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2010.11.26

延坪島砲撃事件で最初に挑発をしたのは韓国側か

 延坪島砲撃事件の初動について、報道からわかる範囲でメモしておきたい。論点は、今回の砲撃は北朝鮮側から見て正当なもの言えるだろうかということだ。これには、最初に挑発をしたのはどちらかという問題が関わる。
 どのような事件であれ、立脚する観点によって異なった見方が可能になる。今回の延坪島砲撃事件では市民居住区への攻撃という点で、北朝鮮の非は明らかなようだが、北朝鮮としては挑発を受けての自衛的な行為だと見ている。
 エントリーを起こしたいと思ったのは、初動はなんであったかについて各種報道からでは真相が明確ではないことだ。例えば、当日の朝日新聞記事「北朝鮮の韓国砲撃をめぐる23日の動き」(参照)では初動は判然としない。


8:20 北朝鮮、韓国軍の現場海域での演習中断を求める通知文を発送
14:34 北朝鮮軍が砲撃開始
14:49 韓国軍が対応射撃
14:50 韓国軍、周辺海域に対して、北朝鮮軍の局地挑発に備えた最高度の防衛準備態勢「珍島犬1」を発令
14:55 北朝鮮軍の砲撃やむ
15:01 韓国軍が2回目の対応射撃
15:10 北朝鮮軍が2回目の砲撃
15:25 韓国軍が3回目の対応射撃
15:41 北朝鮮軍の2回目の砲撃やむ
15:48 韓国軍、挑発中止を求める通知文を発送
16:35 李明博大統領が外交・安全保障関係閣僚会議を開催(~21:50)
16:36 韓国行政安全省が全国家公務員に非常待機令
18:06 韓国大統領府が政府声明を発表
18:40 韓国軍合同参謀本部が記者会見
20:30 金星煥外交通商相が在韓日本大使に状況説明
20:37 李大統領が合同参謀本部を視察

 タイムテーブルからは事前通告はあったものの午後2時半に突然北朝鮮の砲撃が始まったように見える。
 ところが中国は別の見方をしている。中国の立場とも絡んでいるだろうが、中国の報道からは、今回の挑発の発端は韓国側にあるとする北朝鮮への理解が感じられる。23日付けCRI「朝鮮、「韓国側が先に軍事挑発した」(参照)より。

 韓国の聯合ニュースが23日、朝鮮中央通信社の報道を引用して伝えたところによりますと、朝鮮人民軍最高司令部は23日、「韓国側が先に軍事的挑発をした」と宣言したということです。
 報道によりますと、朝鮮人民軍最高司令部が23日に発表したプレスコミュニケでは、「韓国側が朝鮮側の数回にわたる警告を顧みず、23日午後1時から朝鮮西海の延坪島周辺で朝鮮側の領海に発砲し、軍事的挑発を行った。これに対し、朝鮮人民軍は軍事措置をとり、反撃を加えた」としました。
 プレスコミュニケはさらに、「朝鮮の西海には、朝鮮側の画定した海上軍事境界線しかない。韓国側が朝鮮の領海を0.001ミリでも侵犯すれば、朝鮮は断固として軍事的手段で反撃する」としました。
 また、韓国国防省によりますと、韓国は23日午前10時15分から午後2時25分まで、延坪島付近の海域で定期的な射撃訓練を行いましたが、射撃訓練の地点は北方限界線の韓国側にあるということです。

 こうした、初動の挑発は韓国であったとする見解は、23日付けニューヨークタイムズ社説「A Very Risky Game」(参照)にもある。

The attack on Yeonpyeong Island occurred after South Korean forces on exercises fired test shots into waters near the North Korean coast. We hope South Korea’s president is asking who came up with that idea. But the North should have protested, rather than firing on a populated area, wounding three civilians and 15 soldiers.

延坪島攻撃は韓国軍が北朝鮮海域で軍事演習の砲弾を発した後に起きた。我々米国民としては、この考えに至った者に韓国大統領が質疑していと期待している。それでも、北朝鮮は3人の市民と15人の兵士に傷害を与える居住区への砲撃よりも抗議をすべきだった。


 ニューヨークタイムズとしては、その海域で最初の演習砲弾を行った韓国に非があると見ている。さらにこう続く。

South Korea showed admirable restraint earlier this year when the North Koreans torpedoed and sank a South Korean warship, killing 46 sailors.

北朝鮮の雷撃で46人の兵士の死者を出した今年年初の韓国軍船沈没のときも、韓国は称賛すべき抑制を示した。


 韓国軍は46人も殺されても我慢したのだから、北朝鮮を挑発すると思えるような軍事演習も我慢するべきだったというのだ。随分とひどいことをニューヨークタイムズは言うものだなという印象もあるが、それより、今後米国がこの海域で軍事演習をすることになるという米国のダブルスタンダードな対応はどうなのだろうか。いずれにせよ、挑発した韓国に非があるという議論は存在する。
 ニューヨークタイムズの議論に対して直接の対応ではないが、米政府側の反論としても読めるのは24日付けワシントンポスト記事「N. Korea attack leaves U.S. with tough choices」(参照)だった。

Despite North Korean claims that the South fired the first shots during a round of military exercises, U.S. officials said the barrage appeared to have been unprovoked and premeditated.

軍事演習中に韓国が最初の砲撃を放ったと北朝鮮が主張するものの、米国高官は、集中砲火は挑発によらず事前計画であったようだと述べている。

They noted that the North began firing artillery four hours after the South's guns had fallen silent. Administration sources also said North Korean leader Kim Jong Il and his third son, the heir apparent Kim Jong Eun, visited troops over the weekend in the region where the barrage originated - apparently as a kind of pep rally.

高官らは韓国砲弾が止んでから4時間後に北朝鮮が大砲を撃ち出したことに注目している。高官筋によると、金正日総書記と彼の三男の正嫡と見られる金正恩が、週末、集中砲火を発した地域で軍の訪問をしていた。おそらく一種の激励としてである。


 ワシントンポストは米国当局の見方を伝えている。気になるのは、韓国演習の砲弾が止でからの4時間の沈黙があるという指摘だ。集中砲火が始まったのは2時半であり、4時間前となると10時半ということになる。つまり、海上演習が始まった初期の状態を指している。どのようなものだっただろうか。
 23日聯合ニュース「韓国軍「北の砲撃は意図的挑発」、護国訓練否定」(参照)はこう伝えている。

 国防部の李庸傑(イ・ヨンゴル)次官は同日、民主党幹部に非公開報告を行い、軍が延坪島の沖合いで実施した訓練は護国訓練ではなく、定期的に行っている射撃訓練だったと説明した。民主党の朴智元(パク・チウォン)院内代表が明らかにした。
 李次官によると、韓国軍は、午前10時15分から午後2時25分まで北西部海上で射撃訓練を実施。西南方向に向け、NLLより南側で砲撃を行った。北朝鮮側が午後2時34分に海岸砲20発余りを発射してきたため、韓国軍もK9自走砲で同49分ごろ応射。続いて午後3時1分ごろ2度目の応射を行ったという。事態は午後3時41分に収束した。

 このアナウンスが正しければ、今回の演習はニューヨークタイムズがことさらに取り上げるようなものではなく、定期的に行っている射撃訓練であったようだ。また、初砲は10時15分、北西部海上から西南方向に向け、北方限界線より南側であったことになり、北朝鮮に向けられてはいない。


延坪島域北方限界線より

 赤い矢印が延坪島で紫色の2つの領域が韓国の射撃訓練域である。李次官の話が正確なら、韓国は北方限界線の南、韓国寄りの射撃訓練域で演習砲弾を南西方向に発したことになる。これを北朝鮮が自国の領域への侵害とするには、1999年以降になってから北朝鮮が主張している海上軍事境界線を前提としなければならない。北朝鮮としての思い入れはあるだろうが、歴史的な経緯を重んじる国際的な常識からは逸した主張である。
 また、今回の演習が定期的な射撃訓練であれば軍事挑発として中国やニューヨークタイムズが取り上げるほどの意味合いもないだろう。先の聯合ニュースでは同種の演習が8月と9月にも実施されたことを伝えている。


 一方、ある軍関係者は、今回の韓国軍の訓練は護国訓練期間に行われたが、これとは別のもので、1カ月に1回程度、定期的に実施している射撃訓練だと説明した。8月初めと9月にも白リョン島、延坪島で実施しているという。
 韓国軍の砲射撃区域は、延坪島の西南方向20~30キロメートル地点で、午前10時から午後5時までの計画だった。砲射撃訓練にはバルカン砲、爆撃砲、無反動砲などを動員したと伝えた。

 現状では初動についての詳細な状況はわからないが、逆にいえば、中国やニューヨークタイムズが取っている、韓国側から北朝鮮を挑発したという見解もそれほど確固たるものではなさそうだ。

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コメント

NYTimes の記事は従前より左翼寄りで WashingtonPost の記事の方が日本人の感覚に近い気がすることが多いですね。
私は中国が絡んだ国際関係では「大紀元」の記事を見ます。最近の事件の直前に「米国が6カ国協議の再開を諦め冷淡化するならば、北京政権は平壌を煽ってことを構えるだろう。朝鮮半島で再び戦争を起こしても構わない」という内容が香港の雑誌に発表されていたとの報道がありました。習氏が音頭をとり、北朝鮮問題を利用して米日を牽制しようとしているということですね。北朝鮮軍が現在使用している火砲密集攻撃の戦術、資材、技術は(銅とのバーターで)中国から来ていると考えているそうです。
手の内を見せない共産党政権については、そういう見方を想定しておくことも必要でしょう。

投稿: kappnets | 2010.11.28 12:02

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  争いごとにはつき物である「誰が先に手を出したか」を検証したエントリーが、極東ブログであがりました(参照)。そこまで事態が深刻化してきたのかと思わざるを得ない延坪島砲撃事件は、予断を許さない緊張の中... [続きを読む]

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