ウィキリークスによるアフガン戦争暴露文書はしょぼそう
25日、政府や企業の内部告発を公開することで有名な「ウィキリークス」(参照)が、アフガニスタン戦争に関する米軍および米政府機密文書約9万200点中7万5000点を暴露した。これが一部ではあるが、1971年の「ペンタゴン・ペーパーズ」になぞらえて報道されている。「ペンタゴン・ペーパーズ」は、ベトナム戦争に関する米政府の機密文書で、当時ニューヨーク・タイムズに持ち込まれ暴露された。その18か月後、米政府はベトナム撤退を余儀なくされた。
今回の暴露もおそらく「ペンタゴン・ペーパーズ」のような反戦的イデオロギーの関連があるだろう。時期的に見ると、アフガン戦争の補正予算議会審議と11月の中間選挙への影響を狙ったものだろう。
今回の暴露に当たっては、ウィキリークスも兵士や関係者への危険性も配慮し、ネット公開以前にリベラルなメディアと見られるニューヨーク・タイムズ、ガーディアン、シュピーゲルの3メディアに同内容を渡しており、この間彼らは独立して可能なかぎりの検証作業も加えている。暴露時期もこれらのメディアと歩調を揃えていた。なお、1万5000点の暴露が控えられたのはたれ込み元の要請らしい。暴露の経路としては、機密情報漏洩容疑でクウェート軍事刑務所に拘束されている米情報分析員ブラッドレー・マニング(Bradley Manning)特技兵が疑われている(参照)。
暴露された内容だが、現状メディアが検証した範囲では、新事実がないわけでもないが、重要な情報が含まれているわけでもなく、概ね既知のことばかりで、「ペンタゴン・ペーパーズ」に比ぶべくもない。扱っている期間も米国ブッシュ政権下での2004年1月から2008年12月までに限定されており、オバマ政権下での同戦争の問題には直接関わらない。オバマ政権としても未知の情報はないとしている(参照)。
フィナンシャル・タイムズ「Afghanistan leaks」(参照)は内容を次のようにまとめている。
They throw more light on how the Nato military effort has killed innocent civilians.これらは、NATO軍よる無辜の民間人殺害により注視している。
They show how the Taliban has enhanced its insurgent capability.
これらは、タリバンが反対勢力を強化するようすを示している。
Above all, they indicate how the Pakistani intelligence services are playing a double game, backing the Nato effort while colluding with the Taliban.
結局のところ、これらは、パキスタン諜報機関が、NATOを支援しつつタリバンと共謀するという二枚舌を示している。
But there is little here that we did not know before.
とはいえ、我々がこうしたことを従来知らなかったわけでもない。
当のニューヨーク・タイムズも「Pakistan’s Double Game」(参照)でパキスタンの二枚舌に焦点を当てている。読んでいくと、このあたりの論調は、アフガニスタン戦に対する反戦というより、むしろパキスタンに対する強行論のように見えないこともない。
If Mr. Obama cannot persuade Islamabad to cut its ties to, and then aggressively fight, the extremists in Pakistan, there is no hope of defeating the Taliban in Afghanistan.もしオバマ氏がパキスタン政府にパキスタン内の過激派との連繋を断ち切り、強く戦うように説得できなければ、アフガニスタン戦争でタリバンを打ち負かす希望はない。
率直に言えばこの論調は、パキスタンを無政府状態に陥れかねない、かなり危険なものであり、インドや中国も巻き込んで難しい問題を引き起こす。
暴露内容がどの程度信頼性のあるものかについては、ガーディアン「Afghanistan war logs: Massive leak of secret files exposes truth of occupation」(参照)が論じているように、注意が必要になるだろう。
蚊帳の外に置かれたワシントンポスト「Wikileaks' release of classified field reports on Afghan war reveals not much」(参照)がこうした情報がもたらしかねない危険性への留意を促していることや、テレグラフ「Wikileaks' Afghan war log should not damage the war effort」(参照)も同種の懸念を表明している。
薄目で見るかぎり、今回の騒動は、ベトナム戦争神話というべきもののリバイバルが各種の類例の物語を紡ぎ出す一例のようだ。
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コメント
細かいことですが、誤植があるみたいなので
> 2009年12月まで
は
2008年12月まで
ですかね。
投稿: akira | 2010.07.30 06:54
akiraさん、ご指摘ありがとうございます。訂正しました。
投稿: finalvent | 2010.07.30 07:14
「一度目は悲劇、二度目は喜劇」
というやつでしょうか…
投稿: MUTI | 2010.07.31 23:23