« 西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか | トップページ | 国債を巡る、破れかぶれの苦笑コンテスト »

2010.06.14

G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと

 少し旧聞になる。日本では鳩山前首相辞任問題で揺れたため、韓国、釜山で4日と5日の2日間開催されたG20に、当時財務大臣であった菅氏は出席しなかった。できなかったと言ってもよいことは、その後、彼が首相となった経緯でもわからないではないし、鳩山氏の辞任はこういう効果もあったということだ。
 話の経緯は、3日付けBussiness i「菅氏、G20欠席 国際舞台でさらに地盤沈下…」(参照)がわかりやすい。


 「副大臣や政務官は新内閣が発足した時点でその地位を失う」(峰崎直樹財務副大臣)。4日に新首相や新閣僚が決まれば、従来の財務相や副大臣がG20中に失職する“珍事”となる。このため財務省は事務方の玉木林太郎財務官の出席を軸に調整している。
 振り返ると、政権交代直前の昨年9月には与謝野馨財務相(当時)がロンドンG20を欠席。昨年11月のスコットランドG20も藤井裕久財務相(同)が国会対応のため欠席した。
 G20は国際社会で重要性を増す一方だが、今回はギリシャ危機に始まる欧州の信用不安問題が焦点で、世界経済にとって重要な局面だ。巨額の財政赤字を抱える日本は海外から財政健全化を求められており、「本来なら財務相、最低でも財務副大臣が行くべき」(財務省幹部)会合だ。

 このため、同記事では、「このままでは国際舞台での日本の存在感はさらに低下する」とまとめていた。
 しかし海外からは日本の珍事に呆れるとともに、別の思いもあったかもしれない。この点は、事後のニュースから読み取れる。5日付けロイター「G20は経済成長促す努力必要、日本は内需拡大を=米財務長官が書簡」(参照)が伝えるように、米側としては日本に内需を求める声があった。

ガイトナー米財務長官は、20カ国・地域(G20)にあてた書簡で、欧州問題の影響を緩和するために世界経済の成長を促す努力を続けるよう呼び掛けたほか、中国とドイツ、日本は内需を拡大させる必要があるとの見解を示した。


 長官はより優先順位の高い課題として、輸出依存度の高い「黒字国」の内需拡大を指摘。世界の輸出の主要な消費国として米国をあてにし過ぎないよう、世界の需要のリバランスを進めることを要請した。
 長官は「米国は貯蓄増を目指す必要があるが、それは同時に、日本や欧州の黒字国の内需の伸び拡大、民間需要の成長継続、中国のより柔軟な為替政策によって補完されなければならない」としている。

 日本などに米国の消費拡大を当てにするな、自国の内需拡大をせよいうことで、これだけ読むと取り分け強い主張でもないように思える。
 5日付け日経新聞「ガイトナー米財務長官、日欧の内需の弱さに懸念 米紙報道」(参照)はもう少しこの機微を伝えていた。

ガイトナー米財務長官が、20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議のメンバーである日本や欧州の「内需の弱さ」に懸念を示していることが明らかになった。長官がG20の財務相らにあてた書簡の内容を米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)が伝えた。欧州に関しては金融システム改革に向けた取り組みが必要としている。
 書簡は3日付で、4日に韓国・釜山で開幕したG20財務相会議のために各国に送付した。長官は「世界的な需要の不均衡是正が必要」と指摘。米国の過剰消費に頼る世界経済の体質を変えていく一環として「日本や欧州の経常黒字国の内需拡大」を改めて指摘した。

 同じ内容だが、日経など国内報道のソースはウォール・ストリート・ジャーナルだとしている。オリジナルは、4日付け「Geithner Urges G-20 to Step Up Consumption」(参照)のようだ。
 読んでみると、国内報道で伝えられた以上の響きがある。

"Given the broader shifts under way in the U.S. economy towards higher domestic savings, without further progress on rebalancing global demand, global growth rates will fall short of potential," Mr. Geithner wrote, according to a copy of the letter viewed by The Wall Street Journal. "In this context, we are concerned by the projected weakness in domestic demand in Europe and Japan."

「世界需要の調整に進展がなく、米国経済で貯蓄が進む方向で変化するなら、世界経済成長は短期的には低下するだろう」とガイトナー氏は書き、さらにウォール・ストリート・ジャーナルに公開された手紙によれば、「この状況では、欧州と日本の国内需要の弱さを懸念する」とある。



In his letter, Mr. Geithner clearly puts the burden on big exporters such as Germany, Japan and China to reduce their dependence on U.S. markets as a main source of economic growth.

ガイトナー氏の手紙では、ドイツ、日本、中国という大きな輸出国は、経済成長を求めようと米国市場への依存を削減せよとしている。


 米側としては、(1)日本はこれ以上米国に輸出するな、(2)自国内の消費を拡大せよ、という意向を持っていることを明確にした。
 もう一つ気になることがある。

"Fiscal reforms are necessary for growth, but they will not succeed unless we are able to strengthen confidence in the global recovery," he wrote. Mr. Geithner added that the withdrawal of "fiscal and monetary stimulus"—in other words, government budget cuts and interest-rate hikes—should proceed only as the private sector regains its post-recession footing.

「財政改革は成長に必要であるが、世界経済回復を強固なものにしなければ成功はしない」とガイトナー氏は書いた。「財政および金融刺激政策」から手を引くようなら、つまり、政府予算削減や金利引き上げは、民間部門が不況後の足場を得てでのみ行うべきである。


 これに直接的な呼応はないだろうが、クルーグマンもブログで日本について言及している。3日付け「Rashomon In The OECD」(参照)より。

But they aren’t. As of right now, the interest rates on 10-year bonds are 3.59% in the UK, 3.36% in the US, 1.29% in Japan. CDS spreads for Japan and the UK are only about a third of the level for Italy.

そうではない。現状、10年国債の金利は、英国が3.59%、米国が3.36%、日本が1.29%だ。日本と英国のCDSの拡大は、イタリアの三分の一にすぎない。

So what does one make of this? One possible answer is, just you wait — any day now there will be a Wile E. Coyote moment, the markets will realize that America is Greece, and all hell will break loose.

これは何を意味しているか? 答えの一つは、みんな待っているように、ワイリー・コヨーテになるということ。米国はギリシアになると市場は理解し、地獄が始まる。

The other answer is to note that all the crisis countries are in the eurozone, while the US, UK, and Japan aren’t — and to argue that having your own currency makes all the difference.

もう一つの答えは、危機国はユーロ圏にあるが米国、英国、日本は違うということに留意し、自国通貨がこれらの違いをもたらしたと議論することだ。


 日本の危機は深刻ではないという示唆だ。
 結局どういうことなのか?
 10日付けニューヨーク・タイムズ社説「The Wrong Message on Deficits」(参照)が端的に言っている。

Interest rates on German and U.S. bonds remain low. Rates on British debt also are very low, reflecting better growth prospects than those of the countries that use the euro. For them, the best policy should be to take advantage of the cheap money to spend more, not less.

ドイツと米国の国債金利は低い状態だ。英国国債金利も低い。これはユーロを使っている国に比べて経済成長見込みを反映している。国債金利の低い国にとって、最善の政策は、低金利のカネを支出することであって、減らすことではない。

Deficits will have to be reduced once the recovery gains more traction and unemployment recedes. Right now, for the most robust economies — the United States, Germany, Britain, Japan — slashing budgets is the wrong thing to do.

財政赤字は、景気がより回復し失業問題が引いてから削減されるべきものだ。現状は、もっとも経済力のある国、つまり、米国、ドイツ、英国、日本が財政赤字削減に取り組むのは、間違った行為である。


 米国の赤字削減対応を後回しにせよというのは、ニューヨーク・タイムズのポジションもありそうだが、ドイツ、英国、日本については、今は赤字削減の時期ではないだろうというメッセージを出している。
 G20に出席できなかった財務相で現在首相となった菅氏は、これに「第三の道」で答えている。つまり、財政赤字を減らすため増税し、それから政府は「正しい」ばらまきで内需を喚起するといういうのだ。グローバルな経済の観点、つまり、グローバル経済の回復がなければ日本単独の回復はないだろうという主張に逆行して、独自の経済学に進もうというのだ。
 噂だが、この独自の経済学は小野善康大阪大学教授によるものらしい。成功すれば、小野氏と菅氏はノーベル記念経済学スウェーデン国立銀行賞となるかもしれない。
 ここは、あれだろう。日本国民は、菅首相と財務省と手を取り合って、この知られざる土地に船出をしよう。日本の夜明けは近いぜよ。

|

« 西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか | トップページ | 国債を巡る、破れかぶれの苦笑コンテスト »

「経済」カテゴリの記事

コメント

菅さんさー、
まるで「これから」増税するようなこと言ってるけどさー、
すでにここ数年で実質的に増税だったわけじゃないですかー。
なんか知らないうちに、
定率減税は廃止されちゃってるし、
配偶者特別控除は縮小されちゃってるし、
火災保険料は控除されなくなっちゃってるし。
しかも2011年分から扶養控除を縮小するんでしょ。
ちょっとたまんないんだよなー。
ホントに増税したら橋本内閣と比較されるだろうなー。
---
菅さんが市民運動してきたのはさー、
国に任せてたらダメだと思ってたからじゃないのかなぁ。
ミイラ取りがミイラになるってこのことだよなー。
菅さんの「菅」は官僚の「官」と似てるよねー。

投稿: 774 | 2010.06.14 23:45

増税は、民公の支出の割合を変更するだけ。
増税による需要の変化は、供給側の民間企業が適応できるスピードで変更すれば問題は無い。
民公の割合が変更されることの効果の一つは、不確実性に対する敏感さが鈍くなるということ。鈍感力が増す。
これは不況期には経済システムの耐久力を増す。
この政府支出をどこに向けるかは、政権の戦略次第だ。菅政権のように(若年)雇用確保に向けるのも一つの道である。

投稿: pk | 2010.06.15 08:31

貯蓄の好きな日本人にどうやって消費を増やさせるか?

みんなで和牛を食ったら、たしかに国内消費は増えるけれど、それだけ。

でもないか、アメリカからの飼料穀物の輸入が増える!

アメリカの穀物農家ラッキー、アメリカの畜産農家アンラッキー!そんなところかな(笑)。

投稿: enneagram | 2010.06.15 09:37

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと:

» 極東ブログ「G20でガイトナー米財務長官が菅前財務大臣に伝えたかっただろうこと」から思うこと [godmotherの料理レシピ日記]
 これを読んで、困ったことだと咄嗟に思った(参照)。 正に鳩山さんの辞任とかち合ってしまったG20だったが、確かに昨年の政権交代前の9月、交代後の11月、そして、今回6月4、5日と、三回連続で誰も担当... [続きを読む]

受信: 2010.06.15 07:23

« 西側諸国はイスラエルによるイラン空爆を容認するではないか | トップページ | 国債を巡る、破れかぶれの苦笑コンテスト »