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2010.05.19

[書評]日本の大問題が面白いほど解ける本 シンプル・ロジカルに考える(高橋洋一)

 アマゾンから届いた本書を見て一瞬、あれ?と思った。広告を見て、「ロジカル」というサブタイトルに惹かれて注文したのだったが、そのことを忘れていた。現下、再度の政権交代なり政界再編成が望まれる状況を高橋洋一さんがどう見ているのかも気になっていた。

cover
日本の大問題が
面白いほど解ける本
シンプル・ロジカル
高橋洋一
 内容は読みやすい。だいぶ編集の手が入っているのではないか。話題も興味深い。民主党の高速道路無料化、子ども手当、成長戦略不在、原口総務相に期待される周波数オークション、中小企業金融円滑法、社会保障制度、地方分権など、どこに問題があるのか、ロジカルという副題は正確とは言い難いが、すっきりとまとめられている。
 しかし、これらの話題は高橋氏のこれまでの書籍で触れられているお馴染みの話題ばかりで、普天間飛行場撤去問題や外交問題、食の安全保障、環境政策といった話題には言及がない。私のように高橋氏の一般向け著作は出たら買って読むという読者も多いだろうから、もう少し新しい分野の切り込みがあってもよかったかもしれないと思った。
 それでも、へぇそれは知らなかったなと思ったのは、「日本郵政社長に元大蔵事務次官の斎藤次郎氏が就任。これの何が問題?」で、斎藤次郎氏の女婿が、「現在次官に近いといわれている」稲垣光隆主計局次長であるという話だった。高橋氏は、メディアは知っているのにそのことを書かないで大蔵省の亡霊扱いしていたというふうに指摘していた。

 これはいわば周知の事実です。自らが所属する組織のトップに就くかもしれない人の義理の父親のことを「亡霊」呼ばわりする人がいるでしょうか。いたとすれば、それはその組織のなかでもかなりハズレの方にいる人でしょうし、だとすれば、これはその程度の取材しかできていないという証拠でしょう。
 斎藤氏と稲垣氏について、ある編集者は「まるで戦国時代ですね」と話していました。しかし、こうした閨閥づくりはわが国の政官財の世界では今日も連綿と続いていて、もちろん財務省(旧・大蔵省)も例外ではありません。

 まあ、競馬好きの過去のおっさんといったふうは話で済むことではなかった。
 とはいえ、これはごく些細な挿話であって取り上げるほどのことでもないようだが、関連の人事は明白な傾向をもっていた。

 いうまでもなく、それは斎藤氏就任の一週間後に発表された四人の副社長です。ここにもふたりの官僚OBが入りました。元郵政事業庁の足立盛二氏と元財務相主計局次長で、福田康夫政権では内閣官房長官補を務めた坂篤郎氏です。
 足立氏は旧郵政官僚で民営化に明確に反対していました。郵政事業庁長官を退任した後、財団法人簡易保険加入者協会という郵貯ファミリーの理事長に天下りました。郵貯関係では、ほかにも小泉時代に民営化に反対して降格された清水英雄氏がゆうちょ財団に天下っていましたが、斎藤氏就任後に、政権交代後の新ポストである郵政改革推進室室長に返り咲いています。彼らはみな郵政ファミリーの保守本流です。

 これも驚くほどのことでもないといえばそうだが、どうにも不思議なのはこういう人事を民主党員や民主党支持者の人はこれでよいと思っているのだろうかということだ。
 人事よりも今回の実質的な郵政国営化によって、以前のような税からのミルク補給のような仕組みがまた必要になることも本書でじっくり解き明かされている。
 財政の問題でも、ふっと笑ってしまってから、ぞっとするような話もある。

 ちなみに、二〇一〇年三月一六日の参議院財政金融委員会で、菅直人副総理・財務相が、財政のプライマリー・バランスについて「念頭にあるが、残念ながら今すぐ目標を立てるには早すぎる」「まずは(公的債務残高の)GDP比の安定を目指す」と答弁していました。
 この答弁を見るかぎり、菅財務相は、プライマリー・バランスのバランスと債務残高の対GDP比とが深く関係していることを理解していないようです。これで、財務大臣が務まるのでしょうか。

 それを言うなら他の大臣もあれこれと愉快な顔が浮かぶ。
 高橋氏は、とはいえ、民主党批判のためにこれを書いているわけではない。本書で指摘されている政策的な部分については、民主党の党是を曲げることなく採用できるものばかりだし、率直なところ、なぜ民主党は高橋氏の指摘をきちんと受け止めないのだろうか。
 単純な話、民主党員や支持者で、高橋氏のこれまでの著作を読んだことがなければ、そして彼の来歴について偏見を持たなければ、民主党のあるべき姿を考える上で、もっともよい入門書となるだろう。
 そして、これを学べば、この郵政の実質国営化を即刻停止するだろうと期待する。
 昨晩、民から官への典型ともいえるし、過去の民主党のマニフェストのまったく逆向きでもある郵政改革法案の衆院審議に入った。野党が反対しているが、本来なら民主党が反対すべき内容である。
 本書で高橋氏はこの問題の行く末にややひんやりとした奇妙ともいえる言葉を投げかけている。

 はたして国民はこれを支持するでしょうか。現在の国会状況ならそれを可決することは可能でしょう。しかし、また三年半以内にはかならず選挙が行われるのです。そのとき、国民の選択はどうなるでしょうか。
 選挙といえば、今後の郵政がどのような形態になるかには、大きな影響力を持ちます。かつて公務員だった郵政職員は、民間になったことで政治活動の自由を手に入れました。つまり、民主党の支持団体である連合において自由に政治活動ができる組合員が大幅に増えたことになります。彼らが公務員か非公務員かは、政治状況に一定のインパクトを与えるでしょう。

 この話は私には理解できなかった。郵政は実質は官営化しながらも、組合員は公務員に近い待遇を持ちながら非公務員として政治活動を続けるのではないだろうか。

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コメント

郵便の組合は、公務員時代から政治的だったのでは?

社会党の大出俊氏などは郵便出身でしょう。

官業の現業の労組は、国鉄も電電も郵便も、みんな政治活動が好きだったはず。

いまさら何言っているんでしょうか、と思われます。

投稿: enneagram | 2010.05.20 09:40

冒頭
>高橋洋一さんがどう見ているのも気になっていた。
×:どう見ているのも
○:どう見ているのかも

引用
>自らが所属する組織のトップの就くかもしれない人の義理の父親
×:トップの就く
○:トップに就く
元々誤植だったら失礼。

周知の事実みたいですね
https://twitter.com/morningstarjp/status/9003561987

投稿: | 2010.05.24 01:28

誤字ご指摘、ありがとうございます。訂正しました。

投稿: finalvent | 2010.05.24 16:05

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