[書評]本格折り紙―入門から上級まで(前川淳)
「本格折り紙―入門から上級まで」(参照)という書名に「本格」とあり、語感としては"authentic"もあるが、実際の内容は、総合的・包括的・体系的と言えるかもしれない。おそらくこの本が現代折り紙に関するものとしてもっとも優れた書籍だろうと思う。
![]() 本格折り紙 入門から上級まで 前川淳 |
著者自身「いわば、作品の紹介を通した、折り紙の教科書です」としているが、実際に折り紙の技術と体系が理解できるように、入門編から上級編まで階梯的に説明されている。
パズルを簡単なレベルから難関レベルに進むようにも読めるし、上級作品を作るために身につけておかなければならない基礎技術をステップごとに習得できるようにもなっている。折り紙好きの人にとっては、著者を有名にした、表紙写真にもある「悪魔」を作りたいということがあるのだろう。たしかに、これは非常に魅力的な作品だ。

とはいえ私自身はというと、そこまでの情熱はなく、折に触れて読みながら、ところどころ感心するくらいだ。個人的には、本書購入動機の一つでもあったが、江戸時代の連鶴に関心があった。連鶴は切り込みを入れた折り紙を使って、一連につながった鶴を折ったものだ。原形は、桑名・長円寺住職・義道、号は魯縞庵が考案した連鶴49種含め、秋里籬島が編集した狂歌集「秘傳千羽鶴折形」によるもので、同書は1797年(寛政九年)、京都・吉野屋為八から発行された。同書は、長く忘れられていたが1957年に吉澤章が見い出して発表し、有名になった。私が子どものころテレビ番組でなんどか見かけた。

花見車
志賀寺の上人さへも其むかし花見車の内に恋草
「清少納言智恵の板」(参照)が出版されたのは、1742年(寛保二年)であったが遊女などが同パズルを遊んでいたのは1780年代と推定されるから、連鶴の時代と重なるだろう。
「秘傳千羽鶴折形」を見ると、本書「本格折り紙」の特徴でもある設計図・展開図の発想もすでに見られ、興味深い。
本書「本格折り紙」にはその他にも興味深い作例がある。一番心惹かれたのは、入門編にある「変形折鶴」である。単に別の作り方を考案したというのではない。折り鶴を投げてて飛ぶように重心と浮力を考慮して設計されているのである。投げると、飛ぶのである。発想のきっかけとまでは書かれていないが、千葉紘子「折鶴」(参照YoutTube)の言及もある。「まだ覚えていた折鶴を今あの人の胸にとばす夕暮れどき」である。
作例はそう多くはないといいつつ十二支はさりげなく含まれているし、雛人形も美しい。実用的というのもなんだが、ティーバッッグの紙を使った立体的なトナカイの作例もある。
実際に中級くらいの作例を手順通りにきちんと作り、できあがってみると、存外に満足感があり、楽しいものある。

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コメント
連鶴の話題が出るかなあと思ったら、それが主題だった。
やっぱり、日本の折り紙というと、主役は、連鶴。
投稿: enneagram | 2010.08.01 12:55
折り紙ですか。子供の頃に作った折鶴や、騙し船、兜、奴(上半身と下半身を合体させた)、作ったあと息を吹き込んで四角い形にするやつ(名前は知りませんが両側に羽根が二枚づつ)などが懐かしく思い出されます。いったい誰に習ったのかも思い出せないのだけど、小学校にあがるまえから折鶴を折っていたような記憶がかすかにあるから、やはり母親に教えてもらったのでしょうね。
兜は新聞紙で作って実際に頭にかぶったりしていたのだけど、新聞紙で作って遊んでいたものにテッポウというのもありました。勢いよく振り回すと、パンッ、といういい音がしました。
投稿: ピンちゃん | 2010.08.01 18:50