ウィキリークス(笑)に舞い上がった英国ガーディアン
ウィキリークスによる今回の公電まき散らしに事実上既存ジャーナリズムとして、先頭風を切って荷担した英国ガーディアンだが、自身ではどのように考えているか。その一端を示す話が30日付けの社説「US embassy cables: hanging North Korea out to dry」(参照)にあった。賛同する人もいるだろう。私としては、なかなか笑える話だった。
Nor should we axiomatically accept that the release of this information is harmful. Today's revelation from the embassy cables that North Korea had lost its strategic value to China as a buffer state between their forces and US ones, and that Beijing would accept the reunification of the peninsula under Seoul's leadership, should send shivers down the spine of the right person – the ailing dictator Kim Jong-il. Pyongyang could be about to lose its only insurer. Long before last week's lethal shelling of a South Korean island, it is clear from the private views of senior Chinese officials that their strategic asset had turned into a major liability.私たちは、この情報の発表が有害であると杓子定規に受け入れるべきではない。中国にとって、中国の軍事力と米国の軍事力の緩衝国としての、北朝鮮に戦略的価値は失われているし、また中国政府は韓国政府による朝鮮半島統一を受容するだろうとする今日の公電暴露は、病にある独裁者、金正日当人を震え上がらせるだろう。北朝鮮政府は自身の唯一の保護者を失うことになるかもしれない。先週に起きた韓国の島への致命的な砲撃の随分前から、中国高官談話によれば、中国の戦略的な資産が主要な負債に変わったことは明らかである。
あの韓国発公電の馬鹿話をまじめに受け止めてしまうガーディアンのメンタリティだからこそウィキリークス(笑)が信頼を寄せたのかもしれない。
少し物を考える人間なら、その間に起きた韓国海軍哨戒艦「天安」爆沈の意味を理解できるはずだ。まさかあの爆沈は北朝鮮によるものではないかもしれないとかいう田中宇さんの国際ニュース解説のようなネタ話(参照)を真に受けたり、中国の対応も適切であったとでも思っているのだろうか。ガーディアンがまさかそこまで知的劣化を起こしたわけもないから、ウィキリークス祭りで舞い上がって、問題のパーペクティブを見失っているだけだろう。
ガーディアンによる今回の公電の読み取りも微妙に歪んだものになっている。
The implication is clear: as long as US troops stay south of the demilitarised zone that bisects the Korean peninsula, China would not stop the regime collapsing after the death of Kim Jong-il. It had already, in their view, collapsed economically and, despite efforts to secure a succession to the inexperienced youngest son Kim Jong-un, it was likely to collapse politically. If the leaking of these cables was read and absorbed by North Korea's ageing generals, this would be an example of disclosure instilling realism into a military dictatorship which so clearly lacks it. China is currently attempting to mediate a return to the six-party talks, after the latest military clashes. There is clearly a length to the leash China has already allowed North Korea, and Kim Jong-il may already have reached it.公電の意味するところは明らかだ。二分された朝鮮半島の南に米軍がいる限り、中国は金正日が死んでも、北朝鮮体勢の崩壊を押しとどめることはないだろう。公電が示すように、すでに経済的には崩壊しており、未熟な金正恩を正嫡にしようと努力しても、政治的には崩壊することになる。もし暴露された公電を、北朝鮮の老いたる将軍たちが読み理解すれば、現実主義を欠く軍事独裁政権に現実を示す公開事例となるだろう。中国は、前回の軍事衝突後、六か国会議への復帰を仲介している。中国にしてみれば北朝鮮をつなぎ止める綱には一定の長さの限界があり、金正日はすでにその限界に達しているかもしれない。
欧州に属する英国のリベラル派がそう思いたいという幻想を語っているの趣だが、今回の六か国会議への呼びかけも単なる国際的な口実作りに過ぎないのは、過去の中国の動向を見ても明らかだ。それ以前に正恩体勢への肩入れや、習近平中国副主席のイカレた歴史認識からも明らかだ。日本の「仙谷」政権が沈黙してしまうのはしかたないとしても、韓国が反発したのは当然だろう。中央日報10月27日「韓国政府、習近平氏の「6・25は正義の戦争」発言に反論」(参照)より。
外交通商部は26日、中国の習近平国家副主席が前日「偉大な抗米援朝戦争(中国の6・25参戦)は平和を守り侵略に対抗した正しい戦争だった」と発言したのに関連し、「韓国戦争(6・25)が北朝鮮の南侵で勃発したというのは国際的に公認された否定できない歴史的事実」と明らかにした。
外交部はこの日、習副主席の発言に対する立場を尋ねる報道機関の質問に対し、こうしたメディア向け資料(Press Guidance)を出した。習副主席の発言が北朝鮮の6.25南侵を否定したものと解釈され、政府レベルで対応の立場を表明したとみられる。
習副主席は25日に北京で開かれた「抗米援朝戦争」60周年記念式でこのように述べ、「中朝の人民は、両国の人民と軍隊が流した血で結ばれた偉大な友情を忘れたことがない」と強調した。
北朝鮮がしかけた朝鮮戦争について「平和を守り侵略に対抗した正しい戦争」だったと述べるのが次期中国の最高指導者なのである。というか、最高指導者に向けての戦略的な発言と見るべきでだろう。つまり、ここに今後の中国の対北朝鮮戦略を読み解く鍵がある。
では、中国にとって北朝鮮とはなにか。
延坪島砲撃事件を口実に北京の喉元に米軍が現れ、中国は多少慌てふためいたのか、お行儀の良い自国メディアにちらちらとビジョンを語りだしている。サーチナ「「北朝鮮は中国の『核心的利益』」、日米は挑発するな―中国紙」(参照)からの情報になるが、恐らくソースは環球網の「李希光:朝鲜是中国一级核心利益」(参照)ではないかと思われる。
中国政府は今年3月、初めて米政府高官に対し、「南シナ海も中国の領土保全にかかわる核心的利益に属する」との方針を正式に表明した。その後、外交部は7月、「中国の核心的利益とは、国家主権、安全、領土保全と開発利益を指す」と明確に示した。
戦略面と国家安全面から見て、北朝鮮は中国にとって最も重要な隣国のひとつであり、中国東北3省の安全は、朝鮮半島の安定によって維持される。東北3省の安全は、中国のさらなる改革開放と現代化建設に向けた良好な外部環境を創造する上で必要であり、中国が世界の多極化推進に寄与し、平和を実現するためにも必要だ。
それほど大した話ではないかとも思われるなら、「核心利益」という用語を取り違えている。核心利益は、従来、チベットや台湾などの領土問題で使われてきた用語だ。つまり、そこは中国自国領土だという主張なのである。だから、尖閣諸島でもこの核心利益が出てきた。
中国にしてみれば、北朝鮮はすでに中国の領土の候補地である。朝鮮族の第二の自治区である。
おめでとう、東北第4省、いずれ君も中国の仲間だ。もうしばらくすれば、先っぽの地域とか東海の小島も仲間にやってくるよ(参照)。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
昨日の記事もそうだけど冷静な分析というより希望的観測というきらいが。
投稿: 痴本主義者 | 2010.12.01 17:52
最後のリンク先を読んで大いにワロタ。
中華思想というのは、どんなにツライ現状であろうが、悪事を働こうが、
過去のどんな恥ずべき歴史であろうとも、都合よく解釈して前向きに
なるための思想なんだな。なんか見習いたいと思ってしまったw
個人的には共青団系はそういうのとはちょっと違うのかなと思いますが。
でも都合が悪くなったときに湧き上がって威力を発揮しそうな思想だから、
今後はわからんけど。いや既にそうなのかw
投稿: たびびと | 2010.12.01 21:23
「極東ブログぼくちゃん」もようやく気付いたようですね。昔から、中国が分裂してそれが100年以上固定しない限りは東亜諸国の独立と民主化なんて無理なんですよ。それには中国そのものも含まれます。それが経済的にどんなに混乱をもたらそうが、長期的な民主化にはそれしかないんです。大日本帝国も半ばそれを目指していましたが。東亜の歴史に無知な西洋の横槍が入ってしまいました。
まあ、40代以下には常識のことでも、50代には大発見ですし、60代の団塊世代は死ぬまでわからないでしょうね。民主党政権が最後の徒花になることを願いましょう。
投稿: タカダ | 2010.12.02 00:21
日本にしても全朝鮮にしても中国の国内少数民族とするには微妙に大き過ぎるので朝貢関係のような属国化じゃ無いですかねぇ、狙うとすれば。
ただこれも中共下では無理だと思う。
人民の移動や漢字文化の拡大は中共の政策以上に中国人と中国の体質に起因するので、それらへの中共の影響力には限界がある。
中国政権の強面の本質は国内の求心力維持でしょ。
北朝鮮の扱いにしても属国化衛星国化はしても東北県化はしないでしょう。それでも求心力は維持できるし権威が傷つく事も無い。むしろ東北県化して失敗した場合のリスクの方が怖いと考えると思いますけど、どうでしょうねぇ。
投稿: ト | 2010.12.02 01:11
ありゃ、ついに朝鮮にも「核心的利益」を用いましたか。( ゚ω゚ )
これで「領土的野心はない」とか言うてるんですから、中国ももはやお笑い国家の仲間入りですね。
投稿: (´ω`) | 2010.12.02 11:21
青山繁晴氏もウィキリークスの「中国は北朝鮮を見捨てる」という情報を否定していますね。
http://www.youtube.com/watch?v=YD1tFYmFnlg
投稿: 通りすがり | 2010.12.02 20:41
ネタで言ってるのかベタで言ってるのかわからん。
ブログ主は、昔はもっとシナは慎重に行動するだろう
みたいな事を言ってたはずだけど?
まあ、日本はともかく、北朝鮮の中国自治区入りは規定路線だろうし、結論は事実なんですけどね
投稿: eternalwind | 2010.12.03 03:05
中華人民共和国としては、北朝鮮なんて、全然面白みのないところより、シンガポールとか、モンゴルとか、ソ連から独立した中国と国境を接する中央アジア諸国とか、そういうところのほうが領土としては入手したいでしょうね。
日本を朝貢国にしようとするかなあ。日本は、モンゴル退治もロシア退治も成功したんで、中国人は、基本的に日本を怖がっていると思います。日本が本気で台湾を大陸が摂取することに異を唱えれば、たぶん、中国は引き下がると思いますよ。
投稿: enneagram | 2010.12.04 08:58