« sengoku38の一手で「仙谷」政権、詰んだな | トップページ | 第五管区海上保安本部海上保安官を逮捕できず »

2010.11.14

日中首脳会談は公式ではなかった

 昨日菅首相と胡主席の日中首脳会談が実現した。一昨日のエントリーでこの会談が実現しなければ菅政権は外交能力ゼロと見られて終わりだろうという予想を書いたが、それが外れた形になったかに見えた。だが会談はあったが公式首脳会談ではなかった。外交上の意味合いはかなり薄い。「仙谷」政権の三手詰みが五手詰みになったくらいのものだった。
 中国胡錦濤主席も来日し、アジア太平洋経済協力会議(APEC)も予定通り実質戒厳令下の横浜で13日に開始したが、当日になっても日中首脳会議開催について中国側から返答がなく、同日夕刻が近づいても実現が危ぶまれていた。しかも菅総理と胡主席の顔合わせもにこやかなものとはとうてい言い難いものだった(参照ニコ動画)。それでもなんとか午後5時20分から開始された。
 会談は22分間行われた。同日NHK「日中首脳 戦略的互恵で一致」(参照)より。


 会談の冒頭、菅総理大臣は「ことし6月のサミットでお会いして以来、今回のAPECでもお会いすることができた。首脳会議への出席を心から歓迎する。日中両国は一衣帯水の関係だ」と述べました。これに対し、胡錦涛国家主席は「APECへの招待に感謝する。周到な準備をしていただき、会議は必ず成功するものと信じている。これからの日中関係の改善と発展について話したい」と述べました。

 東洋の国同士儀礼的な挨拶から始まるのはしかたがない。そんなことに時間を食ってしかも通訳が入るので実際の会談は、欧米流に見るなら10分くらいのものだった。当然、内容と呼べるものはない。

 今回の会談について、政府関係者からは「ことし9月に漁船の衝突事件が起きて以降、初めて正式な首脳会談を行ったということで、日中関係の改善に向けた大きな一歩を踏み出した」という声が出ています。しかし、異例なほど時間と労力をかけて会談が実現したものの、その内容は、先月すでに菅総理大臣と温家宝首相との間で確認されたものが、ほぼ繰り返されただけではないか、という指摘も出ています。今回の会談を受けて、両国間の懸案が一気に解決に向かうとみる政府関係者は少なく、引き続き対中外交で苦慮する場面も予想されます。

 NHK報道はさらりと重要な指摘をしている。「先月すでに菅総理大臣と温家宝首相との間で確認されたものが、ほぼ繰り返されただけ」ということだった。当然ながら、先月の菅・温菅の確認というのはただの立ち話であり、外交継続の意味合いはあってもただの立ち話をたまたまソファーに座ってしたくらいのものだった。会談といった位置づけにはなかった。すると、その立ち話と同じ内容だった今回の会談はどういうことなのだろうか。
 そもそもこれは会談だったのかとまでの疑問はない。なんであれ、会談はあった。会談がなく、まったく中国側から無視されるよりはよいことは確かだ。裏方の尽力もだが日本の政権としても評価できる。これで「仙谷」政権詰みといった状態にはいかずなんとか維持できるかにも見る。
 だが一晩経ってこの会談の位置づけを見ると面白い問題が起きている。この会談はどのような位置づけなのか。菅・温立ち話と同じ内容のこの会談は外交上どういう位置づけなのかか。正式なものと言えるのだろうか。問題は紛糾していた。
 どう報道されたか見ていこう。早々に時事が早合点した。まったくの誤報とまではいえないにせよすでに時事のサイト及び配信先からは削除されている。非常に興味深いので、ジャーナリズム検証の意味で削除前の記事を引用しておこう。19時37分配信;「日中首脳「会見」と報道=正式会談と位置付け-中国メディア」より。

 中国の通信社・中国新聞社は13日、胡錦濤国家主席と菅直人首相が横浜で「会見」(会談)したと伝えた。中国側は今回の会談を正式なものと位置付けているもようだ。
 最近の日中首脳会談をめぐっては、先月4日にブリュッセルで行われた菅首相と温家宝首相による25分間の非公式会談について外務省報道官や新華社通信が「交談」(語り合う)と発表。またハノイで同月30日に行われた両首相の10分間の懇談については同報道官が「時候のあいさつをした」と述べていた。

 今回の会談で今後の日中関係を考える上で重要になるのは、この会談が中国政府側でどのような位置づけとなっているかだ。つまり、これは正式の会談だったのか。時事がこの配信を破棄したように、結論から言えばそうではない。
 この間に書かれた大手紙社説にも会談の認識に興味深い混迷が発生していた。削除された時事と同質の認識を示したのは毎日新聞だった(参照)。さらりと「正式会談」と社説に書いてしまった。

【毎日新聞社説】
 日中首脳会談はわずか22分間だったが、正式会談は漁船衝突事件後は初めてだ。関係改善への中国側の意思表示と受け止めることができるだろう。

 朝日新聞は若干のためらいを見せた(参照)。括弧をつけることで独自の意味合いを伝えようとしている。しかし、それがどのような意味合いかは社説からは読み取れないぶっかっこうなものになった。

【朝日新聞社説】
 次いで、中国との「正式な首脳会談」を尖閣事件以降初めて実現させ、両国の戦略的互恵関係の重要性を最高レベルで再確認した。

 読売新聞社説はかなり正確に記した(参照)。ただし、「準ずる」の意味は曖昧だった。

【読売新聞社説】
 9月初めに尖閣諸島沖で漁船衝突事件が起きて以降、10月に2回、日中首脳は非公式に会談した。今回、日本側は公式な首脳会談と発表したが、中国は正式会談に準ずるものと位置づけている。

 日経新聞社説は別の形で踏み込んだ(参照)。暗黙裏に日本側の「正式会談」説を織り込み、それが中国側で公式ではないとしている。

【日経新聞社説】
 尖閣諸島沖の衝突事件後初めて胡主席と正式に会談できたことは歓迎すべきだが、中国側は公式の首脳会談とは位置付けておらず、これだけでは大きな成果とはいえない。

 大手紙社説からは、大本営式日本発表では今回の日中首脳会議は「正式」だが、中国側では外交状意味を持つ「公式会談」とは認めていないことがわかる。なお、産経新聞社説はこの点に言及していない。
 NHKと時事の続報にはこの問題でさらに興味深いブレが見られた。NHKはこれを中国側としても正式だという報道をしている。11月14日4時9分のNHK「中国 関係改善慎重なかじ取りか」(参照)より。

 今回の会談について中国の国営メディアは、これまでのような「非公式な対話」ではなく「正式な会談」だと伝えたうえで、「胡錦涛国家主席が、日中間で友好関係を築くことの重要性を強調した」として、意義を強調しました。

 しかし、中国国営メディアも勇み足だったようだ。13日夜、中国外務省による会談概要の発表を受けた、時事による挽回の記事が非常に興味深い。2010年11月14日1時6分「菅首相の求めに応じ「会見」=世論意識、発表文を推敲か―中国」(参照)より。中国外務省について。

 同省は会談について「会晤」(会見)という中国語を用いた。通常は「会見」を用いるケースが多いが、「ニュアンスに違いはあるものの、ほとんど同じ意味」(中国外交筋)。ただ、先月のブリュッセルでの菅首相と温家宝首相による非公式会談で中国外務省報道官が発表した「交談」(懇談)より格は上だ。また、日中関係筋によると、実際に中国側はこの日の会談を「会見」と位置付け、「正式」なものと見ていたもようだ。
 そのため当初、政府系通信社・中国新聞社も「会見」を使っていたが、その後、国営新華社通信や外務省発表は「会晤」で統一。背景には「何らかの意図がある」(中国外交筋)とされ、通常の正式会談との違いを示す意図や、「会見」より「懇談」の方に重点を置く狙いがあったとも指摘される。

 中国側でもリアルタイムメディアとしては当初正式な会談ではないかという見方をしていたが、中国外務省が訂したということだ。

 胡、菅両氏の会談は、国家指導者の動静を伝える国営中央テレビの夜7時のニュースでも伝えられなかった。また、発表では「菅首相が胡主席の中日関係発展に関する意見に完全に賛同した」と強調しており、国内の反日世論に配慮し、発表内容を慎重に推敲(すいこう)した結果とみられる。 

 中国政府としては、外交上は今回の会談が外交上意味を持つ正式会談と受け取られることに憂慮したことになる。
 時事の報道からでは見えなかった部分は日経の報道「中国、日中「会談」と認める 米中より弱い表現 」(参照)から見える。

 中国外務省は13日の胡主席と菅首相の日中首脳会談に関して、発表文で「会晤」(会談)と「交談」(言葉を交わす)の表現を両方使用した。
 「交談」は10月4日にブリュッセルで菅首相と温家宝首相が非公式に会談した際に用いた。同30日のハノイでの日中首相の顔合わせはさらに軽い「時候のあいさつ」と説明していた。
 今回は言葉を重ねて会談の事実を認めた形。ただ、今月11日のソウルでの米中、中ロ、中韓の各首脳会談で使った正式会談を表す「会見」よりも、やや弱い表現とした。

 日経の報道が正しければ、時事の報道からは「会晤」として「交談」より上としてしていたが、誤報とは言えないまでも評価は違っているようだ。日経報道では、「「会見」よりも、やや弱い表現とした」とあるが、会見より弱いのが会晤だが、それに交談が混じっているのだから、実際のところ、交談より少し上の非公式会談だったと見るほうが自然だろう。実際の会談のセッティングや実情から見ても、今回の日中首脳会議とやらは、先日の菅・温廊下会談より、主席自身が行ったという程度に重要性があるというくらいのものと見てよい。
 キーワードとなる「交談」には非公式な含みがあるようだ。サーチナ「日中首脳「会話」は非公式、公式会談実現には更なる努力必要―中国有識者」(参照

 中国社会科学院日本研究所の馮昭奎研究院も、中国語では「会面」「会談」「会見」「会晤」が外交活動における公式的な言葉であるのに対して「交談」が非公式なニュアンスを含んだ用語であることを指摘。いまだ公式会談を持つ雰囲気ではないと双方の首脳が認識している状況であり、公式会談を行うには更なる雰囲気の改善や環境づくりが必要だとの見解を示した。

 結論からすれば、今回の日中首脳会議は、中国側としてはまったく公式の会談ではなかったということなので、日本側が正式会談という大本営発表をしているとまた痛い目に遭いかねない。
 外交的に見るなら日中間の現状は、菅・温廊下立ち話以上の進展はない。であれば、やはり「仙谷」政権詰んだなという状態には変化はないことになる。せめて三手詰みが五手詰みになったくらいの違いだ。
 そうなると、気になることがある。尖閣ビデオを機密とするというれいの「密約」はどうなるのだろうか。さすがに中国側としても苦笑して反故とするか、あるいはまだ生きているのか。
 それは、明日わかる。私としてはどう考えてもこれは逮捕できる話とは思えない。なのに…という線が出るなら、またこの「仙谷」政権は中国漁船拿捕のような失態を国内向けにしてしまうことになる。さすがにその線はないと思いたい。


|

« sengoku38の一手で「仙谷」政権、詰んだな | トップページ | 第五管区海上保安本部海上保安官を逮捕できず »

「時事」カテゴリの記事

コメント

ちょうど鳩山政権末期のオバマとの電話会談みたいな白けムードですね。オバマに感謝されたとかいって一人で高揚していたらしい。今回は中国から感謝すらされていないのに首相だけカラ喜びしてるらしいけど・・・。

他方で非主体的な対米依存がどんどん進むという実態。まあ親米派にとっては最低限の成果でしょうが、民主党が目指していた対米自主だのアジア重視の末路がこれでは、なんだか悲しくなりますね。

投稿: かやの | 2010.11.14 20:52

詰んだと言っても、マスコミが騒がなければ、総辞職したり解散したりはしないから、民主党政権が続いて、そのうち汚沢とか出てくるのでは・・・。

投稿: みかん | 2010.11.15 02:21

逮捕や否や、一応午後に結論を出すという事らしいので、私も注視しています。
その是非や法理はともかくとして、逮捕という事になれば本当に世論が爆発しかねない雰囲気を肌で感じます。
しかしこれだけのチョンボを重ねながら、やはり報道機関は民主党には甘いな…。自民なら政権が5回はトンでる。

投稿: ドラちゃん | 2010.11.15 11:23

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日中首脳会談は公式ではなかった:

» 極東ブログ「日中首脳会談は公式ではなかった」間違っても「公式」なんて言っちゃイケないよ! [godmotherの料理レシピ日記]
 真夜中に起き出して今朝のエントリーを書く前に、昨日のAPECをテーマに書きたかったこともあって、流石にこの私も各紙の社説や、日中の会談に的を絞ってニュースには目を通しました。そして、「finalve... [続きを読む]

受信: 2010.11.14 14:19

« sengoku38の一手で「仙谷」政権、詰んだな | トップページ | 第五管区海上保安本部海上保安官を逮捕できず »