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2010.05.04

進化論的に見て人間は何を食べるべきか

 ダイエットには流行がある。その理由は、各種のダイエットがすべてヨーヨー・ダイエットを基本にしているからだと私は考えている。ヨーヨー・ダイエット? ヨーヨー遊びを思い描こう。円盤が手元から離れたり近づいたりする。それを繰り返す。同じように痩せたり太ったりを繰り返す。新種のダイエットをすると一時的に痩せる。そして戻る。だからまた新種のダイエットが必要になる。ヨーヨー・ダイエットだ。今度は何?

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The Paleo Diet
 「パレオ・ダイエット(The Paleo Diet)」(参照)かもしれない。パレオは、Paleolithic era(旧石器時代)の略語だ。石を削った石器を人類が使い始めてから農耕を開始するまでの時代。年代的には200万年前から8000年前くらいまで。要するに人類を人類たらしめる道具の使用開始から農業を営むまでの時代だ。非農業的な狩猟採集の時代でもあるし、人類が人類の身体を内蔵をの仕組みを含め、進化的に確立した時代でもある。
 別の言い方をしてみよう。人間が農産物を食うようになったのはたかだが8000年前。人間の身体の進化から見ればごく最近のこと。だから、人間の身体とくに内蔵は農産物を食うのにまだ適した進化をしていないんじゃないか? だから、人間らしい食い物というのは旧石器時代の食い物なんじゃないか。生肉とか。
 2月9日のAFP「ランチは生肉!「原始人ダイエット」にはまるニューヨーカーの日常」(参照)にこのネタがあった。

ウェブサイト管理で生計を立てるニューヨーカー、ブラッド・アベルブフ(Vlad Averbukh)さん(29)のランチタイムにフォークは不要だが、ナプキンは欠かせない。その理由は「血がしたたる」かもしれないからだ。


 ハドソン川(Hudson River)のほとりの公園で、本1冊分もの大きさにカットされた生の牛肉をほおばりながら、アベルブフさんは自分たち「原始人ダイエット」の実践者がいかに人類の時計の針を旧石器時代(パレオリシック・エラ)にまで巻き戻そうとしているかを説明する。「理論的には1万年前の祖先が食べていたのと同じものだけを食べよう、ってことだ。森の中で棒切れ1本で手に入るもの、っていうことだね」

 ネタだろそれ。生肉っていうけど家畜の肉は旧石器時代にはない。
 この変なダイエットはすでに米国である程度定着している。同書が出版されたのは2001年。概ね10年経過している。その間日本で話題になったか? あまりなさそう。
 それにしても生肉か、毎日タルタルステーキに馬刺しか。いや、実際のパレオ・ダイエットでは、農耕文明の基本である穀物を避け、さらに文明的な加工食品を避け、砂糖や塩を避けるくらい。そして肉や魚、果実をナッツなどを食べるということだ。あれ? なんか似たのあったよね。アトキンズ・ダイエットだ。日本では創始者の名前を避けるべく低インシュリンダイエットとか改名されたが、つまり、そういうこと。
 アトキンズ・ダイエットは正しいか。このダイエットはけっこう歴史があるのでいろいろ調べられている。あまりお勧めはできないが正しい面もある。精錬された穀物の食事はインスリンを上げやすく、人間の身体に負荷をかけやすい。というか、しいていうと人を快感に興奮させやすいのではないか。肯定的に考えるなら、糖質の消化速度を遅くするような食事が人間の身体に向いているとは言えそうだ。
 人間の身体に何が正しい食事か?
 これは食事法とかでよく議論されるお定まりのテーマだ。マクロバイオティックスなどでもこの手の話題が多い。いわく、人間の歯の構成を見よ。なにを食うようにできているか、と。そしてへんてこな議論が始まるがおそらく答えは、雑食。また、マクロバイオティックスはパレオ・ダイエットと対極的に穀物食が基本だが、いわくそれが人類の進歩の過程を意味しているというのだ。だから果実は食うなとも言う。まさかね。逆でしょ。
 かくして私もこの愚問をいろいろ問い詰めてみた。結果、私は四つの原理を考えた。FVDM(finalvnet's Diet Method)である。みんなも信奉するように(冗談)。

1 人間は飢餓耐久生物であるので食習慣は自己条件付け学習が重要
 旧石器時代が人間進化に強く影響したのは、飢餓耐久性である。人間はなかなか食えないのが常態である。そのために心理的には飢餓が恐怖、食事が快楽にセットされた。身体的にはエネルギーが備蓄できるように効率よく脂肪化するようになった。農耕時代とはおそらく飢餓と食の快楽を王権が配分する仕組みではないか。
 ということで、基本的に人間精神の根幹には飢餓を基本とした恐怖回避と快楽志向があるので、それを表層意識化させないように自己学習することが重要になる。単純にいえば、定期的な食習慣と過食阻止をいかに条件付け学習するかが重要になる。レコーディング・ダイエットも要するにこれ。

2 サル時代の特性から果実は抗酸化物質として必須
 旧石器時代以前の人間、というか、サル時代の特徴は、フルーツ・イーターであること。人間の原型は果実を食うサルであり、果実を食うことで身体を最適化してしまった。栄養学的には果実はミネラル補給の点で重視される。それ以外にサル時代の名残として人間は身体各所に抗酸化物質として果実や野菜の色素を溜め込むようにできている。典型的なのが目の中心部の黄斑。

3 人間の食事の大半は脳のためにある
 旧石器時代期間の人間の身体変化で他の生物と分けるもっとも大きな差違は、脳の巨大化であり、脳がかなりのエネルギーと調整物質を必要とすることになったことだ。まず、エネルギーの基本はブドウ糖である。ブドウ糖の欠如状態は脳の十全な機能を損なわせる。次に、脳が何でできているか、どのように機能しているかと考えると、それが脂肪の塊であり、脂肪酸を介した酸化反応であることがことがわかる。特にn-3系の脂肪酸が重要な働きをしているほか、アミノ酸も機能上重要な役割を持っている。単純に食として見れば、脂肪酸やタンパク質源の多様化として各種の魚を定量食うほうがよいだろう。

4 人間の食は腸内細菌との共生のためにもある

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免疫と腸内細菌
上野川 修一
 すべての生物についているが、生物は適者生存として進化してきているもの、その内実にはかなり込み入った共生の関係を結んでおり、人間の食も腸内細菌との共生から成立している。腸内細菌はビタミンB6、B12なども作り出すのでこの共生関係が保たれているなら、ビタミンの必須性の定義と矛盾するようだが、別途単独の摂取がなくても人間身体には摂取される。この他、腸内細菌は人間個人の免疫の機構と深い関わりがある。単純な話、便の半分の量は腸内細菌の死骸である。
 ここで食との関係というとプロバイオティクスからヨーグルトや発酵食品といったことになりがちだが、腸内細菌の生息は概ね宿主の免疫が管理しているので、食事といった外部の要素だけからは決定できない。また、いわゆる善玉菌がよく悪玉菌が悪いというわかりやすい議論でもない。
 ではなにか? 共生とは対話の歴史であるので、自分の食事と腸内細菌の反応の歴史を自覚するしかない。快便から食の構成をフィードバックしていくとよいのだろうが、精神状況も影響するのでそう簡単にはいかないかもしれない。

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コメント

最も合理的な食習慣が、土地の単位面積当たりの収穫量の大きな食い物を食うことだとしたら、トウモロコシの粉のせんべいを食って、サトウキビをしゃぶるのが一番合理的です。両者は、C4植物だから収穫量が大きい。

世界中の圧倒的多数がコメかコムギの食事を取っているというのは、コメとコムギというのが、人間の体にもっとも適切な炭水化物源なのと違いますか?なんかそんな気がします。

投稿: enneagram | 2010.05.04 09:39

結局進化論的に見て人間は何を食べるべきなの?

投稿: | 2010.05.05 14:04

結局は自分の体の欲求に耳をすませる事の出来る体内バランスを維持出来る選ばれた人間が、自分の食べたい物を必要に応じて食べるというのが最良の食事?自分の体の欲求を正確に感じられるにはやはり食事以外の何物かが必須になってきそうですね。

投稿: CHIKAKO | 2010.05.05 22:58

>(finalvnet's Diet Method)
→(finalvent's Diet Method)では?
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>人間の原型は果実を食うサルであり、果実を食うことで身体を最適化してしまった。
→(多くの動物はできるのに、)
ヒトが体内でアスコルビン酸を合成できないのもこの名残り?
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話はズレるけど、
世間一般で「食事」=「エネルギー補給」という図式が強調されすぎて、
ちょっとどーよ、って思うことがある。

投稿: 774 | 2010.05.13 23:20

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