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2010.01.16

小沢氏秘書逮捕と民主党の司法対応

 昨晩、小沢一郎民主党幹事長の政治資金をめぐる問題で、東京地検特捜部は、小沢氏の資金管理団体・陸山会の事務担当者だった石川知裕衆院議員(36・民主党)、及び石川容疑者の後任の事務担当者だった池田光智元私設秘書(32)を政治資金規正法違反容疑(虚偽記入)で逮捕し、加えて今朝、同会の元会計責任者で小沢氏の公設第位置秘書・大久保隆規被告(48)を逮捕した。明後日には国会が始まるという時期に、現職議員の逮捕は衝撃的なニュースとなった。
 逮捕が妥当であったかについてはさまざまな意見があるが、(1)疑惑の金銭の額が大きくしかも悪質な資金隠蔽が想定されること、(2)石川知裕容疑者が同日に任意聴取を拒否していたこと、(3)過去の同種の事件から推察し精神的に追い詰められていた石川容疑者を保護する意味合い、といった点から、今回の石川容疑者の逮捕は不当だとまでは言い切れないというのが大方の理解だろう。他二名の逮捕についても、後に述べるように石川容疑者との関連になり、同様の理解は得やすい。
 石川氏の容疑についてだが、報道によれば、例えば今日付の読売新聞記事「大久保秘書も逮捕、石川議員は容疑認める」(参照)によれば、疑惑の土地代金に充てた4億円などについて「あえて政治資金収支報告書に記載しなかった」と全面的に認めているとのことだ。また今日付の東京新聞記事「「小沢先生が激怒する」 憔悴した石川容疑者、犯意認める」(参照)の描写は石川容疑者の心身状況を想像させるほど生々しい。


 関係者によると、石川容疑者は13日まで、東京都世田谷区の土地購入の原資となった4億円の収入などについて、陸山会の収支報告書に記載しなかった理由を「単なるミス、忘れていただけ」と説明していたという。
 ところが、14日昼すぎから行われた聴取では、聴取が進むにつれ、石川容疑者は憔悴(しょうすい)した様子を見せ始め、やがて「わざと記載しなかった」と供述した。
 聴取を担当した検事が、その理由を何度問いただしても「言えない」「言えない」と繰り返したという。
 さらに、虚偽記載の犯意を認めたことについて「このことを知ったら小沢先生は激怒するだろう。自分の立場もなくなる、知られたら政治生命は終わりだ」と供述したという。

 逮捕に関連する疑惑は小沢氏が出したとされる4億円の原資だけに留まらない。一昨日のエントリ「小沢氏土地疑惑へ強制捜査:極東ブログ」(参照)でも触れたが、平成17年1月5日になされたとする陸山会への寄付2億8千万円は偽装であり実際の資金移動はなかったようだ。今日付の朝日新聞記事「陸山会への2億8千万円「寄付」は偽装 池田元秘書供述」(参照)はさらに詳しい。

 陸山会は04年10月29日、原資不明の4億円を使い、東京都世田谷区の宅地を不動産会社から約3億4千万円で購入。関係者によると、この際、陸山会側は不動産会社側に「登記の時期は自由にしたい」と伝え、05年1月7日付で売買を登記。05年分の収支報告書にも、同日に土地を購入したとして約3億5千万円を支出計上した。
 ところが、陸山会が同日時点で保有していた資金は、定期預金以外は約1億4千万円で、土地代金には約2億円足りなかった。
 そのため、2日前の1月5日付で、小沢氏が代表を務める「民主党岩手県第4区総支部」から1億3千万円、「小沢一郎政経研究会」から1億5千万円の計2億8千万円の寄付があったように装い、収支報告書に収入として記載した。実際の資金移動はなかったという。
 特捜部の調べでは、石川議員と会計責任者だった公設第1秘書の大久保隆規(たかのり)容疑者(48)が共謀し、04年分の収支報告書には原資となる4億円の収入も、諸経費などを含めた約3億5千万円の支出も記載しなかったとして、政治資金規正法違反(虚偽記載)の疑いが持たれている。
 また、池田元秘書は大久保秘書と共謀し、土地は05年に取得したと偽って05年分の収支報告書に虚偽の支出を計上。さらに07年に小沢氏に4億円を支出したが記載しなかった疑いがある。

 これらは今回の逮捕者に大久保・池田両容疑者が含まれる理由にもなっている。
 犯意とは別にしても秘書に対する道義的な責任は監督すべき小沢氏にも及ぶのは当然であり、今朝の朝日新聞社説「石川議員逮捕―小沢氏に進退を問う」(参照)で「小沢氏は自らの出処進退を決断すべきだ」と論じている。今日行われた民主党大会も視野に含めたものだっただろう。
 小沢氏はどのように出処進退を決断したか。疑義の否定であり続投であり、検察への対決だった。大会では次のよう小沢氏は述べた。

 このことについて、実は今月の初め頃だったでしょうか。
 検察当局から、私の方に弁護士を介して、このお金はどういうものですか、という問い合わせがありました。
 私は別に隠し立てするお金ではありませんでしたので、はっきりとこれは私どもが積み立ててきた個人の資金でございまして、金融機関の名前、支店名もはっきりと申し上げて、どうぞ検察当局でお調べくださいと、そう返答いたしておったのでございます。
 そして、その翌日あるいは翌々日だったかと思いますが、検察当局から、その預金口座の書類は入手したと、そういう返答が弁護士を通じてありました。
 従いまして、私は、これでこの資金についての疑いは晴れたと考えて、安心してよかったなと思っていたところでございました。
 それがまた突然、きのうきょう、現職議員を含む3人の逮捕ということになりまして、本当に私は驚いております。
 しかも、意図してかどうかは分かりませんけれども、わが党の、この党大会の日に合わせたかのように、このような逮捕が行われている。私はとうていこのようなやり方を容認することできませんし、これがまかり通るならば、日本の民主主義は本当に暗たんたるものに将来はなってしまう。私はこのことを私個人のことでうんぬんよりも非常に憂慮いたしております。
 そういう意味におきまして、私は断固として、このようなやり方、このようなあり方について毅然として、自らの信念を通し、そして闘っていく決意でございます。

 小沢氏にしてみると、原資に疑惑があるとされる4億円については、問題のない個人資産であること示すべく預金情報を検察に知らせ、検察も了解していた。なのに、突然の秘書逮捕があったと小沢氏は憤慨している。
 これで疑惑の原資は十分に説明されただろうか。今日付の毎日新聞記事「小沢氏団体不透明会計:石川議員、逮捕当日は聴取拒否 4度目要請で初めて」(参照)では、該当のカネは小沢氏の遺産であるという話を伝えている。

 石川知裕容疑者が土地購入費4億円の原資について、小沢氏が亡父から相続した金と説明していることが分かった。接見した弁護士が16日、記者団に明らかにした。
 亡父は小沢佐重喜(さえき)元建設相(68年死去)。弁護士によると、小沢氏は佐重喜氏の相続遺産を小沢氏や妻名義で信託銀行に預け、約10年前、銀行から引き出して小沢氏宅に保管していた。弁護士は「15日、特捜部にこうした説明をし、16日に予定されていた任意聴取で石川議員本人が供述する」と伝えていたという。
 石川議員は16日、東京地裁の拘置質問で容疑を認めたといい、弁護士に「政治家が大きな金を持っていることが分かると良くないと思った。経理処理については小沢氏は知らない」と話しているという。

 伝聞の関係が複雑になっているが、疑惑の4億円が小沢氏の相続によるものかについては、小沢氏ないし代理として弁護士が語っているのではなく、あくまで石川容疑者の伝聞に過ぎない。政治資金報告書には計算ミスがある程度だと強弁した小沢氏について、この預金の点でも信頼せよというのは、常識的には無理がある。
 だが、民主党は大会で一致し小沢氏を信頼し、さらに小沢氏が「日本の民主主義は本当に暗たんたるもの」にするのを避けるべく検察と戦うことを支援した。国民にとっては、永田寿康・元民主党衆院議員による疑惑メールでの民主党の対応を想起させる光景となった。
 私が驚いたのは、いや驚くほどのことはないのかもしれないが、鳩山首相がこの小沢氏を支援したことだ。「(小沢幹事長は)幹事長を辞めるつもりはないと。私も小沢幹事長を信じていますと。どうぞ(検察と)闘ってくださいと」と鳩山首相は言った(参照)。鳩山さんらしいすっとぼけた他人事と聞いたほうがよいのだろう。そうでなければ、三権分立において、行政の長であり、また立法において絶対的な権力をもった党派の長が、司法のプロセスに挑戦状をたたきつけたことになってしまう。
 検察が自身の暴走で国会議員を撃ち止めることは残念ながら過去にもある。実質的な元首である首相を逮捕してしまったこともある。しかし、これらは明示的な構図にあるがゆえに民主制度で歯止めがまったくきかないわけではない。国会議員であれば指揮権発動も可能だ。
 現下の問題は、民主党政権下では、行政と立法の長であるべき鳩山首相を傀儡化させ、その最高権力が実質小沢氏の下に置かれつつあることだ。昨年12月18日共同記事「税率や所得制限、実際は陳情なし 「国民からの要望」に疑義」(参照)が事実であれば、民主党のマニフェストの重要項目であったガソリン税の暫定税率撤廃は小沢氏の独断で排されたかに見える。

 民主党の小沢一郎幹事長が2010年度予算編成に向けて鳩山由紀夫首相へ提出した「重点要望」のうち、目玉項目となったガソリン税の暫定税率維持や子ども手当への所得制限導入について、実際には各種団体や自治体からの陳情、要望はなかったとみられることが17日、分かった。複数の党関係者が明らかにした。
 財源確保策として小沢氏ら党の独自判断で明記したとみられ、小沢氏が「全国民からの要望」としたことに疑義が生じた格好。鳩山政権は「政策決定の内閣への一元化」を掲げているが、与党が陳情集約だけでなく、政策判断にまで踏み込んだ構図があらためて鮮明になったといえる。

 小沢氏が独裁者であるとは私は思わない。しかし、民主党員の誰一人として表立って小沢疑惑に異議を述べることができない現行の民主党政権の状況では、その道を辿りうる素地があるかに見える。民主制度とは、そもそも衆愚から独裁者を生み出しやすい制度であるがゆえに、絶対的な権力に何重もの歯止めを掛けるようにできている。それが機能しなければ、民主主義は守られない。
 私は、小沢氏は民主党幹事長の職を辞すべきだったと思うし、鳩山首相はその配慮を見せるべきだったと思う。少なくとも、鳩山首相はたとえ一つの政党内であれ、各種争論が起こりうる、ハンナ・アーレントが複数性と呼ぶ多様さへの寛容を示すべきだったと思う。

追記(17日)
 NHK「口座から引き出しは3億円余」(参照)によると、小沢氏の指摘した口座から3億円の引き出しは確認されており、残り1億円に検察が疑いを持っているらしい。このあたり報道からは検察側の作意が感じられる。


関係者によりますと、この4億円について、石川議員は特捜部の調べに、「小沢氏から借りたものだ」と供述しているということです。また、小沢氏は16日、民主党の党大会で、「土地の購入の際、何ら不正なカネを使っているわけではない。私どもが積み立ててきた個人の資金で、金融機関の名前、支店名もはっきり申し上げ、検察当局でお調べくださいと返答した。その後、検察当局からその預金口座の書類は入手したと返答があり、この資金についての疑いは晴れたと考え、安心していた」と述べました。関係者によりますと、特捜部が小沢氏側の説明に基づいて該当する信託銀行の口座を調べたところ、土地を購入する6年前の平成10年ごろ、あわせて3億円余りが引き出されていたことがわかりました。特捜部は、土地の購入資金に充てられた4億円のうち、残りの1億円近くをどのように工面したのか説明を求めるため、引き続き小沢氏本人に参考人として事情聴取に応じるよう要請しています。

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2010.01.15

中国の軍事脅威に救われた普天間問題先延ばし

 日本時間13日にハワイで、80分間ほどだったが実施された岡田克也外相とクリントン米国務長官の会談で、日米安保条約改定50年に向けた同盟深化の協議に合わせ、普天間飛行場移設問題について鳩山政権による5月までの決断棚上げを米側が実質了承した。
 これまで早急な決断を求めていたかのようだった米オバマ政権が軟化したか、あるは当初からそれほど喫緊の課題ではなかったかのような様相を見せていることもあり、昨日の朝日新聞社説「同盟協議―土台を固め直す議論に」(参照)も「アジア太平洋地域にどんな脅威や不安定があるのか、安全保障環境についての認識を共有する作業から始めたいという」と暢気な評価をしていた。が、実際は台湾を巡る米中関係がこの間緊迫化しており、これ以上埒の明かない鳩山政権に拘泥して、環境問題は人類の消滅で解決するといった宇宙的視点から、北朝鮮問題・イラン問題・アフガニスタン問題などであらぬ方向に逆走されても困るし、そもそもこの政権が長期化するのか不明な状況では、とりあえず重要度の高い問題に米外交もシフトしたということだった。
 米側報道でのオバマ政権軟化については、13日付けワシントンポスト記事「In shift in tone for U.S., Clinton plays down fight over Marine base in Japan(米側変化で、クリントンは在日海兵隊基地討議の矛を収める)」(参照)がわかりやすかった。同記事では米側軟化の理由を三点挙げていた。私なりにまとめると、(1)日米同盟の弱体をアジア諸国の指導者や市場が懸念していたこと、(2)中国のアジア影響力拡大や海上軍事進出の隙を与えないこと、(3)アジア諸国の関係悪化に及ばないようにすること、である。
 三点をさらにあえて一つに集約すれば、アジアにおける対中権力のバランスの揺らぎがもたらす危険性の認識でもあり、これをもっとも具体的に表しているのが、新たなる台湾危機の可能性だった。
 今回の岡田・クリントン会談は日本側から見ていると、朝日新聞社説のように普天間問題を巡る日米関係のようにしか見えないが、より具体的な文脈は、2008年10月、ブッシュ政権下で決定され、今回初めて実施される運びとなった、米国から台湾への地対空誘導弾パトリオット(PAC-3)売却がある。
 台湾の馬英九大統領(総統)も米側のPAC-3売却決断を「必要性が高い政策であり、台湾海峡の安定に役立つ」と高く評価しているとしている(参照)。これで形の上ではあるが、中国の短距離弾道ミサイルを迎撃する能力を台湾が独自に獲得していく道が開けた。米側としては台湾にさらなる武器供与(新型F16戦闘機)に踏み切る可能性があることも示唆されている。
 背景を見ていこう。14日付け朝日新聞記事「台湾への武器供与「続ける」 米次官補、中国軍に懸念」(参照)は、背景に台湾に標準をあてた中国の軍拡を伝えている。


米国防総省のグレッグソン次官補は13日、下院軍事委員会の公聴会に提出した書面で、中国が、台湾に対し軍事的に優位になったと自ら判断したうえで「最後通告」を突きつける恐れがある、との懸念を示した。


 次官補は、中国が台湾の対岸に1千基以上の短距離弾道ミサイルを配備し、燃料補給なしの飛行範囲内に約490機の戦闘機を配置していると指摘。中台関係が改善したにもかかわらず、依然台湾海峡の有事に焦点を当てているとし、「米国は台湾が十分な自衛力を維持するための武器を供与し続ける」と述べた。

 中国側はこの展開に表面的には怒り狂ったような対応している。13日付け産経新聞記事「中国、米に「報復措置」も 台湾武器売却で評論家・石平氏」(参照)では、石平氏の見解としてその動向を伝えている。

 中国外務省の高官は7日から9日にかけて3回にわたり、「強い不満と断固反対」を表明。8日には、中国国防省報道官も、「強い不満と断固反対」を表明し、「中国側はさらなる措置を取る権利を留保する」と、昨秋、本格再開した米中軍事交流の停止などの報復措置を示唆した。


 実際に売却が行われた後には、「報復措置」を取らざるを得なくなるだろう。事実、昨年末あたりから、中国の御用学者たちは一斉に、「米国に対抗する実質上の報復措置を取るべし」と大合唱を始めている。中国は今後、この問題で米国と徹底的にけんかしていく覚悟なのだ。なぜか。考えられる理由は三つある。

 三点の理由はこうだ。

 第一に、中国は国力増大で自信を持ち、米国の台湾への武器売却、つまり「内政への干渉」に我慢できなくなったということだ。
 次に、中央指導部での軍強硬派の発言力が増し、この問題で柔軟な対応ができなくなったという点だ。
 最後に、最も重要なのが、胡錦濤政権が、「台湾問題の解決」をすでに視野に入れ、この問題への米国のかかわりに神経過敏になっているということだ。

 私の見立ては石氏とは異なり、共青同及び胡錦濤は対話路線を取り得るだろうが、習近平氏を推す派を抑えにくくしている中国国内の事情が強いだろうと考えている。
 いずれにせよ、中国としては米国が支援する台湾の軍事強化を見過ごすわけにもいかず、初手としては11日に地上配備型の弾道ミサイル迎撃システムの技術実験を実施した。さらに中国的ユーモアで、空軍指揮学院の王明志氏は「米国のPAC-3システムに比べ中国のシステムの迎撃高度ははるかに高く、能力も優れている」と主張しているとのことだ(参照)。愉快な主張を除けば、従来ロシアに依存して探知・迎撃の技術を中国国産に転化してきた点は注視してよいだろう。
 先の朝日新聞記事に戻ると、13日の米国防総省のグレッグソン次官補の話では、サイバー攻撃の言及もあった。

 中国がサイバー攻撃の能力を向上させていることにも懸念を表明。米政府を含む多数のコンピューターが中国国内からとみられる攻撃の標的になり続けているとし、「中国の軍や当局が実施、あるいは容認しているのか不透明だ」と言及した。

 時期的に見て、中国からのGoogleへのサイバー攻撃やGoogle側の中国撤退話も、おそらくこの同一の文脈にあると思われる。
 関係のない事象を面白おかしくつなげるというのはありがちな誤認でもあるが、話を冒頭に戻してみてると、岡田・クリントン会談が一連の台湾有事とアジアの権力均衡に関連していることは明白に読み取れるし、当然ながら、普天間飛行場移設問題の延期もまた、台湾有事に対する米側の今後の対応との関係に置かれていることが明らかになる。

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2010.01.14

小沢氏土地疑惑へ強制捜査

 昨夕、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体陸山会をめぐる土地購入疑惑で東京地検が、陸山会、秘書でもあった石川知裕衆院議員の事務所、および大手ゼネコンの鹿島を対象に強制捜査に入った。容疑は、政治資金規正法違反である。18日には通常国会が召集されるので、実質民主党の最高権力者である小沢氏の疑惑は民主党政権にも大きな影響を与えるだろう。
 意外でもあるのだが、今回の強制捜査を巡って、小沢疑惑という点でとりわけ新しい話は出て来ていない。元旦に書いたエントリ「年明け早々から多発するカネを巡る小沢疑惑: 極東ブログ」(参照)の枠組みで収まっている。ただしこのエントリを書いたときは、読み取れる人にはわかるように「鹿島」のキーワードを配置しておいたが、この本丸にこうも早く検察が向かうのかというのは、私にとっては多少想定外でもあった。
 今回の強制捜査で、おそらく最も重要な点は、鹿島が明示化されたことだ。検察が鹿島を軸にした大きな絵でどこまで独走できるのかが、今後の注視点だろう。この点については、他の背景もある。報道も鹿島には及び腰だし、ブログで散見する、当初は居丈高に騒いでいた各種のポジションの人々も奇妙な沈静感が感じられることだ。恐らくこの奇妙な鹿島タブーの空気は、検察と小沢氏の手打ちの先読みと理解できるかもしれない。
 小沢氏関連の疑惑による強制捜査という点では、今回は昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕に次ぐものになる。だが、今回の強制捜査はかなり性質が異なる。昨年の強制捜査には、裏のカネが関わっているわけでもなく、長期政権の自民党でもありがちな政治資金報告書の記載ミスにすぎなかった。だから、なぜそんな微罪に検察が強制捜査したのかという点で世論でも検察の暴走が非難されたものだった。
 今回の疑惑には裏のカネが関わっている。原資不明のカネが随所に存在している。強制捜査をしないかぎり見えないと検察が判断しても、それなりに合理性も説得力もある。
 関連のカネの動きは、産経新聞記事「「やましいカネ」隠蔽? 小沢氏「陸山会」24億円を不透明移動」(参照)がわかりやすいので、あえてそれを借りたい。

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 図中赤色の背景の白抜き文字で「原資不明」となっている部分に、公開された政治資金の記載から見えない裏のカネが関与しているのではないかと疑われている。
 私がこの問題を十分にフォローしているわけではないので誤解もあるかもしれないが、2007年時、「小沢ハウス」疑惑が問題化されていたときは、黄色背景の部分しか見えていなかった。つまり、平成16年10月29日、陸山会は4億円の定期預金を担保に、銀行から小沢氏へ4億円融資を行い、この融資金を小沢氏から陸山会に貸し付けて、小沢ハウスの土地購入の資金としたという話だった。この話は、きちんと当時の陸山会の資金報告がまとめられている官報号外第223号247ページ(参照)にあるとおりで、まったく問題はないかに見える。

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 ところが実際の疑惑の土地購入が行われたのは、融資が下りる前日10月28日以前のことでで、4億円のカネも直接小沢氏が、当時の小沢氏の秘書だった石川知裕衆院議員に渡していた。しかも、産経新聞の図からはわからないが、石川氏は小沢氏から4億円の現ナマを受け取ったあと、これを複数の銀行に分散して預金し、さらに分散した銀行から一つの銀行にまとめ直して後、土地代金に充てるという不自然なカネの操作をしていた。
 この間、小沢氏本人からの4億円と、融資を経由した4億円の、都合8億円が動いているのだが、前者の小沢氏本人からの4億円に収支報告書には掲載されていない。
 面白いことに、年末年始の動向だが、この2つの4億円の疑惑を多少奇妙とも思える理屈で合理化するお話がどこからともなくネットに広まっていた。お話には2段階あって、まずそもそも疑惑の4億円などないというお話。これは収支報告書に記載されているもので都合8億円をごまかすものだったが、これは稚拙すぎてブロガーには騙される人がいてもジャーナリズムでは嘲笑されただけだった。
 2段目のお話は、私が誤解しているかもしれないが、小沢氏からの直接の現ナマの借り入れは融資金で相殺されているから、結局、融資金を再度陸山会に貸し付けた金額だけ記載すれば、収支報告書上は問題がないといった類である。お話としては面白いが、石川氏はそのようなお話を検察にしているわけでもないので、ただの非理屈の類でしかない。また、相殺されて4億円の借入なら、なぜ17年5月の4億円⑥と、19年4~5月の4億円⑦の都合8億円の返済なのだろうか。購入した不動産が返済用に現金化されているふうでもない。が、関連して個人的に残念に思ったのだが、昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕の際に明晰な議論を展開していた、元検察の郷原信郎氏もその類の説明(参照)をしていた。
 愉快な煙幕のお話はさておき、当の話はこの複雑なカネの動きにある。なぜ、小沢氏から直接4億円を現ナマで陸山会が借りられるのに、別途預金担保の融資金4億円を用意するということ(預担)をしたのか。
 検察リークの情報だが、石川氏によれば預担は慣例化していたとのことだ。ではなぜ慣例化していたのか、それ以上の説明を見かけたことは私はないが、おそらく原資を政治資金団体に帰着させるためだったのだろう。今回の話でも、本来はそういう話ならここまで突かれることはなかった。
 ではなぜ、小沢氏本人から謎の4億円のマネーが出て来たのか。
 この点は、私の誤解もあるかもしれないが、石川氏が陸山会の預金では預担ができないと判断したからだろう。このあたりの事情についても報道があまりないので私の想像なのだが、平成15年の陸山会の収支では、預金が7千150万円、小沢氏からの借入金が1億1千855万円なので、4億円の預担には2億円近く足りない状態になっている。だから、10月29日の寄付1億8千万円(原資不明)が必要になったとも言えるのだが、28日までの時点ではなんらかの理由でこの寄付が無かったのだろう。
 問題を整理しよう。今回の強制捜査、何が問題なのか。もちろん、随所に潜む原資不明のカネの存在で、それがゼネコンの談合利権に帰着するだろうかという疑惑がある。だが、ここではもっと手短に見ると、昨晩7時のNHKニュースの4点まとめがわかりやすい、と同時に、NHKはこう見て報道していた。


  1. なぜ複数の口座に
  2. 4億円の融資
  3. 土地購入の時期
  4. 資金をどう捻出

 NHKは謎をそのまま放置していたが、私の常識からコメントしておく(私の常識は非常識とかのわかりやすいツッコミはナシね)。
 (1)複数の口座は、先に触れたように小沢氏本人からのカネを石川氏が各種銀行に分けてさらにまとめた行為を指す。常識的に見れば、マネーの出所を複雑にするありがちなマネーローンダリングと疑われてもしかたがない。
 (2)なぜ小沢氏から直接4億のカネがあるのに、別途融資で4億のカネを作ったか。常識的に見れば、小沢氏からの直接のカネを相殺・隠蔽するためだろう。
 (3)土地購入の時期については産経新聞の図からわからないが、実際には平成16年10月の土地取引は政治資金報告書上は翌年の1月の扱いになっている。常識的に見れば、前年に突出したカネを動きを作らないためだろう。
 (4)これはわからない。というか、それがゼネコンに由来するかということが現下の疑惑であり、NHKは最後に置いたが、一番大きな疑惑のポイントだ。
 ところで今回の強制捜査だが、本当に大きな問題なのだろうか。
 産経新聞の解説図では原資不明のカネを3箇所に絞り込んでいるが、当面問題になっているのは、疑惑の土地用に小沢氏が工面した4億円の原資である。これが、小沢氏本人の資産であるとか、夫人の資産であるとか、いずれにせよゼネコンとか関係ないということなら、あるいは「ない」という建前にできるなら、昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕の場合と同様に、報告書の記載ミスで終わる。小沢氏が事情聴取に応じ、報告書を修正して終わりというわけだ。
 しかし、そういかないだろうという雰囲気は、12日の記者会見(参照)で小沢氏が実質述べていることから察せられる。

 それはそれとして、以前から何度も申し上げております通り、私自身も、また、私の事務所の者たちも、計算上のミスやら、そういったものは、あったかもしれませんけれども、意図的に、法律に反するような行為はしていないものと信じております。

 言葉尻を捉えて非理屈を言うようだが、小沢氏は「意図的に、法律に反するような行為はしていない」とは思っていても、意図的ではなく法律に反するような行為をしてしまったという認識がここで示されている。

 また、ご承知のように私の東京の後援会の事務所、盛岡の事務所、あるいは水沢の実家の事務所が強制捜査の対象となっておりまして、すべての書類等々が押収されております。それからまた、その後も弁護士等を通じて事実関係には包み隠しなく話しておると思います。
 従いまして、今の段階で私が申し上げるのは差し控えますけれども、検察当局においては、当局におきましては、この問題についてすべてご存じのことであるという風に思っております。以上です。

 小沢氏は、検察がすべてを知っていると認識している。つまり、小沢氏を政治的に生かすも殺すも検察の手にあって抗弁の余地はないとしている。その前提で小沢氏が聴取に応じようとしないのは、結末が決まっていてそれなりの覚悟があるのか、もう少し先に検察との手打ちの位置があるかだら。私は前者ではないかと思う。
 というのも、今回の強制捜査はある意味で、一つの政治ショーなのではないかと私は見ているからだ。昨年春の小沢一郎公設秘書逮捕は、これまでの日本の政治風土からすれば異質なルール変更だったし、暴走とも言えるものだった。しかし、それをあえて検察は行った。
 背景は、大きな絵のための証拠隠滅を恐れたためかもしれない。7日付け産経新聞「西松違法献金 石川議員ら証拠隠滅か 強制捜査前後に資料搬出」(参照)より。

 関係者によると、石川氏や小沢氏の元秘書らは強制捜査が入る数時間前、陸山会の事務所から大量の書類を段ボール5箱に詰め、元秘書の車に保管。翌3月4日には東京・永田町の衆院議員会館の石川事務所にあった書類などをバッグに入れて、段ボール箱と一緒に別の場所に運んだという。

 この話の詳細は今月の文藝春秋「西松事件 元秘書の告発 消えた五箱の段ボール 田村建雄」に詳しい。また、類似の話は今朝の産経新聞記事「「石川議員に頼まれ証拠隠した」 元秘書が自民勉強会で告白」(参照)にもある。

 金沢氏によると、特捜部が陸山会事務所を捜索した昨年3月3日、石川氏から「小沢氏から『チュリス(陸山会事務所が入る都内のマンション)でまずいものを隠せ』と指示があった。手伝ってほしい」と電話を受け、勤務先の札幌市から上京し、同日夜に石川氏と合流した。
 石川氏は「隠せるものは隠したが、自分の衆院議員会館事務所も捜索が入るかもしれない」と話し、翌4日に石川氏の事務所に出向き、鹿島建設や西松建設などゼネコン関係の名刺や資料を黒いナイロン製のボストンバッグに詰め込んだという。バッグは一度松木謙公民主党衆院議員の事務所に預けたことも明らかにした。
 金沢氏は当時小沢氏の秘書だった樋高剛民主党衆院議員から「陸山会事務所の証拠隠滅工作に加わった」と聞いたことも暴露。樋高氏は「資料が押収されていたら小沢氏を含め全員逮捕だった」と話したという。

 こうした資料が現在どうなっているかは不明だが、おそらく概要はすでに検察が掴んでいるだろう。今日付の毎日新聞記事「小沢氏団体不透明会計:「証拠隠した」上申書 西松献金で石川議員元秘書」(参照)によれば、石川氏の秘書(上述の金沢氏と見られる)は「昨年3月の西松建設違法献金事件の際に証拠を隠した」とする上申書を東京地検にすでに出している。

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2010.01.11

ジェームズ・チャノス(James S. Chanos)による中国経済クラッシュのお話

 9日付け産経新聞記事「米著名投資家、中国経済の崩壊予測」(参照)が、8日付ニューヨーク・タイムズ記事「逆張り投資家が中国経済の崩壊を予測する(Contrarian Investor Sees Economic Crash in China)」(参照)を紹介していた。産経記事の標題とオリジナルの標題を比べてもわかるように、オリジナルでは最初からちょっと変わった逆張り投資家という点を打ち出しているのに対して、産経記事では単に米著名投資家とし、記事のトーンも中国経済への便乗揶揄といった雰囲気が感じられた。実際にオリジナル記事を読んでみて、多少気になるところがないではないので、ブログのネタにしておこう。結論から言うと、産経の紹介記事がそれほど悪いものではない。そして、このネタで一番知りたいのは本当に中国経済は崩壊するのかということだろうが、この記事からだけではわからない。
 話は、米国ヘッジファンド「キニコス・アソシエイツ」設立者であるジェームズ・チャノス(James S. Chanos)氏(51)が中国経済のバブル崩壊を予測し、空売りを勧めているという話だ。チャノス氏(産経記事では「シャノス」)は、逆張り投資家として有名で、特に名声を高めたのは、2001年不正会計事件で破綻したエンロン経営危機を事前に予測し、空売りで利益を得たことだ。
 産経記事はこうチャノス氏の見解を紹介している。


 しかし、8日付の米紙ニューヨーク・タイムズの特集記事「中国を空売りする」によると、シャノス氏は中国経済が「ブームを続けるよりも、崩壊に向かっている」との警告を投資家向けのメールやメディアを通じて発信。過剰な投機資金が流入する中国の不動産市場は「バブル」であり、その規模は昨年11月に信用不安を引き起こしたアラブ首長国連邦のドバイの「1000倍かそれ以上だ」という。
 そのうえで、シャノス氏は中国政府が発表する経済指標について会計操作や虚偽もあると疑い、「売ることのできない量の製品をつくり続けている」などと強調。昨年12月、中国経済の破綻を見込んで建設、インフラ関係の株式を物色していることを明かした。
 シャノス氏が真剣に中国経済の研究を始めたのは、昨年夏。無謀な経営計画による企業の利益の誇張を見抜くことを哲学としてきたシャノス氏だけに「中国株式会社という最大の複合企業の神話の崩壊」(同紙)が的中するか、話題を呼びそうだ。

 間違った紹介ではないが、例えば、「シャノス氏が真剣に中国経済の研究を始めたのは、昨年夏」というくだりは、次のように付け焼き刃ではなかという文脈に置かれている。

Colleagues acknowledge that Mr. Chanos began studying China’s economy in earnest only last summer and sent out e-mail messages seeking expert opinion.

同僚によれば、チャノス氏が中国を熱心に調べるようになったのはたかだか昨年の夏で、それで専門意見を求めるメールを出したとのことだ。


 また、「昨年12月、中国経済の破綻を見込んで建設、インフラ関係の株式を物色していることを明かした」という点だが、産経記事の紹介でわかる人はわかると思うが、背景は、中国株は外資を統制しているので代替として関連産業で空売りをしかけるという意味だ。ちなみに、チャノス氏の予測が当たれば、一次産品が暴落することになる。
 オリジナルの記事は当然ながら、最初から逆張り投資家の奇妙な意見ということなので、バランスを意識して、中国はバブルではないとするジム・ロジャーズの見解も添えられている。
 チャノス氏の意見はただ奇矯のようにも見えるが、「売ることのできない量の製品をつくり続けている」こと、資産バブルの懸念があるというのはごく常識だろう。この点は5日朝日新聞記事「09年の中国経済 資産バブルに警戒を」(参照)が無難にまとめている。
 以上でチャノス氏を巡るネタは終わりのようだが、私は産経記事で紹介されていないチャノス氏の意見で気になることが2点あった。

“Bubbles are best identified by credit excesses, not valuation excesses,” he said in a recent appearance on CNBC. “And there’s no bigger credit excess than in China.”

「バブルだと認識する指標は信用の超過であって資産価値の超過ではない。中国はこれ以上の与信を与えることはできない」と彼は最近のCNBC出演で述べた。


 通常、現下中国経済で多くの識者が懸念しているのは、先の朝日新聞記事にあるように資産バブルだが、チャノス氏の中国経済崩壊論の基軸は、信用超過にある。これが1点目だ。
 これをどう理解すべきか。私が思ったのは、中国政府の与信はまさに、中国国民の政府に対する信頼に依拠しているのではないか。だから、昨今中国が一見するとまたまた江沢民時代のようなナショナリズム高揚や軍備拡張に向かっているのも、むしろ経済的な与信への派生なのではないだろうか。そしてそこに相互の弱点があるように思える。つまり、中国政府への国民の信頼がなければ経済は揺らぐし、経済が揺らげば中央政府が弱体化し社会不安になる。
 2点目は、「中国経済の破綻を見込んで建設、インフラ関係の株式を物色」だが、なぜインフラ関係かといえば、日本の70年代の高度経済成長政策のように土木公共事業や製造業の設備投資を推進しているからだ。これがうまく行くだろうか。
 私の素人考えだが、米国のリーマンショックに始まる金融危機は本来中国で発生するものを米国が結果として肩代わりしたように思っているので、その肩代わり部分にもう無理が来ているのではないか、とんでもないクラッシュがあり得るのではないかとなんとなく不安に思っている。中国経済の崩壊と北朝鮮の体制崩壊は何年もまえから何度も繰り返され、その都度狼少年を産んでいる。が、ブラックスワンはまさにこうした状況で羽ばたくものなので、日本経済もその体制のシフトがあってもいいかもしれない。いつもの持論と逆になってしまうかもしれないけど、民主党政権下の孤立経済でじわじわデフレというのは意外とブラックスワン対策になるんじゃないかとちょっと思う。

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