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2010.08.14

[書評]日本経済のウソ(高橋洋一)

 「日本経済のウソ (ちくま新書)(高橋洋一)」(参照)は奥付を見ると8月10日が第一刷となっているので新刊と言ってよいのだろうが、一読して大半の内容に既視感があった。執筆方針や編集過程についての言及はないので書き下ろしということになるのだろうが、内容的には著者がネット媒体でこの半年に書いてきたものをまとめたものという印象をもった。

cover
日本経済のウソ
高橋洋一
 執筆完了時点はわからないが、菅内閣の比較的最近の動向への言及もあるが、参院戦争点を論じるもののその結果への考察はない。あと半月待ってそれらの考察を含めての出版のほうがよかったようには思った。
 基本的な議論には、著者の考えになじんでいる人や、インタゲ政策に賛同している人にとってはそれほど新味はない。しかし、小泉政権後の迷走を金融政策の視点で総括する簡便な書籍という意味合いはあり、その歴史の帰結が見える5年後には、また本書を振り返って、日本がどこで失墜したのか後悔を満喫するためにも書架に留めておきたい好著だ。
 書名「日本経済のウソ」とあるようなウソの大半は、日銀批判に充てられているが、終章にあたる三章の展望では、日銀批判から離れ、民主党の経済政策の混迷、特に郵政問題に言及しているため、やや尻つぼみな印象もある。むしろ本書は、単純に日銀批判部分を評価するとよいだろう。
 日銀批判についてはこのところ類書も目立つようになり、また批判も定型化しつつあるようには見えるが、率直なところ、経済学の素人には詰めの部分で日銀の理論をきちんと反論することは難しいように思う。本書では、日銀式テーラー・ルールをやや詳細に追っているが、経済学的な背景知識がないとなぜこのような迷路があるのかについてまでは納得しがたいだろう。
 別の言い方をすればそうした難解さの陰に日銀的な視点は大手紙社説などにも及び、卑近なところでは粗雑な「新自由主義」なるものの批判や小泉政権批判に結びつく。本書は後者の部分については端から相手にしていないが、小泉政権における金融政策は落第点だったと認めており、さらに現状の景気については、2006年から2007年における金融引き締めの問題として、リーマンショックを原因とする論を排している。
 本書を読み、内容的な理解から少し逸れるが、感慨深く思ったことは二点ある。一つは、近視眼的にはデフレは悪くないという立場も現状はそれなりに強くあり得るということだ。本書も指摘しているが、年金生活者と、公務員やしっかりした労組のある大手企業の正規職員がそれにあたる。固定的な収入のある人にとってデフレは手持ちのカネを増やしているに等しい。もちろん、少しなりとも経済の全般を見渡せばそんなメリットが吹っ飛ぶくらいのことはわかりそうなものだが、「後の千金のこと」のような政治状況がある。率直にいえば、現在の日本の内閣は年金に依存するような老人票と、労組票を当てにしているのでなかなか変革は難しいだろう。
 もう一点は、私自身の困惑である。私はどちらかといえばリバタリアンなので金融政策そのものを好まないが、それでも日本の惨状を思えばそうとも言ってられない。そこでインタゲ政策は実質的に国際的にも常識でもあり、最低限度のそうした政策は好ましいと思ってきたのだが、具体的にその数値について明確に4%以下では意味がないとする議論は、頭ではそれなりに理解できても、なかなか心情的にはついていけない部分がある。だが、そうした曖昧な弱腰の見解は結果的に日本経済の宿痾を支援しかねないのかもしれない。
 個別の例でいうなら、現在の国債金利は1.4%だが、これが5%に上がれば、国債価格は25%低下する。

 二五%くらい低下することを「暴落」というのなら、もし日本経済が本格的に回復すれば確実に「暴落」します。つまり、日本がノーマルな成長をして名目成長率が四~五%になれば、国債金利も四~五%くらいになるからです。

 もちろん、その時には、GDPも増え税収も当然上がり財政問題は消えている。そこをきちんと国民に納得させる政治は可能なのだろうか。
 そこが難問だと思う。だが、日々存在感を薄くしている菅総理や、九月にまた御輿を取り替えようと活躍される面々を見ていると、そうした難問に悩む日は来ないのだろうなと、ほっと安心してしまうダメな私がいる。

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コメント

日本を今のような日本にしているのは、果たして日銀の金融政策なのか。

私のブログにも書きましたが、半導体生産が急激に増加した1980年代には、日米韓で、インフレは沈静していたのです。デフレは、IT革命に原因があると思います。欧米もデフレは間近です。

それから、竹中さんの経済政策に言及したいですね。「政策丸投げ」(本当はそんなことないと思うけど)された竹中さんは、市場から退場すべき者たちは退場させました。だから私が失業しました。でも、これから市場で雄飛すべき人たちを手厚く迎えてはくれなかったのです。手厚くする人たちを竹中さんが間違えてしまったら、後で責任を問われるのは竹中さんだから。

そんなわけで、日本の現状に大いに責任があるのは、竹中平蔵氏です。この点も、後に自分のブログに記事にしようと思っています。

投稿: enneagram | 2010.08.14 13:02

初めてコメントさせていただきます。
国債金利上昇の可能性というのが景気回復以外あり得ない、というならいいのですが、日本国債以上に安全かつ高利回りな投資先がこの先もない、という前提になってしまわないのでしょうか。

投稿: | 2010.08.19 17:03

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 うーむ。 この書籍はAmazonから新書紹介で知っていた。買いそびれたのではなく、タイトルを見て飛びつくほどの読みたい気持ちがそそられなかったからだ。そう思っていたので、書評に興味が湧いた(参照)。... [続きを読む]

受信: 2010.08.14 14:37

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