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2010.10.22

多文化主義は完全に失敗したとメルケル独首相

 ドイツのメルケル首相が16日、彼女の母体でもある与党キリスト教民主同盟(CDU)の青年部会議で、ドイツの多文化主義は完全に失敗したと述べ、欧米で波紋を呼んでいる。日本での報道は、CNN翻訳記事を除けば、産経新聞記事がある程度で、なぜかあまり見かけない。ブログで補足しておく意味もあるだろう。
 問題だが、CNN記事「「多文化主義は完全に失敗」 メルケル独首相が発言」(参照)が簡素に伝えていたが、問題点はややわかりづらかった。


 メルケル氏は演説の中で、「『さあ、多文化社会を推進し、共存、共栄しよう』と唱えるやり方は完全に失敗した」と語った。
 メルケル氏は先月、CNNのインタビュー番組「コネクト・ザ・ワールド」でもこうした考えを示していた。9月27日の同番組でドイツのイスラム系住民について質問された同氏は、「今や誰もが、移民は我が国の構成員であると理解している。(しかし)彼らは同じ言語を話し、ドイツで教育を受けるべきだ」と答えていた。

 曖昧ではあるが、メルケル首相は、ドイツの多文化主義の失敗原因について、多文化の側の人びとの努力の欠落を指摘していた。
 この点については、18日付けフィナンシャルタイムズ「Fixing immigration」(参照)がもっと直裁に表現している。

Germany’s three-tier secondary education system hinders integration. Some immigrants have been reluctant to expose their children to German culture. Others have not learnt German.

ドイツの三段階からなる中等教育は統合を妨げている。ドイツ文化に晒されることを疎む移民も存在してきた。ドイツ語を学ばない移民もいる。


 メルケル発言の問題の全容については、17日付けBBC「Merkel says German multicultural society has failed」(参照)が穏当にまとまっていて、メルケル首相が移民を排斥したいという趣旨についても触れられている。また17日付けガーディアン「Angela Merkel: German multiculturalism has 'utterly failed'」(参照)ではドイツ内での異論も伝えている。
 直近の文脈としては、このBBC記事にもあるが、産経新聞記事「の記事(参照)がわかりやすいだろう。

 調整型の首相が慎重を要する移民問題にあえて踏み込んだのには事情がある。首相の後押しで選出されたウルフ大統領が3日、東西ドイツ統一20周年記念式典で「わが国はもはや多文化国家だ。イスラムもドイツの一部だ」と演説。これにCDU右派が反発し、姉妹政党・キリスト教社会同盟(CSU)のゼーホーファー党首が「ドイツは移民国家になるべきではない」と異文化国家からの移民受け入れ禁止を求めていた。

 これらの記事には直接的な言及が少ないが、さらに広い文脈で見るなら、ドイツは不安定な連立政権に依っていて、医療保険や税金問題で紛糾している。こうしたなか、州レベルの選挙が近づいていて、政局的に支持基盤を固める必要も出てきたので、多数と見られる右傾化に舵を切らざるを得なかった。
 弱体化した政権が右傾化する傾向にあることは他山の石といった趣もないではないが、他山の石というなら、同じく多文化問題を抱える英国などでも同じで、英国高級紙テレグラフも18日付け「Multicultural mistakes」(参照)もこう述べていたのが印象的だった。

The same is true in this country, if not more so. British tolerance of other people's ways, religions, cuisines, languages and dress has not always been matched by an equal willingness on the part of immigrants to subscribe to the value system of the host nation.

同じ事はこの国(英国)でもある程度まで真実である。多国民の生活様式や宗教、食習慣、言語、民族衣装といったものに英国は寛容を示してきたが、移民の一部であるが彼らは英国の寛容に応えて、この受け入れ国の価値観を従おうという熱意はあったとは言い難い。

That was principally the fault of the multiculturalist creed espoused by the Left, which encouraged different ethnic groups to do their own thing, meaning they became more estranged from mainstream society and from one another.

このことは、左派勢力が信奉する多文化主義の主要な欠陥でもあり、異なる民族集団の独自性を鼓舞して、結果、多数派が民族集団同士疎遠なものになった。


 先のフィナンシャルタイムズ社説では、多文化主義の方向性は間違っていなかったとしても、現状については変革の時期にあると見ている。

This needs to change. Integration, as Ms Merkel correctly argued, has to be a two-way process. Immigrants need to accept the core values of their host society, and ensure that they learn its language.

これらは変革の必要がある。メルケル首相が正しく議論したように、統合は双方に求められる。移民は受け入れ国の社会が持つ基本的な価値観を受容する必要があり、その言語の習得を確実にする必要がある。


 多文化主義は従来は、受け入れ国側の寛容とその制度に主眼が置かれてきた。また移民が経済的な中間層に浮上することで穏健な政治性を獲得するとも見られてきた。しかし、現実のところ、それを進展してきた欧州諸国では、政局的な状況という背景もあるにせよ、もはや破綻してしまったと言ってもよい状況になってきた。
 この問題の難所は、テレグラフやフィナンシャルタイムズの論調のように、移民側の努力の問題といった倫理的な問題のみ還元することはおそらくできない点だ。しかしだからといって、受け入れ国社会への同化の方向性を制度化するというのも別の問題を引き起こすだろう。


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コメント

ドイツやイギリスに限らず、移民政策は、問題ばかり起こしますよ。

韓国人に立派な人はたくさんいることを私は良く知っているけれど、インターネット上での、チョーセンとチョーセンジンに対する書かれ方を見ても、民族融和、異民族への寛容がいかに難しいか良くわかります。

投稿: enneagram | 2010.10.22 13:37

うちのアパート借りてた日系ブラジル人は何回注意しても家の中に土足で上がり込んで、大音量で音楽かけて、挙げ句の果てに夜逃げして、当然賃貸借契約解除も正式にしていないままだったから次の人に部屋貸せなくて、結局裁判ざたになった…
本当に外国人にはもう懲り懲りだよ…。例え日系でも、もう嫌だ。
二度と関わりたくない。
移民とか、とんでもない話です…。

投稿: | 2010.10.23 17:04

文化の問題、ということにしてるけど、本音ではお金の問題が大きいんじゃないかと思います。ヨーロッパは大きな政府志向ですから、少なくとも恭順の意を示してもらうくらいしないと、セイフティーネットを使わせるのが気にくわないとか。

対して、移民を否定することができないアメリカでは、わずかな社会福祉の拡大も断じて許せないとして、ティーパーティーの人たちが暴れているのとかも、同根なんではないかと。

投稿: ach | 2010.10.23 20:32

はじめまして。いつも興味深く拝見させて頂いています。

今回のテーマについて、論点が少しずれるかも知れませんが、ドイツの教育制度が移民の子供達にとって社会参画の障壁になっていると考えることは出来ないでしょうか。
ドイツでは小学生(正確には10歳)の時点で、その後大学までの高等教育を受けるか、職業訓練に進むかが振り分けられます。子供の頃に親に連れられて移民してきた子供には大変ハードルが高いものだと思います。一方、例えばアメリカでは(私は高校と大学をアメリカで留学しました)州によりけりでしょうが、高校まで無償で教育を受けることが出来ます。ロサンゼルスのような年では、英語の出来ない移民子弟の為の特別な英語クラスも設けられており、真面目に勉強すれば幾らでも大学に進んで高等教育を受け、所謂中流にとけ込むことが可能です。

移民子弟に、少なくとも高等教育を受け、その後経済的に安定した生活を得る機会が開かれていることが、安定した(緩やかな)多文化社会を形成する上では必要でないかと感じます。

投稿: igago | 2010.10.24 17:32

首相が自国の長期的な政策の失敗を認めることができることを評価していいと思う。
国家を理論的にシステムとして考えていて変革・カイゼンする対象であるととらえているということ。

ドイツの外国に対する寛容さは、アルコール中毒のロシア人が夜の街にたむろする一方、EUの中核となって工業国として強い競争力を維持しているのに貢献している(日本製品が簡単に受け入れられたのも見捨てられたのも)。

大きな目標のために生じた小さな問題を開発によって克服することを日本でも科学・技術者はやってきたが、社会システムの分野でそれを見ることはまれである。

長期的なビジョンがないのに相対的に小さな問題の発生で全てを否定する愚かさを繰り返してきたことは総理大臣の交代の多さに表れいて、何を問題にすべきかについて考えなくてはいけないと思う。

投稿: | 2010.10.24 19:48

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 「多文化主義は失敗した」とメルケル独首相が発言したという見出しで直ぐに脳裏を掠めたのは、スウェーデンの総選挙の内情でした(極東ブログ「スウェーデン総選挙に見る社会民主主義政党の凋落」参照)。念のため... [続きを読む]

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