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2010.06.04

6月3日発売週刊文春記事「鳩山官邸マル秘作戦”権力にしがみつけ”(上杉隆)」が面白かった

 鳩山由紀夫首相の退陣表明があった6月2日の翌日に出た、6月3日発売の週刊文春記事「鳩山官邸マル秘作戦”権力にしがみつけ”(上杉隆)」が面白かった。ヒュー・エヴェレット三世(参照)の多世界解釈の視点からも興味深いし、ごく政治記事としても面白い。以下は後者の視点から。

cover
週刊文春6月10日号
 すでに退陣してしまった鳩山首相だが、3日のこの記事ではまだ退陣していない。それどころか、この記事の世界のメディアは首相退陣論が噴出しているとして、ジャーナリスト上杉隆氏はこう断じている。

 だが筆者は一貫して選挙前の首相退陣はない、と言っている。

 上杉氏は一貫してそう述べていたそうだ。もしかすると、3日の時点でも一貫して述べている可能性もないとは言い難い。
 その一貫性の理路も興味深い。

小沢幹事長がこの時点で鳩山首相と再三会っていることこそ、退陣がないことの証だ。なぜなら、ここで首相を辞めるとなれば、小沢幹事長の進退問題に話が及ぶ可能性があるからだ。

 確かに、退陣前になって鳩山首相と小沢幹事長が頻繁に会うようになったのだが、それは結果論に近い。むしろ重要なのはここで上杉氏が意図的か非意図的にか書いてない部分に今回の真相があったのだろう。つまり、小沢氏ではなく、輿石氏である(参照)。輿石氏の関与から鳩山首相辞任問題が急転する。
 いずれにせよ上杉氏がそう考える補強として記事では、小沢側近スタッフの言葉を引いているのだが、小沢側近スタッフが誰なのかわからないので、その言明の信憑性は記者上杉氏への信頼性に依ることになる。そして話はこう続く。

小沢幹事長が交替を求めれば退陣であろうし、必要だと言えばそのまま続投なのである。最高権力者の意向が明らかになった以上、もはや鳩山首相の辞任はないだろう。

 問題は二つある。(1)小沢氏の意向は明確だったか、(2)小沢氏の意向だけではどうにもならなかったか。
 輿石氏のファクターを入れなければ、前者の論点しかない。
 上杉氏の記事は以上が前半で、その基盤の上に後半にさらなる議論が続く。言うまでもなく上杉氏の記事と限らず前提が間違っている推論はすべて間違いである。

 それはまた、鳩山官邸がひそかにもくろむシナリオにも合致する方針である。官邸の鳩山側近らの話を総合すると、次のような狙いがあるようだ。
 六月は郵政法案の成立可否などで国会が大荒れになる可能性が高い。だがそれが鳩山官邸にとっては功を奏しそうだ。
 口蹄疫などの対応をめぐる集中審議や大臣罷免などを求める声も野党から上がるだろう。だがそうした抵抗が強ければ強いほど、国会は空転し、それこそが再興の時間稼ぎの材料となる。
 六月末には主要国首脳会議(サミット)もある。

 この叙述から鳩山首相の要素を消してみる。それでも、国会の空転は続く。さてそれがどう参院選に結びつくか。
 上杉氏のお話は別の世界の叙述である。そこではさらに、鳩山首相で選挙を戦うと続く。

選挙が始まれば不測の事態以外に代表を替えることはできない。よって、選挙まではこの体制が続くのだ。

 選挙後も続くとして「側近」の談話を伝えている。

「参院選で惨敗してようが、何があろうが九月の代表選には必ず出馬する。勝てばいいが、仮にそこで敗れた賭しても、自民党の安倍や福田のように、自ら首相の座を放り出したわけではない。捲土重来、復活を目指す。政治は生き物だ。先はどうなるかわからない。」

 これを受けて、上杉氏も「民意はどうであれば、夏の終わりまで鳩山政権が続くことだけは確定する」としている。しかし、談話で重要な点は、「政治は生き物だ。先はどうなるかわからない」のほうであった。
 上杉氏の記事を読み返してみて、確実なソースは一つもなかったなというと、なぜ輿石氏の線を読まなかったのか不思議に思える。
 加えて、この話を週刊文春が掲載してしまった理由もよくわからない。上杉氏のジャーナリストとしてのブランド価値はそこにあると判断してのことかもしれない。

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コメント

ご参考まで。

今日はまず、鳩山首相の辞任のニュースを受け、
ジャーナリストの上杉隆さんが、スタジオ生出演!
そして、謝罪・・・。

http://www.tbsradio.jp/kirakira/2010/06/20100602.html

投稿: | 2010.06.04 10:35

どんなことでも、アウトサイダーにはわからない、インサイダーしかしらないことってありますよ。

これは、特許事務所の客になった経験と、特許事務所の所員になった経験の両方があるからいえること。

また、特許部の人間として研究所に関与した経験と、研究所員として研究所で働いた経験の両方があるから言えること。

まあ、ヤマハ音楽振興会のひとたち(インサイダー)は、呉智英先生や落合真司さんたちみたいな評論家やライター(アウトサイダー)がぜんぜん知らない中島みゆきのいろんな側面をたくさん知っているだろうと思います。松任谷夫妻だって、EMIの人たちの見ているところでは、スタンダードな努力を重ねているところをいつも見せているはずですよ。

投稿: enneagram | 2010.06.04 12:46

finalventさんの世界というのもありました

http://d.hatena.ne.jp/finalvent/20091129/1259455900

投稿: | 2010.06.04 21:12

上杉さんって、「自分の生活/経済/権威の基盤を守ってくれそうな人やら問題に近づいて、それらしい声色でとにかく大声を出す」という人のように見え、ジャーナリストというよりはアジテーターだよな、と思います。悪口とか揶揄とかじゃなく。鳩山さんが首相になった当時は、twitterの壁紙が「鳩山さんの後ろを颯爽と歩く俺」だったりしましたし、何というか、そういうのが好きな人なんじゃないですかね。提灯持ちとまでは言いませんけど。彼が「ジャーナリスト」として認知され、重用されていく昨今の様子を見ていると、いわゆるリベラル派「ジャーナリスト」の後はこういうのが来るか、みたいな、変な驚きがあります。

投稿: | 2010.06.05 05:02

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