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2010.09.13

コーラン焼却騒ぎはなんだったのか

 コーラン焼却騒ぎはなんだったのか。主導者テリー・ジョーンズ(Terry Jones)とその教会、「ダブ・ワールド・アウトリーチ・センター(Dove World Outreach Center)」とは何か。
 話は1970年代に遡る。米国のキリスト教ペンテコステ派世界最大派のアセンブリーズ・オブ・ゴッド教団に所属した青年部牧師、ボブ・ワイナー(Bob Weiner)(参照)は州立マリー大学内に大学生布教集会「マラナタの家」を1972年に設立した。後に「マラナタ・キリスト教会」と改名したが、大学を拠点化した布教活動であった。大学に浸透するペンテコステ派のこの布教運動は「マラナタ・キャンパス・ミッショナリー(MCM: Maranatha Campus Ministries)」と称された。次第に影響力を持ち出したMCMは1980年代に入り、権威主義的な傾向からカルト的な様相を持つと批判され、キリスト教界から社会全体の問題ともなった。ついにはワイナーもその傾向を認め謝罪し1989年にMCMは解散した。
 MCMの解体過程からいくつかの分派が生じた。MCMの影響下で1985年に設立された教派の一つが「ダブ・ワールド・アウトリーチ・センター」である。創始者の一人ドナルド・ノーザラップ(Donald O. Northrup)はMCMと関係が深かった。このセンターで2008年以降指導者として力を持つテリー・ジョーンズもドイツでMCMの活動をしていた。
 ノーザラップの死後、センターは彼の妻ドドレス(Dolores)とデニス・ワトソン(Dennis Watson)が継いだが、ドドレス夫人はジョーンズが指導する教義に疑念を持つようになり、2009年にセンターを退いた。センターの大きな転機でもあった。
 現在同センター指導者となっているジョーンズの経歴はよくわからない。ホテルマンであったとも言われる。わかっていることの一つは、ドイツでは学歴を詐称し罰金を払ったことだ(参照)。現状、ジョーンズ率いる「ダブ・ワールド・アウトリーチ・センター」は上部の組織をもたない構成委員50人ほどの独立派の小集団と見られている。ジョーンズの娘エマ(Emma)は、この集団を「カルト」と見ている(参照)。おそらくそれがもっとも的確な表現だろう。
 「ダブ・ワールド・アウトリーチ・センター」は米国によくある小カルトの一つなのである。こんな些細な小集団が違法でもない宗教示威活動しても普通は話題にもならないはずだ。米国では国旗を燃やしても犯罪にならない。白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK: Ku Klux Klan)がキリスト教の最大のシンボル十字架を燃やしても脅迫にもならない。こうした行為を州法で禁止しようとしても違憲となる(参照)。聖書を燃やしても問題はならない。コーラン(Qur'an)を燃やしても同様だろう。
 問題は、むしろ、なんでこんな小カルトの些細な出来事がさも大問題であるかのように米国メディアは報道したのか、ということだ。こんなくだらない話は無視するか、世界びっくりニュースの類にすればよいのである。
 必ずしもイスラム世界の理性的な意見の代表というわけではないが、英文で読めるアラブ・ニューズを見ても、今回の事態は奇異に見られていた。10日付け「Larger questions」(参照)より。


There are many who blame the media for this, saying that it has paid far too much attention to the ravings of a jumped-up, bigoted nobody.

この件では、泥縄仕立ての頭の固い無名人の戯言に注目しすぎではないかと、メディアを批判する人びとが多い。

There is a good deal of truth in this. If it had been a Catholic bishop or the leader of the US Methodist or Presbyterian churches who had threatened to burn the Qur’an, that would be major news. It would have merited — required — Obama’s intervention.

これに多くの真実が含まれている。もしカトリックの司祭とか米国メソジストや長老派教会の指導者がコーランを燃やすと脅したというなら、大きなニュースになりえただろう。オバマが仲介に出る意味も必要性もあっただろう。

But a two-bit leader of a two-bit congregation?

しかし、こいつはちんけな集団のちんけな指導者ではないか?


 日本の文脈でいえば、又吉光雄が自身を救世主イエスであり、日本国首相は切腹せよと語り、国会に挑んだというのを国際的に報道するようなものだ。
 なんでこんなお馬鹿なニュースが大ニュース化したのだろうか。
 アラブ・ニューズの11日付け「A threat to us all」(参照)ではその理由をこう見ている。世界でイスラム教徒が迫害される現状の文脈から。

Incidentally, it’s not possible to ignore the role Israel’s powerful friends in the US establishment and media have played in fanning the anti-Muslim hysteria in the West.

加えて、米国支配層とメディアがイスラエルと強い友好関係にあることから、西側諸国では反イスラム主義ヒステリーが煽動されてきたことを無視するわけにはいかない。


 反イスラム主義を煽るためにこの手のばかげた報道を米国がしていると見るイスラム圏での見解がある。
 そうかもしれない。
 私は、加えて、中間選挙を控え、劣勢にある米国民主党が、共和党支持と見られるキリスト教根本主義者の愚昧さを強調する意図もあったのではないかという疑念もある。関連付けて報じられる、グランドゼロ近隣のモスク建設反対運動をキリスト教カルト的な反イスラム主義に集約してしまう愚かなシンボルとしての報道価値もあったかもしれない。
 言うまでもなく、グランドゼロ近隣にモスクを建設することに法的にはなんら問題はない。むしろ、問題を感じる人びとの対話を通して、イスラム教と米国社会の友好の記念碑にすべきものである。
 どの社会にも理性的な行動を取れない極端な人びとはいるものだが、彼がその社会の大半の良心を表してるわけではない。偏った報道やそうした偏向報道を元にした糾弾は無意味な敵意しか生まない。

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コメント

アメリカは何でもありの国ですね。

でも、アメリカがプロテスタントのキリスト教国でなくなったら、それはアメリカなのかしら。建国の理念というものがあって、それは、アメリカの成立の骨子となっている。

漢字を使わない日本語というものを想定すると、キリスト教国でないアメリカというのがどういうものか、想像がつくと思います。

投稿: enneagram | 2010.09.14 08:03

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 アフガニスタンで起きたテリー・ジョーンズ人形の火炙りを報じる記事にTwitterで遭遇し(参照)、それを拾って読むうちに気分が悪くなり、あのような映像を見なければよかったと後悔していました。日本では... [続きを読む]

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