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2010.07.11

[書評]地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?(久繁哲之介)

 地方都市が衰退している。象徴的なのはシャッター街だろう。かつては栄えていた中規模都市の駅前商店街はさびれてしまった。かつてそこで購入されていた商品は、郊外型の大規模ショッピングセンターに移った。かくして、地方の暮らしでは自動車が生活の必需品となり、自動車や公共交通などの移動手段がない人びとは、食料品・日常品を購入することも困難となる。歳を取って十分な生鮮食品も購入しがたく、買い物難民とも呼ばれるようになる。地域衰退の帰結のひとつだ。

cover
地域再生の罠
なぜ市民と地方は
豊かになれないのか?
久繁哲之介
 衰滅していく地域をどう再生し、活性したらよいのか? 多くの人が知恵を絞り、そしていくつかは成功したと語られている。本当だろうか。本書、「地域再生の罠 なぜ市民と地方は豊かになれないのか?(久繁哲之介)」(参照)は、まず地域再生の成功例と言われているものが、本当に成功例なのか疑っていく。
 もし、喧伝された成功例が本当に他の都市でも模倣可能な成功例であれば、それは地域再生への指針となる。だが隠蔽された失敗例であるなら、失敗例を拡散していくことになる。あるいは成功例があっても特例と言うべきものであれば、模倣は多くの失敗への道となるだろう。どうなのだろうか。
 本書は、地域再生の成功例として語られる六つの都市について、それぞれが内包する問題を主題化して、こつこつと足で稼いだ体験から検証していく。人口30万人から50万人の県庁所在地でもある、宇都宮市、松江市、長野市、福島市、岐阜市、富山市が俎上に載せられる。他にも、地域再生の視点から日本の各都市が問われ、これらは巻頭の日本地図にもまとめられている。読者は、自分が住んでいる地域の話からまず読まれてもよいかもしれない。そこで描かれてる風景は、地域の人間ならわかる独自の正確さを持っていることが理解できるはずだ。それは地元の生活者ならあたりまえのことではないかと思えることだが、しかし、その当たり前のことが書かれているだけで、独自の衝撃性を持っていることを本書は系統立てて説明している。
 地域再生に多少なりとも関わった人間であれば、この問題の難所を本書がきちんと射貫いていることも理解するだろう。本書は、そこを「土建工学者などが提案する”机上の空論”」と断じる。表舞台に出てくる役者は3者だ。地域再生関係者というプレゼンテーション業者、美しい夢を科学の装いで語る土建工学者、お役所体質の地方自治体、である。
 私の経験から粗暴に言ってしまえば、根幹は、土建そのものである。つまり、箱物であり、道路化であり、農地の転売であり、交通整理の日当である。目先の利権のネットワークが地域の権力構造と一体化していて、地域再生という振り付けを変えることなどできない現実がある。それを化粧直しをするように、地域再生の美しいプレゼンテーションで包み直し脇に補助金を添える。失敗するべくして失敗するとしか思えないとも言えるのだが、それなりにおカネが回れば地域は数年息をつくことができる。息が切れたらもう一度同じことを繰り返す。諦観と荒廃に至る。
 本書の事例は、見方によっては成功と言える中都市の事例だから、そこまでひどいことはない。それでも地元生活者から感じられる問題点はほぼ出尽くしている。若者を呼び込もうとした宇都宮市の活性化では現実の若者の感性は生かされていなかった。松江市の再生はイベント頼みで本当に地域に潜む宝(Rubyとか)を生かし切れない。長野市は観光客指向のあまり地元民の生活との接点を失った。福島市はオヤジ視点のあまり地元の若者や女性の視点を持つことができなかった。岐阜市・富山市はお役所体質からコンパクトシティを目指し、市民の居住空間の常識を壊した。どれもディテールの挿話は表層的に見れば笑話でもあるが、実態を多少なり知る人間にとっては悲劇でしかない。
 どうしたらよいのか? 本書は後半三分の一で、筆者の経験則からではあるが、市民と地域が豊かになる「7つのビジョン」をまとめ、そこからさらに具体的な提言を3点導き出し、1章ずつ充てている。言い方は悪いが、「使える」提言だ。(1)食のB級グルメ・ブランド化をスローフードに進化させる、(2)街中の低未利用地に交流を促すスポーツクラブを創る、(3)公的支援は交流を促す公益空間に集中する。
 そして本書は閉じられる。これで地域再生は可能になるだろうか。読後、私が思ったのは、この「使える」提言を「使う」ためには、地域コミュニティーが生き返ることが前提になるだろうということだ。それは鶏と卵のような循環になっている。提言が目指すものこそ、地域コミュニティーの再生だからだ。もう一点思ったのは、本書が言及していないわけではないのだが、この難問には地域における若者と高齢者の再結合が問われていることだ。地域の若者の現実的なニーズと高齢者のニーズをどう調和させるか。そしてその二者の背景にある巨大な失業の構造はどうするのか。問題の根は深い。
 それでも、地域再生という名の幻影を本書で吹き消すことは、本当の地域再生への第一歩となることは間違いない。

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コメント

逆に、なぜ東京一極集中になるのか?という問いを立てるとよいかもしれません。

結局、東京には巨大なマーケットがあるからだろうと思います。

地方に、東京に売り込む高付加価値資源、高付加価値商品がたくさんあれば、地方の人は東京に必要なときしか出てこなくなるだろうと思います。

海洋開発技術がもっと進歩して、大陸棚の資源や海底資源をいまよりはるかに自由に有効利用できる時代になれば、日本でもっとも豊かな自治体は、北海道と沖縄ということになるとおもいます。そうできない限り、申し訳ないけれど、北海道と沖縄はいつまでも東京からの持ち出しで息をつくしかないだろうと思います。

投稿: enneagram | 2010.07.11 12:51

その再結合が一番難しいです。地域からその再結合をしていかなければいけないというのはその地域以上に日本社会にとって大きな意味を持つんでしょうが、なかなか地域社会の支持を得られるまでにはならない感じです。

やっぱり若い人たちのニーズであるはずの経済や産業がないんですよね…。ないというか日本の戦後に消えてしまったというか。

まあ、今後はあからさまに補助金も減って嫌でも経済や産業を育てなきゃならなくなります。その時に、コミュニティの再結合が社会的にクローズアップしてくる事を祈ります。

所詮前提条件がそろうだけですから、その後は悲壮な覚悟に裏打ちされた厳しい消耗戦が始まるだけかもしれませんが。

投稿: maxim | 2010.07.12 02:45

『地域再生の罠』は私も拝読しました。筆者が足で稼いだ情報に、貴重な経験談も加わって、かなり説得力があります。

一点だけ述べます。
仮に著者のプランがうまくいき、地域の若者が街中に戻るようになったあとのことですが・・・、
店主の「おやじ」たちが調子にのって(客であるはずの)若者に手前勝手な説教をしたり、過剰な干渉をすると、もうその店には若者は来なくなると思います。あるいは女性客に「おやじ目線」を浴びせるとやはり敬遠されると思います。(閑古鳥店特有の、客への甘えですね・・・。)

そのあたりの心性を織り込んで、地域再生も行えば、暮らしやすくなると思います。

投稿: Macius | 2010.07.25 11:05

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