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2010.06.23

イラン発ガザ支援船阻止に米軍が動いたのか?

 ツイッターのタイムラインを見ていたら、なんだろこれという話があった。イラン発ガザ支援船阻止に米軍が動き、緊張が高まっているというのだ。
 どういう詳細なんだろうかと思って、ツイート元にニュースソースを訊いてみた(参照)。


ソース? “@takapapacom: イランのGaza支援船を阻止しようとするイスラエルと米国の戦艦が紅海に向かったそうな。スエズ運河を通ることをエジプトが認めたと。緊張が高まっています。”

 ちなみにこのツイートの反応例(参照)はこんな感じだった。

ガザの人々はイスラエルの蛮行に対し、砂をかんで、非暴力による抵抗を続けている。彼らを利用して、戦争のきっかけを作るな! takapapacom イランのGaza支援船を阻止しようとするイスラエルと米国の戦艦が紅海に向かったそうな。スエズ運河を通ることをエジプトが認めたと。

 戦争のきっかけを作るなというメッセージは、イランに向けてのこと米国か、はたまエジプトかそれらのコンビネーションかよくわからない。
 ところで、ニュースソースについては回答をもらった(参照)。

Showdown in the Red Sea: U.S. Sends 11 Warships to Confront Iran. http://bit.ly/9L0e4Z RT @finalvent: ソース? “@takapapacom: イランのGaza支援船を阻止

 該当ソースを読んでみると、ブログのエントリで、実際のニュース・ソースとしてはエントリ内にある、20日付けイスラエルArutz Sheva紙「US, Israel Warships in Suez May Be Prelude to Faceoff with Iran」(参照)だったので、謝辞と確認を返信したら、感嘆符が返されたのだが、その意図まではわからなかった。

!RT @finalvent: @takapapacom ありがとう。ソース的にはこちらですね。http://bit.ly/brcjsL

 さて、そのニュースソースなのだが、記事に言及があるように、"according to the British-based Arabic language newspaper Al Quds al-Arabi"、英国拠点のアラビア語新聞"Al Quds al-Arabi"によるらしい。つまり、ツイート情報は孫引きの孫引き情報のようでオリジナルがよくわからない。
 イスラエル政府からのイラン支援阻止話はエジプト政府が否定しているともあるのは多少気になるが、該当記事には米軍についての報道も書かれていない。
 真相はどういうことなのだろうかと疑問に思っていた。
 背景となるイラン発ガザ支援船の話は嘘ではない。15日付け朝日新聞記事「ガザ支援船、19日か20日に出航へ イラン赤新月社」(参照)でも報じていた。

イラン赤新月社(赤十字に相当)は15日、イスラエルが封鎖するパレスチナ自治区ガザへの支援船2隻を19日か20日にイラン南部バンダルアッバスから出航させると発表した。
 報道担当者によると、船は紅海からスエズ運河を経由する「通常の航路」でガザに向かうという。エジプト政府がスエズ通過を拒んだ場合は「別の航路を使う」としているが、どこかは明言しなかった。
 イスラエルはガザへの支援船を阻止する姿勢を堅持しており、イランが強行すれば対立関係にある両国の緊張が高まるのは必至だ。

 いかにも緊張が高まりそうな朝日新聞の記事だが、国際的にはそれほど重視されていなかった。日本版ニューズウィーク6.30号SCOPE記事が同じ問題に言及しているが、イランはむしろ挑発していないし、イラン海軍は弱体すぎてそもそも軍事的な脅威ともなりえない。

 欧米の政府当局者の話では、支援船の護衛にイラン海軍の艦船が出動する動きはない。ある当局者によると、いずれにせよイラン軍では海軍がもっとも弱体で、自国の領海から離れた海域で作成行動を取る能力は皆無に等しい。

 さらに、のろのろ進んでいるので監視も阻止も難しいものではない。
 こんなものに米海軍が動くだろうか?
 疑問に思っているとイラン側から興味深いアナウンスが出た。22日付けFOX「Iran to send blockade-busting ship to Gaza, Israeli commandos train for confrontation」(参照)である。イラン海軍が封鎖突破のための支援船も出すというのだ。
 それでもたいした話にはならないのではないかと見ていくと、22日付けNewsweekのMark Hosenball氏寄稿「U.S. Naval Movements Unrelated to Iran's Purported Gaza Stunt」(参照)が米軍の動きについてあっさりと関連なしと記事にしていた。

Obama administration and European officials suggest that fears of a possible looming naval confrontation between the large American fleet and any Iranian boat headed for Gaza are greatly exaggerated.

オバマ政権と欧州当局者は、米艦隊とガザ向けのイラン船の間の対立が迫ることについて誇張しすぎていると示唆している。

On Monday, the Pentagon distributed an announcement by the U.S. naval command covering the region confirming that a carrier strike group, headed by the aircraft carrier Harry S. Truman, had successfully transited the Suez Canal on June 18.

月曜日、米国国防総省はこの海域の海軍命令を公開したが、それによると、6月18日、航空母艦、ハリーS.トルーマンを先頭に母艦団がスエズ運河を成功裏に通過した。

But the announcement characterized the naval movement as normal. It said that the carrier group was "relieving the Dwight D. Eisenhower [carrier group] as part of a routine rotation of forces during a scheduled deployment" in support of various ongoing American and allied military operations in the region.

しかし、この発表は米海軍の恒例である。母艦団はドワイトD.アイゼンハワー救援として、予定された配備期間の通常業務の一部であるとも発表されている。この業務には、この海域で進行中の米軍および同盟国作戦の支援も行っている。


 軍側の発表までは手繰れなかったが、記事の内容は正しいだろう。つまり、米国としては、ただの噂や思惑の話に対応するわけにもいかなかったのだろう。
 結局、米海軍のスエズ運河通過はあったにせよ、またそれが米軍と同盟国軍の軍事的な示威といった含みはあるにせよ、対イランないしガザ問題の含みはないと見てよさそうだ。

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