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2010.06.10

トルコの対イスラエル政策は変わったのか

 少し話は込み入っている。要点は、トルコの対イスラエル政策は変わったのかということだが、トルコとイランの関係がまず問われるので、その最新の動向から言及しておく。
 日本時間10日未明に行われた国連安全保障理事会公式会合で、イラン制裁決議が賛成12、反対2、棄権1で採択された。反対・棄権というと中露を想定してしまいがちだが、すでに報道されているとおり、反対はトルコとブラジルで、棄権はレバノンである。レバノンの棄権については背景を考えれば理解できないことはない。
 問題はトルコとブラジルの反対だが、これには前段がある。両国はイランが精製した低濃縮ウラン1.2トンを隣国のトルコに一時的に移し、核兵器に転用しにくい燃料棒と交換する計画を出している。制裁よりも現下のウランの対処が好ましいという考えだ。イランもこれに賛成している(参照)。逆な見方をすれば、そのような平和的仲介に、米露を含めた国際社会がノーを突きつけたという構図である。
 端的に言えば、ブラジルの独自な中立的スタンスを除外すると(おそらブラジルはく中国パワーの図柄を読み込んでいるのだろう)、いわゆる国際社会がトルコとイランのありかたに疑念を持っているということでもある。
 なぜ、トルコはイランに助け船を出したのか? 単純な答えは、トルコのイスラム国としての感情的なナショナリズムの表明のようなものだろう。背景にイランからトルコへのコネクションがあるといった陰謀論的なスジで考えても、トルコ国民の感情は理解できない。
 この問題が錯綜するのは、当然ながら、先日のイスラエルによるガザ支援船攻撃の問題が関係しているからだ。この支援船は主にトルコが出したものだと言ってよいくらいだ。
 トルコは、反イスラエルに舵を切ったのだろうか。言うまでもなく、従来は湾岸戦争の時代から顕著だが、トルコは西側諸国に対して親和的な政策であったのだが、ここに来て転換しているようにも見える(参照)。
 以上を踏まえて、一昨日のエントリ「ガザ支援船攻撃の背景と米国報道: 極東ブログ」(参照)で、ガザ支援船の背景と米側報道に触れたが、もう少し掘り下げてみたい。
 支援船組織IHHがテロ組織に関与しているかはわからない。概ね関与していないのではないかと見てよさそうだし、米国としては関与していると判断してもそうではないかのごとく振る舞うのが現下の外向的なスタンスのようだが、米国内イスラエルロビーの動きは報道に影響を与えているのかもしれない。しかし、この点について追っても、それほどイスラエル支援といった動向は見えない。代わりに、反トルコの論調が浮き立っている。
 前回のエントリで触れた、5日付けワシントンポスト紙社説「Turkey's Erdogan bears responsibility in flotilla fiasco」(参照)の論点はむしろ対トルコにある。


Mr. Erdogan's crude attempt to exploit the incident comes only a couple of weeks after he joined Brazil's president in linking arms with Mr. Ahmadinejad, whom he is assisting in an effort to block new U.N. sanctions.

今回の事件に対するエルドアン氏の粗暴な対応の数週間前になるが、彼はブラジル大統領と一緒にイランのアフマディネジャド氏と手を組み、新たな国連制裁を阻止しようと支援していた。

What's remarkable about his turn toward extremism is that it comes after more than a year of assiduous courting by the Obama administration, which, among other things, has overlooked his antidemocratic behavior at home, helped him combat the Kurdish PKK and catered to Turkish sensitivities about the Armenian genocide.

エルドアン氏の極論への転換で注目すべきことは、オバマ政権のたゆみない1年間の折衝の後に来たことだ。オバマ政権は、些事に目をつぶり、トルコ内の非民主主義動向を見逃し、クルド労働者党(PKK)への戦闘まで支援し、アルメニア人ジェノサイドという民族感情に触れる問題も看過していた。

Israel is suffering the consequences of its misjudgments and disregard of U.S. interests. Will Mr. Erdogan's behavior be without cost?

イスラエルは今回の判断ミスと米国国益の軽視から苦悶している。なのに、エルドアン氏の今回の行動になんの酬いもないのか。


 ワシントンポスト紙はトルコにぶっちぎれという状態である。しかも、間接的にオバマにぶっちぎれも表現されている。余談だが、それに比べればルーピー鳩山など食事会でふんと鼻であしらっておけば済む問題でもあった。
 日本の米国観は単純極まりないので、ワシントンポスト紙のこうした動向をタカ派なり共和党的な動向に結びつけがちだが、関連のニューズウィークの論調は異なる。「Who’s Afraid of Turkey?」(参照)が典型的である。トルコの親イスラム傾向に対して。

But just as Turkey is starting to look more assertively pro-Islamist than ever, there are signs that a big internal shift may reshape Turkish politics and redirect its foreign policy back toward the West.

トルコが従来より親イスラム主義に見えつつあるものの、国内的には、トルコ政治と西側諸国に対する外交政策で変化の大きな兆候もある。


 変化の兆候は、ケマル主義の共和人民党の変化だ。同記事ではこれを新ケマル主義としている。
  ケマル主義は、政教分離を進めてきた建国の父、ムスタファ・ケマルの理想を継ぐ考えかたで、これに基づいてトルコは西洋的な世俗国家としてしてきた。しかし、近年、イスラム教的な色合いの濃い公正発展党(AKP)が大衆の支持を受け、同党からエルドアン首相が選ばれている。こうしたなか、新ケマル主義は、従来のケマル主義の問題点を克服しつつ、西洋型の世俗国家を求めていく運動だ。同記事はその新ケマル主義においてトルコのイスラム傾倒からの引き返しを期待している。
 ただし現実は、この記事の期待的な論調とは異なり、共和人民党もガザ支援船攻撃については強行な反発もしている。国内ナショナリズムへの配慮だろう。興味深いことに、エルドアン氏の親イラン政策も国内政治向けのナショナリズムのポーズである可能性もある。
 全体構図としてはどういうことなのか?
 私はトルコの現状は、反イスラエルなり親イランというよりも、反米・反欧米的な排除スタンスによるナショナリズム高揚の過渡期的な現象ではないかと思う。
 もちろん、そこから近未来に西洋型民主主義に近い安定を得るかというと難しいだろう。なにしろ、トルコより民主化していたはずの日本においてもいまだ反米・反欧米的な排除スタンスによるナショナリズムが高揚しているからだ。
 イスラエルというある種、アナクロニズム的なナショナリズムの側面を持つ国家が、その国家保全のために繰り出す非国際的な活動によって、各国の反米・反欧米的ナショナリズムがあぶりされるというのは、ここに新しい歴史の分水嶺が求められている兆候でもあるのだろう。それが何かということは難しい。オバマ政権の外交が忍耐強いのか、愚図なだけなのか、外面からはわからないように。

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コメント

親日的なマレーシア、インドネシア、バングラディシュそして、あえて付け加えればほとんど親日的といえるパキスタンみたいな国とイランより西側の、イスラエルに対峙するイスラム諸国(ただし、サウジアラビアなど産油国は除く)とでは、アメリカやイランに対する関係が、おそらく微妙に異なるみたいですね。

別に、日本は、親日的なイスラム諸国に米国よりの態度をとってくれとも頼んでないだろうし、そんな活動もしてないと思うし、そんな活動するほど気も回らなければ、そんな活動をしても賛同を得られるほど影響力も行使できないと思うけれど、なんとなく、ギリシャ文化の影響の大きいイスラム圏と、インド文化の影響の大きいイスラム圏で、イスラエル問題の足並みがそろわなくなっているようなこともあるのかなと思いました。

それでも、クリントン国務長官がインドネシアやマレーシアに行くと民衆にひどく非難されていますから、日本が、イスラム諸国を股裂きにすることなど、まず無理でしょうが、イスラム諸国との外交は、日本が米国の同盟国であるというバイアスがかかった上での友好関係の構築である、ということは、腑に落としておくべきだと思いました。

投稿: enneagram | 2010.06.10 11:08

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