ウィキリークス(笑):中国は統一朝鮮を支持しないってば
ウィキリークス(Wikileaks)で米国の機密公電が暴露されるているが、現状、イラン・コントラ事件を連想させるような、世界を震撼させるような暴露がなされているわけでもない。
ベルルスコーニ伊首相が無能であること、サルコジ仏大統領が権威主義者であること、メルケル独首相が創造性に欠けることなど、いったいどこが機密情報なのか失笑を買う程度の雑談に過ぎない。北朝鮮からイランに向けて中距離弾道ミサイル19基が輸出されたという情報も、あーそりゃそうかも、といったくらいのものである。今後のネタを期待したいところだ。
今回リークを外された悔しさもあるのかもしれないが、ワシントンポスト「After the WikiLeaks cables: Close the barn door」(参照)も、現状の暴露情報について、気まずいがたわいない("embarrassing to their authors or subjects, but otherwise harmless.")、また多少役立つ情報もあるというくらいに見ている。フィナンシャルタイムズ「WikiLeaks opens the diplomatic bag」(参照)では、情報をリークするなら責任を取れというスタンスを取っている。逆に言えば、リークに関連したガーディアンやニューヨークタイムズでそれなりにフィルターが掛かっているということもしれない。
今後さらに情報は出てくるだろうが現状、日本についての情報はあまり出てこない。米政権は通常それほど日本に関心を持っていないということもあるだろう。ただ日本が関係する国際状況、特に北朝鮮と中国については、それなりに興味深い情報もあるのだが、これが少し頭をひねればわかるように困った代物である。
BBC「Wikileaks release 'shows China thinking on Korea'」(参照)にもあるが、朝日新聞記事「中国「北朝鮮は駄々っ子」 暴露の米公電に赤裸々本音」(参照)の紹介のほうが読みやすい。
ガーディアンがネット上に掲載した今年2月22日付のソウルの米国大使館発の公電によると、韓国外交通商省の第2次官だった千英宇(チョン・ヨンウ)氏(現・大統領府外交安保首席秘書官)が同17日、米国のスティーブンス駐韓大使と昼食をとった際、6者協議の韓国首席代表当時の中国側との私的会話のなかで、中国政府高官2人が「朝鮮は韓国の管理下で統一されるべきだと信じていた」と説明。千氏は、北朝鮮が米国の影響力を緩和する「緩衝国」としての価値をほとんど持たなくなったという「新しい現実」に中国は向き合う用意がある、とも語った。
また、千氏は、北朝鮮が崩壊した際には、中国が韓国と北朝鮮との軍事境界線近くの非武装地帯(DMZ)の北朝鮮側での米軍の存在を歓迎しないことは明らかだ、と指摘。韓国が中国に敵対的な姿勢をとらない限り、統一朝鮮はソウルが管理し、米国はその「無害な同盟国」になる状態が中国にとっても「心地よい」との見方も示した。
あたかも中国が、北朝鮮崩壊後、韓国政府による統一挑戦を支援する意思があるかのように読める。
さらに、千氏は北朝鮮が経済的にはすでに崩壊しており、金正日(キム・ジョンイル)総書記の死後、「2、3年で体制が崩壊するだろう」と指摘。中国も金総書記の死後の北朝鮮崩壊は止められない、と指摘し、北朝鮮に対する影響力は「おおかたの人が信じているよりずっと弱い」とも述べた。「中国の戦略的、経済的な利益は今や北朝鮮ではなく、米日韓にある」とも指摘した。
スティーブンス氏が日韓関係強化が日本の統一朝鮮受け入れの助けになる、と指摘したのに対し、千氏は「日本は朝鮮の分裂状態を望んでいる」とし、「日本に統一を止める影響力はない」と語ったという。
あたかも中国は北朝鮮よりは、米日韓を重視しているかのように受け取れる。また、日本が統一朝鮮を望んでいないという指摘までおまけに付いている。
爆笑ものだろ、これ。
機密情報じゃなくて、ジョークだろ。
この馬鹿話はそもそも、中国が対韓国で吹いたという枠組みがなくてはまったく意味をなさない。中国の対韓国戦略のなかで、愉快な話が語れているというくらいにしか国際政治上の意味はない。
ただし、「日本は朝鮮の分裂状態を望んでいる」というのは、韓国の猜疑心という以上に、普通に国際政治を見るなら常識の部類ではあるだろう。統一朝鮮を願う朝鮮半島の人びとの気持ちは多数の日本人も日本政府も理解するし、それが実現する際には、惜しみない援助をすることは間違いないとも言えるが、普通の国際政治の枠組みで見るなら、日本は隣国に日本に匹敵する国力を持ち核保有をする国家の台頭を望んでいないし、恐らくその時には、残念ながらという言うべきなのだが、日本国内で核化の議論が進むだろう(参照)。
この点は中国も同じだ。自前で核保有する国家が国境を接して出現することは中国も望んでいない。中国にはさらに懸念材料すらある。中国はその内部に多数の朝鮮族とその居住域を抱えているが、統一朝鮮が登場すればいずれその歴史観の変更から鴨緑江を超えて領土や同民族の主張すると見ている。中国としては、北朝鮮という国家がロシアの前身であるソ連によって傀儡国家として成立したために、白頭山と鴨緑江で封じられた現状に安定感を持っている。
中国の対北朝鮮戦略については、フォーリンポリシー「China Help with North Korea? Fuggedaboutit! 」(参照)でエーダン・フォスター・カーター氏(リーズ大学名誉上級研究員)が書かれている話が、ごく普通にリアルである。日本版ニューズウィークにも抄訳がある(参照)。原文は気の利いたエッセイ風でもあるが要点は以下である。
日本、ロシア、韓国など他の国々が手を引いていくなか、中国だけは北朝鮮を保護するつもりらしい。「中国は北朝鮮が崩壊して国境地帯が不安定化し、大量の難民が流入することを恐れている」という趣旨の解説をよく聞くが、中国の行動の動機はそれだけではない。中国は長期的な戦略を意識して行動する国だ。
20年近く前に中国と韓国が国交を開いて以来、中韓の貿易やその他の結びつきは極めて深くなった。中国は韓国の最大の貿易相手国であり、最大の対外直接投資先でもある。
普通に考えれば、中国にとって賢明な道は北朝鮮を放置して自壊させ、東西ドイツ統一のときのように韓国に北朝鮮を吸収させること。その上で、新しい「統一朝鮮」がアメリカの庇護の外に出るよう誘い出し、中立化させればいい。
しかし、中国はこの道を選ばなかった。ブッシュ政権時に国家安全保障会議(NSC)のアジア担当部長を務めたビクター・チャが指摘しているように、中国は最近になって、南北朝鮮の統一が自国の国益に根本的に反するという戦略上の判断を下したようだ。
つまり新しい「統一朝鮮」を中立化させていくという、あたかも韓国で千英宇氏が吹いたウィキリークスの話は、中国の国家意思としてはすでに破棄されている。
そうはいっても、ウィキリークスにある中国外務省次官が言うように、いつまでも北朝鮮を「駄々っ子(spoiled child)」にしておくというわけにはいかない。中国はそれなりの躾もするにはするだろう。
今日になって北朝鮮は、数千基の遠心分離機を備えたウラン濃縮施設について、平和目的の核開発だとアナウンスした(参照)が、中国から「そう言っとけばいい」と諭されたのだろう。中国の技術が関わっているとも見られるこの施設は、核兵器開発というより実際にエネルギー支援の一環なのかもしれない。
ウィキリークスの馬鹿話に戻れば、韓国もこれを鵜呑みにしているわけではないことは、延坪島砲撃を国連安保理に提起しないことでもわかる。提起しても中国は拒否権を行使するしかないし、そこまで中国を追い詰めても韓国にメリットはない。あるいは、そういう最終的な判断をしたのは、韓国というより米国でもあるだろうが。
と、ここでエントリを終えるつもりだったが、言い忘れていたことがあった。
フォーリンポリシー記事の日本版ニューズウィークの抄訳で興味深いヌケがある。まず訳文はこうだ。
ただし、いくつか注文もつけるだろう。第1に、北朝鮮に金をつぎ込む前提として、国内システムの立て直し――実質的には市場経済原理の導入を求める。
第2に、「ならず者国家」的な行動を(直ちにではないにせよ)やめるよう求める。具体的には、核実験の中止と将来的な核放棄だ(それと引き換えに中国が北朝鮮の安全を保障するかもしれない)。
北朝鮮もほんの少し頭を働かせれば、自分たちにパトロンが必要だと分かるはずだ。中国の「衛星国家」となるのは屈辱かもしれないが、国や体制が存在しなくなるよりはましだろう。
該当する原文はこう。
First, Beijing will not pour money into a broken system. North Korea must fix itself first. That means finally embracing markets, as Deng Xiaoping first urged a much younger Kim Jong Il 30 years ago. (Imagine if the Dear Leader had heeded him then.)
Second, the roguery has to stop, if not all right away. That means no more nuclear tests, and in the long run denuclearization -- perhaps in exchange for a Chinese security guarantee.
What if the Kims won't play ball? Then China has its own Kim who will. No. 1 son Kim Jong Nam went strikingly off message last month, raining on little brother's parade by saying he was against a third generation succession. Who did he say this to? Japan's Asahi newspaper. Where did he say it? In Beijing, where evidently he still lives -- and is protected.
True, a regime so introverted, vicious, and world-historically stupid as North Korea's could yet foul up. The Kims may chafe and rattle their new cage. It could all go wrong, for China and them.
But if they have an ounce of sense, they must know the old game is up. Militant mendicancy won't cut it any more; no one will buy that old horse again. There is only China. Meanwhile their hungry subjects watch pirated South Korean DVDs, and grow restive.
けっこう抜けている? まあいい。大きく抜けている太字のところだけ訳出しておこう。中国が北朝鮮を傀儡国家に仕上げるというゲームについてだ。
金家の人びとがこの新ゲームをやらないとしたらどうなるか? 中国は、やる気の金さんを抱えている。長男の金正男君は、弟正恩のパレードの際、王朝第三世代への継承に反対だと先月メッセージを放った。誰に向けて語ったかって? 日本の朝日新聞社だよ。どこで語ったかって? 彼が実際に保護下で暮らしている北京さ。
爆笑ものだろ、これ。
でもこっちはジョークに見えて、真実。
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