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2010.12.02

ウィキリークスに見る米国の中東戦略、あるいは、けなげなニューヨークタイムズ

 ウィキリークスで暴露される公電も現状特に驚愕すべき内容はない。もともとこの秘密情報とやらも、実際のところは50万人以上もの米連邦政府職員によって共有という名のもとにだだ漏れに近い状態であった(参照)。端からその程度のものなのかもしれない。また、実際の情報を検証すると、隠されていた事実というよりは誤認といった類(参照)もあり、誤認情報をことさらに流せば別の種類の情報操作にもなりかねない。
 まあ、それはそれとして、まったりと眺めて見るなかで、普通に興味深いのは米国の中東戦略だろう。
 日本でも多少報じられている。ブルームバーグ「サウジ国王がイラン攻撃主張、内部告発ウェブで判明-NYT」(参照)より。


 NYTによれば、サウジアラビアのアブドラ国王はイランへの攻撃を頻繁に要求。時間はまだあるとしながらも、米国に「息の根を止める」よう訴えた。(中略)
 オバマ政権は28日、在外大使館から米本国への報告は「率直で、しばしば不完全な情報であり」、政策を表したものではないとの声明を発表した。

 アブドラ国王がイランへの攻撃を米国に要求していたのは「頻繁」となるのだが、それでも中心的な日時はあるだろうし、なによりそれが米国のどの政権だったかは、事態を読み解く上で重要だろう。いつであったか。
 該当のウィキリークス(参照)を見ると"2008-04-20 08:08"とある。対応する内容は以下だろう。

The King was particularly adamant on this point, and it was echoed by the senior princes as well. Al-Jubeir recalled the King's frequent exhortations to the US to attack Iran and so put an end to its nuclear weapons program. "He told you to cut off the head of the snake," he recalled to the Charge', adding that working with the US to roll back Iranian influence in Iraq is a strategic priority for the King and his government.

アブドラ王は特にこの点に確信をもち、年長の王子も繰り返し述べた。アル・ジュベイルは、王が米国に対して頻繁にイラン攻撃し、イランの核化プログラムに終止符が打てと奨励したことを思い出した。「彼は蛇の頭を切り落としなさいとあなたに語った」と彼は関与について思い出し、イラクに対するイランの影響力を引き戻すように米国と協調することは王とサウジ政府にとって戦略的な優先課題であると付け加えた。


 時期は2008年以前であり、当然ブッシュ政権下のことだった。
 私もブログでイラク空爆の話題を扱ったことがあるが(参照)、あのころはあたかも好戦的なブッシュ元大統領のことだからというめちゃくちゃな情報が行き交っていた。しかし実際のところブッシュ政権はイラン空爆を実施しなかった。
 公電で興味深いのは、アブドラ国王による、イランの核化プログラム阻止への意思もだし、さらにイランのシーア派への敵対心もあるが、イラクへのイランの影響力への懸念もある。アブドラ国王はイラクが気になっている。
 今後、イラク戦争に至るプロセスを解き明かす公電なりが公開されると興味深いが、あの時期、サウジとの対応はチェイニー米元副大統領自身が先頭を切っていたので出てこないかもしれない。それでも、あの歴史過程にサウジからの要請や米国内での受け止め方には複雑なプロセスは存在しただろう。
 サウジとしては湾岸戦争時に軍をサウジに進めてきたフセイン元大統領はそのままにして脅威であったし、かといって米国のネオコンが推進しようとしたイラクの民主化もサウジに好ましいものでもない。米国としても、サウジに軍事的危機の状況が減少すれば、米国兵器の売り込み先にも困る。入り組んだ物語があるはずだ。
 その関連でいえば、実際的にはウィキリークスの今回の公電暴露から多少外された形になったニューヨークタイムズの見解もそれなりに興味深い。29日付け「WikiLeaks and the Diplomats」(参照)より。

The best example of that is its handling of Iran. As the cables show, the administration has been under pressure from both Israel and Arab states to attack Tehran’s nuclear program pre-emptively. It has wisely resisted, while pressing for increasingly tough sanctions on Iran.

最も適切な例はイランの扱いである。公電が示すように、米政府はイスラエルとアラブ諸国からイランの核プログラムに先制攻撃をせよとする圧力下にある。これは巧妙に抵抗され、その間イランへの制裁を強化してきた。


 これはブッシュ政権が方針を決め、オバマ政権が継いでいる米国の外交政策でもある。

The Times and other news media have already reported much of this. What the cables add is sizzle: Defense Minister Ehud Barak of Israel warning that the world has just 6 to 18 months to stop Iran from building a nuclear weapon; King Abdullah of Saudi Arabia imploring Washington to “cut off the head of the snake”; Bahrain’s king warning that letting Iran’s program proceed was “greater than the danger of stopping it.”

ニューヨークタイムズと他のメディアはすでにこの件を報じてきた。公電公開は問題を厄介にしている。エフード・バラックイスラエル国防相はイランの核兵器開発阻止までには6か月から18か月しかないとしている。サウジのアブドラ国王は米国政府に「蛇を頭を切り落とせ」と要望している。イランの計画を放置することは、それを阻止することよりも危険だとしている。

The Israelis publicly raise the alarm all the time. Most Arab leaders never do. If they believe Iran poses a major threat, they need to tell their own people and work a lot harder to pressure Iran to abandon its program.

イスラエルは常に危機警告を高めているが、アラブ諸国の指導者はそうしない。彼らがイランの脅威を確信するなら、彼らは自国民にその必要性を語り、イランに対して核化プログラムを停止への圧力により強固に共同作業をしなければならない。


 なかなかニューヨークタイムズの足下がよくわかるトーンだ。
 微妙にアラブを非難しつつイスラエルを援護しながら、辛い役目は米国が背負っているのだと言いたい。しかも、その辛い役目を最初に背負いながら世論の攻撃を受けてきたブッシュ政権については語らず、なんとなくオバマ政権の功績のようにして明るい未来を見続けている。
 ニューヨークタイムズ、けなげじゃないか。


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コメント

http://www.abc.net.au/worldtoday/content/2010/s3079108.htm
このページにNYタイムズの編集担当者へのインタビュー記事が掲載されていますが、Wikileaksの今回のリークへのNYタイムズの評価がそれなりに高く、真摯に受け止め、丁寧に編集する方針が感じ取れます。私の英語力不足もあるのでしょうがね。
Scott Ritterが2007年だかにイラク戦争の原因とされるWMDの真実を語りだした途端に、セックススキャンダルを流されて、葬られ、前のNY州知事Eliot SpitzerがWallStreetを激しく攻撃したことで同じようにセックススキャンダルで失脚させられたように、今回のMr.Assangeへの強姦罪容疑のインターポールの逮捕状もまったく同じ手口で彼を葬り去ろうと裏で誰かが画策しているようです。
世界がもっと平和になるためにも、日本国民が外交の実態を勉強するためにも今回のリークはとても役立つと思われます。そういう意味でも彼を応援したいと考えてます。

投稿: 恵庭剛 | 2010.12.03 20:10

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