さらにその後のグアンタナモ収容所
前回関連のエントリ「その後のグアンタナモ収容所」(参照)を書いてから一年も経っていないが、さらにその後のグアンタナモ収容所はどうなっているだろうか。少し動きがあったので、忘れないうちにメモ書きしておきたい。
昨年のエントリで私はこう書いた。
グアンタナモ収容所問題は日本に関係ないと見なされているのか、あるいはオバマ大統領の公約について日本で報道された後は、その通り閉鎖されてしまったと思われているのか、その後の経緯はなかなか日本では報道されないが、アムネスティの勝利が確実になるように、今後の動向を見続けていたい。
さらにその後だが、あまり日本では報道されていない。ブッシュ政権下ではあれほど報道されていたのに、しかもオバマ大統領はグアンタナモ収容所閉鎖を公約としていたのに、その後どうなったのだろうか。
私は見なかったのだが、5月17日TBSニュースバード「ニュースの視点」と「グアンタナモ・ダイアリー」が取り上げられたらしい。関連のWebページ「グアンタナモ・ダイアリー(余聞)」(参照)にはこうある。
オバマ政権で比較的筋を通すことではブッシュ時代の司法長官とは一線を画していたエリック・ホルダー長官までもが、タイムズスクエア事件のあと、テロ容疑者には「ミランダ・ライツ」(黙秘権や証言拒否の権利、弁護人選定の権利)の告知を制限してもいい、などと言い出す始末だ。
グアンタナモ収容所という存在自体が、テロ行為や自爆攻撃を「再生産」しているのではないか、という自分たち自身を見つめる視点は、そこにはない。
というわけで、「自分たち自身を見つめる視点」がどうなっているのか。
日本国内の報道はほとんどないが、この間、少し動きがあった。29日付けVAO「US Report Outlines Fates of Guantanamo Bay Prisoners」(参照)が読みやすい。
A U.S. government report says most of the people held at the military prison in Guantanamo Bay, Cuba when President Barack Obama took office were low level fighters, not terrorist leaders or operatives involved in plots against the U.S.米国政府調査書によれば、オバマ大統領就任時にグアンタナモ収容所に収容された軍囚人は低レベルの戦闘員であり、米国に対してするテロ指導者でもなく工作員でもないとしている。
The Washington Post's website on Friday published the report, which was ordered by Mr. Obama as a step toward closing the Guantanamo prison.
金曜日のワシントンポスト紙のWebサイトによると、これはグアンタナモ収容所閉鎖に向けたオバマ大統領の一歩であるとしていた。
VOA記事には明記されていないが、該当のワシントンポスト紙Webページは「Most Guantanamo detainees low-level fighters, task force report says」(参照)のようだ。
それを読むと、なるほどオバマ大統領は着々と公約を実現しつつあるという印象を持つ。だが、そうでもないという論評はすでにワシントンポスト紙のコラムニスト、マーク・シーセン(Marc A. Thiessen)氏が指摘している。「Where are the Gitmo goatherds?」(参照)がそれだ。
彼の指摘だと、低レベルの戦闘員とはいえその内実を見ると、テロに荷担すると見なされる人の数は少なくない。
In other words, 95 percent of those held at Guantanamo are confirmed terrorists.言い換えれば、グアンタナモ収容所内の95パーセントはテロリスト確信犯である。
どういうことなのだろうか。
Well, if that was the real news, why wasn't the Obama administration trumpeting the results from the rooftops? Why did they leak the report on the Friday before Memorial Day weekend, when the White House typically tries to bury bad news?まあ、もしこれが本当にニュースだというなら、なぜオバマ政権は屋根に上って勝利宣言をしないのか? なぜ政府は、この報告を戦没将兵追悼記念日前の金曜日にリークして来たのか?
Because the report is bad news for the Obama administration and its allies on the left.
理由は、この調査書はオバマ政権とその賛同左派にとって悪報だからである。
マーク氏はこのあと、「だからチェイニー氏が正しかった(For one thing, it means Liz Cheney was right)」と論じていくのだが、問題は実態である。現実のところ、グアンタナモ収容所は閉鎖されるのかということだ。
今回のワシントンポスト紙のリークの直前になるのではないかと思うが、この問題は社説「Politics and fear-mongering keep Guantanamo open」(参照)でも扱われていた。オバマ大統領のグアンタナモ収容所閉鎖公約について。
Such failure seemed unlikely; after all, the president would have four years to close the notorious prison -- a goal shared by his Republican predecessor. Failure does not seem as far-fetched now, because of administration missteps and Congress's crass politicization of the issue.公約の失敗はなさそうに見えた。最終的に、任期の4年掛けて悪名高い収容所を閉鎖するものと見られていた。この最終点については、共和党政権でも同じだったものだ。ところが、オバマ政権の失態はもはやこじつけではない。オバマ政権は失策し、議会は愚かな政治問題にしてしまったからだ。
議会がこうした話題を政治問題化するのは、ある意味でしかたがない。日本でも普天間飛行場の撤去問題が政局になってしまっているのを見れば納得しやすい。
問題はオバマ政権の失態とは何かだ。このブログの以前のエントリで示したドタバタの継続があったのち、こう展開していた。
Meanwhile, the administration undercut its argument for civilian trials by bungling the logistics and politics in the case of Sept. 11 mastermind Khalid Sheik Mohammed; the Justice Department backed, then backed off of, a New York City trial, and has failed to announce when and where Mr. Mohammed will be tried.この間、オバマ政権は、セプテンバー・イレブンの主犯ハリド・シェイク・モハメドを一般法廷で裁判に掛けるという議論を、根回しと政策の不手際からダメにした。司法省はニューヨークの連邦地裁差し戻し撤回し、いつどこでモハメド氏の裁判を開く広報に失敗した。
この話題は2月に国内報道もあった。産経新聞「9・11裁判でオバマ政権“迷走” 主犯格「NYで裁判」一転、軍事法廷「排除せず」」(参照)より。
米中枢同時テロ(9・11)の起案者とされるハリド・シェイク・モハメド容疑者らの裁判をめぐり、オバマ米政権が“迷走”の色を深めている。ニューヨークの連邦地裁で公判を開廷する方針から一転し、当初は否定的だった軍事法廷で審理する可能性にも言及し始めた。テロリストを一般法廷で裁くことへの野党や国民の批判の高まりなどが背景にあるが、軍事法廷での審理はオバマ政権が掲げる「透明性」の自己否定ともなりかねず、大統領は苦しい判断を迫られている。
一般法廷では不採用となる証拠類も軍事法廷では場合によって採用が可能なほか、一般法廷のような公開義務もないため、国家のダメージを最小限に抑えられるメリットもある。
ただ、こうした不透明な訴追手続きは、グアンタナモの収容施設の閉鎖方針に代表されるように、対テロ対策で透明性や公平性の確立を目指す政権の方針に逆行する動きになりかねない。オバマ大統領は今後数週間で、決断を下すものとみられている。
先のワシントンポスト紙社説に戻ると、どうやらその決断は下せていないようだ。
結局、どうなるのだろうか? 鳩山由紀夫首相のような嘘でごまかすわけにもいかない。問題解決の条件は、はっきりしている。
The administration also has failed to work aggressively to establish a legal framework to authorize and govern the indefinite detention of some who may be too dangerous to release but who cannot be put on trial. So Guantanamo Bay lives on.危険すぎて釈放できず、しかも裁判にも掛けられない容疑者の無際限拘留を認可し統制するための法的枠組みを精力的に作成することにオバマ政権は失敗している。だから、グアンタナモ収容所が存続しつづけている。
つまり、グアンタナモ収容所撤去というのは、ただ撤去すればよいという単純な問題ではない。
単純ではない国家的難問を現実を無視した理想で突っ走って、そのツケを国民に回すのが好きな人びととして愚かな政治家の殿堂入りを果たした鳩山由紀夫氏の横に、仲良くバラク・オバマ氏を並べるのは3年後のことになるかもしれない。見守っていきたい。
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コメント
「悪報は避けておきたい、」-逆ではないでしょうか。
メモリアルデーの3連休でジャーナリストが休んでしまい、ニュースがほとんど止ってしまうので叩かれる必要がないため、政府にとり都合の悪いニュースを金曜日にさらっと流すのでは。
投稿: | 2010.06.01 19:13
ご指摘ありがとうございます。了解しました。本文に訂正を加えました。
投稿: finalvent | 2010.06.01 19:43