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2010.05.23

鳩山由紀夫首相の嘘

 各種の問題に接したとき最も効率的な手法を決定するのがオペレーションズ・リサーチ(operations research)という学問で、鳩山由紀夫首相はこの博士号を持つ。博士号をもつ首相というのは国際的にも珍しい。米国人ならその称号にまず驚き敬意を払う。だが、実際に驚いたのはそこではなかった。
 鳩山首相は、普天間飛行場撤去問題を五月末までに決着すると国民に約束した。腹案もあると述べていた。まだ一週間がある。腹案を待ちたいところだが、おそらくはもう鳩山首相の心は歓迎で迎えてくれるはずの上海万博に飛んでいるのでないか。
 嫌な兆候はあった。普天間飛行場は最低でも県外移設が「五月決着」なのだから、今月いっぱいで問題は決着し、五月以降は実施に向かうというのが普通の理解だろう。だが五月に入ってから鳩山首相から漏れる「五月決着」の意味合いは変りつつあった。10日付け時事「普天間、5月決着断念=地元、米との合意困難」(参照)より。


 首相は同日夕、首相官邸で記者団に「沖縄と移設先、米国、連立与党の皆さんが『この方向でいこうじゃないか』ということでまとまることを、私は合意と呼んだ」と表明。これまでは、米国や地元などの「合意」を得て5月中に決着させると繰り返してきたが、「方向性」で一致できれば、「5月決着」の約束には反しないとの立場を示したものだ。

 また、「首相“合意の定義変えてない」(NHK 5/10)では、こうも述べていた。

 鳩山総理大臣は記者団に対し、「沖縄の皆さん、移設先にかかわりのある皆さん、さらにはアメリカや連立与党が、『わかった、この方向で行こう』とまとまることを『合意』と私は呼んだが、合意の定義を変えているわけではない。5月末までに、その合意が得られるような状況を作る」と述べました。

 決着の意味は、期限の五月末が近づくにつれ、沖縄、移転先県、米国、連立与党四者の方向性合意ということになった。しかし、四者で方向性が確認できれば、きちんと計画は可能だし、実務が待つばかりだから、許容できないものでもない。
 だが、今日、沖縄入りした鳩山首相の言葉からわかったことは、その方向性の合意は取れなかったということだった。今日付け朝日新聞「「県外、守れなかった」首相が沖縄知事との会談でおわび」(参照)より。

国内および日米の間で協議を重ねた結果、普天間の飛行場の代替地そのものはやはり沖縄県内に、より具体的に申し上げれば、この辺野古の付近にお願いをせざるをえないという結論に至ったところでございます。

 仲井真弘多沖縄知事の答えは明白だった。今日付け毎日新聞「普天間移設:首相「辺野古」表明 知事「厳しい」」(参照)より。

仲井真知事は「極めて大変遺憾だという点と、極めて厳しいことをお伝えするしかない」と述べ、県内移設は受け入れられないとの考えを示した。

 仲井真知事は前もってこう述べてもいた。今日付け沖縄タイムス「県内反発 不信も増幅 鳩山首相きょう再来県」(参照)より。

 仲井真知事は「場所も特定しないで工法というのは意味がない。杭(くい)打ちだか何かはエンジニアの話で僕らの知ったことじゃない」と政府からの伝達を否定。知事周辺は口々に「何も中身がないまま、政府はどんどんこちらを追い込んでくる。信じられない」とあきれかえる。
 仲井真知事は、今月10、11日に都内で会談した前原誠司沖縄担当相、北沢俊美防衛相、平野博文官房長官からも政府案の詳細を伝えられず、「食事はしても、協議は一切していない」と不信感を増幅させた。

 まったくのコミュニケーションもなかった。沖縄県民からすれば県外移設のための鳩山氏が汗をかいた形跡はこの一年弱ではあるが、まるで感じられることはなかった。
 合意に必要な四者の一人、連立与党はどうか。今日付け時事「辺野古移設、断じて反対=福島社民党首」(参照)より。

 社民党の福島瑞穂党首(消費者・少子化担当相)は23日、福岡市で記者会見し、鳩山由紀夫首相が米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の同県名護市辺野古周辺への移設を表明したことについて「実現不可能だ。沖縄県知事がサインするとは思えない。断じて反対を表明する」と語った。

 「五月決着」とは鳩山首相の定義では、沖縄、移転先県、米国、連立与党、四者の方向性合意であった。沖縄の合意は取れなかった。移転先県については、合意不要とみなしたのだろうか。連立与党も合意していない。合意のための尽力くしたのは、たった一者、米国だけだった。曖昧で話にならないと突っぱねることもなく、米国だけが結果的に民主党鳩山政権を支援した。
 期限はあと一週間はある。ただ、無理だろう。そしてこの話はもう終わったと見ても妥当だろう。政権交代選挙一か月前の昨年7月29日に「民主党の沖縄問題の取り組みは自民党同様の失敗に終わるだろう: 極東ブログ」(参照)と予測しておいたので、私としてはとりわけ意外ではないが、ここまでひどいことなるとは思っていなかった。仲井真沖縄県知事も当初は鳩山政権を支えようと示唆してもいたが、裏切られた形になった(参照)。
 この件で、ひどいなと思うことはいろいろあるし、それはブログにも書いてきた。それでも今日、唖然とした。公然と嘘をつく鳩山由起夫首相の姿があった(参照)。

私自身の言葉、出来る限り県外だということ、この言葉を守れなかったということ、そしてその結論に至るまで、その過程の中で、県民の皆さん方にご混乱を招いてしまいましたことに関して、心からおわびを申し上げたいと思っております

 それは嘘だ。
 「出来る限り県外」ではない「最低でも県外」と言っていたのだ。前回の沖縄訪問以降でもだ。6日付け朝日新聞「「最低でも県外、自分の発言」 鳩山首相、党公約を否定」(参照)より。

 鳩山由紀夫首相は6日午前、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先を県外とする方針の転換を沖縄県側に説明したことについて、「『最低でも県外』と言ったのは自分自身の発言。自分の言葉を実現したいと思い、政権の中で努力してきた」と釈明した。

 鳩山首相はこれまでもころころと意見を変えてきた。しかし、これは沖縄県民への約束であった。その結果は嘘だった。もっといえば、国民への嘘なのである。その言葉が信頼できない首相とは何者であろうか。
 鳩山首相はもう嘘をついているという自覚もないのかもしれない。先の沖縄タイムス記事にもそれを窺わせる挿話がある。

 鳩山由紀夫首相は4日の初来県後、周囲に「自分はそんなに反対されたとは思わない」との感触を漏らしている。周辺によると「首相はむしろ歓迎されたと思っている」という。
 4日は県庁前広場をはじめ、首相が立ち寄る各地で抗議行動が起きていた。しかし首相は「どこでも、同じ人が集まっている印象がある」と感じ、「車で走っているときは(沿道で)みんな手を振ってくれている。ほかの県を訪ねたときと比べてそれほど嫌われているとは思えない」と話しているという。
 このエピソードを聞いた与党議員は「宇宙人にもほどがある。本当に石を投げないと分からないのか」と吐き捨てるように話した。

 石を投げるべきではない。
 政治なんかのことで人を傷つけてはいけない。靴を投げつけるのもよくない。
 こういうときは、かつての台湾では、腐った卵を投げた。そのために、わざわざ腐った卵を作る業者もいた。専用の腐った卵が買えるものなら、鳩山首相に投げつけたい気もするが、衛生上よろしくはない。かくして腐った卵のようなエントリを書くだけにしよう。

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「時事」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。
首相が県外移設に向けた努力を本当にしていたか、政権交代直後の早い段階からそれをきちんと検証して、警告を発するべきであったのにしてこなかったメディアや知識人の怠慢にも憤りを感じています。首相の県外移設構想が本気だったならば、移設候補先自治体への打診の具体的な動きがあったはずであり、「政府から打診はあったか?」と取材検証しておくべきでした。しかし、それをやらなかったどころか、「首相が沖縄の基地問題を語る時は表情に余裕を感じる。いいアイデアがあるのでしょう」と太鼓持ちに徹する始末でしたからね。
今頃になって首相批判に転ずるマスコミや知識人、彼らが首相を甘やかすことが無ければここまでの事態悪化は防げたかもしれないと思い、憂鬱な気持ちになります。

投稿: loopy | 2010.05.23 20:50

はじめまして
稲嶺氏はまさに梯子を外された形になりましたね。
稲嶺氏はじめ沖縄の民主党の方達の心情は如何ばかりでしょうか。
今まで首相擁護の評論家諸氏はおそらく訓練数が減るだけでかなり騒音問題は解決するとか、この問題は官僚が首相を洗脳していると官僚叩きに話しのすり替えに走るのではないでしょうか。

投稿: ボレ | 2010.05.23 21:24

連立与党の声として民社党の反対のことは出ても、亀井=下地ラインについて触れてないですね。
もしかして、最初からこの問題は沖縄の負担軽減とかは二の次で、沖縄の土建利権の自民党からの切り崩しが本当の目的では?
今や目的は果たしたのでしょう、だから煙幕に使った移転騒ぎなんかもうどうでもいいのですよ、きっと。その位夜合衆にとっては「沖縄の負担軽減」なんてことはリップサービスの軽い事にすぎないのではないでしょうか。

そう妄想すれば筋が通るのでは?
酷い話ですが、自国の権力者たちがルーピー星人たちであるという破滅的なギャグより、まだ救われる気がします。

投稿: kurukuruBAKA | 2010.05.23 22:52

とはいえ、これで「済んでしまう」のです。
次期参院選挙において大敗しようとも、公明党と連立を組む事は既に半ば決定事項なので問題ありません。
どんなに支持率が下がろうとも、「辞めねばならない」とする法律など存在しません。4年間は安泰です。
なお、「選挙権に関しての規定」そのものも、公明党と連立を組んだ直後に改変する予定ですので、4年後も問題ありません。先ず、地方参政権から変えていきます。
ネットにおける「表現の自由」じゃなかった「人権問題」に関しての法律も変えます。民主党政府がコントロール出来ないメディアは存在させません。
全く問題はないのです。

投稿: | 2010.05.24 00:38

finalvent氏、抑えた筆致だけどすごい怒ってますね。私は「今日もお酒飲んで寝てました」みたいなブログを書いてる者ですが、時々鳩山政権批判も書いてました。でも、途中で諦めました。何を書いても空しいだけです。

投稿: ピンちゃん | 2010.05.24 01:18

>loopyさん
メディアや知識人の怠慢はあったかもしれませんが、彼らの責任に出来る問題ではありません。

候補先への打診があったかどうかはメディアが一々確認して回ることではなく、政府や自治体がメディアに発表すれば良い話。実際に打診があったなら、ね。それが起きなかったということは打診など無かったということです。

投稿: Johann | 2010.05.24 03:53

>博士号をもつ首相というのは国際的にも珍しい。

それゆえ海外でもそれなりの期待を持たれたかも知れませんのに、現実はこんなで、全く残念なことです。

ちなみに、ドイツのメルケル首相とイギリスのブラウン元首相もPh.D所持者だそうです。たまたま博士号所持者が同時期に重なって首相になったのは面白い偶然ですが、同じ博士号所持者でも中身はえらい違いですな。

投稿: 権兵衛 | 2010.05.24 07:47

鳩山首相個人の問題というより、民主党の体質に根ざした問題だとも思います。

誰が首相でも、こういう公約を出したでしょうし、誰が首相でもその公約を守れなかったでしょう。

社民党は、即刻連立から離脱すべきです。そうしないと、社民党の存立が危うくなります。あんな社民党でも、少数派の護憲主義者の何らかの受け皿は、社会にとっておそらく必要だからです。

投稿: enneagram | 2010.05.24 08:27

言葉遊びで無責任に(この人は責任というものを全く感じている様子が無い)振り回すだけなら、
些細な失言をしても真摯に政治を行ってくれる首相がいい。

投稿: PeTsh0p | 2010.05.24 09:36

憲政史上の汚点。贈与税や所得税(一時所得:株式譲渡益)の申告漏れの一件だけでも議員辞職ものでしょう。この時点で実質は犯罪を犯している。なのに、居座った挙句、言い訳、言い逃れのための発言のブレ(そりゃあブレるわ!)。それによる政治混乱。次回衆院選後の政治家引退ではすまない!こいつは最早、犯罪者だ!

投稿: あほのサカタ | 2010.06.23 06:31

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