中国によるパキスタンへの核武装強化の支援
中国によるパキスタンへの核武装強化の支援がやっかいな問題を引き起こしている。ざっと見たところ日本での報道はほとんどないようなので触れておきたい。
話のきっかけは、昨日のエントリー「北朝鮮の核開発が一段と進展するなか中国は非核化にコミットしない」(参照)と同様に米国科学・国際安全保障研究所(ISIS: the Institute for Science and International Security)の報告によるものだ。該当の報告は5日付け「Construction of Third Heavy Water Reactor at Khushab Nuclear Site in Pakistan Progressing」(参照)である。報告自体は簡素なもので表題通り、フシャーブ県で第三の重水炉の建設が進展しているというものだ。
ISISの報告はわかる範囲の事実を淡々と述べているだけなので返って意味がわかりづらいが、この問題を扱った5日付けAFP"Pakistan steps up nuclear construction"(参照)は簡素にこの各施設がプルトニウム産出の重要点になること("Khushab site which is key to plutonium production.")を指摘している。同記事では、この施設が初期時点では中国の支援によってなったものだとも言及している。
Western analysts believe that China initially assisted Pakistan in developing Khushab nuclear site to produce plutonium, which can be miniaturized for cruise missiles -- presumably aimed at India.西側専門家は、プルトニウムを産出するフシャーブ県の核施設は初期時点では中国の支援によったと見ている。産出されるプルトニウムは小型される巡航ミサイルに搭載され、おそらくインドを標的としている。
この話題については、10日付けテレグラフ「Pakistan's nuclear arms push angers America」(参照)は、米国オバマ大統領が推進する核軍縮に対する挑戦という構図で描いていた。
But Pakistan, which is deepening its nuclear ties to China, has blocked the Conference on Disarmament from starting discussions, saying a cut-off would hurt its national security interests.しかしパキスタンは、中国と核化の関係を深めつつ、核軍縮会議を冒頭から阻止してきた。核削減はパキスタンの国益を毀損するというのである。
問題の中心はパキスタンにあるのだが、国際的な構図上は米中の核戦略にある。
The Obama administration is also disturbed by Chinese plans to build two new nuclear reactors in Pakistan, bypassing Nuclear Suppliers Group (NSG) rules that bar sales of nuclear equipment to states that have not signed the Nuclear Non-Proliferation Treaty (NPT).(核軍縮を推進する)米国オバマ政権は、パキスタンに二基の原子炉建設を計画する中国に妨害されてきた。中国は、核拡散防止条約(NPT: the Nuclear Non-Proliferation Treaty)に署名していない国に核施設の販売を禁じる原子力供給国グループ(NSG: Nuclear Suppliers Group)ルールを無視してきた。
India, which along with Israel and Pakistan has refused to sign the NPT, recently obtained a waiver from the NSG allowing sales under international safeguards.
イスラエルやパキスタン同様NPTを批准しないインドは、最近、国際保全のもとにNSG認可によって免責を得た。
China, however, says it does not need NSG permission to sell reactors to Pakistan, arguing it had committed to the deal before it joined the NSG in 2004–a claim the United States disputes.
しかし中国は、パキスタンに原子炉を売却する上でNSG認可は不要だとしている。中国としては、この売却が米国が非難する要件を持つNSGに加盟する以前だとしているからだ。
中国にも中国の理屈があり、またインドのNSG免責は西側諸国のご都合ではないかという批判もあるだろう。だが、現実を見れば、インドの核化は既定でありパキスタンも対抗して核化した以上、この均衡を取るしかない。しかも、パキスタンについていえば、実質アフガン戦争の主体であり、タリバンがパキスタン核を入手または支配する危険性もあり、国際社会はパキスタンを抑圧せざるをえない。他方、中国はといえば、これは対インドの軍事関係上のバランスからパキスタンに肩入れしているのだが、よりによって核を選んでいるにすぎない。
昨日の「北朝鮮の核開発が一段と進展するなか中国は非核化にコミットしない」(参照)の元になったISISによる北朝鮮の核の情報も、報告書に明記されているように、パキスタン側からの情報が含まれている。なにより日本という文脈でいえば、「北朝鮮核実験実施: 極東ブログ」(参照)でも言及したが北朝鮮の核実験の予備段階はパキスタンで行われていたと見てよい。
では中国がパキスタンや北朝鮮の核化について背後で糸を引いているのかというと、面白いことにそうした意識はあまりなさそうだ。単純に言えば、ロシアもそうだが、核兵器の拡散を通常兵器の延長くらいにしか見ていない。にも関わらず、核拡散防止が国際的に正しいと国際社会が言うのなら、中国という国は言葉の上では正しい振る舞いを律儀にしようとする。例えば、9月21日のCRI「中国、パキスタンとの核協力は平和目的」(参照)などは滑稽な印象を伴う。
中国外務省の姜瑜報道官は21日に、北京で、「中国とパキスタンが進めている民用核エネルギー分野での協力は、平和目的だ」と強調しました。
姜瑜報道官は関連質問に対し「中国とパキスタンとの相互協力は、各自担う国際的義務であり、IAEA・国際原子力機関の監督を受け入れている。報道されている両国が協力して建設しているチャシマ原発の第3期、4期の工事は、すでにIAEAに関連情報を知らせ、監督を申し込んでいる」と述べました。(朱丹陽)
重要なのは、中国の、結果的な核化拡散の攻勢をできるだけ国際社会の話題の上にあぶり出し、国際社会の正しい振る舞いを表示し、これに中国を従わせることだろう。
そしてその最先端に立つのは、非核原則を持ち、武力攻撃を放棄した平和日本であるべきなのだろう。
米国は9月15日オバマ政権初の臨界前核実験を米ネバダ州エネルギー省の核実験場で実施した。この件については日本でも報道があり、核廃絶に反するということで日本からも非難の声が上がった。同じように、パキスタンの核化を実質推進することになる中国の核戦略についても非難の声を上げていなくてはならない、はずだ。
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コメント
この話も、イランの核開発も視野に入れて話したほうがよさそうな・・・
イランの核開発とパキスタンの核開発は、切り離せないかもしれないですよ、もしかしたらたぶん・・・
投稿: enneagram | 2010.10.14 12:45