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2010.12.04

日本のヤクザについてフィナンシャルタイムズが語ったこと

 先月18日指定暴力団山口組ナンバー2弘道会会長・高山清司容疑者(63)が恐喝容疑で逮捕された。京都市土木建築業の男性からみかじめ料4千万円を脅し取った容疑である。そして今月1日同ナンバー3宅見組組長・入江禎容疑者(65)が暴力団対策法違反の疑いで逮捕された。ちなみにナンバー1の組長・篠田建市受刑者は銃刀法違反罪懲役6年の服役中で来春出所する予定である。
 山口組がトップ不在に近い状況にされたことから、警察がこの機に山口組を狙っての連続逮捕という印象があると同時に、ヤクザとはいえ警察の行為は遵法であったかについては少し疑問にも思えた。1日付け産経新聞「狙い通りのトップ3不在」(参照)では、陳腐な物語風の記述にそのあたりの微妙なトーンがあった。


 ようやく空が明るくなり始めた1日午前6時32分、大阪府豊中市。閑静な住宅街に構えた自宅で捜査員から令状を示された男は、淡々とした様子で逮捕に応じた。指定暴力団山口組のナンバー3である総本部長、入江禎(ただし)(65)。「逮捕しようと思えば、もっと早くできた」(大阪府警幹部)。時機をうかがい続けてきたターゲットを、大阪府警がついに捕らえた瞬間だった。


 だが高山は異例づくしの状況に、強引ともいえる手法で臨んだ。不満分子とみられた直系組長らを相次いで絶縁。篠田の代理として巨大組織を取り仕切ってきた。


 高山の逮捕後は幹部の間に広がる動揺を収拾。高山に代わって山口組を切り盛りしていくとみられていた。その矢先の逮捕について、冒頭の大阪府警幹部は言う。
 「京都府警が高山を逮捕するのをずっと待っていた。入江を逮捕するなら、実質トップになってからの方がはるかに組織に与えるダメージは大きいやろう」

 ナンバー3の逮捕は可能だったが、ナンバー2実質ナンバー1代理の逮捕は個別の違反ということでもなさそうだ。毎日新聞「山口組:ナンバー2逮捕…弘道会会長、恐喝容疑 京都府警」(参照)はそのあたりの曖昧な部分を説明している。

 府警によると、高山容疑者本人は直接恐喝行為に加わっていないが、05年に京都市内の飲食店で男性と面談していた。また、淡海一家の組員らは男性に「名古屋の頭に持っていく」「名古屋の頭が言うてる」と高山容疑者の存在を示しながら現金を要求したのに、山口組から何ら処分を受けていないとみられることなどから共謀が成立すると判断。上下関係から高山容疑者が指示したと見ている。

 ナンバー2の逮捕については共謀が成立すると判断とのことだが、今後の司法では別の判断が出るかもしれない。
 私はヤクザについてほとんど関心はない。この話題にたまたま関心をもったのは、日本関連の英文ニュースで見かけたからだ。例えば、1日付けウォールストリートジャーナル「Osaka Police Nab Another Yakuza Boss as Crackdown Continues」(参照)がある。訳文も日本版に掲載された(参照)。

 1日午前の入江容疑者の逮捕は、警察の取り締まりが強化されるなか、日本の暴力団にとって新たな打撃となった。山口組の事実上の組長、高山清司容疑者(63)は11月18日に恐喝容疑で京都府警に逮捕されている。同容疑者は2005年に当時の山口組組長に銃刀法違反容疑で実刑判決が下ったことにともない、事実上の組長に昇格した。
 入江容疑者逮捕の背景には、裏社会に生きるマフィアを描いたテレビドラマ「ザ・ソプラノズ」をほうふつとさせる筋書きがあった。事の発端は1997年8月にさかのぼる。宅見組の宅見勝組長が、山口組の二次団体、中野会の組員4人にホテルで射殺された。その後、入江容疑者が組長の座を引き継いだ宅見組は、1999年9月に組員1人が中野会の幹部を射殺する報復殺人を起こした。

 ドラマ的に描いているが、欧米からは、特にその日本在の特派員からは、日本のヤクザが異文化的で面白い話題というのもあるだろう。
 日本経済の文脈でも見ている印象もある。ガーディアン11月18日「Yakuza chief arrested in Japan」(参照)ではこう触れていた。

Aside from gambling, loan sharking, protection rackets and prostitution, the yakuza have added stock market manipulation and front companies to their myriad illegal activities.

ギャンブル、貸付金搾取、ショバ代、および売春以外にも、ヤクザは株式市場を操作したり、トンネル会社を通じて多数の違法行為をする。


 11月22日付けだが経済紙フィナンシャルタイムズも社説「Yakuza crackdown signals change」(参照)で扱っていた。これがなかなか興味深い話だった。

For too long the police – and public opinion in general – have been overly indulgent towards the tattooed gang members. Yakuza have been tolerated partly because some Japanese cling to romantic myths about them:

長年にわたり、日本の警察や日本の世論も、入れ墨のあるギャングについて寛大であった。ヤクザが許容されてきたのは、日本人にとってロマンティックな執着があるからだ。


 そうか? 疑問に思わないでもないが、以前フィナンシャルタイムズのデイビッド・ピリング氏が宮崎学氏にインタビューした日本ヤクザの記事「Lunch with the FT: Manabu Miyazaki」(参照)をふと思い出した。

ヤクザのイメージは変ってきているとしても、昔の京都と江戸を結ぶハイウェー(東海道)にルーツを持つロマンチックなイメージや、名誉を重んじる行動基準や一般市民に迷惑をかけないという誓約が、一般大衆の心情の中では特別な位置を占めていることも確かである

 フィナンシャルタイムズ社説に戻る。

These codes are often more honoured in the breach. However, it is true that Japan remains a much safer society than most. The institutionalisation of crime – in the form of an estimated 83,000 registered gang members belonging to more than 20 crime syndicates – may play a role in that. That makes dismantling the system all the more tricky.

ヤクザの掟は尊重されるよりも破られることが多い。だが、日本の社会は他の国の社会より安全だ。犯罪の制度化はそれなりの役割を担っているのだろう。日本のヤクザは20個もの犯罪組織で8万3千人も擁している。ゆえにヤクザを擁するシステムの解体は難題になる。


 先のピリング氏の話では、日本のヤクザ人口を10万人とし、イタリア系アメリカ人マフィアの25倍としていた。国際的に見ると日本社会は確かに異常なまでにヤクザを抱えているし、であればそれが社会制度の一環として見るほかはないだろう。いつだったか、私が冗談混じりでヤクザは警察の民営化と書いたら、罵倒コメントを脊髄反射的に書いた人がいたが、しかし、対外的にはそう見えないでもない。

Gangs maintain a web of links with supposedly more respectable elements of society. Yakuza, for example, have a symbiotic relationship with the police, with whom they have traditionally shared the spoils from the country’s red-light districts. Gang members overlap with the nationalist groups whose menacing black vans have the run of cities. And yakuza are deeply involved in “legitimate” businesses. Even western investment banks employ experts to vet deals for unacceptable levels of gang involvement.

ギャングは尊重されるべき社会要素とより多くのつながりを持っている。例えば、ヤクザは、日本の売春指定域での上がりを分け合ってきた警察と共生的な関係を持っている。ギャングのメンバーは居丈高な黒塗りの街宣車を持つ国粋主義者とも重なっているし、合法ビジネスにも深く関わっている。欧風の外資銀行ですら、取引にあたりギャング関与の許容範囲のレベルを調べる専門家を雇っている。


 ヤクザ対応の専門家といえば昨今の週刊新潮ネタが連想されないでもないし、そう不思議なことでもない。
 とはいえなぜここに来て、警察がこの動向に出たのか。民主党政権と関係があるのか。フィナンシャルタイムズはこう見ている。

As the excesses of the bubble years fade, society is less willing to allow the yakuza a cut of diminishing spoils.

バブルの時代が終わり、社会は少なくなった上がりの分け前を許容しづらくなっている。


 警察としてもヤクザに回すカネがないんだよ、ということかもしれない。ヤクザを日本社会から無くすのが善であるというなら、その事態に警察を追い込んだのは、民主党政権の結果的な功績と言えないこともない。


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コメント

いつも見させてもらってます。
最近引続く山口組逮捕ですが、
最大の要因は普遍的な趨勢である
山口組による勢力拡張化、日本裏社会での独走状態
への警察の警戒ではないでしょうか?
関東のやくざはこの関西発のヤクザともはや単独で対抗できません。警察としても統一集権されるよりは、
割拠牽制しあうやくざの分散を管理の面でのぞましいでしょう
関東に限って言えば、なぜ山口組がここまでいけいけなのか?
ここ最近芸能ネタでにぎわす中国残留孤児による暴走族を母体とする六本木の愚連隊あるいは外国人犯罪組織などの存在はその意味で示唆的ではありますね

投稿: ekusat | 2010.12.05 07:30

たしかに、ヤクザ屋さんたちも日本の免疫機能の一端を担っていたのかもしれないですね。

ヤクザが本格的な犯罪なしでやっていけない、というのは、濡れ手に粟の儲かる商売が本当になくなっているからでしょう。

これで、宗教法人への課税も本格的になされることになれば、ヤクザの財源はさらに減ることになる。

とにかく芸能界やプロスポーツ界やテレビ業界が儲からなくなってきていますから。利幅の大きい商売って、確実に世の中から少なくなってますね。

投稿: enneagram | 2010.12.05 09:00

都条例の漫画規制を見たときにハッと暴力団の資金源になったらどうしようって思ったことがあった。
現に表現の自由で同人誌とかはそういう人達がショバ代が発生しなかったから手をつけられなかった・・・

規制に喜ぶとこわいなー

投稿: raksas | 2010.12.29 05:12

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