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2010.10.08

「オバマの戦争」でパキスタン補給路が閉鎖

 「オバマの戦争」という呼称が定着したアフガン戦争だが、ここにきてさらにまずい局面を迎えている。9月30日、パキスタン政府はアフガニスタン駐留のNATO軍および米軍の補給路を閉鎖した。補給が絶たれること自体深刻だが、行き詰まった補給車や代替路を探す補給車がタリバンの標的にされている現状も深刻である。閉鎖は一時的なものだろうとも見られているが、背景には、事実上オバマ大統領に更迭されたマクリスタル司令官を継いだペトレイアス司令官(参照)の失策がある。
 話は9月30日付けGlobalPost記事「Pakistan blocks key NATO supply route」(参照)がわかりやすい。邦訳は日本版ニューズウィークに「無人機空爆にパキスタンがキレた」として転載されている(参照)。


 アフガニスタンへの通過を認められない石油運搬車やコンテナトラックは、トルカムの検問所で長い列を作っている。パキスタン政府がNATOに対して自国領内での空爆と無人偵察機による攻撃をやめるように圧力をかけているのは明らかだ。

 パキスタン政府が補給路封鎖を決断したは、パキスタン領で実施される無人機空爆への反発である。誤爆によるパキスタン市民への被害が激しく、パキスタン政府としても反米気運が高まる内政上放置できなくなった。
 背景は現状の情報から判断しがたい点もあるが、概ねマクリスタル司令官更迭後の戦略の変化である。

 今回の空爆は、アフガニスタン駐留米軍司令官を兼務するデービッド・ペトレアス新NATO軍司令官の下でこの夏から始まった以前より攻撃的な新戦略の一環とみられている(前任のマクリスタル司令官は市民の犠牲を最小限にするため、空爆を控えていた)。
 今回の攻撃以前にも、北西部部族地帯のワジリスタンではかつてないほど無人攻撃機の空爆が増加。9月には22回の攻撃があり、数百人が死亡した。そのうちタリバンや国際テロ組織アルカイダの武装勢力も何人かいたが、ほとんどは一般市民だった。


 軍事アナリストは、タリバン関連組織の武装勢力ハッカニ・ネットワーク制圧のために北ワジリスタン州を解放することをパキスタン政府が拒否したため、無人攻撃機の空爆が増えたと指摘している。

 現状の被害については、7日付けAFP記事「タリバンがパキスタンでNATOの燃料輸送車を襲撃、1週間で4度目」(参照)が詳しい。

パキスタンで6日、北大西洋条約機構(North Atlantic Treaty Organisation、NATO)軍の車両が相次いで武装グループの襲撃を受け、計40台以上が破壊された。
 警察当局によると北西部ノウシェラ(Nowshera)では、停車していたNATO軍の燃料輸送車の車列が銃撃を受け、少なくとも26台が放火された。
 これに先だって南西部クエッタ(Quetta)近郊でも、NATO軍の燃料輸送車40台が停車していた補給所が武装グループの襲撃を受け、少なくとも18台が炎上、作業員1人が死亡した。
 パキスタンでNATOの燃料輸送車が襲われたのはこの1週間で4度目。一連の襲撃で約60台の燃料輸送車が炎上し、3人が死亡した。

 米国側も誤爆を認識し、現状の補給路閉鎖を解くための対応に追われている。まず、パキスタン政府に謝罪が行われた。7日付け時事「越境空爆、パキスタンに謝罪=兵士死亡「武装勢力と誤認」-米大使」(参照)より。

 【ニューデリー時事】アフガニスタンに駐留する米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍のヘリコプターが9月末、武装勢力を追ってパキスタン領内に越境し、空爆で同国兵士を死亡させたことについて、米国のパターソン駐パキスタン大使は6日、「ヘリが兵士を武装勢力と誤認したことが判明した」として、パキスタン政府と兵士の家族に謝罪を表明した。AFP通信が報じた。

 同種の報道は日本のメディアにあるが、なぜかソースが明確ではない。時事はAFPを事実上転載している。該当記事は、「US apologises for helicopter strike in Pakistan」(参照)であろうか。
 米国からの謝罪に対するパキスタン側の動きはまだないようだ。
 謝罪前になるがパキスタンは対米的に強行な姿勢を示していた。4日付けCNN「パキスタン「自力でテロに対処」 駐米大使が主張」(参照)はハッカニ(Hussein Haqqani)駐米大使の言葉を伝えている。

 ハッカニ氏はインタビューで、「パキスタン側のテロリストはわれわれがすべて、こちらのペースで対処する。同盟国のスケジュールに常に従うというわけにはいかない。わが国は衛星国ではないからだ」と述べ、米国には「軍隊の駐留ではなく、ワシントンからの技術的支援」のみを求めると語った。
 さらに、米国の望み通りにすべてを実施できるわけではないと主張。パキスタン側が作戦を遂行するうえでの制約条件として「能力や手段」、複雑な地形、国内世論を挙げ、「米国側は、平地ですべてを見渡せるという前提で考えているふしがある。地勢が複雑なため、無人機を使っても北ワジリスタンの人をすべて識別できるわけではない」「米国はわが国の国民の間であまり人気がない」とも指摘した。

 パキスタン側の反発は当然といえば当然だが、もう一段踏み込んだ背景は錯綜している。
 大きな補助線を引くとすれば、ザルダリ大統領はすでに死に体であることだ。代わりに支持を高めているのがキヤニ陸軍参謀長と彼が率いる軍部である。ただし、政府と軍部の間に大事な軋轢はなく、現状では軍事クーデターが発生するという可能性はない。
 次に重要なのは、パキスタン軍部とタリバンの関係である。7月31日付けNewsweek「With Friends Like These…」(参照)が参考になる。

Pakistan’s ongoing support of the Afghan Taliban is anything but news to insurgents who have spoken to NEWSWEEK. Requesting anonymity for security reasons, many of them readily admit their utter dependence on the country’s Directorate for Inter-Services Intelligence (ISI) not only for sanctuary and safe passage but also, some say, for much of their financial support.

アフガニスタン内タリバンへの支援をパキスタンが現在進行中であることは、ニューズウィークに話を漏らしてきた過激派とってみるとニュースでもなんでもない。安全上の理由から匿名ではあるが、彼らの大半が、安全区域や安全な通行さらに財政上支援といった点でパキスタン統合情報総局(ISI)に依存しきっていることをやすやすと認めた。


 いかがわしい情報のようでもあるが、この問題をある程度長期に渡って見てきた者にしてれば、それはそうでしょというくらいの自然な話でもある。むしろ、米国との対面を繕いながら、軍部と政府のバランスをどう取るかといこと点では、ムシャラフ前大統領は上手にやってきたほうだった。
 それにしても、パキスタン側がアフガニスタン内タリバンと内通することのメリットはなんだろうか。当然考えられるのは、民族的な対立があるとはいえ、一種の共存関係にあるということだ。加えて、ちょっと薄気味悪いメリットもある。

Some ISI operatives may sympathize with the Taliban cause. But more important is Pakistan’s desire to have a hand in Afghan politics and to restrict Indian influence there.

ISIの諜報員にはタリバンの大義に共鳴している者もあるが、より重要なのは、パキスタンがアフガニスタン政治を支配したいということであり、その地域にインドの影響力が及ぶのを避けるためである。


 アフガニスタン側にインドの勢力が及ぶことでパキスタンは挟まれる形になり、好ましくない。
 こうした背景からして、パキスタンに対してNATO軍・米軍など西側諸国に十分に協調させようとすることは無理だろう。
 するとどうなるのだろうか?
 意外と切羽詰まったオバマ政権がぶち切れないとも言えない。ワシントンポスト社説「Can the Obama administration avoid a split with Pakistan?」(参照)が少し気味が悪い。

The State Department's special representative for Afghanistan and Pakistan, Richard C. Holbrooke, rightly said last week that "success in Afghanistan is not achievable unless Pakistan is part of the solution."

パキスタン・アフガニスタン問題を担当するリチャード・ホルブルック特別代表が先週、「アフガニスタンでの成功はその解決にパキスタンを含めない限り達成されない」と述べたのは正しい。

The administration must avoid a rupture in relations; it should make amends for mistakes like the border incident. But it must insist on a robust military campaign in North Waziristan -- if not by Pakistani forces, then by the United

オバマ政権はパキスタンと断絶してはならない。国境がからむ問題の過失に補償すべきであるが、仮にパキスタンが動かないのであれば、米軍によって北ワジリスタンでの強固な軍事活動を主張しなければならない。


 ようするにパキスタンへの飴と鞭が通じなければ、力ずくで米軍とNATO軍が行動するということである。イラク戦争で見慣れた光景でもある。
 そうなるかどうかは、もうしばらくの事態の推移で決まるだろう。

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コメント

些細なことですがパキスタン「具」になってますよ。

投稿: | 2010.10.09 09:54

ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.10.09 10:36

米中間の貿易摩擦もなんかアレですし、イランから手を引けと日本に指示したりと、また、切羽つまって良からぬことも考えているのですかね?アメリカさんは。

景気対策で戦争されてもこちらは困るのですが。どうせ、金をせびりにくるでしょうから。

投稿: うーん。 | 2010.10.09 12:18

イランは何か動いていないのですか?

イランとパキスタンの国境の山にはいまでも山賊がいるくらいだから、イランのアウトローらしきも、アフガンやパキスタンで行動するようにイラン政府からなにかしら援助されている可能性はないのですか?

投稿: enneagram | 2010.10.09 12:24

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受信: 2010.10.08 18:24

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