Yahoo! Japanと米Googleの提携、雑感
日本のインターネット検索最大手Yahoo! Japanが米Googleと提携し、検索のサービスに米Googleの検索エンジン(検索処理部位)を使うことになった。最初の報道は米ダウジョーンズ・ニュースワイヤーズだったようだ(参照)。
2004年以前だが、Yahoo! JapanがGoogleの検索エンジンを採用したこともあったので、その点からすれば、さほど不思議でもない。だが、Yahoo! Japanというからには米国Yahoo!との関連があり、米Googleと対立的な関係にある米マイクロソフトによって買収が取り沙汰される米国Yahoo!という現状構図からすれば、日米のYahoo!は、対Googleの経営で逆向きの戦略を取ることになる。
また、米マイクロソフトはBingと呼ばれる検索エンジンを持っており、米Yahoo!はBingの採用を見込んでいることを考慮すると、日米のYahoo!が協調するなら、Yahoo! JapanもマイクロソフトのBingを採用するほうが自然だった。では、なぜYahoo! Japanが米Googleと提携することになったのか。いろいろ取り沙汰されている。なお、Googleの場合、日本の日本法人のグーグル株式会社は米Googleの経営指針の下にあるので、日米Googleの経営上の差はほとんどない。
今回の提携話の基本は日米Yahoo!の資本関係だ。名前の関連からYahoo! Japanは米Yahoo!の子会社のように思う人もいるかもしれないが、米Yahoo!がもつYahoo! Japanの株式は34.78%で二位であり、筆頭はソフトバンクの38.6%である。つまり、Yahoo! Japanは米Yahoo!の意向を押さえ込める。米Yahoo!を買収しようとするマイクロソフトも押さえ込めるということでもある。こうした資本関係から見るなら、今回のYahoo! Japanが米Googleと提携は何ら不思議でもないし、Yahoo! Japanの独自の経営判断ということだが、ソフトバンクの意向を酌んだ面もあるだろう。
するとここでもう一つの図式が浮かぶ。Appleと組みiPhoneを展開しているソフトバンクにとって、親Googleの戦略は何だろうか?
この構図がややこしいのは、スマートフォンの世界において、近未来、ソフトバンクが扱っているiPhoneが、Googleが提供するスマートフォン基本ソフト機アンドロイドと対立することだ。今回の提携は、ソフトバンクが敵対関係になりうる米Googleを飲み込む方向に向かっていることになる。率直に考えれば、AppleのiPhoneに依存するリスクを減らすということがあるだろう。
しかし、近未来のスマートフォン対決の布石という理由が今回の話題の主軸ではない。今回の提携はよりWebの世界に直接的な影響をもたらす。主要な理由はなにか?
私が思うのは、米Googleの検索分野での圧倒的な力への屈服だろう。一部ではマイクロソフトのBingも強力な検索機能を持っていると言われるが、実際に個別例で比べてみればわかるが、現状ではお話ならないほどBingは弱い。「グーグル秘話」をキーワードにしてGoogleとBingで検索してもその性能差は歴然とする。特に、ツイッターが盛んになってから、数分を争う最新情報の検索評価の点でGoogleにかなう存在はなくなってしまったと言える。
もう一点、具体例を挙げると、現時点の中国とGoogleの関係はどうなっているかということで「Google 中国」のキーワードで検索すると、Bingではストーリー的な意味は読み取れないが、Googleでは、その即時性と解析から、ぼんやりとしてではあるが検索結果からストーリーが結果的に浮かび上ってくる。期間を限定するとストーリーを構成する意味のクラスターも見えてくる。Googleの圧倒的な強さというか、結果的なセマンティックWebとしての強みまである。
私は、このGoogleの圧倒的な強さこそが中国に屈しなかった理由もであると考えている。中国政府による検索結果の操作を是としがたいGoogleは、今年3月に検閲を停止し、中国向けに展開しているGoogle.cnを検閲のない香港サイトGoogle.com.hkに誘導した。これに怒った中国が、中国向けの検索認可権でもあるインターネット・コンテンツ・プロバイダー(ICP)事業ライセンスを更新するかが注目されていた。Googleとしては中国が認可しないなら撤退する本気を示していた。
結果だが、ICPライセンスは更新されたので、中国がGoogleに当面折れた形になっている。ただし、Google.cnで閲覧が撤廃されたというのではなく、Googleらしいメンツも潰さないでおく程度の処置だとも言える。
それにしてもICPライセンスで揉めている間、中国向けの検索サービスは、Googleがなくても中国資本の百度があればやっていけるという観測や、米Yahoo!やマイクロソフトは中国の検閲に折れている現状もあり、中国はこれらの企業を使ってGoogleをはね飛ばすという観測もあった。
そうならなかったのは、中国の知識人がGoogleの底力を知っていたからだろう。Googleについて包括的に議論したかに見える「グーグル秘録(ケン・オーレッタ)」(参照)だが、Googleの膨大なデータセンター投資や、主要事業分野が検索であるという点までは的確に描写しているものの、このデータセンターでどのような処理をしているかという技術面のフォローはできていない。
実は、検索のための基本技術の面で、Googleはすでに圧倒的なシステムを構築している。世界の情報をいかに高速に検索するかというために、ハードウェアのレベルから独創的で徹底的な技術と資本が投入されていて、他の検索エンジンがこれに追いつくことは、ほぼ不可能な次元にまで到達している。
これだけの技術とそれがもたらすものを拒絶したら、中国といえども、世界の情報の速度と豊富さからただ排除されるだけのことになる。中国政府は冷静に技術の世界を理解したと見てよいだろう。
今回のYahoo! Japanと米Googleと提携の話に戻れば、日本国内の検索市場を単純計算すれば、従来Yahoo! Japanが担っていた58%とGoogleが担っていた38%が統合される。日本の検索市場の96%をGoogleが握ることになる。独占禁止法の問題はないか心配になるが、検索結果のビジネス利用の点で、Yahoo! JapanとGoogleが分離されるため日本の公正取引委員会は問題ないと判断している(参照)。
現状だけからすれば、検索市場においてYahoo! Japanが20ポイントもGoogleより有利なのだから、Googleに折れたような提携をしなくてもよさそうなものだが、検索技術、とくに検索精度において、Googleにすでに負けていると言ってよいし、Yahoo! Japanの収益源に関わる部分はしだいに検索以外の総合ポータルやオークションに移ってきており、これらの活用にもGoogleが便利だ。さらに、検索エンジン技術分野における対Google戦で消耗するのも避けたかったのだろう。
加えて、Googleは検索サービスをメインにしているとはいえ、「グーグル秘録」が明らかにしたようにビジネスで見れば、中抜きの広告屋であり、Googleが買収済みのダブルクリックなどから継承した広告技術も強化されているため、Yahoo! Japanとしても検索周りのWeb広告の取り次ぎをGoogleに集約したいという意味合いもあるだろう。
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コメント
『数分を争う最新情報の検索評価』という箇所について、どのくらいの重要性があるのかがいまいちぴんと来ませんでした。
株価や為替の動きなどであれば、わざわざ検索エンジンを使う局面はなさそうに思います。
私がそういう場面に疎いために余計にそう感じるのだと思いますが、個人的には、技術情報などを検索した際の結果に混入する「ノイズとしてのツイッター」に鬱陶しさを感じる場面の方が多いです。
投稿: | 2010.07.29 00:55
8行目
>日米のYhaoo!は、
Yahoo!は、
投稿: | 2010.08.09 18:05