイチ人の就労を促進する課題を米国は担わされてきており、この問題が米国での報道に微妙な陰影を与えている。

Yet the Obama administration has balked at helping tens of thousands of Haitians currently here illegally by granting them temporary legal status, which would enable them to get work permits.

にもかかわらずオバマ政権は米国内の数万人もの不法滞在ハイチ人に、一時的な法的地位を与えることたじろいでいる。彼らに地位を与えれば、米国における就労が可能になるにもかかわらずだ。


 このあたりの機微は14日付けニューヨークタイムズ社説「Help Haitians Help Haiti」(参照)が詳しい。

Advocates for Haitian immigrants, whose diaspora is centered in Miami, have waged a long and fruitless campaign for protected status, arguing that remittances by Haitians in the United States are a vital source of aid --- more than $1 billion each year. Now that Haiti has suffered its worst disaster in centuries, the argument for a temporary amnesty is overwhelming.

マイアミを居留地とするハイチ移民の支援市民団体は、年間10億ドルに及ぶ在米ハイチ人の送金に生死を分ける重要性があるとして、彼らの法的地位獲得の運動を行っているが、実を結んでいない。ましていまや、ハイチは数世紀間に類を見ない最悪の災害で苦しんでいる。一時的であれ恩赦を与える議論は圧倒的と言える。

It was not enough for the administration to announce this week that the Department of Homeland Security would halt the pending deportations of the 30,000 or so undocumented Haitians. Burdening a collapsed country with destitute deportees would be a true crime. But all that does is leave the potential deportees in limbo, unable to work without fear.

今週になってオバマ政権は、米国国土安全保障省から、懸案だった3万人ほどのハイチ不法移民追放を停止するとしたが、それだけでは十分ではない。困窮した祖国喪失民に崩壊した国家の重荷を負わせるのは、まさしく犯罪であろう。こうした対処では、祖国喪失民を辺獄に置き去りにし、恐れなく労働することを不可能にする。


 ハイチ地震災害の復興には、日本を含めた諸外国の協力も必要だが、現実問題としては、米国はハイチ移民をより積極的に受け入れていくという方向を取らざるをえない。
 そしてそれが何をもたらすかは、もういちどハイチが置かれている地域を眺めると、うっすらともう少し先の未来も見えてくる。

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2010.01.19

小沢氏の民主党大会での説明は嘘だったか

 今朝の産経新聞一面を読んで、久々に、「まいったな、これは」と思った。
 小沢疑惑が騒がれているわりには、報道では年末年始ごろのリーク情報から進展しておらず、現状では普通に考えたら、弁護士でもある福島瑞穂社民党首の言うように「これが政治資金規正法の事件なのか、贈収賄事件までいくのか、今の報道だけではすべての証拠を見ているわけではないのでわからない」(参照)といったところで、であれば小沢議員逮捕という筋は、「まあ、ないだろう」というのが妥当な見方だ。そもそもカネに色は付いてないのだから、小沢氏個人のカネであろうがマネロンのような銀行迂回でも収支が合っていたら、「計算上のミスやら、そういったものは、あったかもしれませんけれども、意図的に、法律に反するような行為はしていない」(参照)というので民主党内が小沢氏と一蓮托生となるのもむべなるかな、である。
 が、いや、今朝の産経新聞記事「小沢氏説明の銀行出金は原資に足らない3億円 聴取応じる意向」(参照)の話が本当なら、収賄事件にならなくても、個人的には、小沢氏は終わったなと思った。というか、私の小沢氏観が変わる。言うまでもないが、私は長年小沢氏のシンパであるし、日本に政権交代を望んできたものだった。氏は毀誉褒貶はあったが、長年見ているならそれなりの筋を通してきた大政治家であるなと学んできたものだった。私が昨年の政権交代を是認できなかったのは、この経済危機の時期にまるでその認識もなく、しかも古色蒼然のマニフェストを強行するのは、やめとけという思いだった。ただ、世間の空気はもうどうすることもできず、フィナンシャルタイムズ紙もヤブレカブレの茶々を投げていたのを面白おかしく傍観するしかなかった。
 今朝の一面の産経記事だが、そのネタは昨日のエントリ「小沢疑惑について各種マスコミの印象: 極東ブログ」(参照)でふれたNHKネタを今更出してきたかと、当初思えた。


 民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる政治資金規正法違反事件で、小沢氏側が土地代金の原資4億円に充てたと説明した信託銀行の口座から引き出された金額は約3億円で原資に足りないことが18日、関係者への取材で分かった。

 やっぱりな、NHKのほうが正確ではないかと。ところがこの先にこういう情報がついていて、唖然とした。

小沢氏は出金の翌年、妻名義で3億5千万円の融資を受けていたことも判明。多額の手持ち資金がありながら金利負担が生じる融資は不自然とみられる。東京地検特捜部は小沢氏に参考人聴取を再要請し、小沢氏も聴取に応じる意向を示していることが同日、明らかになった。

 つまり、産経報道が正しければという留保がつくが、石川容疑者が語っていたこともまた事実であったようだ。つまり、疑惑の小沢マネーはここでも二重化されていたことになる。
 民主党大会での小沢氏の話では、検察にも通知した口座から、平成10年にカネを下ろし、6年間箪笥に入れ、そして小沢ハウスの資金の4億円に当てたということだった。同記事はこう話をつなげていく。

 ところが、小沢氏は翌11年8月、東京都世田谷区深沢の自宅隣地約567平方メートルを妻名義で購入していた。登記簿によると、土地を担保に都市銀行から約3億5千万円の融資を受け、19年3月に抵当権が解除されている。融資返済に伴う金利負担は年約700万円近くで、利子の総額は計5千万円余りに上る計算だ。
 小沢氏側が主張する通りなら、自宅で保管している約3億円を使わず、わざわざ銀行から多額の金利負担が生じる融資を受けて妻名義で土地を購入するのは不自然といえる。
 約3億円は土地購入原資の4億円に満たないことや出金から土地購入まで6年間も経過していることなどから、特捜部は、小沢氏側が主張する約3億円が16年の土地代金の原資となった可能性は低く、小沢氏が虚偽の説明をした疑いもあるとみている。

 小沢氏側の理屈を想像すると、平成11年の3.5億円は妻名義で別途土地を買うために当てたもので、現下問題視されている4億円とは話が別で、こちらはあくまで箪笥預金の3億円だったということになるだろう、1億円の辻褄は合わないにせよ。
 いや、その強弁は常識的に考えて無理でしょ。「特捜部は、小沢氏側が主張する約3億円が16年の土地代金の原資となった可能性は低」い、と疑念を持つのは不思議ではないし、私が、「まいったな、これは」と思ったのは、検察の疑念が妥当なら、小沢氏の民主党大会での説明は嘘だということになるからだ。
 法に触れるかどうかはわからないが、同士に嘘をついちゃいかんだろ、と思った。いや、本当のところは、鳩山首相や輿石東参院議員会長には伝えてあるのかもしれないが、平信者には知らせず平信者はずっと教祖様は正しいと思っているというのは、阪神大震災と同年の事件の図柄によく似ている。
 もちろん、こうした情報のリークの仕方に検察による巧妙な罠 --- 最初から小沢氏に妻名義の別融資があるのを知っていて小沢氏を追い込んだ ---- というのもあるかもしれないが、しかし、小沢氏がそのまま追い込まれて嘘かもしれないような話を言う必要などなかった。
 私の政治資金規正法の理解は間違っているかもしれないが、資産の記載については話は別として、小沢氏の個人マネーが何に由来するかについてだけいうなら、法的には、平成10年の箪笥預金であろうが、平成11年の融資であろうが、別段問題はないだろうし、また「計算上のミスやら、そういったもの」という話にもなるのかもしれない。しかし、党大会での説明が嘘だったいうなら、同士を騙したということにはなる。それとも、民主党内では「あれはね、党外向けのお芝居なんですよ。党員はみんな了解しています」ということだろうか。まさか。そうなら、党一丸となって国民を騙していたことになってしまう。
 今日付の読売新聞記事「小沢氏、東京地検の聴取応じる方向」(参照)によれば、小沢氏は「東京地検特捜部の参考人聴取に応じる方向で検討を始めた」とのことだ。何が事実であるかということは、検察と小沢氏の妥協のなかでこれから生まれてくるだろう。私は鳩山首相のように妥協が生まれる前から「小沢氏信頼」でかつ「検察信じる」(参照)という「二重思考」(参照)は苦手なので、その妥協から生まれた「事実」が党大会で小沢氏が述べた話と「計算上のミス」で整合が付くだろうかに関心がある。
 昨日のエントリで、私は産経新聞について日刊ゲンダイ風のタブロイド紙のような印象を持つとした。確かに今日の記事「秘書を接待漬け “実弾”攻勢」(参照)などからはそういう印象を受ける。だが、一面トップの今回の記事はジャーナリズムに値するものだった。

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2010.01.18

小沢疑惑について各種マスコミの印象

 小沢疑惑をめぐり、検察リークや各種のつてからの報道が錯綜している。ざっとしか見回していないのだが、同じ内容と思われる話や、同一テーマと思える対象への解説などで、報道社ごとにそれぞれ微妙な違いがあり、なんとなく心に沈んでくる印象がある。あくまで個人的な印象だが、一市民の感覚として書いておきたい。
 小沢疑惑について一番正確で問題の核心をうまくついているのはNHKのようだ。独自のソースもあるだろうが解説委員らの長年の研鑽も大きいようにも思われる。NHKはよくバッシングされるし、経緯の上から朝日新聞と反目している部分もあるだろうが、私の印象ではもっとも公平にも思える。
 NHKが際立った例として、二点挙げたい。まず、疑惑の4億円の口座についてだが、小沢氏が主張する自己の口座からの引き出しについては、うち3億円について、NHKが他に先行して報道している。他のソースでは見かけたことがないので、NHKの誤報の可能性もあるが、経緯からみておそらく正しいだろう。17日付け「口座から引き出しは3億円余」(参照)より。


関係者によりますと、この4億円について、石川議員は特捜部の調べに、「小沢氏から借りたものだ」と供述しているということです。また、小沢氏は16日、民主党の党大会で、「土地の購入の際、何ら不正なカネを使っているわけではない。私どもが積み立ててきた個人の資金で、金融機関の名前、支店名もはっきり申し上げ、検察当局でお調べくださいと返答した。その後、検察当局からその預金口座の書類は入手したと返答があり、この資金についての疑いは晴れたと考え、安心していた」と述べました。関係者によりますと、特捜部が小沢氏側の説明に基づいて該当する信託銀行の口座を調べたところ、土地を購入する6年前の平成10年ごろ、あわせて3億円余りが引き出されていたことがわかりました。特捜部は、土地の購入資金に充てられた4億円のうち、残りの1億円近くをどのように工面したのか説明を求めるため、引き続き小沢氏本人に参考人として事情聴取に応じるよう要請しています。

 小沢氏が党大会で述べた話は、4億円中3億円については小沢氏の説明どおり検察側で確認していたことになる。
 別の言い方をすると、小沢氏がこの説明をするまで検察側はこの情報を隠していたことなり、検察側としては小沢氏との駆け引きもあったのかもしれない。疑惑は1億円であるにもかかわらず4億円と見せかける情報操作をしていたとも言えるだろう。
 私の興味は、この小沢氏発言の裏を検察が確認していることをNHKがどの時点で知ったかである。これは推察なのだが、民主党大会前に知っていたのではないか。というのは、このNHK報道を知ってから、「小沢氏土地疑惑へ強制捜査: 極東ブログ」(参照)で触れたNHKの要点がようやく理解できた。NHKは13日に現下の小沢疑惑を4点にまとめていた。

  1. なぜ複数の口座に
  2. 4億円の融資
  3. 土地購入の時期
  4. 資金をどう捻出

 私としては、「なぜ複数の口座に」が筆頭で「資金をどう捻出」が最後に来るのは、あの時点ではおかしいのではないか、疑惑は「資金をどう捻出」が中心ではないかと思っていた。
 しかし、疑惑の4億円中3億円が小沢氏自己資金であるなら、1億円の追跡こそが問題になる。そしてその1億円中の半分の5000万円は水谷建設に由来する疑念があり、このカネの混入はまさに「なぜ複数の口座に」に関連してくる。NHK報道の当初の見立てに整合性が高い。これが後からわかったことだが、二点目になる。
 なお、この見立てだと、小沢氏は疑惑の4億円ではなく、当初から3億円であり、石川容疑者による口座分散のプロセスで4億円に膨れたのかもしれない。また、小沢氏個人の資金、通称深沢銀行(参照)由来とされる3億円だが、昨日付読売新聞記事「小沢氏発言に疑問…4億円は自己資金?預金は?」(参照)によると過去の収支報告書との整合は取れそうにない。また、6年間もの深沢箪笥銀行も常識的には理解しがたい。ただし、この3億円自体に検察の目が向いているのではなさそうだ。ついでに言うと、小沢氏の説明を民主党が党一丸で受け入れた背景には、鳩山首相と、実際のところ小沢氏に次ぐ権力を持つ輿石東参院議員会長への、小沢氏の独自の情報開示と戦略があるのだろう。
 他の報道では、野党に下野したという産経新聞記事は面白いが、事実の核となる部分はそれほど大きくはなく、産経新聞の解釈がかなり入り込むので日刊ゲンダイのようなタブロイド紙を読むような心構えは必要だろう。毎日新聞は産経新聞とは方向性が違うが、事実の核となる部分より解説に重点が置かれている印象が強い。
 読売新聞は産経新聞をやや薄めた感がある。読売新聞は日本のジャーナリズムでは政局の当事者側に位置していることもあって、報道はその政治的なスタンスと共鳴していることが多い。小沢氏の今後の権力維持を見込んでいるような印象を受け、中立性というより空気を読みつつ報道しているように見受けられる。
 朝日新聞の報道は、いわゆる民主党シンパと見られることが多いが、こと小沢疑惑についてはそうした偏りはないようだ。偏りがあるとすれば、小沢後の民主党を見据えてという印象を受ける。小沢疑惑についてはおそらく社内でいろいろ伝達の工夫が検討されているのだろう。報道も概ね正確に見えるが、先のNHK報道と比較すると、検察リーク的な情報の解説という印象が強い。
 今回の疑惑で意外な印象を受けるのが東京新聞(中日新聞)だ。独自のソースがあるのだろうか、他紙に先立って情報が流れることがあるような印象がある。「年明け早々から多発するカネを巡る小沢疑惑: 極東ブログ」(参照)で今回の小沢疑惑の直接的な関連はないだろうとしたものの、「藤井財務相(77)はなぜ辞任したのか?: 極東ブログ」(参照)で触れた藤井元財務相にまつわる疑惑のカネだが、東京新聞は元旦記事「小沢氏関連団体 数カ月で15億円出入金」(参照)で触れていた。これはその後、15日の産経新聞記事「小沢氏団体に15億円 旧自由党資金 藤井前財務相あて助成金装い」(参照)にも現れ、なぜか昨晩共同通信から「小沢氏団体に簿外15億円 旧自由党への交付金還流か」(参照)として出て来た。このあたりの、報道の背景がどうなっているのか奇妙な印象を受ける。自民党筋であろうか。
 共同通信の報道が微妙な鈍さをもっているの対比して、時事通信は速い。たとえば「水谷建設幹部の名刺押収=石川議員事務所から-「裏献金手渡し役」・東京地検」(参照)も他報道に比べて早い(ただし、この話は毎日新聞も同じ)。小沢疑惑に限らないが、このところ時事通信の記事が早いように思われる。私の印象にすぎないが、他大手紙ではどのような報道にするかスタンスを思案している遅れの差ではないか。
 今回の疑惑の4億円を巡る小沢疑惑だが、検察リークのあり方も問われるが、個々の報道の錯綜も非常に興味深い。

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