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2010.09.11

米人、小沢氏に答えるに、どうせ俺たちゃ単細胞生物

 実質首相選択となる民主党内の総裁選挙について米国がどう見ているか。政権交代時つまり鳩山首相の登場の際とはいくぶん風景が変わっている。簡潔に言えば米国の関心は薄い。所詮他国の内政問題だし日本国民による意思の発現でもないいち党派内の問題なので言及を慎むというのもある。それ以前に菅氏であれ小沢氏であれ支離滅裂な鳩山氏よりましかもしれないが大差はないという印象もあるようだ。そうしたなかようやくワシントン・ポストとニューヨーク・タイムズの社説が出た。
 イギリスのフィナンシャル・タイムズの見解は早々に出ていた(参照)が、米側は遅れているふうであった。ウォールストリート・ジャーナルも社説としての直接の言及はなかったようだが日本版に「民主党、代表選きっかけに政策の「アイデア」提示」(参照)はあった。が、これの原文がどれかはわからない。日本側での作成だろうか。というのは、以下の論点は後述するワシントン・ポストやニューヨーク・タイムズとはトーンが異なる。


 外交政策でも小沢氏は明確なビジョンを提示している。同氏は米軍基地移転交渉合意を順守すると述べると同時にそれに対する疑問も表明している。ただし、より広い米軍駐留問題については、日本における米軍の大きなプレゼンスの必要性を問題視し、北朝鮮やイランといった「ならず者国家」への対処では国連のような多国籍機関にもっと大きな権限を与えるべきだとしている。

 「明確なビジョンを提示」と言いつつ、「と同時にそれに対する疑問も表明」というのは不可解ではある。普通は逆で、明確なビジョンはないと見られるものだ。そしてこの点こそ、米側が一番懸念している。
 ワシントン・ポスト社説は11日付け「'‘Simple-minded' Americans might want to pay attention to Japan's election」(参照)である。話は日本はころころ首相を変えるものだな、大国だし同盟国として関心持たないわけにもいかないなとリラクタントに切り出される。当然ながら話題は小沢氏に向かわざるをえない。

Exactly what governing philosophy Mr. Ozawa would bring to the job is hard to say, because his professed ideologies have mutated over the years.

小沢氏がなそうとする政治観はよくわからない。もう何年にもわたってそのイデオロギーをころころ変えてきたからだ。

But in his current incarnation he is less friendly to the U.S.-Japan alliance, and more attracted to China's dictatorship, than most Japanese leaders -- and, according to polls, than most Japanese.

しかし彼の再登場は日米同盟に友好的ではなく、大半の日本人の世論からすると、他の政治家よりも独裁主義の中国に傾倒している。


 小沢氏を長く見てきた私からするとワシントン・ポストの評は間違っているようにも思えるが、これが米側の少なからぬ小沢評でもあるのだろう。
 ワシントン・ポストに限らず欧米のこのところの小沢評でよく引かれるのが「米国人は好きだが、いささか単細胞だ」とする小沢氏本人のコメントである。なぜか日本国内では非難が少ないが、国際的に見て致命的に近い失言ではある。端的に言えば、この失言だけで国際政治の場には出てこれないくらいの失言レベルだ。
 ワシントン・ポストもそこは見逃さないのだが皮肉を返すよりも冷静な対応を示している。

Mr. Ozawa recently referred to Americans as "somewhat monocellular." We couldn't tell you exactly what that means, but we're pretty sure it wasn't a compliment, especially since he added, "When I talk with Americans, I often wonder why they are so simple-minded."

小沢氏は米国人を単細胞生物だと言う。それが何を意図しているのか私たちは理解できないが、「米人と話すと私はなんでこうも彼らは頭が悪いのかとしばしば思う」という彼のコメントからすると賛辞とは取れないことはわかる。

Perhaps more important than his prejudices, Mr. Ozawa also said he would reopen negotiations with the United States over realignment of U.S. forces in Okinawa -- an issue that fruitlessly preoccupied and ultimately helped doom Mr. Kan's predecessor, Yukio Hatoyama.

小沢氏の差別観よりもおそらく重要なのは、小沢氏が在沖米軍基地移転問題で米国との交渉をやりなおすとしていることだ。つまり、菅氏の前任者、鳩山由紀夫が執心のわりにはついに空しい運命となった問題である。

Allowing the U.S.-Japanese relationship again to be consumed by the base realignment -- which Japan has now agreed to, twice -- would set back any hopes for the countries to make progress on other important issues.

再考後同意した基地移転問題で日米関係を消耗させれば、他の日米間の重要案件の進展を後退させることになるだろう。


 小沢氏への脅しというより、呆れているということが言いたいのだろう。これに続く文脈では小沢氏は日本人多数の支持を得てなさそうだとあり、締めはアイロニカルな諦観に終わっている。

We hope DPJ officials take a multicellular view as they consider their choice.

米国としては、日本民主党のみなさんが多細胞生物らしい視点をもって首相選択を考慮してくださることを望むものである。


 ニュヨーク・タイムズの社説は6日付け「Japan’s Leadership Merry-Go-Round」(参照)である。鳩山首相誕生時には好意的なコメントを寄せたニューヨーク・タイムズであったが、さすがに今回は呆れている。メリーゴーラウンドのように首相をくるくる変えるなというお説教を垂れて始まる。

Japan’s frequent leadership changes are dizzying and increasingly counterproductive.

日本の首相交代は目まぐるしく、次第に非生産的になってきている。

The country has had 14 prime ministers in the last two decades and could soon have another. That would make three in the last 12 months alone — hardly time enough to introduce new policies, much less effectively implement them.

日本では20年ものあいだに14人も首相が代わり、また代わろうとしてる。過去12月に限っても3人目になるかもしれない。これでは新政策も導入できないし実施の効率も悪い。

This phenomenon would make successful governance difficult in any country. But Japan is the world’s third largest economy and a technological and regional power.

こんなやりかたはどんな国がやってもうまくいかない。だが日本は世界第三位の経済大国であり、技術力や地域影響力もある。

It needs a prime minister who can offer robust, principled leadership over a sustained period, win support for economic policies that would help pull the world out of recession and maintain a strong alliance with the United States.

大国の首相ともなれば、強く原則の定まったリーダーシップを一定期間行使できなければならない。そうしてこそ、世界の景気後退脱出の経済政策が支援できるし、米国との強い同盟関係も維持できる。


 おやおや、これがリベラルなニューヨーク・タイムズですかというトーンなのはそれほどに呆れているからだろう。
 小沢氏に抱いている懸念も窺われる

Reinforcing close relations with the United States is also important. Mr. Kan has promised to move forward with a long-debated plan to relocate an American Air Force base on Okinawa.

米国との密接な関係を強化することも重要である。長期に議論されてきた在沖米軍基地移転について菅氏は前進を約束している。

Mr. Ozawa wants to reopen negotiations — yet again. He needs to reconsider that unrealistic position because he admits he has no alternative proposals and the Americans are certain to balk.

小沢氏は今更に交渉をやり直したいとしている。小沢氏には代案なく米国も躊躇しているのだから非現実的な主張を再考すべきだ。

For too long, the base controversy has strained bilateral security ties. His comment last month that Americans are simple “single-celled organisms” doesn’t seem to be the best way to make new friends.

基地論争で安全保障相互条約を不安定にする時期は長すぎた。小沢氏は先月米国人は単細胞生物であると述べたが、これは新しく友好関係を作るために最善の方策とは思えない。


 ご覧の通り、ワシントン・ポストもニューヨーク・タイムズも小沢氏の失言をあからさま非難しても益なしとしてからかっている。まじめに考えればそれだけトンデモ人物と見なされているということだ。幸い、そういう御仁は国際政治の場に少なくないとも言えるのだが、まさか主要同盟国から出てくるとは呆れたということなのだろう。

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コメント

ワシントン・ポスト11日付社説
「'‘Simple-minded' Americans might want to pay attention to Japan's election」の1文目,
"... because his professed ideologies have mutated over the years." の訳文は,
「もう何年にもわたってそのイデオロギーを (mutate なので *沈黙して* ではなく) *ころころと変えて* きたからだ。」のように思えますが, いかがでしょうか?

投稿: suzuki | 2010.09.11 22:35

意味が正反対では?(^^;

>I often wonder why they are so simple-minded.

>私はなんでこうも頭が悪いのかとしばしば思う

投稿: hs | 2010.09.11 23:42

誤訳・抜け、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.09.12 08:37

マイケル・ハートみたいにジル・ドゥルーズを研究してアントニオ・ネグリの弟子になるアメリカ人や、フランシス・フクヤマみたいにヘーゲルを研究するアメリカ人もいることはいるけれど、普通のアメリカ人は、建国の父たち(ハミルトン、マディスン、ジェファーソン)の思想から外に出ない。パース・ジェームズ・デューイさえろくに知らないアメリカ人はいっぱいいる(パースは出発点はカント研究家、デューイは出発点はヘーゲル研究家)。

日本人は、明治以降、中国朝鮮からだけでなく、ドイツ、フランス、アメリカ、ロシアからちゃんといろいろ学んでいる。

そんなわけで、日本人に比べると、アメリカ人は「単細胞動物」?

投稿: enneagram | 2010.09.12 08:39

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