チェルシーの結婚
少し旧聞になる。7月31日、ビル・クリントン元米大統領とヒラリー・クリントン現国務長官の一人娘、チェルシー・クリントン(Chelsea Clinton)さん(30)がニューヨーク州ラインベックにあるアスター・コーツ(Astor Courts)という豪邸で結婚式を挙げた。
米国民主党政権の中枢ともいえる要人の娘さんの婚礼なので注目された。そのためか、あるいはそれに比してと言うべきか、結婚式の準備は極秘に進められた。当日も式場上空は飛行禁止となり、会場に至る道も封鎖された(参照)。要人の娘さんとはいえ民間人なのでプライバシーは守られるべきだろうが、物々しい印象を与えた。CNN「クリントン夫妻の一人娘チェルシーさんが結婚式」(参照)はこう伝えている。在任中にユダヤ人であることが判明したマデレーン・オルブライト(Madeleine Albright)元国務長官の名前も注目のこと。
ウエディングドレスは予想されていた通り、ベラ・ワンがデザインしたものだった。クリントン国務長官はオスカー・デラレンタのドレスを着用。
結婚式に招待された著名人を見ようと、報道陣を含む大勢の人々が小さな町ラインベックに押し寄せた。当日、式場にはマデレーン・オルブライト元国務長官など、多数の著名人が次々と姿を見せた。
花婿は大学時代に知り合ったマーク・メズビンスキー(Marc Mezvinsky)さん(32)。現在は投資銀行ゴールドマンサックスに勤めている(参照)。お互い30歳を過ぎての結婚だが、なれそめは高校生時代に遡る。そこで純真な少年少女の恋の物語を連想してしまうし、そうではかったとも言えないのだが、二人が出会った経緯が興味深い。
お二人は1996年、ルネッサンス・ウィークエンド(Renaissance Weekend)と呼ばれる社会問題討議会に民主党として参加し、それが出会いとなった(参照)。娘を連れてきたのは間接的であれ両親だから、普通に考えれば両親の差し金というか了解の上でのお見合いみたいなものであったのだろう。
と、ここで両親というとビル・クリントンとヒラリー夫妻を連想してしまうが、メズビンスキー家のご同意もあったと考えてよいだろう。で、メズビンスキー家って何? 当然、民主党の中枢と深い関係があったと思われるこの一族は何者?
ニューズウィーク日本版コラム「クリントン家の結婚式は謎だらけ」(参照)が突っ込んでいた。
今回の結婚式には、もう一つ注目すべき点がある。どの宗教に則って結婚式を執り行うかという問題だ。チェルシーは、南部バプテスト派の父親とメソディスト派の母親をもつキリスト教徒だが、メズビンスキー家はユダヤ教保守派に属している。ユダヤ教保守派は他宗教の信者との結婚に消極的で、結婚相手がユダヤ教に改宗しないかぎり、ラビが結婚式を執り行うことを禁じている。
メズビンスキー家はユダヤ教保守派のファミリーである。
すると挙式はどの宗教になるのかというのも当然の疑問であった。
宗教の壁を乗り越えるには、チェルシーがユダヤ教に改宗するか、メズビンスキーがキリスト教会での挙式を受け入れるか、あるいはキリスト教の司祭とユダヤ教のラビが同席するというパターンか。チェルシーがユダヤ教の礼拝に参加したと報じられたこともあり、アメリカのユダヤ人コミュニティーやイスラエルは「チェルシー改宗説」に色めきたっている。実際、もし改宗すれば、ヒラリーは強大なユダヤ人脈にこれまで以上の後押しを受けられることになる。
どうだったか。この難問はどのように解決されたのか?
いや、大した難問ではない。ユダヤ教徒とキリスト教徒の結婚は米国では難しくないからだ。なによりヒラリー・クリントンの祖母の再婚相手の旦那もユダヤ人である(参照)。
実際には、異教徒間の結婚(interfaith wedding)となった。今回の婚礼は米国史上もっとも有名な異教徒間結婚だとも言われてた(参照)。今後もチェルシーさんの改宗はないだろうがお二人のファミリーの宗教はユダヤ教、しかも保守派の規範がベースになるだろう。土曜日は電灯も付けないことになる。
これでメズビンスキー家の謎は解けたかというと、単に保守派で富豪のユダヤ人ファミリーというだけではない。先のコラムを借りよう。
今回の結婚には、巨額の詐欺事件を起こして5年間服役したメズビンスキーの父親や、チェルシーに「結婚式までに7キロ痩せるよう」命じられた花嫁の父クリントンなど、話題性に事欠かない「脇役」が揃っている。
新郎の父は巨額の詐欺事件を起こし5年間服役した経歴があるとのこと。なんだそれ?
新郎の父エドワード・メズビンスキー(Edward Mezvinsky)氏はアイオワ州から選出され1973年から1977年まで二期務めた下院議員だが、2002年、多数の投資家から金をだまし取る詐欺により実刑を受けた。きちんと犯罪者である。2008年に仮釈放となった(参照)。
チェルシーさんたちの婚約発表は2009年だったので、普通に考えれば新郎の父のムショ帰りを待っての永い春ということだったのだろう。遡って見ると父親の2002年のムショ入りで当初予定していた結婚が頓挫したのかもしれないし、そのあたりに関連するクリントン家の当時のご都合もあったかもしれない。人目をはばかる父親が婚礼に参加したかについてはメディアが多大の関心を寄せた。判然としていない。なにかと秘密裏に進められた婚礼の大きな秘密の一つでもあった。
新郎の母はというと、マージョリー・マーゴリーズ・メズビンスキー(Marjorie Margolies-Mezvinsky)氏である。彼女のほうが旦那より有名であったともいえる。当初メディアの人でテレビレポーターとして活躍しエミー賞も受賞している。NBCを退いてから、ペンシルベニア州選出の下院議員となり、1993年から1995年までの一期を務めた。再選ができなかったのはクリントン政権時代に悪評高い予算案を支持したからと言われている(参照)。逆に言えば、クリントン元大統領には貸しがあったとも言える。この時点に注目すると、チェルシーさんのなれそめは、新郎の母マージョリー氏とクリントン元大統領の内緒話みたいものから始まったのかもしれないとも思えてくる。
新郎のほうも両親政治家というわけだ。先のニューヨークコラムがこう締めているのも頷ける。
いずれにせよ、若いカップルの結婚式の背後には、隠しきれない政治の臭いが漂っている。10代の多感な時期に父親の不倫スキャンダルという試練を経験したチェルシーだけに、余計なお世話と知りつつも、平凡でも幸せな家庭に恵まれますようにと願わずにはいられない。
その「政治の臭い」がなんであるかがこの結婚の本質であろうし、政治の文脈に置き換えればいろいろと想像されることもあるだろう。だが別段陰謀論とかではなくても、そういうものは今回の結婚式の内実のようにオモテには出てこないだろう。
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コメント
スタンフォードの関係者が、チェルシーの入学と同時にスター特別捜査官の子ども(たしか娘)も入学してきて、頭を抱えていたことを思い出します。「手の込んだ嫌がらせじゃないのか」だとボヤいていました。
投稿: iori3 | 2010.09.10 12:01