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2010.09.04

小沢首相後の変化予想

 票構成から見て小沢首相誕生は既定と言ってよいはずだが、最終的に決まるまであと十日、マスコミも「菅か小沢か手に汗握る」といった話題を繋ぐのにご苦労様という状況が続くのだろう。いずれこのお祭で他党はじわじわと人気を下げ、民主党を利するので、菅さんを含めて仙石・前原そして蓮舫各氏も、お祭参加は小沢沈没後の布陣に役立つという認識なのかもしれない。さて、現実問題として小沢首相誕生で何が起きるのか?
 前提は、ねじれ国会と称される参院の構成が変わらないことだ。小沢首相となっても、鳩山政権が成立したようなむちゃくちゃな暴走は生じない。構造的には誰が首相になってもレイムダックに近いような状態になる。ではどうするか。
 小沢さんは先日の記者クラブの公開討論で、他党との合意を模索すると述べた。それだけ見れば現在の菅首相と変わりはない(参照)。


そういうより大きな課題こそが、私は天の配剤だと申しあげているんですけれども、こういう中で合意形成ができると、私も30年間、国会におりますので、自社さ政権、いろいろな政権、ご一緒した方もあります。
 たとえば、子供手当ては公明党が賛成いただいて、現在の法案もできているということもありますし、やはり財政健全化についても自民党も中期目標などではわが党と一致をした意見を出させていただいておりますので、もちろん、簡単だとは思っておりませんけれども、まさに真摯に政局ではなくて、国民のことを考えて話し合おうという、その呼びかけをきちっと。既に多少の努力はしておりますけれども、させていただいたときには他の野党の皆さんもですね、国民の皆さんのことを考えて、そういう話し合いに参加をしていただけるものと思っています。国会運営についてこれ以上は何もありません。

 しかしそこはデストロイヤー小沢さん。昭和の再現のように他党を飲み込むまたは割るような攻勢に出る気配はある。

ただ、今、繰り返しますが自分たちが国民に約束した主張を実行していくためにはやはり参議院でも過半数を有するということは本当に大事なことだと思っております。このままですと、仮に民主党政権が続くとしても、もう、最低でも6年、とても6年じゃ無理だとは思いますが、9年、12年の歳月をかけないと過半数というのはなかなか難しいという結果が現実だと思っておりますし、また、われわれが政権をめざしておったからというお話がありましたが、今、自民党は政権の奪還を目指して頑張っていることだと思いますので、状況は立場は変わりましたけれども、同じことだと思います。

 言及されているように子ども手当の関連で公明党連繋が筆頭に上がるだろう。次は当然ながら、小沢さんがプリンスであった自民党への攻略があるだろう。
 だが消沈しきった自民党絡みではそれほど疑心暗鬼の状態でもなさそうに見える。小党で言えば舛添さんのところが同調しそうだし、鳩山(兄)さんはすっかりその気になっている。ただしテレビで見たところだと、小沢さんと個人的な友達であるはずの与謝野さんは批判的だった。なぜだろうか。
 リフレ関連または日銀批判で自民党中川(秀)派やみんなの党との連立が話題になることもあるが、小沢さんの頭にはその筋はないと私は思う。もっと言えばようやく装着した労組ブースターと盟友輿石の琴線に触れかねないあたり(「新自由主義」とか)はできるだけ避けるのではないか。
 つまり、政界再編は直接的な即時の動きとしてはないだろう。
 加えて、普天間飛行場移設問題についてはムネオ派遣といった話題は作るだろうが実質的なコマの動きはないだろう(米国も日本に政府があるだけで御の字の諦めに達した)。蛇足のようになるが、いろいろ関心の高い政治とカネの問題もそれほど大きな動きにならないだろう。検察側も第三幕を開けるならもう少し本丸沿いを攻めるだろうし、政局と見られることを不快に思っているようでもある。
 では小沢政権はどのあたりから動き出すか。私は予算編成だと思う。
 そもそも小沢御大が登場したのも、民主党政権へのこの部分へのいらだちが基底にある。「私は昨年の予算編成にも、今年の今までの予算編成にも携わっておりませんですので、そういう立場での発言はできません」(参照)というあたりだ。こう続く。

私一個人としての考え方から言えば、いわゆる義務的経費、22年度の予算の中でも、義務的経費と人件費を除いたいわゆる裁量的経費、政策経費とも呼ばれますけれども、これがほぼ20兆円弱あります。それからさっきも申し上げましたが、介護や国保(国民健康保険)やその他でもって、地方に交付しているお金が12、13兆円あります。すなわち30兆円以上の政策的な経費があるということであります。

 予算捻出に失敗した事業仕分けをよそに、小沢さんは30兆円強取得の可能性を見ている。その内には地方交付の12兆円がある。

これを全部、別に半分にしろといっているわけではありません。ものすごくわかりやすくいえば、旧建設省、国交省の関係でいいますと、公共事業費だけで5兆円あります。それに地方財源といわれている消費税の2兆何千億っちゅうのは、地方財源とは名ばかりで、3千億は市町村のいわゆる自主的な財源になっていますけれども、あとの部分は全部直轄の裏負担として取り上げちゃってるんです。ですから、全然これ、地方で自由に使えないお金なんですよ。ですから、そういうのを加えると、さらに大きくなります。


民主党の調査、かつてやったときも、首長さんたちは自由に使えるお金をもらえるんならば、今の補助金のトータルの7割で、今以上の仕事を十分やれるという答えが出ております。で、また私の親しい首長は本当に自由に使えるんなら、半分でも今以上にいい行政ができると言っています

 あえて粗野に受け取れば、国側つまり官僚の軛を外したカネなら、半減しても大丈夫だろうという理屈である。昔ながらの小沢さん持論ではあるが、というか、これ、田中角栄の再来である。

地方に落ちるカネは、表面上は減りますけれども、実質的には増えるっちゅうことです。そして私は、たとえば高速道路も都道府県で作れるようにしようというのをこのメモで提案をいたしております。中央でもって全部やれば、結局大手の企業が全部受注して、そのお金は全部中央に集まります。ですから、地方では全然お金が回らないんですよ。だからそれを都道府県で、私は高速道路もつくらせる仕組みをやったらどうかと。そして、それを国が支援すると。私は無利子国債で補填するという気持ちで、考えでいますけど、そうすれば地方に実質的に回るお金っちゅうのは非常に増えるんですよ。

 地方への、もっと露骨に言えば、地方土建中心のバラマキをやるということだ。ネオ田中角栄主義である。削減された「大手の企業」は念頭にない。
 小沢さんにとって民主主義というのは自政党を利する利益集団にバラマキをすることで、政治というのはその集団の党争でしかない。それはそれで、そういうものかというのはあるだろう。
 地方主権の名のもとに減額されたヒモなし金のバラマキは実施されるだろう。そしてひねり出すのは6兆円くらいだろうか。
 問題は、政策経費の20兆円側に手を突っ込むぞという宣言がされているが、それがどのように実施されるかはわからない点だ。構造からすれば、官僚との対決で大衆喝采を得てその背景で他党も飲み込むという構図を描きたいのだろう。
 現時点で予想されるもう一つの変化は、菅・仙石・前原・岡田といったラインに適当に冷や飯を食わせつつも、民主党は一種の独裁党になることだ。政調を廃止にするからだ。小沢さんの理屈では政調がなくても政策会議があるとしているのだが。

私が政調会というものをやめるべきといったことは、事実ではありますし、いまなお、そう思っております。それにかえて、政府与党一体という観点で、政策会議というのを設けました。その政策会議には部署別に、各省庁別に誰でも参加できると、ある意味でその政調部会の役割も果たしていくということで設けられたものであります。
 その運営がですね、副大臣や政務官が大変忙しいということもあったやに聞いておりますけれども、ただ単に、形式的な形におわってしまって、本当に政策論議が全員参加でやれる状況じゃなかったということは実態のようでございます。
 ですから、最終的にその政策会議の副大臣、政務官だけじゃなくて、各委員会の理事の人も一緒に入って、党と政府の両方がその運営について相談し合いながらやろうということに私、たぶん、まだ、幹事長のときに提案をいたしまして、それが軌道に乗り始めた矢先であったように思っております。

 ようするに隣国のように党側からの一元コントロールになるということだ。鳩山政権時の暴挙としかいいようのない議論不在の強行採決の連発や、党側要求とやらによる混乱で、そのからくりにはうんざりさせられたのでよくわかる。
 「民主主義」という言葉はデモクラシーの誤訳に近い。本来は「民主制度」である。人びとの政治参加をどのように可能にするかという制度だが、実質の制度側から見れば、できるだけ権力をバランスさせる仕組みだ。民主主義は大衆迎合から独裁政治を産みやすい本質がありそこが課題になる。
 現下の党首選が最たるものだが民主党は国民不在の党内政治に没頭している。党内ですら実質的な対話は失われ、独裁党に変わりつつある。それが大衆迎合をテコに政治を動かそうとすることになるだろう。
 ネオ田中角栄主義は大衆迎合として機能するだろうか。
 労組とマスコミが一生懸命に騒いでも、実際の利益構造の点からすれば、日本はすでに都市民が主体になっている。地方主権の名のもとに配分されたカネは実際にはさらなる地域格差となるだろう。政策経費から10兆円のカネをひねり出したとしても、それもただ労組・公務員といった利益集団を基本としたバラマキに終わるのではないか。ネオ田中角栄主義は単なる田中角栄主義のアナクロニズムに終わるのではないか。

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コメント

小沢首相が誕生したら、青島さんが金丸さんを議員辞職させたように、だれかハンガーストライキをやって、小沢さんの政治生命を断ってくれる人が現れないかな。

青島幸男ほどの天才的な勘に恵まれた豪傑なんて、今の政界にはいないか。

そうなると、アメリカ発でロッキード事件やリクルート事件みたいな大騒動が起きてアメリカによる小沢抹殺に期待しないといけなくなるか。でも、中国が強くなっている今、日本の政治を弱体化させることは、アメリカの民主党にとって得策ではない。

小沢政権が安定政権になるとしたら、それが「田中角栄の呪い」なのかもしれませんね。

投稿: enneagram | 2010.09.04 17:05

 独裁党のお話は、「有権者が変わるのを待って、政策変更する」のではなく「有権者が変わるのを待たずに政策変更する」ことを指すのかなと感じました。
 自分はこれまでのように「有権者が変わるのを待って、政策変更する」ことを望みます。それが、現下の種々の不作為を引き起こしているのかもしれませんが。

 それにしても、小沢氏の公共投資に関する主張が、あまり報道されていないように思うのは私だけでしょうか。

投稿: NBZZ | 2010.09.05 01:22

すみません、小沢さんのことで、質問です。
そもそも...、
民主党党首の選挙に小沢さんが勝ったとして
小沢さんは首相になる気があるのでしょうか。

結局連立政権を作るのですから、どこかの党首(例えば亀さん、立ち上がる人とか、桝さんとか)を担ぎ出して、相変わらず裏で立ち回っても良いのですよね。

小沢さん自身が首相になるか、
それとも誰かを担ぐのか、
その差はとても大きいと思っています。

菅さんは"次の首相を選ぶ"とさんざん言っていますが、
小沢さんは(私が知る限りは)一言もそうは言っていないと思います。どうなのでしょうか。

ブログ主様、読まれているみなさま、
何かご存知でしょうか?

投稿: | 2010.09.05 07:29

あれ?なにやら雲行きが…( ̄Д ̄;;??

【民主党代表選】旧民社は「首相支持」へ 議員票互角、菅首相優位に
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/100905/stt1009050130000-n1.htm

まぁ産経の記事ですけどw

投稿: ういうい♪。 | 2010.09.05 15:09

いま、ニュースみたけど、すごく残念。大阪人って馬鹿?もしくは、一部の指示者のデモ?桜?っていうか、なぜ、小沢? 自分の罪も説明せず、いままでの政治家人体質。メディアのいつもの”はやしてあとから、’だったんですねー”? 

 

投稿: に | 2010.09.05 22:23

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