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2010.05.17

[書評]高校生からのゲーム理論(松井彰彦)

 「高校生からのゲーム理論(松井彰彦)」(参照)は、ちょっと変わった本だった。普通ならこの書名から、高校生がゲーム理論を簡単に学べる入門書を連想するだろう。大学生や社会人も、「そうか、高校生でわかるレベルでやさしく書かれている本だろうな」と推測する違いない。間違いではない。高校生でわかるようにやさしく書かれている。文章も読みやすい。イラストも楽しい。しかし、数学は苦手だけど、とにかく手っ取り早くゲーム理論を理解したいというのには、ちょっと向かない本かもしれない。

cover
高校生からのゲーム理論
ちくまプリマー新書
松井彰彦
 こういうと工夫して書かれた著者に申し訳ないが、ゲーム理論入門のさわりでもあるゼロサムゲームやチキンゲーム、囚人のジレンマといった話は、図解とかでもっと簡単に説明できるだろうし、そうしたタイプの書籍もあるのではないか。なんだろ。それっぽくきれいにまとまっている「ゲーム理論 (図解雑学)(渡辺隆裕)」(参照)かな。1957年生まれの私などの世代だと「ゲームの理論入門 (ブルーバックス)(モートン・D・デービス)」(参照)がゲーム理論の一般向け定番だったが、そろそろ改訳時期ではないか。
 図解的な、いわばライフハック的なわかりやすさや、フォー・ダミーズ的なとっつきやすさは、本書「高校生からのゲーム理論」にはないが、じっくり名講義を受講するといった趣向きがある。「ああ、この先生に学んでいると学問は楽しい」という、一種のマジック感覚を味わえる珍しい書籍だ。
 実際は書籍だから黙読するわけなのだが、読みながら、「聴かせるなあ、この話は」という印象を持つ。読みながら確実に知識や知恵、そして教養というのが付いてくる実感もある。その意味では、きちんとした読解力のある高校生なら読んでごらんなさいとお勧めしたいし、社会人なら、知的なネタが一ダースくらい仕入れられる。
 説明に数式は使われていないが、ゲーム理論でお馴染みの標準型表現(利得行列)や展開型表現は出てくる。けして難しいものではないし、イラストで各ケースも説明されているのだが、こうした表現にまったく馴染みのない人は、最初のほうでゆっくり確認しながら読むとよいだろう。慣れてしまえばどうということではない。
 ゲーム理論で重要な概念はゴチック体で強調されている。ただし、わりとさらりと表現さていることもあるので、特にゴチック部分の用語についてはよく留意しておくとよいだろう。私が本書の編集であればこうした部分はコラムで補足して欲しいなと思う部分でもあった。特に「ナッシュ均衡」「フォーカル・ポイント」などの概念は、いったん理解できるといろいろ世間の見方が変わってくるものだ。
 話の展開はゲーム理論から解き明かすというより、恋愛や夫婦関係、人間関係といった日常からの例や、政治や歴史の逸話などから例として取り上げられて読んでいて楽しい。恋人が口うるさくなく妻が口うるさい理由などもユーモアを込めて書かれている。
 著者のパーソナルヒストリーも興味深い。ひとりの高校生が一流の学者になった秘密のような話も描かれている。人生の上質な秘訣が随所にこっそり書かれているなと、著者より多少年を食った私は思った。

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コメント

学問というのはなんでも隣接分野というのがあって、そっちのほうと融通が利くのが優れた学習法なわけです。

ゲーム理論についても、エコロジーとか情報理論とかサイバネティックスとかカオス理論とか、いろいろな隣接分野とのかかわりの中で考えるほうが融通が利くと思います。

紹介してくださっている図書は、そういう気のまわし方をしてくれていますか?

投稿: enneagram | 2010.05.18 09:13

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