親指の規則(rule of thumb)
英語に"Rule of thumb"(ルール・オブ・サム)という慣用句がある。直訳すると、「親指の規則」になるが、慣用句としての意味は、「経験則」ということ。よく使う慣用句らしく、ニュース検索しても出てくる(参照)。
As a general rule of thumb, many of Prague’s higher-end restaurants, like Le Degustation and V Zatisi, are nonsmoking. An exception is the well-known upscale riverfront restaurant, Kampa Park, which has a smoking section.一般的な経験則として、"Le Degustation"や"V Zatisi"のようなプラハの高級レストランの多くは禁煙。例外は有名な超高級レストラン"Kampa Park"で、喫煙室がある。
ほかにもマクリスタル前司令官の報道を巡るFOXニュースの対談(参照)にこういうのもある。
GOLDBERG: I'll tell you what my rule of thumb is. My rule of thumb is that if I do any piece and I know it's going to be, you know, something that the person I'm interviewing may not like, I still want to be able to watch that piece on television sitting in the same room with that person.
O'REILLY: With the person. Right.
GOLDBERG: They could turn to me and say, "I didn't like the piece but it was fair." So that's my rule of thumb.
口語でよくわからないところあるが、報道人たるものインタビューを切り貼りするなら、こそこそしない覚悟をもて、それが「俺のやり方」という意味で、"Rule of thumb"に"my"を付けて言っている。
"rule of thumb"を英辞郎を引くとこうある(参照)。
1. rule of thumb
〔よく使う〕おおまかなやり方◆正確ではないが実用になる方法を指す。◆【語源】きこりが長さを測るのに、親指を使ったことからと考えられている。しかし、妻を殴るのに許容されていた板の厚さが、親指の太さまでであったからという説もある。
2. 経験則
・As a rule of thumb, Japan is efficient in manufacturing, but quite the contrary when it comes to distribution. : 経験からいって、日本は製造に関しては効率的だが、こと流通となるとその逆です。
説明を見ると曖昧で混乱している印象もある。英辞郎は辞書の専門家が作ったものではないので、いろんなところから情報を見つけて適当にまとめたものだろう。
そうなってしまうのも、英語ネイティブも"rule of thumb"という表現にこだわっていろいろ議論をしているからだ。そのようすは、Wikipediaの同項目から窺える(参照)。語源ははっきりしていないらしい。
Origin of the phrase
The exact origin of the phrase is uncertain: either it is derived from the use of the thumb as a measurement device ("rule"), or it is derived from use of the thumb in a number of apocryphal "rules" (law, principle, regulation, or maxim).この句の正確な語源はわからない。親指を測定具として使ったのか、根拠不明の法則や原理によるのかもわからない。
語源はわからないのだが、面白いのは、"rule"について、「定規」として見るか、「法則」としてみるかで、いろいろイマジネーションがわいてしまうようだ。特に、後者については、"rule of law(法の支配)"、"law of nature(自然の法則)"、"rule of inheritance(遺伝の法則)"というフレーズの連想が働くのだろう。
英辞郎では、「きこりが長さを測るのに、親指を使った」と書いているがこれはWikipediaにもある。
語源としては、Wikipediaにもあるように、印欧語の関連から考えるのが妥当だろう。親指の幅を1インチとしたとして。
This sense of thumb as a unit of measure also appears in Dutch, in which the word for thumb, duim, also means inch.計測の単位としての親指という意味はオランダ語にもある、そこでは"duim"はインチを意味している。
ということで、これが印欧語に広がっていると指摘している。
The use of a single word or cognate for "inch" and "thumb" is common in many other Indo-European languages, for example, French: pouce inch/thumb; Italian: pollice inch/thumb; Spanish: pulgada inch, pulgar thumb; Portuguese: polegada inch, polegar thumb; Swedish: tum inch, tumme thumb; Sanskrit: angulam inch, anguli finger; Slovak: palec inch/thumb.
サンスクリットまで広がっているので、親指幅の計測はかなり古代に遡るのかもしれない。ちなみに、「寸」は0.8インチだが、東洋人の親指ならそんなものかもしれないので、同起源かもしれない。
ただし、"inch"自体の語源は"uncia"で、その意味は「12分の1」ということで、フィート(feet/foot)の1/12になる。そう考えると、フィートが先にあるようにも思えはする。なお、"inch"は"ounce"(オンス)とも同語源だが、なぜか1ポンドは16オンスである。なぜかというと、これは、troy ounce(参照)なのだろう。
親指の規則(rule of thumb)の雑談はまだ終わらない。英辞郎にも「妻を殴るのに許容されていた板の厚さが、親指の太さまでであったからという説」という変な話があるが、Wikipediaでもこの話題がてんこ盛りになっている。
英辞郎の「妻を殴るのに許容されていた板の厚さが、親指の太さ」という表現はこなれてないが、ようするに親指の太さまで棒であれば、夫は妻をそれで叩いてよいと慣習法があったらしい。叩く際に基準はなにかというと、夫の気分次第というか夫の勝手でいい、つまり、親指の規則(rule of thumb)ということだ。
この慣習法がコモンロー(common law)、つまり、世俗法であったようなのだが、そこには"thumb"という規定ではなく、"moderate correction"というのだが、まあ、許容される夫の権威みたいなものだろうか。ただ、それが親指の太さの棒と理解されていたかもしれないことは、Wikipediaにも当時の漫画が掲載されている。世俗法なのだが、その後米国にも伝わったらしい。
これが歴史的な事実なのかがよくわからない。1993年頃、この問題に関心がある人がメールで議論していた記録が「Origin(s) of "Rule of Thumb"」(参照)にあり、そのあたりの騒ぎがWikipediaなどにも反映されたのではないか。
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