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2010.06.19

[書評]クラウド誕生 セールスフォース・ドットコム物語(マーク・ベニオフ、カーリー・アドラー)

 自分の人生の時間に歴史の暴風が通り過ぎることがある。しかし幸か不幸か巻き込まれもせず私は取り残される。そのことを確認するために静かに本を読む。心を静めるために。セールスフォース・ドットコムとマーク・ベニオ氏の物語「クラウド誕生」(参照)を私はそう読み始めた。しかし、心揺すぶられる物語だった。

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クラウド誕生
セールスフォース・ドットコム物語
マーク・ベニオフ
カーリー・アドラー
 1964年9月生まれのマーク・ベニオ氏は、34歳の1999年3月、サンフランシスコの、ベッドが1つしかついていない賃貸アパートの1室でセールスフォース・ドットコム(Salseforce.com)を起業した。社員は3人のエンジニア。事務机もない。トランプ台と折りたたみ椅子で間に合わせた。窓からは美しいベイブリッジが見えた。壁には、ダライラマとアインシュタインの白黒写真を貼った。"Think Different(違う考え方をせよ)"と小さく隅に書かれているアップルのポスターである。
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 ベニオフは、ソフトウエア産業の未来に業界とは違う考えかたを持っていた。ソフトウエア禁止(NO SOFTWARE)、そう考えた。マイクロソフトのようにソフトエアを開発しパッケージに入れて売り、バージョンアップごとにカネを取る、そんなソフトウエアをやめにしよう。まだ世界にはないクラウド・コンピューティングのビジネスを思い描いた。10年後、彼の企業は年間1000億円近い売上げを出すまでに成長する。
 ベニオフ氏の父は婦人服チェーンを経営していた。祖父は弁護士事務所を経営する傍ら、サンフランシスコ・ベイエリアの高速鉄道BARTを設立した。子供の頃からそういう父と祖父を見てきたベニオフ氏は、起業家になることを幼い頃から夢見ていた。本書には書かれていないが、名前から察するにユダヤ人であろう。共著ジャーナリストのアドラー氏もまた。
 少年時代、祖父の家の近くの家電店で初期のパソコンとして有名なTRS-80に触れることが楽しかったとある。店舗名は書かれていないが、同時代を生きた私はタンディ・ラジオシャックだと知っている。
 ベニオフ氏は15歳で、ゲーム志向の強いパソコンAtari800用のゲームソフトを作り、販売することにした。BGM作曲は祖母に頼んだ。少年ながらリバティ・ソフトウエアという名の企業を起こした。16歳で月1500ドルの収入を得て、車を買い、大学の授業料にも充てた。大学では寮生活をしながら、リバティ・ソフトウエア社を続けていた。
 1984年の夏、アップルのアルバイトでプログラムをしつつ、スティーブ・ジョッブズ氏の謦咳に触れるものの、翌年、光は消えた。アップルの消沈した変化から企業におけるリーダーシップの重要性をベニオフ氏は知った。いかにビジネスをするか。大学の教授からは、本格的な起業をするにもまず現実のビジネス経験をしておくとよいとアドバイスされた。
 勤めたのは社員200人ほどのオラクル。今度はラリー・エリソン氏の指導を受ける。10年間オラクルに勤めた後、半年にわたる人生の休暇を取り、ハワイやインドを旅して、それから心に決めたセールスフォース・ドットコムを立ち上げた。
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Behind the Cloud:
The Untold Story of
How Salesforce.com Went
from Idea to Billion-Dollar Company
and Revolutionized an Industry
Marc Benioff, Carlye Adler
 オリジナルのタイトル「Behind the Cloud」(参照)には、詩人ジョン・ミルトンに由来とするされることわざ"Every cloud has a silver lining(すべて雲は銀色の裏地を持っている)" が潜んでいる。クラウドの困難さの裏の希望が語られている。
 その後のビジネスには失敗や危機もあったが乗り越え、急速な成長も遂げた。詳細が本書で詳しく描かれている。ここまでビジネスの要諦を明かしてもよいものかというくらい、率直に語られている。読みながら、私は、セールスフォース・ドットコムではないが、そういえば、米国企業の、あの会社もこの会社もなぜああいう戦略を採っていたのかと思いだし得心した。現代のビジネスというのはこうしてやるものか。セールスフォース・ドットコムが日本に乗り出す戦略も興味深い。

 本書は一章を充てて、社会貢献活動が語られている。こうした話は、体のいい美談で終わることが多いものだ。儲けたお金を慈善的な活動に回すことや、社員の社会貢献ボランティア活動を会社業務に組み込んだりすることは今や他の企業でも見られる。だが、ここでもベニオフ氏の情熱を知る。世の中を変えたいという子供だちの希望が大人を動かすのだという。ベニオフ氏自身が少年時代から起業した経験を持っているからだろう。高校生を対象に起業するための特別な教育プログラムも実施し、こう語る。


 このプログラムを主催するのは本当に楽しいし、若者のエネルギーが事務所を活気づけさせてくれるのも気に入っている。しかし、一方で私たちはこのプログラムに真剣に取り組んでいるし、生徒にも本当に会社を経営するような気持ちで参加してもらっている。生徒たちには指導者として、当社の社員を割り当てている。社員は仕事上のネットワークや社会でのネットワークを作るのを手伝ったり、学校の宿題や大学入試を手伝ったりしている。指導者から期待されると、生徒もそれに応えようとする。彼らはこのプログラムからビジネススキルや技術スキルを学ぶだけでなく、大きな自信をつけて帰るのである。

 そういうことが日本でも起きないだろうか。いや、そういうことを起こそうとすることが、これからの日本の起業家の役割なのだ。
 本書は一見すると成功物語であり、ビジネス啓蒙書を装っている。しかし、そんなちゃちな本ではない。未来の起業家がどうあるべきかという課題を一人一人の魂に突きつけてくる書籍である。

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2010.06.18

菅政権はいかにして鳩山政権のように自爆するか

 選挙看板の伊達男、菅直人首相は看板らしく、中身はなかった。予算委員会を開くことなく通常国会を閉会させたので、自爆するなら、参院選後ということになる。
 粗方の予想では、悪夢のような鳩山政権が消滅したことの安堵感と、自民党のへたれさ加減で民主党の人気が持ち直しているので、参院選では民主党の過半数維持もできそうだ。
 かくして、マニフェスト詐欺放置で水増ししたままの衆院に加え、参院を固めると小沢元幹事長の夢だった民主党政権による独裁ができあがる。めでたしめでたしというところだが、さすがにほいじゃと小沢さんがすぐに復帰するとも思えない。
 では当面、民主党盤石かというと、菅政権も鳩山政権のように自爆する可能性がある。
 政権交代とやらの一か月前から、鳩山政権では普天間基地問題は失敗するだろうと予想はしていたものの(参照)、それが地雷になって政権が吹っ飛ぶとまでは予想が付かなかった。その意味でいうと、菅政権の地雷は爆発することは間違いないが、菅政権が吹っ飛ぶことになるかまでは、まだ見えない。果てしない混迷しか後がないという点からすると、自爆されても困るなとは思うが、着々と自爆の道を歩んでいるように見える。
 今日の大手紙社説なども、菅政権によるマニフェスト変更は批判するし、増税路線の具体性についても厳しく問うているが、増税には万歳三唱である。朝日新聞まで増税万歳となっていた。朝日新聞社説「参院選マニフェスト―「消費税タブー」を超えて」(参照)より。


 消費増税は単なる財政再建の手段ではない。ほころんだ社会保障を立て直して安心と成長につなげていく道であり、国の基本設計にかかわる課題だ。選挙後ただちに超党派の検討の場を設け、早急に方向を定めるべきだ。
 有権者に甘い言葉をささやき、票を得る。長く続いた利益誘導政治から、負担の分かち合いを正面から呼びかける政治へと、今回を機に大きく転換させたい。

 他大手紙も似たような論調で、戦前戦中の大政翼賛会の空気って、実感としてはこんなもんだったのではないかと背筋がぞっとする。
 すでに識者からの指摘もあるが、大手紙社説の論調は間違っている。笹山登生先生のツイート(参照)にもあったが、デフレ状態で消費税を増税すれば、国民の富が国家にずるっとシフトするだけになる。「デフレ不況 日本銀行の大罪」(参照)で舌鋒冴える田中秀臣先生のツイート(参照)も端的に事態を示している。現状の増税では、単に官僚が自由に使えるお金を増やすだけに終わる。国民もこうした菅内閣の詐術に気がついていると、思いたいところだ。
 しかし、どういう意見があろうが、デフレ時に増税をすれば経済はへこむ。経済学にはいろいろな考えがあるが、短期的に見るかぎり、これは物理法則と同じレベルの問題だ。意見が分かれるとすれば、中長期的に見れば、ということで、増税の第三の道で日本が再生するとかまったく無理というものでもないだろう。
 問題は、短期的に経済がへこんだとき、日本国民は菅さんを信頼できるのか?ということだ。それができるなら、地雷は起爆しない。
 橋本内閣では起爆した。故橋本龍太郎首相は、当時3パーセントの消費税を5パーセントに引き上げて財政再建を目論み、玉砕した。税収は12パーセント落ち込み、結局国はさらなる国債発行に追い詰められた。橋本さんは、官僚にだまされたと後悔したという噂もある。橋本さんに国民の強い信頼があったらどうだだっただろうか。つまり、今回は菅さんでそれを実験してみるということなんだろう。
 ダメだと思う。
 ポール・スカリーズ(Paul J. Scalise)氏の16日付けニューズウィーク寄稿「Kan’s Megaproblem」(参照)は、この問題を論じている。菅氏の政権について。

How long he will remain in office is anyone’s guess, but one thing is certain: trying to solve government finances could be for this premier the same kind of career killer that the Futenma base-relocation issue was for the last one.

彼がどれだけの期間政権にいられるか人それぞれ思うところは違うだろうが、確かなことが一つある。菅首相が国家財政問題を解こうすれば、前任者の普天間基地移転問題と同様に、職務失墜となるだろう。


 そうならないための解決について、スカリーズ氏も日銀を動かすしかないだろうと説くが。

But to achieve this, Kan needs to persuade the Bank of Japan to print more money—something he failed to achieve as finance minister.

この達成(日本の経済再生)には、菅は日銀を説得してもっと札を刷らせなくてはならない。だが、彼は財務相のときこれに失敗しているのである。

This leaves Kan no other choice but to adopt LDP-style political theater: Reconvene previously abolished party-policy councils. Discuss raising the consumption tax (again). And talk, talk, talk. Welcome to the new government.

菅に残された道は、自民党流の劇場政治の宰相しかない。一度は廃止にした政調の復活だ。そこでまたまた消費税上税を議論する。そして、しゃべって、しゃべってしゃべりまくる。ようこそ、新しい政治へ。


 菅氏は財務相時代に金融緩和策に失敗しているのだとスカリーズ氏は見ている。ここは多少微妙かもしれない。私はそもそもそんな能力、菅さんにはないと思っている。しかし、結論は同じ。自民党流の劇場政治で増税をしゃべりまくるしかないだろう。大手紙も同調しているし、しゃべり甲斐がある。戦時体制みたいだが。
 かくして、痛みによく耐えた、という劇場政治の再現で、菅政権は生き延びるのだろうか。
 それだけのカリスマが菅氏にないことはすでに証明済みのようにも思える、ということは、この政権も自爆で短命に終わる可能性が高いということだ。
 別段、こんな政権終わってしまえとかまでは、まるで思わない。それでも、ハリ・セルダンの心理歴史学で決まったコースを日本帝国が取るのを見ているだけの無力感に襲われる。あー、小説では帝国の再生であったな。

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2010.06.17

キルギス南部民族衝突の背景

 10日夜、キルギス南部オシから発生したキルギス系住民とウズベク系住民の民族衝突は、その後13日、同じく南部でオシとも近いジャラルアバドにも拡大し、深刻な人道被害をもたらすようになった。死者数は200人程度との発表や700人を超えるという発表もあり、真相はわからない。16日に、ようやく人道支援物資を積んだロシア非常事態省の航空機が首都ビシケクに入り、人道支援が開始されようとしている(参照
 この騒動は何か? 「キルギス、バキエフ政権崩壊、雑感: 極東ブログ」(参照)でも触れたように、バキエフ前大統領は南部に逃走し、さらにベラルーシへ亡命した。バキエフ政権崩壊後の現状は臨時政府がキルギスを統治しているのだが、政権側は今回の騒動をバキエフ氏側の活動によるものと見ている。16日付け朝日新聞「バキエフ氏派、騒乱関与を供述 キルギス臨時政府が発表」(参照)より。


臨時政府は、騒乱を組織した疑いで逮捕したバキエフ前大統領支持者が、容疑を認める供述を始めたと発表した。


また、騒乱の現場に外国の雇い兵や狙撃手がいたとの情報から、「背後に外部勢力が関与している」との見方を示した。

 キルギス国外にいるバキエフ氏の次男マキシム氏の関与も疑われている。16日付け毎日新聞「キルギス:民族衝突 ウズベク、難民受け入れを停止 死者178人に」(参照)より。

一方、キルギス臨時政府は14日、バキエフ前大統領の次男マキシム氏が英国で逮捕されたことを明らかにした。臨時政府は、マキシム氏が民族衝突をあおるために資金提供していたと見ており、責任追及する方針だ。同氏は、ロシアからの融資を横領した疑いを持たれている。

 日本国内の報道でマキシム氏について言及しているのはこの毎日新聞記事のみようだが、16日付け英国インデペンデント「Kyrgyzstan tells Britain to hand over Bakiyev's son」(参照)は亡命の関係国と目されていることもからも、もう少し詳しく掘り下げている。が、マキシム氏の争乱との関与が明確になっているとは言えない。
 キルギスの争乱は、バキエフ氏側の活動によるもだろうか?
 状況から考えてその線が濃いだろうと思われてもしかたがない。
 ロシア問題に詳しい石川一洋NHK解説委員は、バキエフ氏側の示唆はないものの、争乱は民族的な対立から自然発生したのではなく、外部の要因が強いのではないかと見ていた。時論公論「緊迫するキルギス情勢」(参照)より。

 一つはウズベク人の多く住む地域を襲った集団が、単なる暴徒ではなくカラシニコフなどで武装し、組織された集団だったということです。治安部隊や消火にきた消防隊も銃撃され死者が出たと伝えられ、また軍の駐屯地も襲われています。またオシに治安部隊や軍隊が入ると、武装した集団がジャララバードに移動し、再び襲撃を繰り返しています。
 もう一つは暴動の起きたタイミングです。暴力革命によって成立した暫定政権では今月27日に新憲法の承認を問う国民投票を実施することにしていました。新憲法の承認で新政権の正当性を獲得しようとしたのです。
 そして11日には隣国ウズベキスタンでロシア、中国、中央アジア諸国の加盟する上海協力機構の首脳会議が開かれ、キルギスへの支援を協議していました。
 暴動は、暫定政府に対する国際的な信用を失墜させるとともに、国民投票の実施も危ういものとすることになりました。
 
私は、今回の暴動の背後にはキルギスの不安定化によって利益を得る何らかの政治的な集団、あるいは犯罪組織がいる可能性は排除できないと見ています。

 石川解説委員はここまでの言及に留めている。
 しかし、インデペンデント紙でも暫定政府の見立てを伝えているが、今回の騒動はバキエフ氏側の活動と見るのが一番シンプルな読みだろう。騒動によって新憲法承認を阻止するということだろう。
 難しいのは、上海協力機構に泥を塗ることがが国際的にどの程度の意味合いがあるかということだ。もう少し明確に言えば、ロシアと米英の立ち位置はどうなっているかだ。
 ロシアはすでに人道支援に乗り出したが、ある意味で遅い対応であった。1990年、ソ連時代に同地域での同種の民族間暴動に軍を出動した経験は、困難さを意味していたのかもしれない。しかし、今回のロシアの動向は概ね妥当な対応と見てよさそうだ。 旧ソ連のロシアを中心にした6共和国間で結ばれた集団安全条約機構(CSTO)を重視しているのもその現れである。
 米英の西側としてはロシアへの不信はある。だが、フィナンシャルタイムズ「Kyrgyz dilemma」(参照)が論じるように、ロシアを牽制しつつもロシアに対応を頼む以外はないだろう。牽制というのは、キルギスに対するロシアの政治的な力の拡大を恐れてのことだ。
 陰謀論にもっとも近い筋の読みは、そもそもチューリップ革命と呼ばれるバキエフ政権に西側勢力が関わっていたとする線から、今回も同種の線上にあるとするものだが、現状のロシア依存の状況からすれば、その読みは無理だろう。
 では、やはりバキエフ氏側の活動なのか。先のフィナンシャルタイムズは、国際テロとの関連も示唆している。

Islamist militants shelter in the fertile Fergana Valley, whose upper reaches Kyrgyzstan controls. It sits astride a key drug trafficking route. And Kyrgyzstan hosts the US base at Manas, vital to Nato operations in Afghanistan.

イスラム教戦闘員拠点がフェルガナ盆地にあるが、キルギスタンが統治しているのはその北部である。ここは主要な麻薬取引ルートを挟む地域でもある。また、キルギスタンのマナスには米軍基地があり、アフガニスタンにおえるNATO作戦の要所である。


 フィナンシャルタイムズはこの筋を強く押しているわけではない。だが、フェルガナ盆地の特異性からするとこの線の関与はありそうに思える。

 なお、同地におけるキルギス系住民とウズベク系の対立は根深く、その背景はニューズウィーク記事「キルギスで民族間衝突が起きるワケ」(参照)に詳しい。

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2010.06.16

財務省の仕込みは完了?

 日本では、見た目ほどには政治・外交上の問題は問われない。つまり、国家の安全保障ということは国民に意識されない。理由は、左派はそれを意識しないことが平和だと信仰しているし、右派は鳥居のついた天国のほうを見つめているだけで足下を見つめないからだ。なのにこれらの右派左派の文化戦争のなかで議論は消耗するようにできている。くだらない。それでことが済んでいるのは、差し迫った国家安全保障問題がないからで、差し迫った時には日本はあっけなく崩壊するかもしれない。
 かくして問われるのは、経済ということになるが、端的に言えば、景気をよくしてくれということだ。しかし安倍政権のころから、もっと福祉を巨大にしてくれという声も出てきた。後者の声は、戦後の昭和時代なら、現実が押しつぶしていたものなので、つまりは日本はなんだかんだ余裕が出てきたという結果的な証左とも言えるし、実際的には、自民党つぶしの政治運動のかけ声だったとも言える(高齢者医療の迷走が最たるもの)。政権交代とかで出現した変なものは自民党と変わらない。民主党に向けて福祉の巨大化を求める声は自己撞着に陥ってしまった。
 経済にも実は問題などないのかもしれない。デビッド・ピリング(David Pilling)氏のフィナンシャルタイムズ寄稿「‘Just do it’ is no mantra for Japan」(参照)はまずそれを指摘している。これはgoo(参照)と日経(参照)で翻訳がある。gooを借りる。


多くの問題は言われるほど深刻ではないというのが、理由の一つだ。確かに日本は経済の成熟に伴って厳しい困難を経験してきた。1990年にバブルがはじけて以来、デフレからなかなか脱却できず、安定した名目成長に戻れないでいる。低い失業率や平和憲法、そして比較的均質で平等な社会など、日本の長所とされるものを手放したくないあまり、日本は新しいものへの挑戦を避けてきたのだ。

停滞したまま漂うのは、悪いことばかりでもない。生活水準と社会の一体性を、日本はそれなりに維持してきた。1990年代の実質成長率は計15%で、失業率は4%未満で保たれていた。世界一の実績とは言えないが、言われているような「失われた10年」というほどのものでもなかったのだ。


 そうかもしれない。
 国際的に見ると、そうとしか言えそうにないようにも私も思う。しかし、日本の内部からはあるじりじりとした焦燥感はあり、それを受けてか、こう続く。

日本の問題は言われているほど簡単に解決できるものではないというのが、日本の総理大臣が対策をとらずにきた二つ目の理由だ。

 日本の諸問題はそう簡単には解決できないという議論が続く。

総額ベースで国内総生産(GDP)比200%に近づきつつある日本の公的債務残高は、歳出減と増税を組み合わせて大幅削減しなくてはならない。これは誰もが同意見だ。誰もというのは金融市場以外という意味だが。

 面白い指摘で、金融市場はこれを問題視していない。ただ、問題するかもしれないぞと儲けのチャンスを狙うオオカミ少年・少女が声を上げている。これが怖いのは、最後の声は本当だということだ。

最大の敵はデフレだと、大方の意見は一致している。ただし日銀は別だ。日銀は、緩やかな物価下落は受け容れられるという結論に、明言しないまでも達している。とは言え日銀は実を言えば、量的緩和がよそで流行する前にすでに試しているのだが、ほとんど何の効果もなかったのだ。

 この指摘が興味深い。まあ、問題は日銀だろう。だが、日銀としてみたら、やるだけやってダメだったということではあるというのだ。ただし、ピリング氏はインタゲはやってないなとは指摘している(" Apart from an inflation target, all have been tried.")。
 この先、消費税増税は経済を低迷させる危険がある、小泉改革はそれほど実際的には進展してない、日本人は高福祉低負担という矛盾した要求をしている、軍事の米国依存は反米感情と保護依存で矛盾している、といった話になる。どれもそのとおり。
 これに対して、同じくフィナンシャルタイムズだがマーティン・ウルフ(Martin Wolf)氏は寄稿「What we can learn from Japan’s decades of trouble」(参照)は、リフレという言葉は使ってないが、リフレで経済問題解決、特に、公的債務問題は一気に解決の議論を展開している。gooに翻訳がある(参照)。
 4つの案を載せている。(1)「国債の平均残存期間を現在の5.2年から少なくとも15年に延長する」、(2)「インフレ創出の方法を知っている中央銀行総裁を雇うのだ。たとえばアルゼンチン人の。中央銀行総裁たるもの誰しもそれなりにその気になれば、インフレを作り出せるはずだ」、つまり、この2つはジョーク。
 その先はこう。

第三に、インフレが実際に3%に達したとする。そうすれば日本の国債の利率は5%に上がる。ほかの条件が同じなら、残る公的債務の市場価値は40%下落するはずだ。ここで日本政府は残る債務をこの時点の市場価格で買い直し、公的債務の額面総額をGDP比40%減らすのだ。さらに、インフレ状態の経済環境で日本人は、自分たちが抱える巨額の現金預金の実勢価値がどんどん目減りしていくことに気づく。なので日本人は貯金する代わりに実物資産や消費財を買うようになり、ついに経済は旺盛に拡大するようになるというわけだ。

第四に、こういう状態になって初めて政府は増税と支出削減を実施し、プライマリーバランス(基礎的財政収支)の小幅な黒字化を実現する。政府の借り入れ額は借金の借り換え分だけで充分で、債務比率は安定すると仮定する。どの程度のプライマリーバランス黒字が必要かは、実質金利と経済成長率との関係性で決まることになる。


 このあたりは、リフレ論者と同じ。マイルドインフレが達成できれば「日本は公的債務をGDP比でほぼ半減できるし、同時に経済の正常化も実現できる」となる。
 さて、この(3)、(4)は経済学的に見て正しいのだが、ウルフ氏がこう語るとこき、どういう意味があるのだろう。

実にシンプルだ。政府はすでに罠をしかけた。あとは綱を引くだけだ。

(It is simple, really. The government has baited the trap. Now all it needs to do is spring it.)


 結論からいうと、ウルフ氏の議論はネタなのかもしれない。
 (3)(4)のリフレ派的な議論は、経済学的には正しいのかもしれないが、それを実現する方法論としては、(1)と(2)のようにジョークになっている。まじめな議論とも思えない。
 にもかかわらず、政府はこのトラップを仕込み済みだというのだ。あとはこの引き金を引くだけでよい、と。
 どういうことか?
 当然、(1)(2)のジョークのようなことが起きるということだ。そのままでなくてもよいかもしれない。国会で裸踊りでもやっくれそうなド阿呆を国家の頂点に据えるとか、経済のわからない人を財務大臣に据えるとか、ド阿呆すぎて使えなかったらちょっと薄めたのに交換してみるとか。
 いずれにせよ、政治主導にしてそこに阿呆を据え付ければうまく行く、というか、それが仕込み済みということなのだろうか。
 まあ、陰謀論と見るよりは、全体としてはジョークと見るほうがよいだろう。
 それでも、残る手段としてのインタゲの成功は、責任を問われる仕事を嫌う日銀が飲むとも思えないし、財務省の積年の夢である消費税増税を阻むことになるので、もうしばらくは現状のまま両者がんばるんじゃないか。

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2010.06.15

国債を巡る、破れかぶれの苦笑コンテスト

 先日、ブルームバーグのネタだろこれニュースが少し話題になった。9日付け「「国債を持てる男子は女性にモテる」-財務省が婚活男子向け広告」(参照)である。


 6月9日(ブルームバーグ):日本の財務省の広告によると、日本人女性が結婚相手に求めているのは国債で資産運用している男性だそうだ。
 財務省は先週、個人向け国債の新商品として3年満期の固定金利型国債「固定3」の募集を開始。フリーペーパーに「国債を持てる男子は、女性にモテル!!・・・か!?」と題した大型広告を掲載した。広告には5人の妙齢の女性が登場、その中の1人(27歳)は「未来の旦那様はお金に真面目な人がいい!遊び人はNGです」と語っている。


R25 No.265(2010/06/03)

 はてなでもすこし話題になっていた(参照)。

kojitya 良ネタ なぜ「破れかぶれ」で一行置くwww 2010/06/12
Kmusiclife こんなこと政府がいってるから未婚率上がるんだろうが。 2010/06/11
ageha0 いいよもうドッジ・ラインでw。 2010/06/10
ITAICO ネタ イラネ。ジャニーズ事務所にまわしといて。 2010/06/10
Main-Tain 自分の借金にてんてこ舞いな国民に国債持てって言っても。 2010/06/10
kenjiro_n advertising, investment, neta 利回りの低い国債を売るほうも大変だとは思うが。 2010/06/10
sauvage ネタ, ad, 経済 これドメインの見た目と内容のアレさで、bogusnewsかと思ってしまう。 2010/06/10
nekora ちょっと国債買ってくるわ 2010/06/10
utaq-999 +世情, +言葉 ( ´_ゝ`) → 「ソシエテ・ジェネラルの・・・カリーヨ氏は、キャンペーンについて、『破れかぶれという感じだ・・・個人投資家を引き付ける戦略になるとは思えない』との見方・・・」 2010/06/09
wideangle まああながちまちがいではないというか貧乏はだめだーーーーー! やだーーーー 2010/06/09
highcampus 金融, 恋愛, ネタ, ニュース はてブで「金融」と「恋愛」のタグを同時に付けることがあるとは思わなかったわw 2010/06/09
anpo-sumeragi これはひどい, 霞ヶ関, 国債, 財務省 なめとんのか、こら。 2010/06/09
tihoujiti 経済, 霞ヶ関 「国債を発行し続ける内閣は国民からステられる」ならよかった 2010/06/09
hisamichi 広告, 日本 国家発この手のアピール、歴史上初では いや知らんけど 2010/06/09
hounavi 消去法でもいいので婿にもらって欲しい(笑) RT @can_not_refuse: 消去法で買われてる国債を買うってことは...婚活も消去法ですか? RT @hounavi: 国債買おうかな(笑) [Web] 国債を持てる男子は… 2010/06/09
syujisumeragi 政治 ※なお類似例として「お金に火をつけて明かりにする男子はモテる」「東京タワーから札束をばら撒く男子はモテる」がある。 2010/06/09
LondonBridge ネタ 国債結婚 2010/06/09
ranobe 日本のひどい国債を買う男性は、酷妻にも耐えられます。 2010/06/09
north_god 政治 破れかぶれワロタ 「国債を持てる男子は女性にモテる」-財務省が婚活男子向け広告 - Bloomberg.co.jp 2010/06/09
zyugem 要するに資産を持っていればOKって事でしょうか。 2010/06/09
twelve_scales ネタ, 経済 すげぇ破壊力のタイトル 2010/06/09
mohno bloomberg, 財務省, 国債, ネタ 「国債を持てる男子は、女性にモテル!!・・・か!?」<最後が気弱だな。東スポかよ。 2010/06/09
carl_b 経済, ネタ ファーザー「これからは国債がモテるんじゃよ?オンナスキーくん」みたいな 2010/06/09
walwal 経済 タイトルを見て一瞬目を疑った。財務省もずいぶん柔らかくなったな(笑)。 2010/06/09
chlono ネタ そんな訳がない 2010/06/09
sagonohashi 「国債を持てる男子は、女性にモテル!!・・・か!?」 どこのスポーツ新聞だよwww 2010/06/09
ryuzi_kambe 反応はこちらにとぅぎゃってあります! http://togetter.com/li/28057 2010/06/09

 はてなユーザーにはこの広告のターゲットに近い若い人、そしておそらくびったしの男子も多いのではないか、「ちょっと国債買ってくるわ」といったネタで受けていた。
 ところで、ブコメにもあるが、ふと、そういえば「破れかぶれ」って英語でどういう表現しているかと気になってオリジナルに当たってみて、ちょっと驚いた。
 オリジナルは「Women Prefer Men Holding State Bonds, Japan Ad Says (Update1)」(参照)である。「破れかぶれという感じだ」は"It strikes of desperation"であった。まあ、そうか。ついでに、訳の差はあるかなと見ていて、驚いた。訳はよいのだが、日本報道のほうは後半が端折られていた。なぜなんだろう。英語のほうは、Update1とあるので、その後付け足しがあったのだろうか。
 日本報道にない英語の後半部分は日本の国債状況の解説で、話として驚いたというほどのことはないのだが、へぇと思ったことはあった。

This campaign for JGBs was crafted by Dentsu Inc., Japan’s largest advertising company, which the ministry chose through an annual bidding process, Kaizuka said.

貝塚氏によれば、財務省キャンペーンを作成したのは、日本で最大の広告会社である電通で、財務省としては毎年行われる入札で選択したものとのことだ。


 ほぉ、電通が。別段、電通が作ったからといってネットでありがちな陰謀論とか思うことはなんにもないのだが、ほぉというのは、電通とともに財務省がこの洒落で行きましょうという自虐的なユーモアセンスを持っていたのだなということだった。
 推測だが、このネタ、最初から海外受けを狙っていたのではないだろうか。
 フィナンシャルタイムズも13日の社説「What women want」(参照)でネタにしていた。読み返すと、"desperate"はキーワードなのか。

Linking sex appeal and sovereign debt sounds a bit desperate, but the approach may have some merit. Certainly bond yields themselves would not set pulses racing, and last year’s marketing produced such limp demand that the government halved retail issuance.

セックス・アピールと国債金利をつなげるというというのは若干破れかぶれだが、このアプローチもそれなりに利点があるかもしれない。ご存じのとおり、国債金利は胸ときめくものではないだろうし、昨年の需要の落ち込みときたら、日本政府も発行を半分に減らすほどだった。


 日本の国債売れねー、もう、やぶれかぶれ。財務省官僚A曰く、「電通さん、売れないよね、こんなの、なんか面白い広告ある?」電通さんB曰く、「売れるわけないっすよね」「なんでもいいよ」「なんでもいいんすか」以下略。苦笑。
 まあ、そんなところだろう。
 ところで、私はこのブルームバーグのネタを当初、@fromdusktildawnさんのツイートで知り、彼のコメントにそうだなよなと思ってRTした。どういうわけか現在ツイッターが故障しているみたいだが、その後他にもRTはあった。例えば(参照)。

上手いこと言うなあRT @finalvent RT @fromdusktildawn: 菅総理がデフレ脱却を目指して云々と言っている中で、固定金利の国債を買うってのは、菅総理の実行力のなさをそこまで信頼しているってことだろうか。 http://bit.ly/cT74VC *Tw*

 市場が菅内閣およびその後の来年以降3名の首相の実力を見切っているとは言えるだろう。苦笑。
 苦笑といえば、フィナンシャルタイムズのオチはもうちょっと、英国的なアイロニーだった。

But the campaign has a flaw beyond its patent implausibility. Men who shun the ministry’s advice still need not lose out, since even Japanese who do not directly own bonds can boast of holding vast swathes of JGBs through banks, insurance companies and public buyers.

しかし、このキャンペーンには明白な虚偽以上の欠点がある。この財務省のお薦めにパクつかない男子も大損こくわけでもない。日本人なら直接国債を購入してなくても、山ほど財務省発行の国債を持ってるんだぜと自慢してよい。銀行とか保険とか公的市場とか通して間接的に買っているのだ。

Perhaps the finance ministry is relying on the difficulty of turning that claim into a chat-up line.

財務省としては、たぶん、国債の間接保有なんて口説き文句には使えねーよなとタカをくくっているのだろう。


 苦笑。

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2010.06.14

G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと

 少し旧聞になる。日本では鳩山前首相辞任問題で揺れたため、韓国、釜山で4日と5日の2日間開催されたG20に、当時財務大臣であった菅氏は出席しなかった。できなかったと言ってもよいことは、その後、彼が首相となった経緯でもわからないではないし、鳩山氏の辞任はこういう効果もあったということだ。
 話の経緯は、3日付けBussiness i「菅氏、G20欠席 国際舞台でさらに地盤沈下…」(参照)がわかりやすい。


 「副大臣や政務官は新内閣が発足した時点でその地位を失う」(峰崎直樹財務副大臣)。4日に新首相や新閣僚が決まれば、従来の財務相や副大臣がG20中に失職する“珍事”となる。このため財務省は事務方の玉木林太郎財務官の出席を軸に調整している。
 振り返ると、政権交代直前の昨年9月には与謝野馨財務相(当時)がロンドンG20を欠席。昨年11月のスコットランドG20も藤井裕久財務相(同)が国会対応のため欠席した。
 G20は国際社会で重要性を増す一方だが、今回はギリシャ危機に始まる欧州の信用不安問題が焦点で、世界経済にとって重要な局面だ。巨額の財政赤字を抱える日本は海外から財政健全化を求められており、「本来なら財務相、最低でも財務副大臣が行くべき」(財務省幹部)会合だ。

 このため、同記事では、「このままでは国際舞台での日本の存在感はさらに低下する」とまとめていた。
 しかし海外からは日本の珍事に呆れるとともに、別の思いもあったかもしれない。この点は、事後のニュースから読み取れる。5日付けロイター「G20は経済成長促す努力必要、日本は内需拡大を=米財務長官が書簡」(参照)が伝えるように、米側としては日本に内需を求める声があった。

ガイトナー米財務長官は、20カ国・地域(G20)にあてた書簡で、欧州問題の影響を緩和するために世界経済の成長を促す努力を続けるよう呼び掛けたほか、中国とドイツ、日本は内需を拡大させる必要があるとの見解を示した。


 長官はより優先順位の高い課題として、輸出依存度の高い「黒字国」の内需拡大を指摘。世界の輸出の主要な消費国として米国をあてにし過ぎないよう、世界の需要のリバランスを進めることを要請した。
 長官は「米国は貯蓄増を目指す必要があるが、それは同時に、日本や欧州の黒字国の内需の伸び拡大、民間需要の成長継続、中国のより柔軟な為替政策によって補完されなければならない」としている。

 日本などに米国の消費拡大を当てにするな、自国の内需拡大をせよいうことで、これだけ読むと取り分け強い主張でもないように思える。
 5日付け日経新聞「ガイトナー米財務長官、日欧の内需の弱さに懸念 米紙報道」(参照)はもう少しこの機微を伝えていた。

ガイトナー米財務長官が、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のメンバーである日本や欧州の「内需の弱さ」に懸念を示していることが明らかになった。長官がG20の財務相らにあてた書簡の内容を米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が伝えた。欧州に関しては金融システム改革に向けた取り組みが必要としている。
 書簡は3日付で、4日に韓国・釜山で開幕したG20財務相会議のために各国に送付した。長官は「世界的な需要の不均衡是正が必要」と指摘。米国の過剰消費に頼る世界経済の体質を変えていく一環として「日本や欧州の経常黒字国の内需拡大」を改めて指摘した。

 同じ内容だが、日経など国内報道のソースはウォール・ストリート・ジャーナルだとしている。オリジナルは、4日付け「Geithner Urges G-20 to Step Up Consumption」(参照)のようだ。
 読んでみると、国内報道で伝えられた以上の響きがある。

"Given the broader shifts under way in the U.S. economy towards higher domestic savings, without further progress on rebalancing global demand, global growth rates will fall short of potential," Mr. Geithner wrote, according to a copy of the letter viewed by The Wall Street Journal. "In this context, we are concerned by the projected weakness in domestic demand in Europe and Japan."

「世界需要の調整に進展がなく、米国経済で貯蓄が進む方向で変化するなら、世界経済成長は短期的には低下するだろう」とガイトナー氏は書き、さらにウォール・ストリート・ジャーナルに公開された手紙によれば、「この状況では、欧州と日本の国内需要の弱さを懸念する」とある。



In his letter, Mr. Geithner clearly puts the burden on big exporters such as Germany, Japan and China to reduce their dependence on U.S. markets as a main source of economic growth.

ガイトナー氏の手紙では、ドイツ、日本、中国という大きな輸出国は、経済成長を求めようと米国市場への依存を削減せよとしている。


 米側としては、(1)日本はこれ以上米国に輸出するな、(2)自国内の消費を拡大せよ、という意向を持っていることを明確にした。
 もう一つ気になることがある。

"Fiscal reforms are necessary for growth, but they will not succeed unless we are able to strengthen confidence in the global recovery," he wrote. Mr. Geithner added that the withdrawal of "fiscal and monetary stimulus"—in other words, government budget cuts and interest-rate hikes—should proceed only as the private sector regains its post-recession footing.

「財政改革は成長に必要であるが、世界経済回復を強固なものにしなければ成功はしない」とガイトナー氏は書いた。「財政および金融刺激政策」から手を引くようなら、つまり、政府予算削減や金利引き上げは、民間部門が不況後の足場を得てでのみ行うべきである。


 これに直接的な呼応はないだろうが、クルーグマンもブログで日本について言及している。3日付け「Rashomon In The OECD」(参照)より。

But they aren’t. As of right now, the interest rates on 10-year bonds are 3.59% in the UK, 3.36% in the US, 1.29% in Japan. CDS spreads for Japan and the UK are only about a third of the level for Italy.

そうではない。現状、10年国債の金利は、英国が3.59%、米国が3.36%、日本が1.29%だ。日本と英国のCDSの拡大は、イタリアの三分の一にすぎない。

So what does one make of this? One possible answer is, just you wait — any day now there will be a Wile E. Coyote moment, the markets will realize that America is Greece, and all hell will break loose.

これは何を意味しているか? 答えの一つは、みんな待っているように、ワイリー・コヨーテになるということ。米国はギリシアになると市場は理解し、地獄が始まる。

The other answer is to note that all the crisis countries are in the eurozone, while the US, UK, and Japan aren’t — and to argue that having your own currency makes all the difference.

もう一つの答えは、危機国はユーロ圏にあるが米国、英国、日本は違うということに留意し、自国通貨がこれらの違いをもたらしたと議論することだ。


 日本の危機は深刻ではないという示唆だ。
 結局どういうことなのか?
 10日付けニューヨーク・タイムズ社説「The Wrong Message on Deficits」(参照)が端的に言っている。

Interest rates on German and U.S. bonds remain low. Rates on British debt also are very low, reflecting better growth prospects than those of the countries that use the euro. For them, the best policy should be to take advantage of the cheap money to spend more, not less.

ドイツと米国の国債金利は低い状態だ。英国国債金利も低い。これはユーロを使っている国に比べて経済成長見込みを反映している。国債金利の低い国にとって、最善の政策は、低金利のカネを支出することであって、減らすことではない。

Deficits will have to be reduced once the recovery gains more traction and unemployment recedes. Right now, for the most robust economies — the United States, Germany, Britain, Japan — slashing budgets is the wrong thing to do.

財政赤字は、景気がより回復し失業問題が引いてから削減されるべきものだ。現状は、もっとも経済力のある国、つまり、米国、ドイツ、英国、日本が財政赤字削減に取り組むのは、間違った行為である。


 米国の赤字削減対応を後回しにせよというのは、ニューヨーク・タイムズのポジションもありそうだが、ドイツ、英国、日本については、今は赤字削減の時期ではないだろうというメッセージを出している。
 G20に出席できなかった財務相で現在首相となった菅氏は、これに「第三の道」で答えている。つまり、財政赤字を減らすため増税し、それから政府は「正しい」ばらまきで内需を喚起するといういうのだ。グローバルな経済の観点、つまり、グローバル経済の回復がなければ日本単独の回復はないだろうという主張に逆行して、独自の経済学に進もうというのだ。
 噂だが、この独自の経済学は小野善康大阪大学教授によるものらしい。成功すれば、小野氏と菅氏はノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞となるかもしれない。
 ここは、あれだろう。日本国民は、菅首相と財務省と手を取り合って、この知られざる土地に船出をしよう。日本の夜明けは近いぜよ。

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