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2010.11.21

民主党政権下で日本の武器輸出三原則が終わるだろう

 歴史の皮肉と言えるかもしれないが、民主党政権下で日本の武器輸出三原則が終わることになるだろう。背景は世界情勢の変化、特に北大西洋条約機構(NATO)の変化が大きい。
 19日から2日間にわたりリスボンで開催された、加盟国28か国北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議の注目点は、グルジア戦争以降冷えこんでいたNATOとロシアの関係が今回、ロシア側から大きく協調性が示されたことだった。2点ある。
 2点目から先にすると、ロシアがアフガニスタン戦争により協調的な支援の立場を明確にしたことだ。ロシア側の輸送手段などもより活発に利用されることになる。アフガニスタン戦争の泥沼化に悩むNATO側としても、また軍事費を削減せざるをえない加盟国の実情からも、援助となるロシアの態度は好ましいものになる。
 逆に見れば、ロシアの行為に甘えてNATOが軍事費削減に進むことでロシアがまた硬直化したときの脅威が高まると警告するフィナンシャルタイムズ「Nato and the case for defence」(参照)といった主張もある。ロシア側としては、ロシア側に向きつつある不安定な中央アジア諸国の情勢にアフガニスタン戦争の影響を受けることを避けたいという思いもあるだろう。
 もう1点は、欧州に配備するミサイル防衛システム(MD)にロシアが協調する姿勢を示したことだ。この問題ではかつて米国ブッシュ前政権とロシア・プーチン前政権とでは反目したことがあるので、今回の転機には注目されている。
 NATO側の本音を言えば、ロシアからの脅威に対抗するためのMDなので、ロシアの協調というのは不思議にも見えるが、それ以上に重要な課題がのしかかった。明白なのはイランの弾道ミサイルの脅威である。当然ながらロシアもカバーしているので共通の敵と言えないこともない。
 イランもこの動向に反応し、この間ミサイル実験(参照)も行った。イラン側からの声明でもわかるように、イスラエルへの敵意は剥き出しにされており、NATOとロシアとしてもイランとイスラエルの暴発の可能性に備えるという意味合いもあるだろう。さらにはパキスタンからの防衛という複雑な問題も絡んでいるだろう。
 日本ではあまり報道されなかったが、横浜で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)での注目的なシーンは、米国オバマ大統領とロシア・メドベージェフ大統領の親密な関係だった(参照)。まるで大学の同級生のようにニックネームで呼び合う関係となり、いうまでもなく今回のNATO会議の前段であった。なお、日本では領土問題からロシアについては否定的な国民感情が優勢になりつつあるが、ロシアとしてはしっかり米国との関係を固めたうえでの日本への圧力でもあった。
 NATOのMD構想は日本にも大きな影響を与えるのだが、今朝の社説でこれに言及したのは毎日新聞社説「新戦略概念 NATOの進化に期待」(参照)だけで、表題からわるように「NATOに期待」と単純に述べている。日本との関連では次のように抽象的だ。


 米欧と関係が深い日本も北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされ、中国やロシアの領土上の圧力も強まっている。日本もまた新たな戦略を考える時だ。日米安保に基づく米国との協力はもとより、NATOとの連携も重要度を増している。

 その意味について執筆者が理解してないこともないだろう。この問題は武器輸出三原則に関わってくる。特に重要なのは、日米がMDで共同開発している海上配備型迎撃ミサイルSM3ブロックIIついての扱いだ。日本が武器輸出三原則を固持すると、共同開発の米国としてもこれを第三国に供与することが不可能になる。MDを推進しようとするNATO側からしてみれば、日本がNATOのMDの傘を妨害する要因に見えるし、平和への侵害とも見えてしまう。
 これを回避するために民主党政権は武器輸出三原則を見直し、共同開発の対象国の拡大を検討している(参照)。拡大対象は、NATO17か国と韓国およびオーストラリアの計19か国となる予定だ。
 興味深いのはこうしたNATOの動向にまったく触れずに今朝の朝日新聞社説「武器輸出三原則―説得力足りない見直し論 」(参照)が掲載されていたことだった。

 いまこれを見直そうという動きが起こることには、確かに理由がある。
 近年、IT技術の進歩や開発コストの急増により、軍事技術をとりまく環境は一変した。巨額の開発費が要る戦闘機などは、米国といえども単独開発は難しく、多数の国々が参加する共同開発・生産が主流になりつつある。
 その一方で、軍用品と民生品の境界があいまいになり、武器とみなされない日本の半導体やソフトウエアなどの製品や技術が、他国の武器に堂々と組み込まれる現実も日常化している。
 見直し論が浮上する背景としてとりわけ大きいのは、武器の調達コストを何とか引き下げたいという動機だ。

 世界情勢の変化ではなく武器調達コストという論点に、あたかもすり替えているような印象がある。結語も現実味がない。

 何より武器輸出政策の原則を変えれば、それはいや応なく国際社会への強いメッセージとなる。日本は世界の中でどんな国家であろうとするのか。平和国家であり続けるのか、それとも?
 性急な見直し論議の前に、菅政権が答えを出すべき問いはそこにある。

 昭和時代の視点からすれば、こうした結語は普通に響くが、NATOの現状からすれば、日本はアフガニスタン戦争で血を流しもせず、イランとの関係も傍観しながら、NATOのMDの傘を妨害する国として、平和とは逆のイメージで見えてくる。
 落とし所がないわけではない。朝日新聞社説も結果的に指摘している。

 政府は従来、禁輸解除が必要と判断したものについては、一つずつ「例外化」という形で慎重に吟味し、閣議決定で適用除外としてきた。なぜ個別に判断するやり方ではいけないのか。

 武器輸出三原則の例外を閣議決定すれば、武器輸出三原則は無傷で残る。だが、19か国へも主要先進国に例外が拡大されても原則は維持されているというのは滑稽な響きがある。実質的には、民主党政権下で日本の武器輸出三原則が終わることになるだろう。

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コメント

ロシアが一番怖いのは北朝鮮の崩壊じゃあないの。

日本は、北朝鮮とは国交のないままにしておいたほうが絶対に得。売国政治家をのさばらせてはだめ。

投稿: enneagram | 2010.11.21 11:52

海上配備型迎撃ミサイルSM3の欧州導入は、地上配備型が開発されないと限定されるのでは?
欧州艦の多くは、垂直発射システムが別規格(フランス製)になっています。
イージス艦を配備している,スペインぐらい。簡易型のノルウェーも難しいのでは。

投稿: K | 2010.11.23 19:46

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