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2010.09.20

財政再建か、安全保障か

 直面する課題は、財政再建か、それとも安全保障か。問われているのは、日本ではなく英国である。こうした問題設定は日本ではむずかしいので、他山の石といった話になるかわからないが、国際的な常識の部類でもあり、簡単に言及しておこう。
 この話題、日本での報道は皆無かと思いきや、今日付けの毎日新聞記事「英国:財政再建か、安全保障か 核兵器の更新に2.7兆円、政府のジレンマ」(参照)にあった。簡素にまとまっている。


【ロンドン笠原敏彦】英政府が核ミサイル搭載の潜水艦4隻の更新計画を巡り「壁」にぶつかっている。推定約200億ポンド(約2兆7400億円)という予算規模がネックになり、「最終決定の先送り」や「核態勢の見直し」を検討しているのだ。財政再建と安全保障のバランスをどうとるか、論議が高まっている。


 英国は近く、1998年以来12年ぶりとなる「戦略防衛見直し」をまとめる予定で、核兵器にどう触れるかが注目される。英国は核弾頭数の上限を225発と公表している。

 英国は日本の国力の半分なので、雑駁に日本の文脈に置き換えると核防衛のために6兆円がかかるということになる。現状日本は米国の核の傘にいるが自国を核防衛するにはどのくらいのコストになるかと推定するのに参考にはなるだろう。
 同記事にもあるが、英国では財政赤字削減が重要課題となっており、軍事費もその例外ではない。20%近い削減も想定されている。
 核兵器削減は日本での報道を見ていると世界の潮流でもあり、英国でも削減に向けて努力すべきだとの意見もあるが、実態は難問となっている。
 同記事には関連して興味深い指摘がある。

また、経済紙フィナンシャル・タイムズは核態勢の縮小に触れた。それによると、英国は海洋に常時、トライデント核搭載の潜水艦4隻のうち1隻を警戒態勢に置くが、この態勢を見直し、潜水艦を減らすことも検討されているという。
 こうした報道に対し、キャメロン首相は核兵器の更新は約束しながらも、「『更新(の内容)がその投資に見合った価値を伴うのか』と問うことは極めて正当だ」と述べるにとどまっている。

 簡素すぎる記事でわかりづらいが、フィナンシャル・タイムズの言及が首相の応答もたらすほど重要であったということはわかる。
 引用されている「トライデント核搭載の潜水艦4隻のうち1隻を警戒態勢に置くが、この態勢を見直し、潜水艦を減らす」ことは同紙社説の結論ではあるが、原社説に当たるともう少し問題の陰影が明らかになる。
 12日付け「Atomic question」(参照)が該当する。

David Cameron’s government is this month taking final decisions on Britain’s Strategic Defence and Security Review, reconfiguring the armed forces for an era of tighter budgets.

デイヴィッド・キャメロン政権は今月英国戦略防衛見直しの最終決定をする。見直しでは緊縮予算時代の軍事再編成を行う。

One big question it must decide is what the future of Britain’s nuclear deterrent should be.

大きな課題の一つは、これが将来の英国の核防衛戦略の決定になることだ。

The country is planning to spend £20bn over the next decade building four new submarines that can launch the Trident missile. It is the largest single equipment programme in the Ministry of Defence budget.

英国では次の10年間で200億ポンド以上を新たなトライデント核搭載可能潜水艦4隻に投じることになっている。単項目の防衛省予算としてはこれは最大のものである。

As spending gets slashed on conventional armed forces, politicians and generals are insisting that a cut in nuclear weapons must also be made.

通常兵器が削減されるなか、核兵器削減の必要性を説く政治家や将軍もいる。


 ここまでは毎日新聞記事の確認でしかない。同社説の重要点はこの先にある。

Ahead of this decision, some things are clear.

決定に先立って既決事項がある。

First, Britain must not unilaterally scrap its nuclear arsenal. It must do so only in a multilateral negotiation with other powers. Moreover, Britain must stick to a sea-launched deterrent.

第一に英国は片務的に核兵器を削減してはならないということだ。核兵器削減は他の核武装国と相互交渉を経てのみ行われなくてはならない。さらに、海上発射可能な潜水艦による核抑止力を固持しなければければならない。

Analysts believe the creation of an aircraft-launched system would be more expensive than one based on submarines. A land-launched deterrent, while cheaper than any other variant, could be obliterated in a sudden nuclear strike on a state the size of the UK.

空軍主導の核抑止力は潜水艦主導より失費が大きいと専門家は見ている。陸上主導は他に比べて安価ではあるが、英国ほどの国土の国の場合は、不意を突く核攻撃で消失させらることになる。


 余談だが、英国の国土面積は日本の65%で同じく島国国家ということを考えると、国土防衛という点では同等の議論が成立するはずである。また、これらが国土防衛の基本だからフィナンシャル・タイムズのような高級紙がこうした議論を張ることになる。というか、こうした議論ができてこそ高級紙と呼べる。
 いずれにしても、トライデント核搭載の潜水艦は国土防衛に不可欠であるというのが議論の大原則になっている。よって、こう続く。

So the question Mr Cameron and his colleagues must answer is how the UK can save money on the new submarine building programme.

だからキャメロン氏と同僚が回答すべき問題は、核搭載可能な新潜水艦計画にどれほどの削減ができるかということだ。


 つまり、核兵器を削減することが基本でもなく、ましてトライデント核搭載の潜水艦の新造反対も問題にならない。問題は、その削減の度合いだということである。かくして4隻から3隻という話になる。

Savings would not be huge. But Britain’s defence review cannot leave spending on the nuclear arsenal untouched. The UK needs a credible deterrent.

削減額は大きくはならない。しかし、英国は自国防衛の核戦略に言及せずにはすまされない。英国は、信頼性のある核防衛を必要としている。


 日本は、余りにも明確だが、憲法によって軍隊を持つことができない。かろうじて可能なのは自国防衛のみだが、これも非核三原則から核防衛は放棄している。このことが、米国との同盟で核の傘に入ることと同義であったのは戦後史で明らかだろう。
 英国では自国の核防衛がどうあるべきか首相に問われると高級紙が言明する。そして一国の首相たるものはそれに答えている。
 日本で同種の問いを菅首相に提出したときどのように答えるだろうか。小沢氏はどうであろうか。先日の首相選びからは何も見えなかった。前首相である鳩山氏は論外だった。
 麻生元首相は2009年7月、日本の有事の際、米国による「核の傘」がどのように運用されるのか、米国と具体的な協議をするために定期協議の開始を米国と合意した。麻生政権が倒れた後、この定期協議の計画は潰えている。

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コメント

日本も漁船問題で中国におどかされています。中国は、強い対抗措置をとるんだそうです。

まあ、日中関係より、中国の国内問題のほうが深刻なんでしょうけど。

投稿: enneagram | 2010.09.20 12:33

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» 極東ブログ「財政再建か、安全保障か」―政治家の資質も問われているのぅ [godmotherの料理レシピ日記]
 日本の日本の安全保障問題をこうも具体的に分りやすく示すものはないだろうと思う冴えた記事だと思います(参照)。 実は、先週辺りから尖閣諸島海域付近で中国と揉め事を展開し始めた日本のことが気になっていた... [続きを読む]

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