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2010.10.07

フィナンシャル・タイムズが日銀を褒め殺し

 前回フィナンシャル・タイムズが日本経済に言及した社説は9月27日付け「Japanese stimulus」(参照)だった。内容は、現在国会で議論中の補正予算だけでは日本の強固なデフレからの脱却には効果がないので、日銀に実質リフレ政策となる金融政策を実施せよという提言だった。復習するとこうだ。


Given the constraints of Japan’s public debt, there may be more room for monetary than fiscal expansion. At 0.1 per cent, nominal interest rates cannot get much lower, but falling prices make real rates higher than desirable.

日本の財政赤字という制約からすれば、財政支出より金融政策に検討余地があるだろう。0.1%の名目金利は下げようがないが、物価低迷は実質金利を好ましくない水準に引き上げる。

Unconventional monetary tools are needed to put some inflationary pressure into the economy. More temerity from the Bank of Japan could do more than a fiscal push.

日本の経済にはよりインフレ圧力をかけるために非伝統的な金融施策が必要とされている。日銀に勇気があれば、財政的な梃子入れ以上のことが可能なのだ。


 さて、5日の 日本銀行金融政策決定会合で発表された追加金融緩和について、フィナンシャル・タイムズはどう見ているだろうか。これも早々に5日付けで社説「Bank of Japan puts a toe in the water」(参照)が上がった。
 フィナンシャル・タイムズがリフレ政策を提言する社説はなぜか日本ではほとんど注目されないので、このブログではできるだけ拾うようにしている。今回も試訳を添えて見ていこうかと思っていたら、JBPressに翻訳「新たな発想を試し始めた日銀」(参照)が上がっていた。原文と比較してみたが、訳抜けもなく平易に訳されている。なので関心のある人はそれを参照されればよく、このブログで扱うこともないかとも思ったが、どうも微妙に誤解というか微妙な部分が読み取れていない人がいるかもしれないし、過去のエントリの経緯もあるので言及しておこう。
 今回の追加金融緩和の背景だが、まず急激な円高がある。次回の11月2日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でさらなる量的緩和が見込まれるなか、ドル安を織り込んで円が82円に迫る円高となっているにもかかわらず、前回の仙谷官房長官の82円防戦ライン失言とこれ以上米国を刺激したくないという配慮から為替介入が手控えられているなか、日銀側に相当のプレッシャーがかかっていた。加えて、先進七カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が8日に迫っており、それ以降は手が打てなくなるというところで、ある程度想定内の手を打ち出した。
 追加金融緩和パッケージの内容は大きく分けて三つある。クセ玉ばかりなので、どうまとめてよいのか戸惑うが、(1)ゼロ金利政策、(2)疑似インフレターゲッティング、(3)長期国債の買い入れ拡大、としておこう。
 ゼロ金利政策は完全なゼロ金利ではないが昨今の文脈ではそう言ってもおかしくはない。意味合いだが、ようするに2006年のゼロ金利政策解除が失敗だったということだ。効果だが半年遅れくらいに前回程度くらいには出てくるかもしれない。
 疑似インフレターゲッティングだが、なんとターゲットは消費者物価指数(CPI)で1%ということらしい。それってCPIの上方バイアス内だろう。なんかのギャグなんだろうか。とはいえ、一応それまではゼロ金利政策を解除しないということではある。これをインフレターゲッティングと呼ぶかだが、インフレターゲッティング風味くらいなものだろう。逆にいえば、今回の日銀の提言は、インフレターゲッティングはしませんよ宣言でもあった。
 問題は、長期国債の買い入れを含めた資産買い取り拡大策だが、これがすごいといえばすごい。よくこんなこと思いつくなというか、現状の買い入れ上限である20兆円強を維持するために、別途5兆円規模の基金を設立するというのである。つまり、日銀ルールは変えないという意思表示であり、額からしてほぼデフレ対策にはならない。
 一言で言うと、なんなのこれ、食えるの? という面白い代物だ。が、フィナンシャル・タイムズはわかっていて褒め殺しに出た。まず、今回の日銀策だが効果はないに等しい。

 中央銀行の積極行動主義という意味では、今回の対策の規模は控えめだ。翌日物金利が従来の0.1%ではなく、0~0.1%になることに気づく人はほとんどいないだろう。資産買い取り計画を大海の一滴と呼ぶことは、一滴のしずくを見くびるものだ。何しろ、政府債務の発行残高は700兆円、社債の発行残高は54兆円もあるため、買い取りによる直接の経済的影響は無視して構わないほど小さい。

As central bank activism goes, the scale of the initiatives is modest. Few will notice that overnight rates will now be between 0 and 0.1 per cent rather than the previous 0.1. To call the asset purchase programme a drop in the bucket is to belittle the drop: the direct economic impact is bound to be negligible against more than Y700,000bn of government debt and Y54,000bn of corporate bonds outstanding.


 だったら、普通、だめじゃん日銀、となりそうなものだが、フィナンシャル・タイムズはここに希望を見ている、というか、褒め殺し。

 今回の決断により、日銀は対策が不十分だという非難に反駁している。資産買い取りにつながる扉の錠を外すことで、ほかの公開市場操作(オペ)の結果保有する資産に対して日銀が自ら課した制約からの避難経路が開ける。今後、さらに資産購入を拡大することは容易になるはずだ。

 つまり、ゼロ金利政策は大した意味がないが、とりあえず資産買い入れに向けて一歩を踏み出したと見るなら、日銀も前進したではないか、ということだ。えらいぞ、日銀、と。

 日銀がそうすることを期待せずにはいられない。米国と英国では、量的緩和はその潜在能力を相当使い果たしたかもしれない。一方、主要7カ国(G7)の中で最も深刻だった景気後退からの回復が遅々として進まず、物価が下落している日本では、状況は異なる。


日銀は自らに与えたばかりのデフレ対策の手段を使うことで、事態の進展を助けられるはずだ。

The BoJ can help things along by using the anti-deflation tools it has just given itself.


 "the anti-deflation tools"は"Unconventional monetary tools"ということである。つまり、リフレ政策ということだ。日銀にはリフレができるし、それで日本のデフレ対策になりうるということだ。
 かくしてめでたしめでたしかというと、実態はそうはならない。フィナンシャル・タイムズも日銀が今後、リフレ政策を採るとまでは想定していないだろう。
 むしろ奇妙な問題となるのは、このまま民主党政権がじり貧にダメになっていたとき、リフレ政策は実際には財政政策と一体化しないと効果はないのに、魔女狩りのように単純な日銀バッシングが始まる可能性もないではないことだ。

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コメント

国債買い入れ額の上限を定めるいわゆる日銀ルールは、インフレターゲットではありませんが、インフレをもたらす政策手段の上限を定めるものでした。ある形式の自動車に最高速度を定める代わりに、エンジン出力に上限をつけても、それで平地での最高速度におおよその上限がつくはずです。問題は世間がその自動車に、最高速度でなく最低速度をある数値にするよう求め始めたことです。
 自動車メーカーは「どうせ事故が起これば俺たちのせいにされるんだろう」と思っているので、エンジンに過給機をつけて実質的に性能を少しだけ上げることにしました。これで少し最高速度は上がるでしょうし、エンジンは従来どおり出せる限りの馬力で酷使されるでしょう。

投稿: hnami | 2010.10.09 09:30

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