ダルフール危機に関連する現状、お尋ね者バシル大統領再選
そろそろダルフールの状況について、またメモをしておくべき時期だろう。ページ(参照)がまた一つ捲られたからだ。
最新の目立つニュースとしては、7日、国連平和維持活動(PKO)に当たっている、国連・アフリカ連合ダルフール合同活動(UNAMID)の車列が武装グループに襲撃され、エジプト人のPKO要員2人が殺害され、3人が重傷を負う事件があった。武装グループは特定されていない。国連安保理は非難声明を出し、スーダン政府に犯人を処罰を要請した(参照)。
連想されるのは先月23日の事件だ。ダルフール南部でアラブ系部族とスーダン人民解放軍(SPLA:Sudan People's Liberation Army)が衝突し、58人が死亡、85人が負傷した(参照)。SPLA側の主張では、ダルフール南部の、西バール・エル・ガザル(Western Bahr al-Ghazal)でスーダン政府軍(SAF:Sudan Armed Forces)に襲撃されたとのことだ(参照)。真相はわからないが、同地はSPLA主体のスーダン南部自治政府が管轄する領域に近く、南部問題が関連していると見られる。
事件に国際的な関心が向けられたのは、背景に4月11日から5日間実施されたスーダン大統領選および同時に実施された今後独立が予定される南部大統領選があったためだ。これは2005年に締結された南部内戦終結の包括和平合意よるものだ。
4月26日に発表された結果では、スーダンでは現職バシル大統領が得票率68%で再選され、南部大統領選ではスーダン人民解放運動(SPLM:Sudan Peoples' Liberation Movement)キール議長が当選した。予想通りの結果であった。
選挙は公平なものとは言い難い。SPLMはバシル大統領の与党国民会議(NCP:National Congress Party )による選挙不正指摘から大統領選をボイコットした。だが大きな決裂にはならなかった。SPLMとしても、来年予定されるスーダン南部独立住民投票を推進したい思惑があったからだ。
もちろん、ダルフール・ジェノサイドで国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪者として逮捕状が出ているお尋ね者バシル大統領としても、またNCPとしても経済制裁を加える国際社会の視線をこれでも配慮していた(参照)。
この地域に深く関与せざるえない大国としても、スーダン資源を狙いバシル大統領寄りの中国はさておき、米国は表向きは不正選挙非難を出したものの(参照)、南部独立の実現を配慮し強い態度には出なかった。
問題は、来年、南部独立が実施されるのか、また、ダルフール危機があたかも終了したかのような沈静は維持されるのかということに絞られる。どうなるか。ワシントン・ポストは2日付け社説「A wager on Sudan」(参照)で、懸念する専門家の声を伝えていた。
Many experts doubt that Mr. Bashir will allow the oil-rich south to go without a fight or that he will give Darfuris the autonomy they seek. While it works for those outcomes, the United States should refrain from prematurely recognizing Mr. Bashir's new claim to legitimacy. And it should be ready to respond when he breaks his word.バシル氏が豊富な原油を産出する南部独立を紛争なく認めること、また、ダルフールの人々に彼らが求める自治を提供すること、その双方に懐疑的な専門家は多い。期待される結果が得られるようにこの間、米国は禊ぎを終えたバシル氏が主張する合法性に慌ててお墨付きを与えてはならない。かつ、バシル氏が期待を裏切ったときに即応できるようにしておかねばならない。
どうなるかは、来年が近づくにつれて見えてくるだろう。西バール・エル・ガザルの衝突は不安な影を落とすことになったが、親スーダンの中国の陰にある日本はさておき、国際的な監視の目は強まっているので、秋口くらいまでは多少静かな時間が流れるのではないか。
追記
14日、大きな動きがあった。スーダン政府軍とJEM(正義と平等運動)の戦闘があり、JEMで160名の死者が出た。和平合意の行く末が危ぶまれる状態になった。「ダルフール紛争 再燃の懸念」(NHK 5.16)より。
スーダン政府軍の15日の発表によりますと、政府軍と西部ダルフール地方最大の反政府勢力「正義と平等運動」の間で再び激しい戦闘が起き、反政府勢力側の戦闘員108人を殺害したほか主要な拠点の1つを抑えたということです。政府軍側の死傷者については明らかにしていません。ダルフール地方では、7年前、政府軍やアラブ系の民兵組織と地元の反政府勢力との間で紛争が始まり、これまでに30万人が死亡、250万人が住む家を失うなど、「世界最悪の人道危機」とまで言われましたが、ことし2月、スーダン政府と最大の反政府勢力「正義と平等運動」が停戦で基本合意し、和平交渉が続けられてきました。しかし、反政府勢力側はバシール大統領が再選した先月の大統領選挙以降、政府軍が停戦合意を破って断続的に攻撃をしかけてきていると非難し、和平交渉を打ち切る構えを示しています。これに対して政府側も、反政府勢力が地域の集落や食糧輸送車を襲っていると主張しており、紛争の再燃が懸念されています。
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