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2010.04.02

フィナンシャルタイムズ曰く、日本の夜明けは間違いだったぜよ

 エープリルフールのネタを晒しておくのもなんだが、日本の政治的な状況は冗談よりひどいことになってきていて話題に詰まる。こうなれば毒皿喰わんか的状況だ。ついでなんで、先月28日のフィナンシャルタイムズ社説「Japan’s false dawn(日本の間違った夜明け)」(参照)にも言及しておこう。ようするに、フィナンシャルタイムズ曰く、日本の夜明けは間違いだったぜよ、である。
 よく言うよな、昨年の選挙前は、「フィナンシャルタイムズ曰く、こりゃギャンブル : 極東ブログ」(参照)だったのだが、と思うに、このくらいでないと英国的な政治感覚は身につかないなのかもしれない。
 改心したふうのフィナンシャルタイムズ社説だが、すでにgoo ニュース「日本の夜明けは勘違いだった」(参照)として翻訳が上がっている。


 日本国民が昨年8月の選挙で自民党を政権の座から追い出した時、その主な目的は、50年間にわたる自民党の権力独占を終わらせ、民主党にチャンスを与えることだった。国をぬかるみから引っ張り出してもらうため、有権者は民主党にチャンスを与えたのだ。
 しかし、日本の有権者には実はもう一つ別の思惑があるのではないか。内外のアナリストたちは揃ってそう勘ぐっていた。もうひとつの思惑とはつまり二大政党制の誕生だ。これまで受け身に徹していた有権者に、政治思想的に競い合う政党のどちらかを選ぶという、本物のチャンスを与える仕組み。期待以下の働きしかしない政権を(半世紀よりも短い周期で)追い出す機会を、有権者に与える仕組み。そういう仕組みの誕生を、有権者は期待していたのではないか。当時はそう思われていたのだ。

 いわゆる「お灸」論だ。
 しかし、フィナンシャルタイムズ社説もこの先で、しかし二大政党を担うべき自民党がぼろぼろになってしまったと匙を投げる。が、その割に結論は自民党にがんばれとエールを投げているようでもある。

この状況を簡単に解決する手軽な方法などない。しかしもし自民党がここでシャンとするならば、民主党も否応なくしっかりするかもしれない。そうすればせめてもの出発点にはなる。

There are no quick fixes to such a state of affairs. But if the LDP could get its act together, it might just force the DPJ to do the same. That, at least, would be a start.


 前段がなくgooの翻訳だけだと"such a state of affairs"の語感が伝わりにくい。また、"get its act together"は、「シャンとする」というより、自民党内ごたごたはやめれ、の含みだろう。"such a state of affairs"は何か。前段はこうある。

しかし日本の経済力が心許ないことになりつつある時、とりわけ台頭する中国などの大勢力に打撃を受けている時、そうした政党の在り方は、断固とした決断力あふれる行動をとるには不向きだ。

But it is not conducive to decisive action at a time when Japan is drifting economically and buffeted by greater forces, notably the rise of China.


 中国の台頭により、日本は経済的な方向性を見失っている。中国からの荒波の影響を受けている。これが現在日本が直面している問題であって、それには「民主党役に立たねー」ということが日本の状況である。フィナンシャルタイムズは毎回愉快なネタを提供してくれるだけではなく、きちんと日本の問題も見抜いている。
 話が後方検索みたいになっていくが、なぜ日本がこんなひどいことになったのか。

政治思想がくっきり鮮明化することを期待する人もいたが、それは日本には不向きなことなのかもしれない。文化が違うからだなどという説明の仕方は要注意だ。しかし、日本がほかの民主国家と比べて人種や宗教の分断、ひいては階級の分断さえ少ない、合意重視型の国であることは間違いない。日本において政党は、社会福祉 vs 健全財政、近隣諸国との友好 vs 強固な日米同盟――などといった明確な政治思想の違いをもとに成り立っているというよりは、個人的な人間関係や、力と金の取り引きをもとに成り立っているのだ。それはそれでいいだろう。

Japan may be ill suited to the sort of ideological clarity that some hoped for. One should be wary of cultural explanations. But it is true that Japan remains a consensual society where divisions of race, religion and even class are smaller than in many other democracies. Political parties are less about clearly defined ideologies – social welfare versus fiscal rectitude, a “good neighbour” policy versus a strong US alliance – and more about personal relationships and the brokering of power and money. That’s fine so far as it goes.


 日本特殊論といった文化的な説明や、日本単一民族論といった妄言はどうでもいいとしても、"a consensual society"という傾向は日本にあり、政治的な力学の大きな要因でもあるだろう。いや日本の内部からすれば、国民的合意なんてものはまるでない、民主党はただあらぬ暴走しているだけと見えなくもない。
 それでも日本の政党という点で見るなら、政治思想なんてものは皆無だ。自民党にも民主党にもなんの政治思想もない。あるのは、元大蔵事務次官斎藤次郎・日本郵政社長と民主党小沢幹事長と亀井静香郵政・金融担当相といった"more about personal relationships and the brokering of power and money(個人的な関係と権力や金のブローカー的お仕事)"で成り立っている力学だけだ。自民党から民主党へ政権交代したが、そこは何も変わっていない。しいて違いがあるとすれば、カネと権力に関係なさそうに装っていた社民党も同じ仲間だったねというだけのことだ。
 どうしたらよいか。マスコミが好きな清廉潔白な政治や、リーダーシップ論に逃げ込むのではなく、理路としては、きちんと市民が政治にまさに政治思想を求めるしかない。さしあたって私は、小さな政府を要求していきたい。

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2010.04.01

民主党の成長戦略は新たなる道路建設にあった

 民主政権下で道路整備事業財政特別措置法が改正される(参照)。自民党時代には、高騰したガソリン対策や景気対策として3兆円の国税が投入され、利便増進事業として休日上限1000円の割引や、スマートインターチェンジ整備に利用されていた。今回の民主党による改正では、この国税の用途を高速道路建設や車線増設に転用できるようする。この背景には、民主党の新しい成長戦略がある。
 道路整備事業財政特別措置法の改正について前原誠司国交相は当初、「高速道路会社にお金を渡して会社が整備するというのはまったく議論していない」(参照)と述べた。しかし要望の背景に、小沢一郎幹事長による、夏の参院選をにらんだ地方の首長らの取り込みがあると理解するや、その後は八ッ場ダムやJALの問題のようにきちんと沈黙を守っている。
 大半の地方首長も道路事業費の四分の三を国が負担し、残りの四分の一を地方が負担するだけでよいとなれば、この改正を歓迎し、民主党を支持することだろう。
 しかし民主党政権は、無理と知りながらもマニフェストで高速道路無料化を謳った手前、なんとか全国の二割の高速道路を無料にすると発表したばかりだ。さらなる道路増設というのでは、政策上に矛盾はないのだろうか。国税を投入してまで道路事業を推進することを不可解に思う国民もいるだろう。
 だが民主党議員にはその疑問はない。馬淵澄夫副国交相にいたっては、料金割引財源の建設費への転用が予算措置を伴わないから新たな国費の投入ではないとまで述べている。道路予算の大幅削減を強調しておきながら、予算計上されない建設資金を捻出する国交省の姿勢に問題を感じているようで民主党議員は務まらない。
 しかも6月には休日上限1000円割引制度が廃止され、車種ごとの上限料金制を導入する予定だが、道路建設への転用で割引財源が目減りすれば、新料金は高額になるか税負担となる可能性が高い。この点についても民主党議員には疑問はない。民主党内では、道路増設に関連して検討されてきた、日本経済の新成長戦略があるからだ。
 民主党の新成長戦略とは何か。端的に言えば、小沢一郎幹事長の政治的な師匠でもあった田中角栄元首相の列島改造論の新しい展開である。日本列島全域にさらなる道路を増設することで日本経済の復興を図り、デフレ脱却を求める戦略である。
 新戦略は今日この日を狙って発表されることになる予定だが、その一部は事前に独立行政法人高速道路機構から公開されている。関連の情報を見ると説得力がある(参照PDF)。

 日本は無駄な道路が多すぎると言われてきたが、この表からもわかるように、GDP比による供用延長指数は、日本が1.95と断トツに低い。つまり日本は、経済規模に見合った道路がいまだ整備されていないのが実情であり、逆に言えば、日本経済を停滞させているのは、日本国が道路に十分な投資をしていないからなのである。
 民主党マニフェストにもある高速道路無料化の本来の意義は、高速道路の有効活用によって経済活性が期待できることであった。活用できるなら道路は増えるほうがよい。だから増やそう、地方にもっと道路を増やそう、小沢一郎氏率いる民主党は列島改造論の原点に立ち返ろう、というのである。
 道路財源の暫定税率も民主党の新成長戦略に沿って再考されている。政権交代直後は、実質的に暫定税率が維持されたことで公約違反と非難されたものだった。当時はこれを廃止すると、個人消費は0.9兆円増加するものの、年間2.6兆円の税収減となり、さらにGDPは3兆円減少すると試算されていた。
 しかしその後、民主党内でさらなる見直しをしたところ、この試算の意味合いが大きく変わった。2.6兆円の税収分を実質的なガソリン減税として利用するとしても0.9兆円の効果しかないが、暫定税率分を効果的に道路建設に回せばGDPを3兆円も押し上げることが可能なのである。
 そればかりではない。国土交通省が策定した新たな中期計画をベースに試算すると、1兆円の道路投資を行った場合における10年間の効果の合計は約2.6兆円と推計されることが、マクロ計量経済モデルからわかっている(参照PDF)。

 さらに道路拡張のための用地買収経費の支出は直接に国民経済を潤すことになる。
 この計画を見直し、民主党らしく化粧直しをした企画書のレクチャーを受けた菅直人副総理・財務相は「これが乗数効果というものか。ようやくわかった」と蒙を啓かれたとのことだ。
 小沢一郎幹事長が地方に道路整備を促すのは単に選挙対策ばかりではない。日本の経済成長のエンジンとなるからである。都市部においても、環状道路をさらに整備することで混雑を解消させれば、地球温暖化防止の二酸化炭素排出削減の効果がある。経済成長しつつ、地球環境も守る。これこそ民主党らしい成長戦略だと言えるだろう。
 事業仕分けという名の人民裁判、子ども手当埋め合わせの増税、規律なき赤字国債の積み上げ、政治資金疑惑の曖昧化、普天間飛行場の固定化、高校無料化による格差の拡大、郵政国営化で財投復活、そして道路拡大による経済成長。短期間で大きな成果を上げてきた民主党は、4月1日を契機にさらなる変貌を遂げることだろう。

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2010.03.31

四月馬鹿が二日前倒しだったらよかったのに

 今年は四月馬鹿が二日前倒しに来たのだったらよかったのにと思った。亀井静香金融・郵政担当相(国民新党代表)の改革案が3月30日に民主党閣僚懇談会で決まったからだ。
 ネットでよく言う、「日本終了」というギャグが浮かんだ。ツイッターを覗いてみると多少憤慨している人もいるが、東京都の有害図書規制ほどの話題にもなっていないようで、それほどの危機感をもって受け取られてもいない。ああ、終わりの風景の始まりってこんな静かなものかなと落胆したが、憤慨してもどうとなるものでもないだろう。
 私がひどい話だなと思ったのは、菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相が鳩山首相一任したことのほうだ。鳩山首相についてはもう是非も問うまい。お母様に略奪婚の尻ぬぐいをしてしまう人を国の長につけてしまうのはまずかったなというくらいだろうか。しかし、菅氏や仙石氏はもう少し大人だろうと思っていた。あるいは大人過ぎて記憶力もなくなってしまったのかもしれない。政党というものの一貫性も考えられないものなのか。この二人が黙り込めば、騒げる小者もいないだろう。民主党は結果的に政策を議論する能力がゼロになった。
 改革案とやらの内容だが、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額を現行の倍の2000万円に引き上げることが着目されている。これで地方銀行はだいぶ整理されるだろう。彼らにしてみれば「万策つきた」(参照)というところだ。
 1000万円以上の預金はペイオフ対象にならないとしても、事実上国家運営の銀行なのだから倒産はありえず、暗黙の保証が付く。地銀のかなう相手ではない。こういうのを英語で"It's unfair. "という。国家がunfairなら普通は国民の大半からの信頼は失うはずだ。そうして社会主義国家の多くは終了したが、アジアのほうでは残った。アジアにある日本も終了しないかもしれないが、終了できない隣国のような国家になるのだろう。
 改革には、かんぽ生命保険の加入限度額を1300万円から2500万円に引き上げることも決まった。2005年の民主党案では簡保は廃止とされていたことを思うと隔世の感があるが、それを言うなら今回の発表をした大塚耕平内閣府副大臣も当時はこう言っていたものだった(参照)。


「官から民へ」の郵政改革の目的を達成するためには、預け入れ限度額を引き下げ、そもそも国民から集めるお金の量を減らしてしまえば、政府にたくさん渡そうと思っても渡せません。


 公社であれ、国有株式会社であれ、そこに集まるお金が増えれば、政府に渡るお金の量も増えざるを得ません。言わば、「官から民へ」の逆、つまり「民から官へ」の万有引力の法則です。
 想像力をたくましくして考えて頂ければ幸いです。引力圏から離脱する時には、強力な力が必要です。強制的に規模を縮小することこそが、「民から官へ」の引力圏から離脱するパワーです。それが、預け入れ限度額の引き下げにほかなりません。
 国有株式会社をつくるという不思議な「民営化」で、あとは「政府出資の特殊会社」の自主性に任せるという万有引力任せの改革では、ますます多くの国民のお金(リンゴの実)が核(政府)に引き付けられます。

 その通りのことがこれから起きるようになるだろう。
 政府保証付きの国有の、ゆうちょ銀行とかんぽ生命に資金が集まれば、国債を買い増すことになる。結果、郵政が昔通りの国債買取の御用機関に戻る。政策投資銀行との融合も法螺話ではなくなる。
 国債金利は金融商品の中で最低利回りだから、利幅を取るには民主党のようにunfairな仕組みを作るしかないが、それでも利幅を取るにはさらに規模を拡大するしかない。規模を拡大すればさらに利幅を求めなくてはならない。
 民間の銀行や民間の投資がこの巨艦に刃向おうと思うなら、邪魔なものとして排除されるだろう。だがこの巨艦は、戦中日本の戦艦大和のようなものだ。いずれ海に沈むことになる。せめてその前に米国から世界貿易機関(WTO)提訴でもあればよいが、またぞろ国粋主義的な鬼畜米英論にもなるくらいなものだろう。
 なぜか今のところ注目されていないようだが、今回の法案では、郵政グループ内での取引にかかる消費税の免除も盛り込まれているままだ。菅副総理兼財務相が当初は懸念していたものだ。これもつまり、国家が率先して、国税のunfairを実行しようというのである。税をなんと心得ているのかと思うが、そういえば鳩山首相の税の意識を思えば、緩みきって当然なのだろう。
 とはいえ、当面はむしろこれで民主党も食いつなぐだろう。後の千金のことである。参院選も郵政関係の100万票は固めた。民主党はむしろ安定したのである。
 ウォールストリート・ジャーナルのジェイムズ・シムズ(James Simms)氏コラム「日本の郵政改革の後退」(参照邦訳参照英文)はこう言っていた。

Naturally, the changes will help ease Tokyo's financing concerns.

今回の変更で政府の金融面での不安は緩和される。


 しかし、これには戦艦大和の運命のように限定が付く。

That is until Japan's growing ranks of retirees begin to cash in those insurance policies and draw down their savings.

しかし、これも増大する定年世代が保険を現金化し、貯蓄を取り崩し始めるまでだ。


 亀井静香金融・郵政担当相はもとより鳩山首相もその日を見ることはないだろう。菅直人副総理兼財務相や仙谷由人国家戦略担当相も同じだろう。私ですら見ることがないかもしれない。なので私が心配することでもない。大塚耕平内閣府副大臣はその日を見ることがあるだろうが、そのときはまたころっと意見を変えていることだろう。心配はいらない。
 ジェイムズ・シムズ氏のコラムはこう締められている。

Make no mistake, Japan will eventually have its pound-of-flesh moment.

日本は間違いなく、最終的に致命的な代償を求められる瞬間を迎えることになる。


 邦訳は意訳である。"pound-of-flesh"というのは、「1ポンドの肉」ということである。なぜ、「1ポンドの肉」なのか、シェークスピアに馴染まない国では理解しづらい。理解しても、どうしようもないのかもしれないが(参照)。

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2010.03.30

中国毒入り餃子、ジクロルボスはどうなったか?

 中国毒入り餃子事件の容疑者が逮捕されたという話が27日、公式な外交ルートを通して日本の外務省に入った。北京の日本大使館の公使が中国政府に呼ばれ、容疑者拘束について説明を受けたとのことだ(参照)。翌日28日、中国公安省当局者は、共同通信など日本メディアと会見し、呂月庭容疑者(36)が2007年夏に、有機リン系殺虫剤「メタミドホス」を盗み、冷凍保存庫で三回注入したと供述していることを公表した(参照)。
 今後さらに事態の解明が進むのかもしれないが、現状では中国側の説明は辻褄が合わない。28日付け毎日新聞記事「中国毒ギョーザ:公安当局の説明になお疑問も」(参照)も疑問点を三点列挙していた。


毒入りギョーザ事件を巡り28日行われた中国公安当局の説明にはなお疑問も残っている。
▽犯行には極細注射針を使ったとの証言もあるが、これはどうなったのか
▽日本で検出されたメタミドホス以外の殺虫剤はどう混入したのか
▽複数犯行説がなぜ否定されたのか

--について明確な説明はなかった。

 極細注射針については奇っ怪で、現状の調査では、今回の注入に利用されたのは、0.2ミリ以下の特殊な極細注射針だが、中国の医療用注射針は直径0.25ミリ以上なので、どこからそのような器具が入手できたのだろうか。
 複数犯行説については、逆に呂容疑者単独犯かどうかに関わってくるが、これはようするに事件の真相にも関連してくる。現状では、後で述べるジクロルボスの関係からすると単独犯説は疑わしい。読売新聞記事「警察庁困惑「検証しようがない」…毒ギョーザ」(参照)。でも、「ところが、08年2月に、福島県内の店舗で同じ有機リン系殺虫剤ジクロルボスが検出された天洋食品製のギョーザは、前年の07年6月に製造されており、一連の薬物混入を、呂容疑者の「単独犯」とする中国公安省の見解では説明がつかない」としている。
 気になるのは、メタミドホス以外の殺虫剤、特にジクロルボスの問題である。今回の中国側の発表では現状ジクロルボスについての情報が含まれていない。呂容疑者の犯行だが、毎日新聞記事「中国製ギョーザ中毒:「殺虫剤を3回混入」「診療所廃棄の針で」 公安省が経緯説明」(参照)では以下のように三回の時期としている。

 杜局長によると、呂容疑者は93年から工場の食堂管理人として勤務。07年7~8月、工場衛生班からメタミドホスを盗み、工場診療所から廃棄された注射器数本を入手。同年10月1日と10月下旬、12月下旬の3回、冷凍庫内に忍び込み、注射器でメタミドホスを混入し、注射器を工場内の下水道に捨てた疑いがある。

 ジクロルボスの注入だが、2008年2月8日付け読売新聞記事「天洋製ギョーザ中毒 殺虫剤入りは土日・祝日製造 「単独行動、難しいが…」」では次のように報道されていた。メタミドホス注入の時期については呂容疑者の供述に対応するが、ジクロルボスについては時期が対応しない。

 今回の中毒事件では、昨年6月3日製造の「CO・OP手作り餃子(ギョーザ)」からジクロルボスが、10月20日製造の同商品と、10月1日製造の「中華deごちそう ひとくち餃子」からメタミドホスが検出されている。10月1日は中国の国慶節(建国記念日)で、10月20日と6月3日も土日にあたる。輸入仲介商社「双日食料」(東京)によると、工場は土日祝日でも受注量に応じて従業員が出勤しているという。

 呂容疑者が同年6月にジクロルボスも注入したという話にこれから中国側も慌てて展開していくのかもしれないが、ジクロルボスについては別件の毒入りインゲンにも関係している。同年10月18日読売新聞記事「殺虫剤検出のインゲン袋に1ミリの穴 梱包後から納入まで密封」より。

 ◆ジクロルボス検出 
 中国産冷凍インゲンから高濃度の有機リン系殺虫剤「ジクロルボス」が検出された問題で、問題の商品の包装袋に約1ミリの穴が開いていたことが17日、警視庁の調べで分かった。この商品は、中国・山東省で段ボール箱に梱包(こんぽう)された後、東京・八王子市のスーパーに納入されるまでは密封状態だったことから、同庁では中国での梱包前か、段ボールがスーパーで開封された後に、人為的に混入された疑いが強まったとみて捜査を進めている。
 ■捜査 
 同庁幹部によると、穴は肉眼では気づかない程度の大きさで、購入した主婦が調理のためはさみで切り離した袋の左下部分で見つかった。近くには、温度差で袋が膨張した場合に中の空気を逃がす数ミリの通気孔もあったが、この通気孔とは異なる形状だった。人為的に開けられたかどうかは不明という。
 同庁では検出されたジクロルボスが極めて高濃度だったことから、中国で洗浄・加熱処理する前の混入はあり得ないと判断。国内で混入された可能性も想定、スーパーの防犯カメラの解析を進めている。
 ■製造・流通 
 輸入元の冷凍食品大手「ニチレイフーズ」(中央区)によると、インゲンは昨年夏、中国・黒竜江省の農場で収穫された。同省の「北緑食品」が工場で洗浄し、大量の熱湯に湯通しした後に冷凍したという。
 インゲンは昨年10月、約2000キロ離れた山東省の煙台北海食品に運ばれ、倉庫に保管された。250グラムずつに手作業で袋詰めされたのは今年7月。20袋単位で段ボール箱に梱包、同19日に船便で日本に輸出された。
 段ボール箱は、八王子市のイトーヨーカドー南大沢店で主婦が購入した11日に初めて開封されたという。

 断定はされていないが、こちらも注射器によるジクロルボス注入である可能性は高いだろう。
 この毒入りインゲンと毒入り餃子に関係はないのだろうか。場所は異なるが時期的にも近い。
 現状では、こうした話から、中国側の説明とは異なるストーリーを想定するには情報が足りない。
 いずれにせよ、これらは、国際的な基準で制度的に対応すべき、いわゆる食品安全の問題というより、日本でもかつてあった青酸コーラ無差別殺人事件に近いタイプの犯罪だろう。つまり、中国製食品の安全性一般の問題とは切り分けて考えたほうがよいだろう。

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2010.03.29

トルコが脱世俗国家へと変貌しつつあるようだ

 国内報道がまったくないわけでもないが、多数の死者が出たり政変が起きたりということでもないため、それほど注目されないにも関わらず、現代世界を考える上で意外と重要な事件として、このブログで書き落としていたのが、2月のトルコの出来事だった。このブログでは折に触れてトルコ情勢に言及してきたが、やや予想外とも言える今回の帰結については言及しておこうと思いつつ失念していた。
 事件は2月22日、トルコ警察が、2003年のクーデター計画に関与したとして元司令官を含む軍幹部を50人以上突然拘束したことだ。背景には、イスラム政党「公正発展党(AKP)」と世俗派との対立激化がある。トルコは建国の父アタチュルクによって政教分離の世俗国家として成立し、軍は彼の伝統を引く世俗改革の筆頭となってきた。
 今回の拘束にまつわるクーデター計画だが、2003年のことでもあり、AKPが仕掛けた政争と見る向きもある。2月25日にはエルドアン首相と軍トップのバシュブ軍参謀総長が会談し、軍としてはクーデター計画を全面否定した。
 今回の事件で、従来穏健イスラム政党と見られていたAKPも、かなり強行な手段に出たという印象もある。が、2007年に政権についてからこれまですでに、別クーデター容疑で軍人や知識人を200人以上も拘束しているので、まったく突然の事態とも言い難い。私としては、むしろ軍が対抗的に暴発しなかったことのほうがやや意外でもあった。同時に、トルコは変わったのだという思いを深くした。
 AKPが変貌した内実には、長年にわたるイスラム国家志向の政治指導者フェトフッラー・ギュレン氏の活動の成果がある。検察はトルコにおいては従来は軍同様世俗派の牙城でもあったが、ギュレン氏の同調者も増えているようだ(参照)。
 この変化が意味することは、トルコが従来のような、西側諸国に親和的な世俗国家からよりイスラム色の強い民族国家に変貌する可能性が高まることだろう。もっとわかりやすく言えば、トルコの欧州連合(EU)加盟はもうなくなっただろう。つまり、死刑廃止などを含めEU加盟のための国内整備は頓挫するだろう。「アルメニア人虐殺から90年: 極東ブログ」(参照)で言及したアルメニア虐殺についても、従来のような融和の模索は変わっていくかもしれない。
 その兆候もある。最近の出来事としては、17日に予定されていたエルドアン首相のスウェーデン訪問も、スウェーデン議会がアルメニア人虐殺を決議したことの抗議としてキャンセルされた。その前の4日には、米下院外交委員会が同種の決議を採択し、反発したトルコは駐米大使を召還している。
 トルコの変化は米国に対しては、反米色を強めていくだろう。湾岸戦争でも米軍に結果的に友好であったトルコ軍の方針も変わっていくだろう。北大西洋条約機構(NATO)については、AKPは方針に変更はないと言明しているが、やはり変化は出てくるのではないか。米国としても、この事態に及んだことを理解し、米下院本会議ではアルメニア人虐殺の決議採決を放棄した。
 AKPの変化は、トルコ内政の大きな民族問題であるクルド人問題にも難しい影を落としている。AKPはクルド人については開放政策を採ってきたが、これが裏目に出たというべきか、トルコからの独立を目指すクルド労働者党(PKK)を活気付け、トルコ国民の多くから嫌悪を招きつつある。加えて、従来はEU加盟の御旗で少数民族への対応もしてきたが、その要請も消えてきている。
 現下トルコでは、AKPは司法の世俗派の勢力を削ぐために憲法改正を目指している。23日共同「トルコ政府、改憲案を発表 政権基盤の強化狙う」(参照)より。


2003年の政府転覆計画をめぐり政府と軍の緊張が高まっているトルコのエルドアン政権は22日、政党解党手続きの厳格化、国家に対する犯罪に関与した場合には軍士官も一般法廷で裁くことを可能にすることなど政権基盤の強化を狙ったとみられる22項目の見直しを含んだ憲法改正案を発表した。AP通信などが伝えた。

 現状のAKPは憲法改正に必要な国会定数の三分の二を確保していないので、国民投票に持ち込まれることになる。結果がどうなるかはわからないが、おそらく民主主義的な手続きで、非世俗的国家への道をさらに歩み出すのではないだろうか。

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2010.03.28

米国核態勢見直し(NPR)報告書にたいした変化はないだろう

 今朝の朝日新聞社説「米ロ核軍縮―「プラハ構想」を動かせ」(参照)と毎日新聞社説「社説:米露新条約 核兵器全廃への弾みに」(参照)を読んで少しだが変な感じがした。話題によってこの二紙が示し合わせたような論調を取ることは不思議でもない。変だなと思ったのは、この議論をするなら欠かせるはずもない米国核態勢見直し(NPR: Nuclear Posture Review)報告書に両社説がまったく言及していないことだった。
 両社説は米国オバマ大統領に核廃絶を期待しているという内容なのだから、その具体的な見通しとなるNPRにまったく言及しないのはなぜだろうか。例えば、New York Times記事「White House Is Rethinking Nuclear Policy」(参照)のような視点から書くことは難しくはないだろうし、「憂慮する科学者同盟」報告書の趣旨に沿ったような主張もできそうなものだ。24日付け時事「日本核武装論「根拠なし」=先制不使用の宣言を-米民間団体」(参照)より。


核廃絶や地球環境などの分野で政策提言を行う米国の民間非営利団体「憂慮する科学者同盟」は23日、オバマ政権が近く公表する核戦略指針「核体制の見直し(NPR)」に関し、核攻撃を受けた場合を除き核兵器を使わない「核の先制不使用」宣言を打ち出すよう求める報告書を発表した。先制不使用を宣言すれば日本が米国の核の傘を信頼しなくなり、核武装に走ると恐れる米側の懸念には「根拠がない」と主張、これを理由としている。

 朝日新聞と毎日新聞の両社説がNPRに言及を避けたのは、NPRについて言及するとまずいといった理由もないだろうから、当のNPRがまだ出ていないということではあるのだろう。19日付けしんぶん赤旗「NPR(核態勢見直し)1カ月内に発表」(参照)は、発表が遅れている現状をこう報道していた。

 【ワシントン=小林俊哉】策定が遅れているオバマ米政権の「核態勢見直し(NPR)」報告が、1カ月以内に発表される見通しとなりました。国防総省のミラー筆頭副次官(政策担当)が明らかにしました。NPRは、今後5~10年間の米核戦略の基本となるものです。今月1日が議会への報告期限でした。
 ミラー氏は16日に開かれた米下院軍事委員会の戦略軍小委員会で、NPRには、安全で効果的な核戦力を維持しながら、防衛政策の中で核兵器の役割を低下させる具体的な措置が盛りこまれると主張。提出が遅れている理由について、国防総省側で最終的な調整にもう少し時間がかかると判断したためだと説明しました。

 NPRはどうなるだろうか。
 大した変化はないだろう、とするのは、Slateに寄稿されたフレッド・カプラン(Fred Kaplan)氏のエッセイ「How Important Is Obama's Nuclear Posture Review?」(参照)である。同記事はNewsweek日本版3・24に邦訳もある。
 米国の核戦略に大した変化がないとする主張には、次の4つ理由がある。

First, there is no substantial constituency, in Congress or elsewhere, to build any new U.S. nuclear weapons, nor has there been for decades.

第一には、新核兵器を開発したとしても、実際上、議会でもその他でも、民主主義的な同意は得られない。この数十年間、賛意を得られたことはなかった。


 過去いろいろ懸念されてきた新種の核兵器も、顧みるとそのときおりの話題で終わって変化をもたらすことはなかった。例えば、ブッシュ政権下ではバンカーバスター開発も打ち出されたが、多数派だった共和党で否定されている。

Second, Obama has already said that he wants to slash the nuclear arsenal. There is no rational basis for not slashing it, but whether that happens will not be determined by the conclusions of an executive review.

第二には、オバマはいつも核兵器を削減すると言ってきたし、削減を妨げる合理的な基礎もないが、そのことを決めるは政府報告書ではない。


 オバマ政権の核兵器削減がNPRで表現されていても実効性とは関係ない。今回のNPRの焦点は、朝日新聞と毎日新聞が言及していなかったが、米露の削減数を踏襲するかさらに踏み込んだ形になるかでもある。

Third, whatever Obama says about the circumstances under which he'd use nuclear weapons (for instance, were he to say that he'd never use them first), there is no reason for other world leaders to believe him or to assume that some future president might view the matter differently.

第三に、オバマが核使用の環境について述べても(例えば先制使用はしないとしても)、他国の指導者にしてみれば、彼を信じる理由もないし、将来の米国大統領が意見を変えると想定する理由もない。


 他国がどのように米国の核戦略を評価するかは、NPRとは直接関係がない。今回のNPRで注目されているのは、「憂慮する科学者同盟」報告でもあるように、核の先制不使用の扱いであるが、米国外の視点からすればNPRで明記されても、おそらく核化を狙う国家への影響は少ないだろう。

Fourth, however deeply the United States and Russia cut their nuclear arsenals, the move won't dissuade other nuclear wannabes from pursuing arsenals of their own.

第四に、米露がどれほど核兵器削減をしても、核武装したい国家には説得力を持たないだろう。


 ここが重要で、今朝の朝日新聞と毎日新聞の社説が米露の動向を世界の核兵器削減の文脈に置いているが、冷戦世界の決算の意味合いはあっても、将来の視点で、やはり新興国への影響は少ないだろうと見られる。
 さらに、米国の核削減は核の傘を失った国の核化を促すかもしれない。やや意外というのもなんだが、実はこの議論の文脈で焦点が当てられているのは日本なのである。「憂慮する科学者同盟」報告書からもわかるが、米国の核削減によって日本が核化するのではないかという懸念は日本外では強い。もう少し踏み込んでいえば、中国としては日本の米軍の力が弱まることを望む反面、日本が独自の核化に進む懸念も抱えなくてはならなくなる。
 カプラン氏の結語は、日本のオバマ政権への反核期待とはずれるが、穏当なものだと言えるだろう。

The true value of this Nuclear Posture Review depends, in part, on how President Obama views—and presents—its purpose. If he sees it as a way to build institutional support for drastic arms cuts, it could be very valuable indeed. If he sees it as a first step toward his grander goal of wiping nuclear weapons off the face of the earth, he's going to be sorely disappointed.

NPRの真価は、部分的にであるが、オバマ大統領がそれをどう捉え提示するかにかかっている。大幅な軍縮の道具にするなら、実際上の価値はあるだろう。しかし、この地上から核兵器を廃絶するという彼一流の広大な目的の第一歩とするなら、痛ましいほどに失望することになるだろう。


 医療保険改革での政治手腕を見ていくなら、オバマ大統領は、口先だけで理想を述べ結果が失敗しても努力は評価していただきたいと懇願するようなタイプの政治家とは異なり、現実的に老獪な手腕を取る。浅薄な理想主義者ではないから、実利を得ていくという意味でまさに政治家らしい政治家であり、彼自身はNPRの影響に失望することはないだろう。失望があるとすれば、他の方面かもしれない。

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