米国中間選挙の感想
米国中間選挙で予想通り民主党が大敗したといってよいだろう。しかし、これで予想通りオバマ大統領がレイムダック化するかといえばそうとも言い難い。基本的に中間選挙は現職大統領に厳しい結果が出るものだし、ねじれ議会はむしろ普通ことだ。むしろ、これからようやくオバマ大統領の真価が問われる時代になった。ということで米国中間選挙はどちらかというと退屈なお話でもあるが、少し感想を書いておこう。
米国の報道でもそして日本の報道でも選挙期間中ティーパーティーが話題になった。ペイリン氏が騒ぎ立てたこともあり、日米ともに基本的にリベラル寄りのメディアとしては当初また反動保守的な共和党か、アホのブッシュの再来かくらいに報じていたが、ティーパーティーが単に共和党の別動部隊ではなく反共和党的な性格も持ち合わせていることに気がついたとき、すでに何かが終わっていた。民主党のオバマ大統領もそれまで無視し続けていながら土壇場になってとってつけたようなティーパーティー批判をしたときはすでに遅すぎて滑稽な事態になっていた。ティーパーティーには確かに煽動された部分もあっただろうが、それが市民運動として定着してしまう米国民の国民気風というものがあった。
そのあたり、ティーパーティーという文脈ではなく米国民の気風という観点だが、ワシントン・ポストのコラムニスト、クラウトハマー(Charles Krauthammer)が上手に表現していた。いわく、正常に戻っただけというのだ。「A return to the norm」(参照)より。
For all the turmoil, the spectacle, the churning - for all the old bulls slain and fuzzy-cheeked freshmen born - the great Republican wave of 2010 is simply a return to the norm. The tide had gone out; the tide came back. A center-right country restores the normal congressional map: a sea of interior red, bordered by blue coasts and dotted by blue islands of ethnic/urban density.混乱、瞠目すべき光景、動顛、この手のお馴染みは屠られ、寝ぼけ顔の新人が現れた。共和党2010年の大潮流は簡素なまでに正常に戻った。波は去りそして戻る。中道右派のこの国は正常な議会勢力地図に戻った。赤(共和党)の内海を青(民主党)が縁取り、民族や都市によって青斑が見られる地図だ。
Or to put it numerically, the Republican wave of 2010 did little more than undo the two-stage Democratic wave of 2006-2008 in which the Democrats gained 54 House seats combined (precisely the size of the anti-Democratic wave of 1994). In 2010 the Democrats gave it all back, plus about an extra 10 seats or so for good - chastening - measure.
数字を挙げるなら、共和党2010年の波がしたことは、2006年から2008年にかけて二段階に来た民主党の波を打ち消したというくらいなものだ。かつて民主党は併せて54議席を得た(正確には反民主党1994年の波の大きさ)。2010年にはこれをすべて戻し、罰として10席上乗せした。
文化戦争が続く米国ではこうした波があるものだとは言えるだろう。
別の言い方をすると、中間選挙の結果は、そうした米国という国の内在的な歴史運動の正常の範囲内だったとも言える。他の数字からもそれは察せられる。6日付け時事「厚い「ワシントン政治」の壁=現職に逆風のはずが…再選率9割―米中間選挙」(参照)が上手に描いていた。
現職議員への逆風が伝えられた2日投票の米中間選挙は、終わってみれば再選率が約9割に上り、通常とほぼ変わらない高水準を維持した。好転しない経済への国民の不満はオバマ政権だけでなく、政治の変革を求める「アンチ現職」の風となり、党派を超えて「ワシントン政治」を直撃したものの、現職の壁は予想以上に厚かった。
5日現在、結果未定の州や選挙区を除き、上院選に出馬した現職22人のうち20人が当選し、再選率は91%。下院は385人中、87%に当たる334人が引き続き議席を得た。
この傾向は今回に限らない。
既存の政治体制に風穴を開けようとオバマ大統領が「チェンジ」を掲げた2年前も、再選率は上院83%、下院94%と現職がしぶとく生き残った。それ以前の10回の上下両院選の平均再選率はそれぞれ88、95%に達している。
その意味では、誤差の範囲とまではいえなくても、数パーセントを動かせば全体の動向には大きな波の効果が出るとも言えるし、各候補にしてれみれば地味に有権者を引き留める努力だけがあるということなのだろう。
他、ペイリン氏の動向だけ見れば以上の数値からも当然だがそれほど大きな運動に結集されたわけでもなく、今後の政局への直接的な影響は少ないだろう。むしろ、共和党の勢力が議会に復帰したことで、議論が促進され、内向きな民主党よりも国際政治に発言力が増してくるので日本にとっては好都合だろう。また、自由貿易も促進されるので、日本の環太平洋戦略的経済パートナーシップ協定(TPP)への態度も強く問われるようになるだろう。
この点ではむしろオバマ政権は先行してクリントン外交を積極的に展開しているので、対外的な米国への国際支持は高まるだろうし、それを背景に対外的なレイムダック化は緩和されるだろう。ただ、内政や内政に関連する地球気候変動問題などは後退せざるを得ないだろう。
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コメント
難しい理屈抜きで、どこの国でも、現政権は不利ということなのでは。リーマン・ショック以来、どの国の現政権も経済運営は困難。誰が政権を担当しても、後には国民の非難が待っている。
それだけでは?
投稿: enneagram | 2010.11.09 08:58