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2010.10.12

2010年8月のルワンダ大統領選挙について

 これからの「正義」について安全な場所で富裕な人びとが知的に討議することにも意味がないわけではない。現実のこの世界で「正義」を問うことが難しいだけだ。前回のエントリー「国連報告書によるルワンダ現政府軍による虐殺(ジェノサイド)」(参照)もそうであった。だからこそまず、オバマ大統領が強調しているように、国際社会で許されざる「ジェノサイド(genocide)」という問題を、いわゆる日本語の「虐殺」の文脈から区分して考える事例を挙げた。他方、現下のルワンダの状況についてはあえてあまり踏み込まなかった。が、少し補足しておいたほうがよいのかもしれない。
 ルワンダの状況で特筆すべき事は8月9日の大統領選挙の実施である。国内でも報道された。比較的詳しく、微妙な陰影のある12日付け朝日新聞記事「ルワンダ大統領選、カガメ氏が再選 得票率は約93%」(参照)を一例として見ていこう。ジャーナリズム検証と事実を述べた記事でもあることから、あえて全文引用する。


 【アンタナナリボ(マダガスカル)=古谷祐伸】ルワンダで9日に大統領選があり、中央選挙管理委員会は11日、現職ポール・カガメ大統領(52)が、約93%の圧倒的な得票で2期目の当選を果たしたと発表した。任期は7年。順調な経済成長の維持と、強権的と批判される政治手法の改善が2期目の課題となる。
 今回、カガメ氏のほかに3政党から3人が立候補したが、いずれもカガメ氏の与党・ルワンダ愛国戦線と連携する政党の所属。カガメ氏と対立する野党候補らは手続きの不備を理由に出馬を認められず、大統領選は出来レースと見られてきた。
 ロイター通信などによると、11日の選管発表後、首都キガリのバスターミナルで手投げ弾が爆発し、7人が負傷。反対勢力による犯行の可能性がある。
 カガメ氏は、1994年に少数派民族ツチなど80万人が犠牲になった大虐殺の後、反政府勢力を率いて多数派民族フツ系の政府を倒し、実権を掌握。00年に暫定大統領に就き、03年の大統領選で選ばれた。資源は少ない国だが、IT化を推進するなど基盤整備を進めて投資を呼び込み、08年に国内総生産(GDP)の成長率11.2%を記録するなど、高い経済成長を維持してきた。

 重要なのは、この選挙が出来レースであるという点だ。
 そしてなぜ出来レースなのかといえば、「カガメ氏と対立する野党候補らは手続きの不備を理由に出馬を認められ」なかったためで、それだけ見れば、当然公正な選挙とは言い難い。だから反対勢力と見られる暴力活動があったことも記されているし、なにより「強権的と批判される政治手法」とも言われる。バランスのよい記事でもあるが、その内情までは描ききれない。
 通常の国ならば、独裁政治による不当な選挙と批判されがちだが、ルワンダおよびカガメ大統領にはあまり風当たりは強くはない。日本でもあまり話題にすらなっていないと言ってもよいだろう。
 日本のブロガーがどのように見ているか、ざっと検索したところ、「低気温のエクスタシー(難民キャンプ)byはなゆー」というブログのエントリー「ルワンダ大統領選の潮流は「民主主義よりゼニ(明日のメシ)」(参照)に次のような短いが、典型的なコメントがあった。

★カガメ体制への懸念を強めているのは主に知識階級や欧州先進国であり、背に腹は替えられないルワンダ大衆は「民主主義よりゼニ」「民主主義より明日のメシ」「言論や表現の自由より、衣食住」を選択するものと考えられる。

 つまり、カガメ体制を批判しているのは、知識階級や欧州先進国であって、ルワンダ国民は経済を重視して、「強権的と批判される政治手法」を支持しているという見解である。
 朝日新聞記事にもあったように、強引な選挙とはいえ、約93%の得票はあまりに圧倒的であり、国民の信任があると言えるだろう。
 非欧州先進国ではない日本人の大半はそう見ているのかもしれない。だが、おそらくイデオロギー的な見解を先行させないのであれば、単に情報が十分には日本に伝達されていないこともあるだろう。
 「知識階級や欧州先進国」の代表とも見られるのかもしれいないが、Human Rights Watchは選挙前に「ルワンダ:大統領選挙に向け、現政権に批判的なグループに対する弾圧 強まる」(参照)において、これまでの弾圧の経緯を詳細に報告していた。これを見ると、朝日新聞が「強権的と批判される政治手法の改善が2期目の課題」とする以上の懸念を抱かざるを得ない。

 ヒューマン・ライツ・ウォッチは、過去半年の間に、野党勢力やジャーナリスト、NGO活動家、反体制活動家などに対する脅迫や、嫌がらせなどの人権侵害を明らかにしてきた。これらの人権侵害は、行政処分から、逮捕や殺人にまで及ぶ。
 今回の大統領選挙への立候補者は、現職のポール・カガメ大統領(ルワンダ愛国戦線、RPF)、ジョン-ダマスネ・ンタウクリヤヨ(Jean-Damascène Ntawukuriryayo:社会民主党)、プロスぺー・ヒギロ(Prosper Higiro:自由党)、アリベラ・ムカバランバ(Alivera Mukabaramba:進歩調和党)の4名。
 カガメ現大統領に挑む3候補は、有力な対抗馬ではないとされている。これら3党(社会民主党、自由党、進歩調和党)は、カガメ現大統領のルワンダ愛国戦線(RPF)への大幅な支持を表明してきており、ルワンダ国民も「真の」反対勢力とはみなしていない。
 これに対し、RPFの政策を公に批判してきた3党(PS-インベラクリ党、民主緑の党、FDU-インキンギ党)は立候補者の擁立を許されなかった。民主緑の党、FDU-インキンギ党は登録を阻止され、PS-インベラクリ党の党首は拘束中のためである。これらの党の党員は、脅迫や嫌がらせの被害に遭っている。
 更に、独立したジャーナリストの多くは発言の自由を奪われ、主要2新聞は発刊停止となった。

 さらにこの記事には弾圧の詳細な年表が続く。一部を引用しよう。

 :
6月19日
 南アフリカに亡命中の元ルワンダ政府軍幹部、カユンバ・ニャムワサの暗殺未遂事件が起きる。
 :
6月24日
 ウムヴギジ新聞のジャーナリスト、ジョン-レオナード・ルガンバゲ(Jean-Léonard Rugambage)が、夜キガリの自宅外で射殺される。その朝、ウムヴギジ新聞のオンライン版で、ルガンバゲが入手した情報に一部基づいた記事が公開されていた。記事では、南アフリカで起きたカユンバ・ニャムワサ暗殺未遂事件にルワンダ上級当局者が関与していると報道されていた。
 :
7月13日
 民主緑の党副党首のアンドレ・カグェ・ルウィセレカが行方不明になったと報道される。彼の車は南部の町ブタレ(Butare)近辺で発見された。
7月14日
 民主緑の党、ルウィセレカ副党首の切断された遺体がブタレ近郊で発見される。
7月16日
 ルウィセレカ副党首を最後に目撃した言われる、トーマス・ンティブグリズワ(Thomas Ntivugurizwa)を殺人の疑いで警察が逮捕。

 現状では十分な情報もなくカガメ政権の所作であるとは断定できないが、ヒューマン・ライツ・ウォッチの記載からは非常に疑わしいものではあると言えるだろう。
 ルワンダは主権国であり、多くの問題を抱えつつも現状明白な大規模な人権侵害の状況にあるとはいえない。ヒューマン・ライツ・ウォッチが示した懸念もあるが、国際社会も懸念を持って見守る以上のことはできそうにはない。
 カガメ政権は多数の支持を得ていることに加え、軍部も掌握しているので、クーデターといった懸念もない。だが、ヒューマン・ライツ・ウォッチの記載にもあるように軍部内の軋轢がないわけでもない。
 にも関わらず、これだけの国民多数の支持を得ながら、絵に描いたような弾圧をカガメ大統領が行使しているのはなぜだろうか?
 8月5日付けガーディアンに寄稿されたPhil Clark氏による「Rwanda: Kagame's power struggle」(参照)が興味深く、この問いに答えている。

The answers lie inside the RPF. Contrary to depictions of a cohesive, repressive state, the RPF is a deeply divided, fragile, paranoid party. It has a tendency to pursue innovative social policies during the good times but to lash out during periods of perceived uncertainty.

(政党RPFのカガメ政権が弾圧を必要とする)理由はRPF内にある。結束力があり弾圧的な政党として描写されるのとは逆に、PRFには深刻な内部分裂があり、脆く、妄想的な政党なのである。良い時期には革新的で社会的な政策を推進してはきたが、不確実な時期には外罰的な傾向を見せてきた。

The RPF is a motley coalition of hardliners and reformists. As I argue in a forthcoming book on post-genocide politics and justice in Rwanda, the highly factional nature of the RPF has been a central – and often overlooked – feature of recent policy-making in Rwanda.

RPFは強固派と改革派の雑多な連合である。ジェノサイド後の政策と正義を扱った、私が近く刊行する書籍で議論したように、RPF内の高度な対立的な性質が、ルワンダの近年の政策決定の中核的な、そしてしばしば看過される性質である。


 このことは見守るべき国際社会に対しても非常に興味深い示唆をもたらす。

Human rights critics have preferred to lambast the hardliners and paint Rwanda as an international pariah, rather than forging relations with powerful reformists. Failure to engage with moderate leaders within the RPF has further isolated them and empowered the old guard.

人権活動家は、力強い改革を伴った国際関係よりも、強権性を非難し国際社会からのつまはじきと見たがる。RPF内の穏健派指導者と関係持つことの失敗から、穏健派を孤立させ、古参強行派を力づけてしまう。


 現状のルワンダを人権的に非難することが、ルワンダ国民にとって有効ではない仔細と見ることもできる。
 重要なことは、カガメ大統領が強権的となる背景の、RPF内の亀裂に対して、緩和志向の穏健的な指導者たちが優位になるよう、国際社会が導く外交だろう。
 ただし、このエントリーでも十分に触れることができないし、Phil Clark氏の議論からも欠落しているようだが、そもそも亀裂には経済的な利権が反映している。国民経済の改善が優先されるというナイーブな見解よりも、経済利権の構図がそのまま亀裂に反映していることの問題である。
 RPFの脆弱性は、現状、さも結束しているかに見えるルワンダという国の内在的なもろさにも直結しかねない。8月10日付けGlobalPostに寄稿したJon Rosen氏の記事「Rwanda: Kagame wins landslide victory」(参照)が描いている。

While 85 percent of Rwandans are Hutu, Kagame, the bulk of the RPF hierarchy, and much of the country’s brightest young talent are Tutsi. By calling for investigations into genocide-era crimes committed against Hutu and warning of future violence if Hutu are not given more political space, Ingabire has drawn attention to ethnic divisions in a manner many view as dangerous to national security.

ルワンダの85%はフツ人だが、RPF最高幹部のカガメ氏や、この国の有能な青年の多数はツチ人である。インガビレ氏は、もしフツ人に対して政治参加の余地を与えないまま、フツ人に対するジェノサイド時代の犯罪調査を推進し、未来の暴力を警告すれば、国家保全に危機と見られるほどの民族対立になるという注意を提起している。


 同記事ではインガビレ氏のこの見解に、それこそが民族分断をもたらすとの反論にも触れている。
 しかし、私は大筋ではインガビレ氏の見解が正しいだろうと思う。90%を超えるほどの政権への賛同だが、それ自体が脆弱性を現していることは、歴史が教えるところでもある。

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コメント

問題は、カガメ大統領がアフリカのリー・クアン・ユーとなり、ルワンダがアフリカのシンガポールになれるかどうかということですか。

そうでなかったら、国民は我慢した分損、ということです。

ルワンダは、明確な開発独裁なのでしょうか?シンガポールや朴大統領時代の韓国のような。

投稿: enneagram | 2010.10.12 16:09

ルワンダに関する分かりにくい現状について分かりにくいなりにまとめてくださって有難うございました。
そのうえで重箱の隅のような指摘ですが、引用文中の「overlooked」は「過大評価」よりも「見過ごされた」と訳す方がただしいのではないでしょうか。

投稿: dgz | 2010.10.13 21:49

dgzさん、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.10.14 08:58

ルワンダもなかなか複雑なことになっているんですな。
足元が危うい日本人に何ができるというわけでもありませんが。

投稿: | 2010.10.20 08:50

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