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2010.08.08

[書評]ギリシア神話の語り:ブルフィンチや斉藤洋

 団塊世代の下になる私の世代までだと、ギリシア神話といえば、トーマス・ブルフィンチ(Thomas Bulfinch)がまとめた"The Age of Fable, or Stories of Gods and Heroes"の訳本が定番ではないだろうか。タイトルの直訳は「寓話の時代:神々と英雄の物語」だが、日本では「ギリシア・ローマ神話」となっていた。私は中学生のとき、角川文庫のけっこう分厚い本で読んだ。辞典のようにも利用できるのが便利だった。
 今でもあるのかと調べると、ある。上下巻に分かれるが「完訳 ギリシア・ローマ神話」(参照上巻き参照下巻)となっている。映画「トロイ」(参照)がきっかけで復刻したようだ。
 他に岩波文庫のがあったはず。調べると、こちらも、ある。一冊にまとまった「ギリシア・ローマ神話―付インド・北欧神話 (岩波文庫)」(参照)である。
 角川文庫の訳は昔と変わらず大久保博、岩波文庫もお馴染みの野上弥生子。野上のほうの訳のほうが古いはずで、調べてみると最初の翻訳は1913年。これには夏目漱石が序文を書いている。漱石も読んだのだろう。大正・昭和に日本人に読まれたギリシア神話というのは野上のブルフィンチだったのではないだろうか。もちろん、「荒城の月」の格調をもつ土井晩翠の詩文訳も有名だ(参照参照参照)。
 大久保・野上の他に新訳があってもよいようにも思うが、ざっと見たところ見つからなかった。もともとブルフィンチも子ども向けとまではいえないが、当時の一般向けに書いた簡便な解説書でもあり、原文の英語もそう難しくもない。これも探すと挿絵付きの"The Age of Fable"(参照)が無料公開が見つかる。
 ブルフィンチは1796年にマサチューセッツ州で生まれ、1867年、71歳で亡くなった。黒船を引いて日本に開国を迫ったペリー提督ことマシュー・カルブレイス・ペリー(Matthew Calbraith Perry)が1794年生まれ、1858年没なので、ブルフィンチと同時代の人と見てもよいだろう。ちなみに、ブルフィンチの父、チャールズ・ブルフィンチ (Charles Bulfinch) は著名な建築家でアメリカ合衆国議会議事堂の設計にも関わっている。ということは、メーソンリーかなと思ってざっと調べてみたがわからないようだ。
 「寓話の時代」が出版されたのは1855年。ギリシア・ローマ神話に模してアメリカの女神をジョン・ガスト(John Gast)が「アメリカ的進歩(American Progress)」(参照)で描いたのは1872年なので、ガストもブルフィンチの作品を読んでいた可能性は高い。
 日本での訳書に戻ると、ブルフィンチを継ぐような形でよく読まれたのがイリアスやオデュッセイアも訳した呉茂一の「ギリシア神話」(参照上巻参照下巻)だった。そういえば呉先生のラテン語入門(参照)も懐かしい。
 ギリシア神話学といえば、カール・ケレーニイ(Karl Kerenyi)が日本で注目されるようになったのも1970年代で私は当時の現代思想の特集を持っている。ケレーニイにも入門的な「ギリシア神話 神話の時代」(参照)と「ギリシア神話 英雄の時代」(参照)があるがあまり読みやすくはない。
 ギリシア・ローマ神話はある意味、気軽に読めたほうがいいという面もあり、漫画でもないのかと探すと、知らなかったが里中満智子(参照)やさかもと未明(参照)が書いている。絵にちょっとクセが強そうな感じはしないでもない。そういえば天上の虹はどうったんだろうか、と見ると、ありゃまだ完結してないのか(参照)。終わったら大人買いするかな。

cover
ギリシア神話
トロイアの書
斉藤洋
 つらつら思い出したり関連の書籍を見ているうちに、斉藤洋のギリシア神話を思い出した。子ども向けに書かれているとはいえ、あのエレガントな語りでトロイを読んでみたいものだなと思い、「ギリシア神話 トロイアの書(斉藤洋)」(参照)を読んでみた。さすがに面白い。当然ながら人物関係と神々が多く、そこが多少読みづらいのだが、それでもかなりすんなりと読めるし、アテネ神に視点を置いているのもわかりやすさにつながっている。ギリシア神話と限らないのだが神話には現代人からすると理解しづらい思考形態がある。そうしたところに、ふとアテネ神扮する斉藤洋がつぶやく。

 こう物語ってくると、すじみちがとおっているようだが、わたし自身、ひとつ心にひっかかるものがある。


 そのことについて、あれこれ考えをめぐらせると、わたしは、じつはこうではなかったのかと思う。

 独自のヘンテコな解釈をするわけでもない。物語に現代的な整合を与えるだけということもない。こっそりと読み手の子どもにギリシア神話を考えさせようとしている。斉藤洋には、他の作品でもそうだが、物語の面白さというものの背後にこっそりとメタ物語の視点を忍び込ませている。ギリシア神話もそうした新しい視点から子どもに読ませることができるという点で、こうした語り手をもつ日本語の文化は強いものだなと思う。

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 なんとなくギリシャ神話のお勧め本が出てこないかなと思っていた矢先だった(参照)。斉藤洋さんの書いた本は私は読んだことはない。それもそのはず。私より少しというか片手は年上の児童文学作家なので、私が子ど... [続きを読む]

受信: 2010.08.08 11:12

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