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2010.05.22

北朝鮮への安保理制裁決議に先頭を切って走りたい鳩山首相

 民主党鳩山首相は、北朝鮮への安保理制裁決議に先頭を切って走りたいらしい。はあ?何それ?と思った。またまた何を考えているのかよくわからない御仁だな、と。それと、連立している社民党などはこれどう受け止めているんだろうか。
 話の文脈はこういうこと。20日のぶら下がりだ。朝日新聞「北朝鮮制裁決議「先頭を切って走る」20日の鳩山首相」(参照)より。


 ――哨戒艦沈没事件で、韓国は北朝鮮の攻撃が原因だと断定し、安保理で制裁決議案を提起する方針だが、日本は協調するか。また6社協議の見通しは。
 「はい、今日ご案内の通り、韓国の政府が調査の結果を報告しました。その結果によれば、北朝鮮の魚雷による沈没であるということでありました。大変これは、遺憾なことで、強く北朝鮮に対して非難をいたします。当然のことだと思います。そして、韓国の政府に対してあるいは韓国の国民に対して、哀悼の意を改めて申し上げるとともに、私どもとすれば、韓国の立場を支持をする、すなわち、もし韓国が安保理に、決議を求めるということであれば、ある意味で日本として、先頭切って走るべきだと、そのように考えておりまして、強くその方向で努力をしたいと思います」

 また22日付け共同「首相「しっかり戦う」 韓国艦沈没で」(参照)では。

 鳩山由紀夫首相は22日、札幌市で開かれた民主党北海道連パーティーに首相公邸からテレビ中継を通じてあいさつし、韓国海軍哨戒艦が北朝鮮製魚雷で沈没したとの調査結果に関し「私たちはこの問題で国際的に協力してしっかりと戦っていかなければならない」と述べ、米韓両国などと緊密に連携し対処していく考えを強調した。

 韓国がどのような制裁を望んでいるか、きちんと日本国の立場をわきまえてから対応を考えてもよいのではないか。そして平和憲法を持つ日本なのだから場合によっては、先頭に立てないこともあるのではないか。鳩山さんの頭の中のねじが切れてしまったのか、首から地肌にさげている謎の金鎖が切れてしまったのか、なんだかその手の変な感じがしてならない。
 あるいは、「トラストミー(ボクを信じて)」の不発二連発でめちゃくちゃにしてしまった日米関係を修復しようとして、過剰に米韓にすり寄っているという図なのだろうか。東京新聞「政府 日米合意焦る 『沈没』奇貨に普天間解決?」(参照)ではそうした読みをしていた。

 二十一日のクリントン米国務長官と鳩山由紀夫首相、岡田克也外相との会談では、韓国海軍哨戒艦沈没事件で緊迫する朝鮮半島情勢を奇貨に、日米同盟の足かせとなっている米軍普天間飛行場移設問題を解決させたい日本側の思惑が色濃く出た。だが、首相が決着期限に定めた五月末を目前に、対米交渉は依然として難航している。

 すり寄られた米側の考えはどうかというと、ニューズウィーク「アジア歴訪クリントンの「本音」」(参照)というあたりではないか。

 沈没事件によって、日米の安全保障同盟の重要性に改めて気付き始めた日本人は、クリントンと鳩山が協調するイメージを打ち出すことを願っている。だが同時に日本は北朝鮮に対し、オバマ政権が求める以上に強硬な態度を取っている。国連安全保障理事会に強力な行動を求める韓国にも同調したが、クリントンが中韓との話し合い以前にアメリカ側の明確な立場を日本に説明することはないだろう。

 普天間飛行場撤去問題の膠着から、日本の安全保障上の重要性を演出するために、タイミングよく発生した北朝鮮の危機を使っているということなんだろうか。しかも、全体構図を見ずにやり過ぎて、この件での米側の思いからズレている。
 鳩山首相がいくら日の丸鉢巻きをして38度線の先頭に立とうとしても問題は解決しない。韓国からするとすぐにわかることだが、北朝鮮がその気になれば、軍事境界線を封鎖して開城工業団地の韓国人千人を人質に取ることができる。20日付け朝鮮日報「開城工団:韓国政府、関係者に注意を呼び掛ける」(参照)より。

 哨戒艦「天安」沈没事故をめぐる調査結果の発表を前に、開城工業団地で活動する企業や関係者に対し、身辺に注意するよう、政府が求めている。
 統一部は最近、開城工団に滞在する韓国側関係者に対し、▲北朝鮮関係者との接触を自制▲不要な移動は行わない(特に夜間)▲言葉に注意▲韓国の新聞やDVD、北朝鮮の品物は所持しないなど、身辺の安全管理指針を伝えた。北朝鮮側から言いがかりをつけられないためだ。
 また開城工団管理委員会に対しては、滞在するすべての人員との非常時連絡方法をチェックするよう指示した。政府関係者は、「われわれが北朝鮮に対して断固とした制裁措置を下した場合、北朝鮮が開城工団に滞在する国民の安全を脅かす可能性がある。しかし、これに対して何ら対策がないのが悩みだ」と述べた。1000人以上の人員が北朝鮮の妨害を避け、一気に抜け出す方法がないからだ。北朝鮮は今月14日夜にも、北朝鮮の公的な文書や書類などを所持していた韓国側関係者一人の身柄を拘束し、3-4時間にわたり取り調べを行った上で追放している。

 直接的な報復はできない。
 ではそのなかで韓国に何ができるか? 21日付け朝鮮日報「哨戒艦沈没:政府の「断固たる措置」とは」(参照)は、武力アピールと経済制裁ということになる。

政府関係者は「直接攻撃などの軍事報復以外で、可能なあらゆる措置を検討している」と話したが、結局は「武力アピールなどを通じ、北朝鮮に軍事的脅威を与える」「経済制裁措置で『金づる』を断つ」の二つに要約される。つまり、韓国政府の対応がどれだけ「断固とした」ものになるかは、国際社会がどれだけ協力するかにかかっているということだ。

 だが、「北朝鮮の潜水艦基地攻撃などの直接的な軍事措置は、中国をはじめとする周辺国の立場を考慮すると容易でない」ことから武力アピールは無理だ。
 経済的な制裁としては、東京新聞「東京新聞:哨戒艦沈没 韓国安保理提起へ」(参照)が済州海域封鎖の可能性を伝えている。

 国防省幹部の説明によると、司令官を集めた会議では、北朝鮮に対する軍事措置について徹底した準備を行うことを確認した。北朝鮮船舶による韓国南部の済州島付近の通過を認めない措置も含まれているもようだ。

 これもうまくいかないだろう。International Crisis Group「How to approach North Korea」(参照)より。

There is also support for prohibiting North Korean ships from transiting through the Cheju Strait, but this would violate a 2004 inter-Korean maritime pact and would result in Pyongyang nullifying the whole agreement, including stipulations for humanitarian cooperation in the case of maritime accidents.

済州海峡の北朝鮮船舶通過を禁止支援もありうるが、これは2004年の北朝鮮・韓国間海運条約違反になるし、結果、北朝鮮が全条約破棄に及ぶかもしれない。これには、海難時の人道協調規約も含まれる。



Furthermore, denying access to the strait would actually make it harder for the South to search for contraband on North Korean ships passing the South Korean southern coast.

さらに済州海峡閉鎖によって、韓国は韓国南岸を通過する北朝鮮密輸探索が困難になる。

It would be wiser for Seoul to remain committed to the inter-Korean maritime agreement, and reiterate that it will fulfill its commitments to intercept illicit shipments of weapons of mass destruction (WMD) and prohibit North Korean conventional arms exports.

韓国にしてみれば、海運条約を維持することと、大量破壊兵器(WMD)の不法海運阻止を行い、また北朝鮮の通常兵器禁止を推進するほうが賢い選択だ。


 窮鼠猫を噛むに追い込まずに、ある程度泳がせておいたほうがメリットがある。
 こうなると一体なにができるのかということになり、途方に暮れる。
 朝鮮戦争のような戦争が朝鮮半島で勃発する可能性は低いが、局地的な戦闘の可能性が否定できないとなると、韓国としては、「朝鮮半島有事における戦時作戦統制権が韓国へ返還される予定: 極東ブログ」(参照)で触れた、2012年に予定されている在韓連合司令部解体と戦時作戦統制権返還の延期を求めるかもしれない。
 あるいは、そうした流れのなかで、取り残される日本の状況の認識が、今回の鳩山首相の変な発言の裏にあるのかもしれない。まあ、鳩山首相の言動の経緯を考えると、さしたる裏はなさそうだが。

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2010.05.20

[書評]ゲゲゲの女房(武良布枝)

 朝の連ドラ「ゲゲゲの女房」は毎日見ている。毎日、面白いなと思っている。原作のこの本は書店で見かけ、ぱらぱらと捲ってこれも面白そうだなと思って購入したものの、若干積ん読状態だった。それほど読書に時間のかかる本でもないだろうから息抜きの読書にとっておこうと思っていた。それで忘れかけていた。

cover
ゲゲゲの女房
武良布枝
 昨日朝、子豚がアイドルになってるNHKのバラエティ番組で、水木夫妻がテーマになっていて、そういえばと思い出し、読み出した。余談だが、この番組に柳沢秀夫解説員が出ている。私は世界の見方が彼とは随分違うこともあり、なんか嫌なタイプの人だなと思っていたが、この番組で話を聞いていて好感に変わりつつある。ハムは得点が高いぞ。
 「ゲゲゲの女房」は面白い本だった。でも、どう面白いのかというのがうまく言葉になってこない。ゲゲゲの鬼太郎の著者水木しげるについて、その奥さんの立場から描いている、とは言える。そして、彼は天才としか言いようがないし、稀代の奇人でもあるから、話が面白くないわけがない。それはそうなのだが、率直に言ってそこが本書の面白さというのではない。むしろ、水木しげるを偶像視せず、普通に夫として子供の父として、主に昭和という時代のなかに収めてきちんと描いているところが面白い。その微妙な部分でテレビドラマとは少し違う感じもする。布枝さんは165センチだが、ドラマの布美枝役松下奈緒さんが175センチという差違が象徴する補助線の陰に隠れる何かだ。煙草に煙る室内もない。
 本書の文章は驚くほどの達文で、素人が書いたものとは思えないから、よほど編集の手が入っているのだろうと思いたくなるが、ところどころ、どうしても著者布枝さんの言葉の息遣いや、独特の思いのこもった語彙と思われる部分が、なんというのか不思議な肉声のように露出してもいる。達文に見えるのも編集の技術なのだろうが、そこを超えた部分があちこちとあり、これはなんなのだろうかと不思議に思う。ある時代だけの経験の色合いでもある。
 そうした印象を持つのは、ひとつには、水木夫妻が私の父母の世代にかなり重なるがゆえに、実体験を追って理解できるせいもあるだろう。戦争帰りの若い父と、仕来りばかりの田舎の娘が東京に出てきて極貧生活をし、そして昭和30年代前半に生んだ子供が私の世代である。本書に描かれている風景も自分の子供時代にきちんと重なる。私は、1966年から翌年の悪魔君のテレビも一部見ていた。何かの裏番組で全部見られなかった記憶がある。そういえば、マグマ大使が同じ時代であった。こちらは全部見ていた。
 アニメのゲゲゲの鬼太郎は翌年1968年からでほぼ全部見たはずだが、個別の話の記憶はあまりない。この鬼太郎の世界がどういう構成をしているのかというのを科学少年だった私は仮説を立てつつ見ていた。私はお化けや妖怪というのがあまり好きでないこともあった。
 あの時代、戦後の昭和の時代は、モダンな時代でもあった。現代だと米軍基地はどの地方でもいらないというふうに単純に語られたりもするが、東京にはあちこち普通に米軍基地はあったものだった。ユーミンの初期の歌にもいろいろと米軍基地が出てくる。とりわけ反米感というものはない。奥様は魔女みたいな米国ホームドラマも憧れの生活として受け止められていた。欧米の映画は水木しげるの世代にとってある憧れでもあった。食生活でもそうだった。あの時代の雰囲気がこの本からも感じられる。今ならどう言うのかよくわからないが、育児も母乳よりフォーミュラの時代だった。
 こうした時代の挿話で驚いたのは、水木さんの母がマーガレット・サンガー氏を信奉をしていたという話だ。サンガー氏が戦前の日本に影響を与えたというのは頭では知っていても、島根県にまでその影響が及んでいたというのは実感としてはうまく受け止められない。しかし日本の戦前というのは、昨今の日本回帰的な情感で描かれるような世界では全然なかったのは確かだ。
 本書で面白いのは、今日、私などが知るようになった漫画家水木さん登場前の、貧乏時代の逸話だろう。中盤からは当然メジャーになり、繁忙を極める時代が描かれる。そこは、仕事に明け暮れる夫に取り残された妻の話だ。これもある意味で昭和の話だ。私もこの時代、日常で父に接した記憶はない。あのころ、男たちはただ仕事ばかりしていたように思う。
 本書の後半への転機は、さりげなく書かれているが、水木漫画の人気の衰えがある。最盛期を過ぎてしまった才人の生き方の、独特の寂しさのようなものがある。が、そのなかで妻はもう一度夫を見いだすという筆致には、ある種の美しさがあるし、手塚治虫や石森章太郎の修羅とは違った世界が描かれる。僭越だが、いい奥さんがいたから家族があって、そして長生きができたから到達した世界があった。
 朝ドラでも本書でも、普通の妻と家族の物語として、一種の癒しのようにも読まれるだろうし、そういう静かな感動をもたらす書籍でもある。だが本書を、私のように昭和の子供から見ると、そんなにきれいにまとまる話のわけはないと思う。美談で読まれるのが気にくわないなど、捻くれたことが言いたいわけではない。水木さんは天才だったからそこに人や時代を巻き込む力もあったが、あの時代を生きた人たちは、みな同じように生きてきた。その同じように生きてきたという微妙な橋渡しの感覚を武良布枝さんは本書でとても上手に描いている。

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2010.05.19

[書評]日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える(高橋洋一)

 アマゾンから届いた本書を見て一瞬、あれ?と思った。広告を見て、「ロジカル」というサブタイトルに惹かれて注文したのだったが、そのことを忘れていた。現下、再度の政権交代なり政界再編成が望まれる状況を高橋洋一さんがどう見ているのかも気になっていた。

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日本の大問題が
面白いほど解ける本
シンプル・ロジカル
高橋洋一
 内容は読みやすい。だいぶ編集の手が入っているのではないか。話題も興味深い。民主党の高速道路無料化、子ども手当、成長戦略不在、原口総務相に期待される周波数オークション、中小企業金融円滑法、社会保障制度、地方分権など、どこに問題があるのか、ロジカルという副題は正確とは言い難いが、すっきりとまとめられている。
 しかし、これらの話題は高橋氏のこれまでの書籍で触れられているお馴染みの話題ばかりで、普天間飛行場撤去問題や外交問題、食の安全保障、環境政策といった話題には言及がない。私のように高橋氏の一般向け著作は出たら買って読むという読者も多いだろうから、もう少し新しい分野の切り込みがあってもよかったかもしれないと思った。
 それでも、へぇそれは知らなかったなと思ったのは、「日本郵政社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任。これの何が問題?」で、斎藤次郎氏の女婿が、「現在次官に近いといわれている」稲垣光隆主計局次長であるという話だった。高橋氏は、メディアは知っているのにそのことを書かないで大蔵省の亡霊扱いしていたというふうに指摘していた。

 これはいわば周知の事実です。自らが所属する組織のトップに就くかもしれない人の義理の父親のことを「亡霊」呼ばわりする人がいるでしょうか。いたとすれば、それはその組織のなかでもかなりハズレの方にいる人でしょうし、だとすれば、これはその程度の取材しかできていないという証拠でしょう。
 斎藤氏と稲垣氏について、ある編集者は「まるで戦国時代ですね」と話していました。しかし、こうした閨閥づくりはわが国の政官財の世界では今日も連綿と続いていて、もちろん財務省(旧・大蔵省)も例外ではありません。

 まあ、競馬好きの過去のおっさんといったふうは話で済むことではなかった。
 とはいえ、これはごく些細な挿話であって取り上げるほどのことでもないようだが、関連の人事は明白な傾向をもっていた。

 いうまでもなく、それは斎藤氏就任の一週間後に発表された四人の副社長です。ここにもふたりの官僚OBが入りました。元郵政事業庁の足立盛二氏と元財務相主計局次長で、福田康夫政権では内閣官房長官補を務めた坂篤郎氏です。
 足立氏は旧郵政官僚で民営化に明確に反対していました。郵政事業庁長官を退任した後、財団法人簡易保険加入者協会という郵貯ファミリーの理事長に天下りました。郵貯関係では、ほかにも小泉時代に民営化に反対して降格された清水英雄氏がゆうちょ財団に天下っていましたが、斎藤氏就任後に、政権交代後の新ポストである郵政改革推進室室長に返り咲いています。彼らはみな郵政ファミリーの保守本流です。

 これも驚くほどのことでもないといえばそうだが、どうにも不思議なのはこういう人事を民主党員や民主党支持者の人はこれでよいと思っているのだろうかということだ。
 人事よりも今回の実質的な郵政国営化によって、以前のような税からのミルク補給のような仕組みがまた必要になることも本書でじっくり解き明かされている。
 財政の問題でも、ふっと笑ってしまってから、ぞっとするような話もある。

 ちなみに、二〇一〇年三月一六日の参議院財政金融委員会で、菅直人副総理・財務相が、財政のプライマリー・バランスについて「念頭にあるが、残念ながら今すぐ目標を立てるには早すぎる」「まずは(公的債務残高の)GDP比の安定を目指す」と答弁していました。
 この答弁を見るかぎり、菅財務相は、プライマリー・バランスのバランスと債務残高の対GDP比とが深く関係していることを理解していないようです。これで、財務大臣が務まるのでしょうか。

 それを言うなら他の大臣もあれこれと愉快な顔が浮かぶ。
 高橋氏は、とはいえ、民主党批判のためにこれを書いているわけではない。本書で指摘されている政策的な部分については、民主党の党是を曲げることなく採用できるものばかりだし、率直なところ、なぜ民主党は高橋氏の指摘をきちんと受け止めないのだろうか。
 単純な話、民主党員や支持者で、高橋氏のこれまでの著作を読んだことがなければ、そして彼の来歴について偏見を持たなければ、民主党のあるべき姿を考える上で、もっともよい入門書となるだろう。
 そして、これを学べば、この郵政の実質国営化を即刻停止するだろうと期待する。
 昨晩、民から官への典型ともいえるし、過去の民主党のマニフェストのまったく逆向きでもある郵政改革法案の衆院審議に入った。野党が反対しているが、本来なら民主党が反対すべき内容である。
 本書で高橋氏はこの問題の行く末にややひんやりとした奇妙ともいえる言葉を投げかけている。

 はたして国民はこれを支持するでしょうか。現在の国会状況ならそれを可決することは可能でしょう。しかし、また三年半以内にはかならず選挙が行われるのです。そのとき、国民の選択はどうなるでしょうか。
 選挙といえば、今後の郵政がどのような形態になるかには、大きな影響力を持ちます。かつて公務員だった郵政職員は、民間になったことで政治活動の自由を手に入れました。つまり、民主党の支持団体である連合において自由に政治活動ができる組合員が大幅に増えたことになります。彼らが公務員か非公務員かは、政治状況に一定のインパクトを与えるでしょう。

 この話は私には理解できなかった。郵政は実質は官営化しながらも、組合員は公務員に近い待遇を持ちながら非公務員として政治活動を続けるのではないだろうか。

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2010.05.17

[書評]高校生からのゲーム理論(松井彰彦)

 「高校生からのゲーム理論(松井彰彦)」(参照)は、ちょっと変わった本だった。普通ならこの書名から、高校生がゲーム理論を簡単に学べる入門書を連想するだろう。大学生や社会人も、「そうか、高校生でわかるレベルでやさしく書かれている本だろうな」と推測する違いない。間違いではない。高校生でわかるようにやさしく書かれている。文章も読みやすい。イラストも楽しい。しかし、数学は苦手だけど、とにかく手っ取り早くゲーム理論を理解したいというのには、ちょっと向かない本かもしれない。

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高校生からのゲーム理論
ちくまプリマー新書
松井彰彦
 こういうと工夫して書かれた著者に申し訳ないが、ゲーム理論入門のさわりでもあるゼロサムゲームやチキンゲーム、囚人のジレンマといった話は、図解とかでもっと簡単に説明できるだろうし、そうしたタイプの書籍もあるのではないか。なんだろ。それっぽくきれいにまとまっている「ゲーム理論 (図解雑学)(渡辺隆裕)」(参照)かな。1957年生まれの私などの世代だと「ゲームの理論入門 (ブルーバックス)(モートン・D・デービス)」(参照)がゲーム理論の一般向け定番だったが、そろそろ改訳時期ではないか。
 図解的な、いわばライフハック的なわかりやすさや、フォー・ダミーズ的なとっつきやすさは、本書「高校生からのゲーム理論」にはないが、じっくり名講義を受講するといった趣向きがある。「ああ、この先生に学んでいると学問は楽しい」という、一種のマジック感覚を味わえる珍しい書籍だ。
 実際は書籍だから黙読するわけなのだが、読みながら、「聴かせるなあ、この話は」という印象を持つ。読みながら確実に知識や知恵、そして教養というのが付いてくる実感もある。その意味では、きちんとした読解力のある高校生なら読んでごらんなさいとお勧めしたいし、社会人なら、知的なネタが一ダースくらい仕入れられる。
 説明に数式は使われていないが、ゲーム理論でお馴染みの標準型表現(利得行列)や展開型表現は出てくる。けして難しいものではないし、イラストで各ケースも説明されているのだが、こうした表現にまったく馴染みのない人は、最初のほうでゆっくり確認しながら読むとよいだろう。慣れてしまえばどうということではない。
 ゲーム理論で重要な概念はゴチック体で強調されている。ただし、わりとさらりと表現さていることもあるので、特にゴチック部分の用語についてはよく留意しておくとよいだろう。私が本書の編集であればこうした部分はコラムで補足して欲しいなと思う部分でもあった。特に「ナッシュ均衡」「フォーカル・ポイント」などの概念は、いったん理解できるといろいろ世間の見方が変わってくるものだ。
 話の展開はゲーム理論から解き明かすというより、恋愛や夫婦関係、人間関係といった日常からの例や、政治や歴史の逸話などから例として取り上げられて読んでいて楽しい。恋人が口うるさくなく妻が口うるさい理由などもユーモアを込めて書かれている。
 著者のパーソナルヒストリーも興味深い。ひとりの高校生が一流の学者になった秘密のような話も描かれている。人生の上質な秘訣が随所にこっそり書かれているなと、著者より多少年を食った私は思った。

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