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2010.06.17

キルギス南部民族衝突の背景

 10日夜、キルギス南部オシから発生したキルギス系住民とウズベク系住民の民族衝突は、その後13日、同じく南部でオシとも近いジャラルアバドにも拡大し、深刻な人道被害をもたらすようになった。死者数は200人程度との発表や700人を超えるという発表もあり、真相はわからない。16日に、ようやく人道支援物資を積んだロシア非常事態省の航空機が首都ビシケクに入り、人道支援が開始されようとしている(参照
 この騒動は何か? 「キルギス、バキエフ政権崩壊、雑感: 極東ブログ」(参照)でも触れたように、バキエフ前大統領は南部に逃走し、さらにベラルーシへ亡命した。バキエフ政権崩壊後の現状は臨時政府がキルギスを統治しているのだが、政権側は今回の騒動をバキエフ氏側の活動によるものと見ている。16日付け朝日新聞「バキエフ氏派、騒乱関与を供述 キルギス臨時政府が発表」(参照)より。


臨時政府は、騒乱を組織した疑いで逮捕したバキエフ前大統領支持者が、容疑を認める供述を始めたと発表した。


また、騒乱の現場に外国の雇い兵や狙撃手がいたとの情報から、「背後に外部勢力が関与している」との見方を示した。

 キルギス国外にいるバキエフ氏の次男マキシム氏の関与も疑われている。16日付け毎日新聞「キルギス:民族衝突 ウズベク、難民受け入れを停止 死者178人に」(参照)より。

一方、キルギス臨時政府は14日、バキエフ前大統領の次男マキシム氏が英国で逮捕されたことを明らかにした。臨時政府は、マキシム氏が民族衝突をあおるために資金提供していたと見ており、責任追及する方針だ。同氏は、ロシアからの融資を横領した疑いを持たれている。

 日本国内の報道でマキシム氏について言及しているのはこの毎日新聞記事のみようだが、16日付け英国インデペンデント「Kyrgyzstan tells Britain to hand over Bakiyev's son」(参照)は亡命の関係国と目されていることもからも、もう少し詳しく掘り下げている。が、マキシム氏の争乱との関与が明確になっているとは言えない。
 キルギスの争乱は、バキエフ氏側の活動によるもだろうか?
 状況から考えてその線が濃いだろうと思われてもしかたがない。
 ロシア問題に詳しい石川一洋NHK解説委員は、バキエフ氏側の示唆はないものの、争乱は民族的な対立から自然発生したのではなく、外部の要因が強いのではないかと見ていた。時論公論「緊迫するキルギス情勢」(参照)より。

 一つはウズベク人の多く住む地域を襲った集団が、単なる暴徒ではなくカラシニコフなどで武装し、組織された集団だったということです。治安部隊や消火にきた消防隊も銃撃され死者が出たと伝えられ、また軍の駐屯地も襲われています。またオシに治安部隊や軍隊が入ると、武装した集団がジャララバードに移動し、再び襲撃を繰り返しています。
 もう一つは暴動の起きたタイミングです。暴力革命によって成立した暫定政権では今月27日に新憲法の承認を問う国民投票を実施することにしていました。新憲法の承認で新政権の正当性を獲得しようとしたのです。
 そして11日には隣国ウズベキスタンでロシア、中国、中央アジア諸国の加盟する上海協力機構の首脳会議が開かれ、キルギスへの支援を協議していました。
 暴動は、暫定政府に対する国際的な信用を失墜させるとともに、国民投票の実施も危ういものとすることになりました。
 
私は、今回の暴動の背後にはキルギスの不安定化によって利益を得る何らかの政治的な集団、あるいは犯罪組織がいる可能性は排除できないと見ています。

 石川解説委員はここまでの言及に留めている。
 しかし、インデペンデント紙でも暫定政府の見立てを伝えているが、今回の騒動はバキエフ氏側の活動と見るのが一番シンプルな読みだろう。騒動によって新憲法承認を阻止するということだろう。
 難しいのは、上海協力機構に泥を塗ることがが国際的にどの程度の意味合いがあるかということだ。もう少し明確に言えば、ロシアと米英の立ち位置はどうなっているかだ。
 ロシアはすでに人道支援に乗り出したが、ある意味で遅い対応であった。1990年、ソ連時代に同地域での同種の民族間暴動に軍を出動した経験は、困難さを意味していたのかもしれない。しかし、今回のロシアの動向は概ね妥当な対応と見てよさそうだ。 旧ソ連のロシアを中心にした6共和国間で結ばれた集団安全条約機構(CSTO)を重視しているのもその現れである。
 米英の西側としてはロシアへの不信はある。だが、フィナンシャルタイムズ「Kyrgyz dilemma」(参照)が論じるように、ロシアを牽制しつつもロシアに対応を頼む以外はないだろう。牽制というのは、キルギスに対するロシアの政治的な力の拡大を恐れてのことだ。
 陰謀論にもっとも近い筋の読みは、そもそもチューリップ革命と呼ばれるバキエフ政権に西側勢力が関わっていたとする線から、今回も同種の線上にあるとするものだが、現状のロシア依存の状況からすれば、その読みは無理だろう。
 では、やはりバキエフ氏側の活動なのか。先のフィナンシャルタイムズは、国際テロとの関連も示唆している。

Islamist militants shelter in the fertile Fergana Valley, whose upper reaches Kyrgyzstan controls. It sits astride a key drug trafficking route. And Kyrgyzstan hosts the US base at Manas, vital to Nato operations in Afghanistan.

イスラム教戦闘員拠点がフェルガナ盆地にあるが、キルギスタンが統治しているのはその北部である。ここは主要な麻薬取引ルートを挟む地域でもある。また、キルギスタンのマナスには米軍基地があり、アフガニスタンにおえるNATO作戦の要所である。


 フィナンシャルタイムズはこの筋を強く押しているわけではない。だが、フェルガナ盆地の特異性からするとこの線の関与はありそうに思える。

 なお、同地におけるキルギス系住民とウズベク系の対立は根深く、その背景はニューズウィーク記事「キルギスで民族間衝突が起きるワケ」(参照)に詳しい。

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コメント

あんまり話題にならないことだけれど、キルギスやウズベクのあたりの部族の汗(ハーン)のなかには、清朝の雍正帝や乾隆帝の時代に清朝と貿易をしたいがために清朝に名目上朝貢していた汗(ハーン)が何人もいたそうです。これは、マレー半島やタイの沿海部の部族の酋長たちも同じで、清朝と貿易したくて名目上朝貢をしていた酋長たちがある程度いたそうです。

だから、中央アジアやインドシナ半島は、中国がいろいろ介入する口実を作りやすい(あくまでも中国だけに通用する論理で、ですが)場所なので、ロシアはそれをよく知っていて、それでこの地域との関係が疎遠になるのを恐れているということは多分にあると思います。

中央アジアやインドシナ半島の民族問題は、ヨーロッパ人が作り出した問題がほとんどでしょうが、根を探っていくと、清朝との朝貢関係の有無までさかのぼれるような話もいくつもあるのではないかと思われます。

投稿: enneagram | 2010.06.17 09:52

「キルギス、バキエフ政権崩壊、雑感: 極東ブログ」へのリンクがデッドリンクとなっています。

投稿: | 2010.06.17 10:29

>私は、今回の暴動の背後にはキルギスの不安定化によって利益を得る何らかの政治的な集団、あるいは犯罪組織がいる可能性は排除できないと見ています。
というような冷静な判断をタイに対してはなぜしないのだろうかと思います.'なぜ出来ない'ではなく.

投稿: KI | 2010.06.17 10:47

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