チリ鉱山落盤事故救出劇のプロデューサー
チリ鉱山落盤事故救出劇の報道で気になることがあった。日本が重要な役割をしていたらしいのだが、その話がほどんど見つからない。なぜなのだろう。
8月5日、チリ、サンホセ(San Jose)鉱山で落盤事故が起こり、作業員33人が700メートルもの地下に閉じ込められた。が、私は当初。この事故にあまり関心を持たないようにした。恐らく悲劇的な結末が待っているという印象があったからだ。しかし奇跡は起き、全員、救出された。すばらしいことだと思う。
反面、どうして奇跡が可能になったのだろうかと疑問にも思った。事故当時、救出はクリスマス頃になるとも聞いた。実際は随分と早い。初期の目測が外れたか、革新的な技術が導入されたか。後者だった。救出劇が終わった後、それが何か、まず気になった。
作業員の引き上げに利用された採掘は「プランB」と呼ばれるもので、実現したのは、米国ペンシルベニア州バーリンのセンターロック(Center Rock)社だった。同社は空圧掘削の高性能なLPドリル(low profile drill)を開発する75人の中小企業である。
同社社長、ブランドン・フィッシャー(Brandon W. Fisher)氏(38)の経歴は少し変わっている。同地の高校を1990年に卒業し大学に進学するも落ちこぼれ、石油とガスの業界業に就いた。掘削ビジネスを覚え、1998年、26歳のときに独立して、掘削技術のセンターロック社を企業した。
チリ鉱山事故のニュースが世界に報道されるなか、フィッシャー社長はテレビで現地のようすを見ながら、自社のドリル技術なら救い出せるという使命感を持った。救助の経験もある。2002年7月、洪水でペンシルベニア州キュークリーク炭鉱地下70mに閉じ込められた9人を、全米が注目するなか、78時間後に救出した。チリの岩盤も自社のドリルならすばやく堀抜くことができるだろうと確信した。通常の掘削はドリル先端からの水圧で岩石を除くが、センターロックの技術では空圧で行う(pneumatic-driven air compression drills)。掘削は高速で進めることができる。
フィッシャー社長は救出活動に参加したいとチリ政府を説得した。8月26日、救出作戦プランA、B、Cが決まり、センターロック社はプランBを担当することとなり、30日から掘削作業を開始した。フィッシャー社長自身もチリに赴き、現場に張り付いて指示した。だが当時専門家たちは、プランCが最短だろうと見ていた。センターロック社の技術は液体用の掘削技術であり、この状況には適さないと考えていた(参照)。
最新のドリル技術が来た。だが、優れた掘削技術とドリルだけでは、岩盤を掘り抜くことはできない。ドリルを装着するには掘削リグ(rig)が必要になる。リグはどうしたのか?
リグはサンホセ近くの英国鉱山会社が提供した(参照)。カリフォルニア州イーストバージニアのシュラム社のリグ、"Schramm T130"である。
救済劇は成功した。フィッシャー氏は英雄になった。それでいいのだが、この物語には、もう少し変わったウラがある。いったい誰が、プランBの費用を負担したのだろうか? 15日付けワシントンポスト社説「Chile's mine rescue caps record of successes」(参照)は意外なことを語っていた。奇跡の救済劇はもちろん、世界各国の協力によるものなのだが。
There were special cellphones from Korea, flexible fiber-optic cable from Germany and advice from NASA on the construction of a rescue capsule.救済用カプセルの製造に当たり、韓国からは特性携帯電話、光ファイバーケーブルはドイツから、アドバイスは航空宇宙局(NASA)から提供された。
Perhaps most significant, a private mining company with Japanese and British investors paid for the U.S.-manufactured drilling rig and drill bits that managed to penetrate through rock in record time.
おそらくもっと重要だったのは、日本と英国の投資会社による採掘企業が、米国製掘削リグとドリルの費用をまかなったことだ。この装置が記録的な速度で岩盤を貫通させたのだ。
私が意外と思ったのはここに日本が登場していることだ。
私は今回の救済劇に関心を持っておらず、事後になってその日英出資の企業を知ろうとした。報道にはなかったように思えた。ツイッターでも聞いてみたがツイートはいつもどおり消えた。
センターロックの技術を実現させた、いわばプロデューサーともいえるその企業はどこなのだろうか。そしてその背後にその支出を即決した一人の日本人がいたかもしれないと思った。
| 固定リンク
「時事」カテゴリの記事
- 歴史が忘れていくもの(2018.07.07)
- 「3Dプリンターわいせつデータをメール頒布」逮捕、雑感(2014.07.15)
- 三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言をめぐって(2018.02.13)
- 2018年、名護市長選で思ったこと(2018.02.05)
- カトリーヌ・ドヌーヴを含め100人の女性が主張したこと(2018.01.11)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
こういう話が詳細に解説されないというのは、確かに不思議ですね。悪事なら、誰でも、徹底的に暴こうとするのに。
投稿: enneagram | 2010.10.22 09:17
この事件の生存者についての最初のニュースを知って、昔チリで起こったやはり奇跡的な生還劇を思い出しました。
場所がチリ国であること、絶望と思われた事故からかなりの日数の後に生存者の存在が知られたこと、それを世間に伝えることになった第一報が手書きのメッセージであったこと、生還後に生存者たちの間に反目が生じたことなどが共通で、昔の事件のことをまざまざと思い出させます。事件同時はスペイン語を知りませんでしたがその後学校で教わったり事件について書かれた本を読んだりしたので、手書きのメッセージの文面の一部もソラで言えます。書き出しは"Vengo de un avión que cayó en las montañas...."。
アンデス山中に落ちたウルグァイ空軍の輸送機に乗っていた、それをチャーターしたラグビーチームやその家族が食物のない雪の山中で死者の肉の配給で77日間生き延び、壮健者で組織した数人の決死「遠征隊」を数次にわたり送り出してついにチリの牧人と遭遇し、その手紙が自動車や飛行機で運ばれて捜索のために滞在していた遺族の手に届き、「遠征隊」員の一人を乗せたヘリが落ちた飛行機を見つけだし、ついにその時点で生きていた全員が救出さました。まあそのあと生存を可能とした食糧のことが明らかになって一大センセーションを起こしたんですが、日本の新聞 (家では日経と朝日をとっていました) の扱いは最後まで小さかったです。
投稿: | 2010.10.22 10:19
あ、遺族じゃなくて家族ね。
投稿: | 2010.10.22 11:31
たぶんですが BBC 14 October 2010 Chile mine rescue 'to cost $20m' にあるThey included BHP Billiton and Collahuasi company - the privately-owned joint venture between the UK-listed miners Anglo American and Xstrata - which supplied both drilling expertise and equipment. Collahuasi can take credit for supplying the Schramm T130
であり、Collahuasiの権益比率
Xstrata 44.0%
Anglo American 44.0%
三井物産 7.4%
日鉱金属 3.6%
三井金属鉱業 1.0%
からみて日本はマイナーな役割かと。
投稿: ぷー | 2010.10.22 21:25