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2010.08.21

日本経済成長鈍化・進む円高、フィナンシャル・タイムズの見立て

 16日に内閣府が発表した、今年の第二・四半期の国内総生産(GDP)速報値では、実質GDP(季節調整値)は前期比の0.1%増だった。年率換算では0.4%増となる。かろうじて輸出で持ちこたえているものの、日本の経済成長率が急速に鈍化したことが明らかになった。
 結果、米ドル換算で日本のGDPは1兆2883億ドルとなり、同期の中国の1兆3369億ドルを下回り、(参照)、経済規模で日本は中国に続く世界第3位となった。
 年初ころには年率2%の予測もあったことから、日本経済の失墜の兆候として同日には株価も落ち込み、9000円を割るかとも思えたが、その後は少し持ちこたえている。が、円高も進んだため、今後の輸出の展望も開けない。
 日本はどうしたらよいのか。すでに事実上のレームダックである菅直人首相だが、20日、閣僚懇談会で円高や景気減速への対応策を検討するよう関係閣僚に指示した。内実は「予算を伴わない形の経済対策にどういうものがあるか考えてほしい」「財政出動によらないで需要の拡大、経済成長につながることもある」と強調するなど、菅首相らしいユーモアであった(参照)。余談だが、19日には菅首相は北沢俊美防衛相に「ちょっと昨日予習をしたら、(防衛)大臣は自衛官じゃないんですよ」と語り、自衛隊制服組首脳には「改めて法律を調べてみたら『総理大臣は、自衛隊の最高の指揮監督権を有する』と規定されており、そういう自覚を持って、皆さん方のご意見を拝聴し、役目を担っていきたい」と述べるなど(参照)、炎暑のなか国民をヒンヤリとさせる気配りが際立っている。
 首相の戯れ言にかまっている余裕のない、玄葉光一郎公務員制度改革相・民主党政調会長は、円高について「一番大きいのは米連邦準備理事会(FRB)と日銀の姿勢の違いだ」と言明し、「FRBは量的緩和の姿勢を維持し、デフレを防ぐ姿勢を維持した。日銀は様々な手段があり得る」と日銀への要望を明確にした。
 だがそこは愉快な民主党である。峰崎直樹財務副大臣のほうは、日銀による追加金融緩和の必要性について、流動性のわなの状態では、「金融緩和ということで抜けられるのか非常に疑問だ」と延べ(参照)、結果的に現状の日銀の援護をすることで、政府の混乱を明らかにしてくれた。なんなのこの政府。
 当の日銀は泰然と構えている。日銀白川総裁と菅首相の話し合いが期待されるなかも、慌てず、週明けを待って電話で少し話しましょうということになった(参照)。面談せずとも日銀を信頼してもらえるとの自信の表れと見るか、レームダックというのはこう処理せよと見るか、なんてさほど意見が分かれることもない。
 海外はどう見ているか。一例だが、フィナンシャル・タイムズは16日社説「Japan and its growing pains」(参照)で論じていた。表題を見ると、"growing pains"(成長痛)とあり、今後の日本の経済成長の過程では多少我慢しなければならない痛みなのかと思うが、日本の痛みが今後も成長するという含みなのかと、英国流のユーモアの難解さを痛感する内容であった。
 結論から述べると、フィナンシャル・タイムズは、日本の経済鈍化の理由を、内需志向転換できない構造に見ている。


Japan’s problems are of its own making. The economy is meant to be shifting towards consumption after years of export-addiction. But domestic demand made a negative contribution to growth in the second quarter. That has left exporters, struggling with a strong yen, doing all the heavy lifting.

日本問題は自らが作り出しているものだ。日本経済は、輸出中毒の年月の後、消費に変化するはずだった。が、国内需要低迷は第二・四半期の成長を阻んだ。なんとか持ち直そうと強い円と格闘している輸出企業だけが残っている。


 菅内閣はどうすべきだというのか。政府にはほとんど選択肢はない("The government has very few options. ")と匙を投げている。財政赤字から財政政策はむりだろうし、補助金バラマキは貯金に回るだけだろうと見ている。
 為替介入による円高阻止もできないだろうと言う。

With European (especially German) competitors benefiting from a weak euro, this hurts. But international concerns tell against currency intervention, so Japan is unlikely to take steps beyond talking down the yen.

日本に競合する欧州、特にドイツは弱いユーロのメリットを得ているので、このことが日本に痛みをもたらしている。国際社会は通貨介入を嫌っているので、日本は口先介入以上の行動することはまずない。


 まったくに日本に打つ手はないのかというと、非伝統的な金融政策("unconventional monetary policies")はあるだろうとはしている。ネットの用語で言えば、リフレである。

This leaves monetary policy. At 0.1 per cent, interest rates are already as low as practicable. But given the risks posed by worsening deflation policy is still too tight. Japan’s best bet is a vigorous embrace of unconventional monetary policies.

金融政策が残っている。金利は0.1%とすでに可能なかぎり下がっている。だが、デフレ政策による悪化がもたらす日本のリスクを考慮に入れるなら、これでも引き締め過ぎているのである。日本ができる最善のチャレンジは、各種の非伝統的な金融政策("unconventional monetary policies")の手を打つことだ。

Proper anti-deflationary action could have the side-effect of weakening the yen, giving Japanese exporters a much-needed shot in the arm. In the short term, this is the best Japan can hope for.

デフレ阻止対策がきちんと実施されると、その影響で円は弱くなり、輸出産業へのカンフル剤となる。手短に言えば、これ(リフレ政策)が日本に望まれる最善の方策である。


 フィナンシャル・タイムズはリフレ政策を打つしかないだろうとしているが、基本線として日本の輸出産業がまた強化されることを懸念しているため、それほど強く、リフレ政策を推しているわけではない。あくまで最悪の現状のための提言であり、短期的な措置としての提言である。
 長期的にはどう見ているか。株の利回りをよくしろと言っている。

A long-term solution will have to address the frugality of Japan’s corporations. Annual dividend payments are worth just 3.5 per cent of national output. In Germany, where operating profits are similar, the figure is 14 per cent.

日本経済への長期的な解決策の一つは、しみったれた企業に取り組む必要性だ。年間配当はGDPの3.5%しかない。ドイツでは、利益率は日本と同じでも、14%も配当している。

Returning more to shareholders could boost private consumption. This will be key.

株主配当を増やせば国内消費が活性化されるだろう。これが日本経済再生の鍵だ。

China’s rise has kept Japanese exporters afloat; but it is domestic demand that will save Japan from drowning.

中国の経済成長は日本の輸出産業の沈下を防いでいるが、国内需要こそが日本を救済する。


 このあたりの話は、日本人からしてみると微妙だ。
 端的に言えば、日本企業はその構成員のメンバーシップのために存在しているという傾向が強い。このため、日本の格差は、実際には、労組のある大手企業や公務員対その他の労働者の間に存在している。そして民主党は、大手企業であるマスメディアに援助されて、前者の側の利権を守ろうとしている。そこでこの構造は崩しがたい。
 この構造は日本の富を鎖国状態にしているので、その利害も関連する。ナショナリズム的に見るなら経済発展とトレードオフしながら、日本の富の国際化阻止しているとも言える。
 フィナンシャル・タイムズ社説が、率直に言ってむかつくのは、いろいろ対比されるドイツの扱いだ。この間、ドイツ経済は中国輸出で食ってきたのである。露骨にいうなら、フィナンシャル・タイムズが輸出志向として日本を批判するなら、それはお門違いでしょ、ドイツはどうよ、ということがある。
 それでも、もう一段深い読みも可能で、中国経済の成長はこのあたりで終了かもしれない。カンフル剤を打っているドイツやEUの真似はやめとけ、ということかもしれない。
 まあ、いろいろ議論はあるが、現実的には空しい。菅内閣はレームダックだし、日銀はたまにエレガントでトリビアルな手品をするくらいだ。

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コメント

現状の日本を見ますとね、思い出すのは、レーガンの高金利政策のアメリカなんです。レーガノミックスのドル高で、アメリカの製造業は全部おかしくなりました。でも、あの時代があったから、いま、アメリカは、アップルやグーグルやアマゾンやeベイが育つ、情報産業主導国家になれる可能性が生まれたんです。

日銀の無策で、低金利なのにこの円高とデフレで、日本の製造業もレーガン時代のアメリカほどではなくともひどい目にあっていますが、この円高は、世界が、日本に、「もう日本もいい加減に製造業で食うのをやめて、市場を開放してもっと製品輸入して、日本自体は、アメリカみたいな情報産業主導国家にレベルアップしてくれ」と訴えている世界の声のような気がするんです。

まあ、そんなわけで、J-POPアーティストたちには国内市場だけを当てにしないで、ブリティッシュロックみたいにグローバルな市場でも通じる作品を生み出して国家を引っ張っていってほしいし、漫画家たちにも、出版物の国内の再販制度など頼らなくても、グルーバル市場で利益をあげられるようにしてほしいし、私たちみたいにブログをやっている連中も世界の言論の方向を引っ張っていけるようにならないといけない時代になっているのだろうと思います。今の時代、日本で一番責任が重いのは、バイオテクノロジーとナノテクノロジーのテクノロジストたちだろうと思います。

そんなわけで、日本が、アメリカの次に離陸できるようになると、韓国と台湾もすぐに離陸するでしょうから、日本はここでがんばらないといけなくて、1ドル50円台で輸出競争力のない製造業や農業が壊滅しても国民が心配しないで食べていける産業構造にしないといけません。

そういう日本を作るうえで、民主党政権など当てにできないんで、私は、丹念に極東ブログにコメントを入れているわけです。

投稿: enneagram | 2010.08.21 14:10

>>予算を伴わない形の経済対策
ここは笑うとこなのか、ひんやりするところなのか判りづらい、出来の悪い夏場の怪談みたくなってきましたな。

投稿: 義忠 | 2010.08.21 19:45

まぁ何と言うか、「政治のプロ」っていう感じが全く漂ってこないのが何とも。彼ら自身が「初めてなので」を免罪符に自らがその「プロフェッショナル」であることを放棄している感じ。過渡期とはいえ、何年政治家やってきたんだよと思わせる職業意識では、政治主導で国を立て直すのは諦めるしかなさそう・・自民政権に戻ってもね。

実際優秀な人々は結構いるのですから、その気になれば何とかなりそうな気もするんですけどね。頑張りましょうよ。

投稿: オダユウジ | 2010.08.22 23:25

>>この円高は、世界が、日本に、「もう日本もいい加減に製造業で食うのをやめて、市場を開放してもっと製品輸入して、日本自体は、アメリカみたいな情報産業主導国家にレベルアップしてくれ」と訴えている世界の声のような気がするんです。
ここは笑うとこ。

投稿: 夏至 | 2010.08.24 12:13

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