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2010.11.28

延坪島砲撃を米国は事前に知っていたのではないか

 延坪島砲撃事件を受けた形の米韓合同軍事演習が始まった。12月1日まで続く予定である。経緯を振り返ってみると、これは最初から米国のシナリオ通りの展開だったのではないかと思えてくる。
 なぜ北朝鮮が延坪島砲撃に及んだかについての推測は24日のエントリー「韓国人が居住する延坪島に北朝鮮が砲弾を撃ち込んだのはなぜか」(参照)でも言及した。
 同エントリーでの参照はリンクも英国高級紙テレグラフと米国高級紙ニューヨークタイムズに限定したものの、多少推測を交えたため、陰謀論的に読まれたかたもいたようだった。だが、私としてはそれほど突飛な推測をしたわけではないと思っていた。そうしたやさき、エコミスト誌の元編集長でもあるビル・エモット氏も似た推測をされているのを知った。ダイヤモンド・オンライン「緊迫の朝鮮半島、ビル・エモット特別インタビュー」(参照)より。


 金正日総書記が深刻な健康不安を抱え、金正恩氏への権力移譲が急がれる中で、指導部の“タフネス”を示すためだとか、朝鮮半島西側の黄海上での韓国軍による軍事演習への対抗措置だったとか、あるいは制裁の緩和や新たな援助を引き出すためといったもっともらしい説明が各メディアで報じられているが、はっきり言って、どれも説得力を欠く。
 それだけの理由で、韓国側の本気の反撃を招く覚悟を持って、民間人の住む島に本当に砲弾の雨を降らすだろうか。北朝鮮も、今回の延坪島(ヨンピョンド)砲撃で一線を越えたことは認識しているはずだ。

 金正恩氏への権力移譲のための示威説と黄海上での韓国軍による軍事演習への対抗措置説を説得力に欠けるものとして見ている。

 今回の攻撃が意図せざる突発的なものだったとする見方も少なからずあるようだが、私はそれはないと思う。新たなウラン濃縮施設が確認された時期から日が近すぎる。それに、北朝鮮軍による場当たり的な博打だったとしたら、そちらのほうが深刻だ。指導部が軍を制御できていないことになるからだ。

 突発説も退けている。これは同時に、26日のエントリー「延坪島砲撃事件で最初に挑発をしたのは韓国側か」(参照)でも触れたが、ニューヨークタイムズや中国が取る、韓国側が先に挑発したという議論も排していることになる。
 ここまでは私の議論とほぼ同じだし、その先も似ている。ただ、エモット氏の推測は私の推測とは違った点で踏み込んでいる。北朝鮮と米国の水面下交渉を彼は推測している。

推察するに、最近新たに確認された北朝鮮のウラン濃縮施設にからんで、ピョンヤンとワシントンとの間に水面下で抜き差しならぬやりとりがあったのではないか。

 米国から事実上の最後通牒に近いものを北朝鮮が受け取っての行動とエモットは見ているが、それがなんだったかについては彼は言及していない。私はすでに言及したように、北朝鮮へのピンポイント空爆ではないかと考えている。
 エモット氏も私も現状の公開情報からは推測になるが、それほど陰謀論といった突飛な推測にはならないだろう。
 この推測が正しいとすると、事後についても、米国側が北朝鮮の強行な反発をかなり予想できたことになる。重要なのは、米国側が延坪島砲撃まで予想していたかだ。
 もし米国が延坪島砲撃を予想していたとすれば、韓国を見殺しにしていたにも等しいので、この推測は難しいところでもある。
 予想していたのではないかと思われる筋がまったくないわけではない。
 24日付けワシントンポスト記事「N. Korea attack leaves U.S. with tough choices」(参照)では、米国政府が金正日総書記と正嫡と見られる金正恩が同地域を訪問していたことを24日以前に知っていたことを語っている。

Administration sources also said North Korean leader Kim Jong Il and his third son, the heir apparent Kim Jong Eun, visited troops over the weekend in the region where the barrage originated - apparently as a kind of pep rally.

高官筋によると、金正日総書記と彼の三男の正嫡と見られる金正恩が、週末、集中砲火を発した地域で軍の訪問をしていた。おそらく一種の激励としてである。


 韓国側ではどうだったか。評価の難しい報道がある。26日付け朝鮮日報「北朝鮮砲撃:韓国軍、ロケット砲の移動知りながら対応できず」(参照)より。

 北朝鮮軍は23日の延坪島砲撃に先立ち、同日第4軍団に所属する122ミリロケット砲(多連装ロケット砲)1個大隊を黄海道カンリョン郡のケモリ基地に移動・配備し、射撃準備訓練を行っていたことが25日、分かった。韓国軍当局は北朝鮮軍のこうした動きを事前にキャッチしていながら、北朝鮮の第1次砲撃に対応する際、ケモリ基地ではなく、茂島地域の海岸砲基地の攻撃に重点を置いていたことが明らかになり、こうした兆候をキャッチする韓国軍のシステムなどに問題があるとの指摘が上がっている。
 軍消息筋によると、北朝鮮軍は砲撃当日の23日、122ミリロケット砲1個大隊(18門)をケモリ基地に配備していたことが分かったという。
 この消息筋は「北朝鮮軍は砲撃の数時間前に当たる午前、ロケット砲1個中隊(6門)を展開させ、午後に2個中隊(12門)を追加配備した。砲撃前に射撃準備訓練を行い、韓国軍も事前にこれを把握していたと聞いている」と語った。122ミリロケット砲は北朝鮮の海岸砲部隊には配備されておらず、第4軍団に所属するロケット砲旅団からケモリ基地まで移動させなければならないが、韓国軍当局はこうした動きを事前に把握していたというわけだ

 事前とはいえ、延坪島砲撃の当日のことなので、それ以前に察知していたとまでは言えないようだが、北朝鮮側からの砲撃が開始される以前から、北朝鮮側をそれなりに注視していたことは理解できる。
 私は素朴な疑問を持つのだが、こうした事前の動きについて、人一人を識別できるほどの解像度を持つ衛星からでも察知できなかったのだろうか? 朝鮮日報が伝えるように事前が当日であっても、数時間の時間差は取れるわけで、その情報を活用すればかなり被害は防げたはずではないのか。
 この報道からは、韓国側は北朝鮮の動向を注視しても、それを延坪島砲撃への対処としては活用していなかったとされ、韓国側の落ち度を示しているにとどまっている。
 問題は米側である。事前に知らなかったのだろうか。もし知っていたと仮定すると韓国を見殺しにすることになる。素朴に考えると、ありえないことにも思える。
 私が一つ気になっているのは、今回延坪島砲撃で民間人を含めた死者まで出し、生々しい砲撃跡の映像も報道されるが、この二人の民間人は出稼ぎ労働者として島の北側の韓国軍側施設におり、むしろ軍の下にあった。北朝鮮としては、民間人被害を痛んでもいることから(参照)、いちおう軍のある島の北部をそれなりに焦点としていただろう。対する延坪島の住民は北朝鮮とは反対側の南岸の地域に暮らしていて、砲弾の命中率も高くなく、実際民間人に死者が出なかった。米側では砲撃があっても、これらを読み込み、それほどの被害はないと見越していたということはないだろうか。
 延坪島砲撃が行われたことで、北京の喉元でもあり、中国が曖昧に主張する排他的経済水域(EEZ)に関わる地域で、米韓合同軍事演習が始められた。国際世論の手前、中国としても今回の演習には表立って反対はしづらい。と同時に、EEZについては、実質黄海での中韓の中心線が意識されることになった。曖昧な形で支配海域を押し広げたい意思を持つ中国としては、致命的なストッパーをかまされたことになる。
 その意味は、中韓のEEZもだが、中日間のEEZにも影響するだろう。中国としては中日間のEEZについても、尖閣諸島を偽装漁船によって蹂躙し、いずれ軍で実効支配したいところだが、日米同盟が機能している限り、EEZについては国際的な中間線を飲まざるをえない前例となってしまった。
 もともと米国による黄海での演習は、中国が東シナ海で太平洋側に押し出てくることに対するストッパーの意味もあったが、7月の演習では中国の強行な反発に配慮して、ジョージ・ワシントンを黄海への派遣を断念し、日本海に移した経緯がある。しかし、当然ながら黄海での演習を狙っていたものだった。
 中国側としてみると、今回の米韓演習によって、実質現状のままに海域が封じ込められるという、かなり苦々しい結果となった。
 これは今後、中国内政にどのような影響を与えるだろうか。存外に現政権の共青同側の勢力は米国を悪玉にしたてて、軍を抑え込むというシナリオもあるかもしれない。そもそも原点の問題でもある北朝鮮の核化だが、北朝鮮にウラン濃縮技術をもたらしたのは中国内の勢力である可能性もある(参照)。
 しかし、実質米国に抑え付けられた軍側がさらに反発するというシナリオもあるだろう。どちらかといえば、そのほうがありそうなシナリオだろう。

追記
 韓国では活用はされてはいないが、さらにそれ以前に情報があったようだ。


 【ソウル=牧野愛博】韓国の情報機関、国家情報院の元世勲(ウォン・セフン)院長は1日、国会情報委員会での北朝鮮軍による大延坪島(テヨンピョンド)への砲撃を巡る答弁で、今年8月に北方限界線(NLL)近くにある同島を含む島々に対する攻撃の兆候を把握していたと説明した。関係議員が明らかにした。
 北朝鮮の通信を傍受した結果、攻撃の可能性が高いと分析した。関係議員は、政府が対応措置を取らなかった理由について「北の似た行動が多いため、同程度に考えたようだ」とした。民間人を巻き込む無差別攻撃も予測できなかったという。8月9日には、北朝鮮軍がNLLから1~2キロ離れた韓国側の海上に向けて十数発を砲撃する事件が起きていた。

 北朝鮮の通信傍受が韓国に閉じていたかは疑問が残る。


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コメント

北朝鮮の訓練は何時もの事だった可能性がある。何の為の訓練か?。当然攻撃の意図を隠す為の意味もある。訓練を99回繰り返せば100回目も訓練だと思い込むだう。基本である。尖閣の件も近いもんがある。何時もの事だったんだ、体当たりしてくるまでは。まんまとやられた。

投稿: air | 2010.11.28 13:16

パックスアメリカーナがこういう型で中国がEEZを国際的な中間線で意識せざる得なくさせたとしたら、この鋭利で徹底的且つ精密すぎな戦略眼は、小さな計算ミスや誤差から大きな災厄も10回に1回ぐらい起こしてそうですよね。
ところで的をピンポイントで絞り込んでもいない限り精密な偵察映像は情報が多いので解析に時間が掛かりますよね。又個別の人員や車両物資の移動がどういう意味を持つのか?交戦中ならともかく57年間の休戦を経て今回のようなある特定移動の場合にだけ留意や注意を喚起しそれが的中した場合、韓国側は米朝の秘密討議の存在とその討議内容のあらまし討議の状況について推測が立つと思われます。そう推測が立つと世論に押され韓国政府も秘密でなくなった討議へ参加せざる得なくなり、そして六カ国会議化してパーでしょうね。
軍事とは非情なもので島津の捨てがまりや釣鐘戦法だとか友軍自軍でさえ撒餌にするものじゃないですか。
算盤弾いてみたらこっちの方が採算が良いというのは冷徹で孤独な為政者という面から見たら米韓共に認められるんじゃないでしょうか、決して50年ぐらいは認めないでしょうが。

投稿: ト | 2010.11.28 23:24

そういえばテレビで軍事評論家の人が、アメリカは衛星で中国海軍の施設についてかなり把握しているが、それでも海上から直接見るのでは情報量がダンチに違う。中国海軍は丸裸にされるも同然なので、あの海域に演習という口実で入れるのは超ラッキー。と言っていました。

投稿: ggg123 | 2010.11.29 12:05

記事の論旨とは、関係ないことなのかもしれませんが、北朝の砲撃は島の南側でわないでしょうか?
『生々しい砲撃跡の映像も報道されるが、この二人の民間人は出稼ぎ労働者として島の北側の韓国軍側施設におり、むしろ軍の下にあった。北朝鮮としては、民間人被害を痛んでもいることから(参照)、いちおう軍のある島の北部をそれなりに焦点としていただろう。対する延坪島の住民は北朝鮮とは反対側の南岸の地域に暮らしていて、砲弾の命中率も高くなく、実際民間人に死者が出なかった。米側では砲撃があっても、これらを読み込み、それほどの被害はないと見越していたということはないだろうか。』
つまり、記事で述べているところの民間人が生活しているエリアを攻撃目標としていたと思うのですが?
また、報道では、砲弾の命中精度も比較的正確なものでは無かったようですが。

投稿: | 2010.11.29 18:38

韓国の軍事演習は何時もの事だった可能性がある。何の為の軍事演習か?。当然攻撃の意図を隠す為の意味もある。軍事演習を99回繰り返せば100回目も軍事演習だと思い込むだう。

投稿: salvador | 2010.11.30 15:43

↑北朝鮮 の誤植では?
ともかく,打ち込まれたのがBM-21ならただの中型トラックな訳だし,それを衛星で見たからと言って砲撃準備と判断しろというのは酷な気がします.http://bit.ly/hteUOY

投稿: ネオ筑摩屋松坊堂 | 2010.11.30 22:54

 はそれ以上の水面下での何か陰謀的な動きがやはり日本に対してのアメリカに有利に働く政策行動をさせる為に実際に動いてるのではないかと思います。

 最近アメリカ、ロシア、韓国、北朝鮮、中国も層ですが何か不自然な国家行動をしているように思えるのですが軍事評論家などは私が思っているような疑惑を言わないので違うのかなと思っています。

 中国との尖閣事件、アメリカ普天間問題遅延、北朝鮮と韓国の死者数が少ない砲撃事件、アメリカとロシアの核軍縮合意とその後に北方領土のロシア領公言と滑走路拡大開発及び環境開発の着手による領土実効支配の動き、沖縄嘉手納基地のステルス戦闘機F-22、14機もの一時配備など、何か仕組まれてる又大げさな感じがしております。

 

投稿: Toby | 2011.01.21 09:25

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